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闇の聖女とうーたん

「うーたん。食べる時は両手で支えてね」


 移動中に美味しそうな果実が実る樹木を見つけ、うーたんがパタつきポケットから飛び出そうとした所をムンズと捕まえました。


 あの気持ち悪い食べ方を止めさそうと試みます。


「うみゅ!」


 うーたんは勢いよく頷くとパタパタパタパタと耳をパタつかせ宙を浮きます。飛び方は諦めたんです。物理的にダラリと体が垂れ下がるのは仕方ないですよね。


 パタタタタタタ


 ガブシュ!!


「すとーっぷ!! うーたん集合!」


「うみゅ?」


 うーたんは手足をダラリと下げたまま、大きく口を開けて果実に齧りつきました。何も変わっていません。


 私の元へパタパタ戻り、宙を浮くうーたんの両手を持ち、もう一度説明します。


「うーたん? こうやって両手で支えて。ガブリ。わかった?」


 うーたんはピコピコと両手を上げたり下げたりしています。そうです。そういう事です。


「うーみゅ!」


 うーたんはダランと手足を下ろすといつもの飛び方で果実へと向かいます。果実に口が届く距離に来ると スッ と両手を持ち上げます。


 そうっ! そうだようーたんっ!


 と思ったのも束の間。持ち上げた両手が果実に触れるとすぐに両手を下ろし、ブランブランとした体勢のまま口を大きくあけました。


 がぶりゅん!


「なんでっ!?」


「うーたーん集合っ!!」


「うみゅみゅ?」


 うーたんは頭の上に ? を浮かべて私の所に戻ります。私はもう一度うーたんの両手を両手で持ち上げます。


「うーたん? この体勢のままがぶり。いーい?」


 私はうーたんの両手を持ったまま、口を開けて齧りつくマネをします。うーたんはわかったかの様にクリクリの目を見開き コクンコクン と何度も頷きました。ちょっと可愛かったです。


「うーみゅー♪」


 うーたんは両手を前に出した姿勢のまま果実へと飛んでいきます。飛び方も少し可愛らしくなりました。


 今度は失敗しようがありません。

 私は確信を持ちながら、両手を前に出したまま飛ぶうーたんを見つめます。巣立つひな鳥を見届ける気持ちです。


 うーたんの両手が果実にふれると、両手をだらんと下ろします。大きく口を開けて果実にカブリつきます。


 がぶりゅ!


「なんで下ろしちゃうのっ!?」


 結局うーたんが果実を両手で持ちながら食べてくれる事はありませんでした。



◇◇◇◇◇◇◇



 辺りがオレンジ色に染まる頃、地図通り町へと辿りつきます。寝床を確保する為に町や村へ着いたらまず宿探しです。


 町の宿は3軒ありました。銅貨4枚 銅貨7枚 銀貨1枚 です。勿論迷う事なく銅貨4枚の宿に向かったのですが、珍しく空きがないと言われ、しぶしぶ銅貨7枚の宿へ。銅貨7枚の宿なんて泊まった事がなく、震えながら入り口の扉を開けて、おどおどと受付のおじさんに話を伺ったところ……なんと満室。


「えと……? ここ……宿ですか……?」


 見るからに綺麗な宿。ブロックを積み重ねた塔の様にしっかりとした作り。積み重ねたブロックの間には何か固まる物で隙間を埋めてある様に思います。隙間風なんて入る隙間もないのでしょう。


 まさか私が木造以外の宿屋に泊まる事になるなんて……


 ゴクリと生唾を飲み込みます。震える足を小さく、しかし確実に踏み出しながら宿への距離を少しずつ詰めて行きます。


「大丈夫大丈夫。私は出来る子だから、ブロック作りの宿に泊まってもいいの」←?


 激しく脈打つ鼓動を落ち着かせる様に深く呼吸をしながら進みます。それでも扉の前に立つ頃にはバクバクと心臓が破裂しそうなはど強く鼓動を打っていました。


「ふぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」


「うみゅぅ……みゅぅ……うみゅー……みゅぅ……」


 うーたんも深い呼吸をしています。きっとうーたんも緊張しているのでしょう。銀貨1枚の宿に。私の緊張が伝わったとかじゃないですよね?


 私は意を決し、重量感のあるしっかりした扉を開けます。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「な、なんですかこれ。毛布ですか……?」


 二度と私が寝転ぶ事がないようなふかふかのベッド。ふかふかの毛布です。まさかここまでふかふかの毛布があるとは考えもしませんでした。目がキラキラしてしまいます。←(一般的です)


「すぴーすぴー」


 興奮収まらない私とは違い、うーたんは枕元で丸くなっています。うーたんが毛布なのか毛布がうーたんなのか分かりません。


 もう私がうーたんです。←(興奮しすぎ)


 浴室を覗くと。ゴージャス。私が入ったこともないような浴槽が姿を現します。

 浴槽は足を伸ばして余りある大きさ。横幅は人が並んで入れると思うほどの横幅。鼻血が出そうです。


 備え付けられている魔石に魔力を込めると暖かいお湯が ザバァァ っと浴槽を満たします。私が好きなぬるま湯です。


「なんてことです。温度を調節する必要がありません……」←(一般的です)


 私は心を落ち着かせる為に部屋に備え付けられているイスに腰を下ろします。椅子には弾力性のあるクッションが付いていて私を包み込んでくれている様でした。


「人をダメにする宿ですね……」←(ごく普通の宿です)



 私は一通り宿を満喫するとテーブルに地図を広げ、ちずとにらめっこを始めます。


「んー……」

 自然と唸り声が上がります。

 

 カハルダへの道はまだまだ遠く、どう考えても何日も。ヘタすれば一週間は歩き続けなければいけません。

 あまり考えた事は無かったのですが、馬車に乗ってしまった方がいいのかもしれません。


 移動するのにお金を払うなんて……っと考えていた私ですが、地図を買い距離が明白になると、歩いて行く距離でもないのです。食費や宿代を考えたらもしかすると馬車にのった方が安いのかもしれません。

 乗った事が無いので確実ではないのですが。


 明日に運送ギルドに赴いて、値段次第では馬車に乗ろうかと考えています。


「銀貨の宿に馬車での移動……」


 生活の変化に頭が付いてこない感じです。少し前なら考えられない事です。


 私は地図を丁寧に折りたたみ袋の中へと仕舞い、深く沈むベッドに身を投げながら思います。


「自分がどうなるかなんて分からないものですね」


 私が歩いた道の先が、未来になるのかな? なんて今の自分をみて考えたのですが、フカフカの毛布が心地よくすぐに眠りに落ちました。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

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