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闇と聖女の吊り橋

 私はギルドで貰った証明書を手に持ちティルノーグに繋がる橋を目指します。

 既婚者では無くてもギルドで発行されている証明書を貰えば橋を渡る事ができます。宿のお姉さんが教えてくれました。銅貨1枚の料金もかかりましたけど。


 ティルノーグに繋がる橋は木と綱で出来た吊り橋でした。

 転落事故の度に増やしたのかは分かりませんが、吊り橋は三重になっています。

 元の吊り橋を覆うようにさらに吊り橋がぶら下がり。その二つ目の吊り橋を覆うように吊り橋がかけられています。

 物物しい吊り橋になっています。どうやってこの吊り橋を架けたの甚だ疑問です。


 吊り橋は横の綱でも繋がっていて、綱が切れてもほかの綱が支えられる様になっています。


「ここは既婚者じゃないと通れないよ?」

 吊り橋を管理しているのでしょう。男の人が私に話しかけます。


「既婚者では無いのですが、A級冒険者です」

 ギルドで貰った証明書を見せると、男の人は驚きの声をあげました。


「その若さでA級?凄いね。失礼しました。どうぞお通り下さい」

 男性はピシャリと姿勢を正すと、軽く頭を下げてくれます。

 私も軽く頭を下げて男性に話します。


「渡りません」


「え? 渡らないんですか?」


 無理ですよ。高すぎますもん。三重とはいえ吊り橋ですよ? どうやって渡ればいいのかちっとも分かりません。

 私は自殺志願者ではないのです。こんな橋は死を覚悟しなければ渡れる様な代物ではありません。


「ちょっと今日はお腹の調子が悪いのでやめておきます」


 渡る勇気はないものの、渡らないわけにもいかないのです。でも今日は渡れる気がしません。渡ろうと思うとお腹がキリキリするのであながち間違ってはいないのです。


「? そ、そうですか。またお待ちしております」


 ペコリと男性に頭を下げて宿への道を戻ります。


 あんな吊り橋どうやって渡ればいいのでしょうか……?



◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 翌朝。私はまた吊り橋の前に来ています。

 一晩考えた挙句、私は細長い布を持参しています。


 そうです。目隠しをして吊り橋を渡ろうと考えたのです。


 不思議そうに此方をみる男性にはわき目も触れず、私は目を布で縛ります。


 これで谷底が見えて恐怖する事はありません。


 ヨタ……ヨタ……ヨタ……


「あ、あの……お引き取り……下さい……」


「ですよね……」

 私も余計怖くて早く止めて欲しいと思ったくらいです。


 私は目隠しをシュルリと外し宿への道を戻ります。また一晩方法を考えなくてはいけません。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 次の日。私は懲りずに吊り橋と相対します。

 頭の上にうーたんを乗せています。私は考えたんです。このままうーたんが耳をパタつかせれば、飛べるかもしれないと。


「さぁ! うーたん! 飛びましょう!」


「うーーーーみゅーーーー」


 うーたんの耳が激しくパタつきますが、私の体は一向に浮きません。

 頭の上に耳を激しくパタつかせるウサギを乗せる女。私は周りの目からはどう映っているのでしょう?


「あ、あの……」


「何も言わないで下さい……」

 どう見てもちょっと……ダメな人に見えますよね……


 今もうーたんは激しく耳をパタつかせ頑張っていますが、諦めた私は宿へと戻ります。うーたん。もう頑張らなくていいよ?


「うーみゅーーーうみゅーーー!!」


 頭の上で耳を激しくパタつかせるうーたんを乗せたまま私は宿へと帰ります。


 よくよく考えればフラフラ飛ばれても余計怖いだけかもしれません。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「今日は渡ります!」


「そうですか! どうぞお通り下さい!」


 私の心を決心させたのは宿代です。このままだと無駄にどんどん宿代がかかってしまうのです。どんどん減っていくお金に、私の貧困魂に火が付きました。

 この三日分で何日宿に泊まれるか分かりません。まぁ三日ですよね。


 今日私は、泣きながらでも渡り切る所存です。


 固い決意を胸に、私は吊り橋へと足を踏み出します。 ギィ っと板が音を立てます。


 ポキンッ


 あ、今私の心の何かが一本折れました。


 しかし大丈夫です。私の心の何かはたくさんあるのです。1本や2本折れた所で何も変わらないのです。


 私は綱を両手で握りしめながら、トテ……トテ……と足を踏み出します。


 ギィ ギィ


 吊り橋は坂道の様に傾斜のある吊り橋です。ティルノーグがもっと高い位置にある為、必然的に傾斜が出来るのでしょう。


 好きな人が見れば素敵な景色なのでしょう。山と山の間に架けられた吊り橋。ここから見る景色を求めて訪れる人もいるぐらいです。


 景色を楽しむ余裕もないです。恐る恐る一歩ずつ足元を確かめる様に歩いて行きます。途中で吹き付ける風に体を煽られました。私は風が来る方向に視線を移します。


 太陽まで何も邪魔するものがない圧巻な光景がそこには広がっていました。


「ほぇー……」


 足の震えは止まり、私はその光景にただただ立ち尽くしました。恐怖心を超える程の壮大な景色でした。


 ブルブルと震えていた足の震えが止まります。自然と足を踏み出す事が出来ました。何にも遮られない吊り橋もまた、見惚れてしまう様な景色に変わっています。


 怖かったの筈の吊り橋は、何故か急に怖いものではなくなっていました。


 私が勝手に怖いものだと思い込んでいただけなのかな……? っと心の中で呟きます。


 もしかしたら、私が勝手に怖いと思い込んでいるだけで、怖くないものは多くあるのかも知れません。


 渡るのに三日も掛かった吊り橋。足を踏み出すのが怖かった吊り橋の上は、見た事もない景色が広がっています。


 私は吊り橋を進みます。口元が緩み微笑んでいた事に自分では気付きませんでした。


 一歩踏み出して顔をあげる。それだけで景色は全く違って見えるんですね と、心に刻んだ瞬間です


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