闇の聖女の地図と服
私は商店通りを歩いています。
80枚の金貨のうち5枚の金貨だけを受け取り、74枚はギルドに預けました。手持ちと合わせて100枚近い金貨をもって冒険なんて正気の沙汰じゃ出来ません。私はひ弱な一般冒険者なのです。
金貨をギルドに預けると手数料として金貨を1枚支払わなくてはいけません。預けるだけで金貨一枚ってどうなんです? とは思うのですが、どこの町にも滞在する冒険者ギルド。どの町のギルドであっても換金所から預けた分の金額を引き出す事が出来ます。
ギルド内の魔道具で情報は共有されているので、誰がどれだけの金額を預けているかはすぐに調べる事ができ、どこのギルドでも引き出し可能になるのです。一年に一度金貨一枚という手数料は掛かりますが、拠点を持たない冒険者にとってはありがたい話です。
私は無理です。大金を持ち歩いて冒険なんて出来ません。
手持ちの金貨は合わせて20枚ほど、銀貨と銅貨もあります。これだけでも十分大金なのです。私には恐れ多いぐらいです。
ズラリと並ぶ商店を一軒ずつ覗いていきます。目的は地図。私は地図が必要だと気付いたんです。もう夜道は歩きたくはありません。
程なくして地図が並ぶ露店を見つけます。どうやら地図専門店の様でした。
私は値踏みする様に地図を一つずつ吟味していきます。鑑定眼も開眼します。
地図の魔石
詳細 魔力を込めれば地図が浮かび上がる。自分の位置まで表示可能。最高峰の地図
すごい地図ですね。初めて見ました。気になるお値段は……
金貨100枚
バカでしょ? バカなんでしょ?
私は右隣にある地図に視線を移します。
世界地図
詳細 他の大陸も載っている世界地図。それなりに大きい
世界地図ですか。あまり大きいのは要らないんですが、後で大陸別に買ったのを繋げれば世界地図ですしね。
金貨5枚
大分安くなりましたが、高いですね。
さらに隣の地図を。
大陸詳細地図
詳細 現在の大陸の詳細が書かれた地図 手頃
まずはこれぐらいでいいのではないでしょうか?
金貨2枚
…………ほかのも見てみましょう。
大陸地図
詳細 現在の大陸のある程度の情報が書かれた地図 あればいいよね!
金貨1枚
詳細は自分で書き足せばいいのです。自分で作る地図だから楽しいのではないでしょうか?
っと、思いつつももう一つある地図を見ます。
なんかの地図
詳細 山とか川とか海とか書かれた地図 町?この地図の世界には町ってないんじゃない?
銅貨5枚
(これですね)
いや、ちょっと待ってください…………思わず手に取りそうになってしまいました。
私は悩みました。悩みに悩みました。結果、私は大陸の地図を購入する事に決めます。
なんかの地図と迷ったのですが、町が載ってないんじゃお話になりませんもんね。安いだけで悩んでしまいました。
私は無事に地図が購入出来た事に満足しつつ、露店から踵を返し振り返った時でした。
服屋さんを発見しました。
店先に並ぶ服はスラッとしていて、遠目に見ても吸い付く様な柔らかそうな生地をしています。
(か、可愛い……)
白いワンピースや水色のフリルが靡くスカート。こんな服に憧れたものです。貧困時代の私には叶わない夢だと思っていました。
(どどどどうしようどうしよう。欲しい欲しい! 着たい着たい!)
スススッと店先に移動して、値札を拝見します。
銀貨5枚
たっか…………
私はそっと値札を手放すとトボトボと宿への道を戻ります。
きっと何かしらの魔物の毛皮で作ってあるのでしょう。きっと品質もよくて可愛さも追及した上での値段なのでしょう。
私が贅沢だと思える宿に10回泊まれます。流石に買う気になりません。
ギルドに金貨が74枚預けてあるにも関わらず、何故か心の折れた私は思います。
染みついたお金への価値観は消えないのかもしれない……と。
私、一生贅沢出来ないかもしれない……。
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