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闇の聖女の夜道

 カハルダへの道中。妖精の森(村)を南下し。そのまま真っ直ぐに草木を掻き分けて森を出ます。

 森から出た所で辺りを見回して私は うーん っと頬杖を突ける様に腕を組んで唸りました。


「ここは何処ですか?」


 遥か遠くに雲を突き抜ける山が見えます。あれがティルノーグなのは間違いないでしょう。この大陸で雲を突き抜ける程の山はティルノーグがある山しかありません。


 要はこのまま真っ直ぐに進めばなんとなくカハルダに着くのです。それは間違い無いのですが、出来れば上手く町を移動しながらティルノーグに向かいたいものです。


「やはり。地図が入りますね……」


 お金の節約の為と蓄えた情報と、人への聞き込みで何とかしようと思っていたのですが。無理みたいです。実は私も無理だろうなと思っていたんですけどね。貧困時代の生活が身についてまして……


 とりあえず聳える山を目指して歩く事にします。途中で道を見つければ道に入り、移動中に人と遭遇すれば近くの町を聞けばいいのです。


 幸い食料の心配はありません。妖精の森で日持ちしそうな硬いパンと果実を袋パンパンに蓄えてあります。町を見つければギルドでA級魔石とシャツを換金すれば、地図ぐらい楽に買える程の金額で換金できるでしょう。


 私、実は新しい服が欲しいんです……買ってもいいですか? そんな事に浪費しちゃやっぱりダメですか?


 あうあぅ。女の子したいです。


 貧困時代の習慣は根強く うーんうーん と唸り声をあげながらテコテコと歩き出します。サワサワと音を立てる長い草が茂る野原を進みます。


◇◇◇◇◇◇◇


 無数の星と欠けた月が透き通るような黒を彩ります。

 

 今は寒い季節ではありませんが、夜が更けると少し肌寒く感じます。周りには見渡す限りの野原、明かりが見える事はありません。明かりが無くても私が暗闇で見えないという事はないのですが。私はガクリとクッションの変わりになる様な草に両膝を落とし、ペタリと座り込みます。


「誰とも会いませんでしたーッッ(泣)」


 それどころではありません。道すら見つける事がなく。私は背の高めの草を踏みしめながら歩いてきました。トコトコと気分よく歩けたのは太陽が昇っている間だけで、陽が沈む頃には


 も、もう誰かとあってもいいんじゃないかな……?


 道ってこんなに見つからないものかな……?


 っと、不安に駆られながら進んでいたのですが、まさか道も人も見つける事なく一日が過ぎるとは考えてもいませんでした。


「うぇぇ……いやだよぉ……」


 あったかい毛布はどこ?←(レティシア目線で。大してふわふわではない。むしろぺらい)

 広々した浴槽のお風呂は入れないの?←(同上 大してでかくない。足が伸ばせる程度)

 安全なお部屋で寝たいです←(隙間風が入る部屋の事を言っています)


 内ポケットがごそごぞと動いたので、ローブを軽く広げて確認すると、うーたんの足と耳が所狭しとポケットからはみ出ています。


「すやー。すやー」


 こいつ寝てますね。どんな格好で寝ているのかよく分かりません。後ろ脚と耳がポケットから出てる体勢ってどんな体勢ですか? こうですか? それともこうですか?


 狭いポケットで大人しくしているのです。許してやりましょう。度々ポケット内で耳をパタつかせ飛びながら出てくる事も多いですが、寝ているうーたんを起こす様な事はしないのです。


 私はもしょもしょと硬めのパンを小さく齧りながら歩き始めます。あの凍える様な寒さの日に比べたら、まだ歩く元気はあるんです。


「うぇぇぇぇぇ(涙)ぐすっ。えぐっぅ…はむ……もしゃもしゃ……すんすん」


 泣きはしますけどね。パンも食べますけどね。


 夜の道を、辺りを見渡しながら進みます。もうパンは食べていません。はしたないですもん。

 でもこんな状況じゃ食べながらでも仕方ないですよ? 食べないわけにはいきません。それに少しでも早く町でも村でも辿り着きたいんです。


「こここ、こわわ、くないーもん」


 ガサガサ


 ビクゥ!?


 体を弾かせながら音のする方に反射的に振り向きます。小さな動物が走り去って行きます。


「だいだいだだだいじょじょじょじょうぶだももん」


 ザァァァァァ!


 ビククゥ!


 一陣の風が吹き抜けて草木を大きく揺らします。心地いい自然の旋律です。


「あわわわわわわわはわわわはあわわわわわ」


 ビクゥ!!??


 音もなってないんですけどね。もう私ダメですね。



 私はその後。空が白みかけた頃。町の宿屋に辿り着きました。深夜とも早朝とも言えない時間ながら、受付の女性の方は丁寧に対応をしてくれました。


 ハンカチを渡してくれたのは、私がいっぱい泣いていたからだと思います。


 私はローブを脱いで、うーたんをそっとベッドの上に置くと、そのまま倒れる様に眠りに落ちます。


「うぇぇ……よかっ……たぁ……」


 拭いた涙が、もう一度流れました。

 

 


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