闇の聖女の闇の雨
腐った死体の様な強烈な悪臭に思わず無臭の魔石を使います。キィンっと音がなり私の周りの空気が澄んだ様に悪臭が消えました。
グールガール改の時よりも酷い匂いです。この先に進む勇気がなくなりました。ここまで酷い悪臭です。何か強大なグールがいる事は想像に容易いです。
帰りたい。お風呂入りたい。ベッドに飛び込みたい。
一通り現実逃避を終えると、私は杖を握りしめ地下四階を進みます。暗く仄かに青白い光を放つ迷宮。周囲を見渡して私は思います。
うぅ……帰りたいよぉ……
頑張ろうと思っても、心は正直なんです。
それでも私は進みました。地下四階は一本道で程なくして大きな空洞に姿を変えます。
グールキング
属性 不死
特徴 グールが何十体も合わさった巨大なグール
効果 体に酸効果あり。体の何処かにある弱点を破壊しない限り永久再生
一言 弱点? そんなこたぁいいんだよっ!!
私は踵を返し来た道を戻ります。
ササササッ っと速足で通路の真ん中辺りまで移動し呼吸を整えます。
「無理」
一目見て判断しました。あれは無理でしょう。デカすぎますもん。あれで内臓とか飛び散るんですよね? しかも永久再生? バカ言わないで下さい。寝言は寝て言えってもんです。ふざけないで下さい。
私の心は折れました。戦わずして敗北とはこの事でしょう。争いがないのは良い事です。世界は平和です。
「どうしよう……」
とはいうものの、私はなんとかグールキングを倒す方法を模索します。私が使える攻撃魔術は 玉と 矢 です。完全に大きさが足りません。弱点に当たるまでダークボールを撃ちまくる? 空洞が汚物まみれになる事必至です。あのデカさの生々しく蠢く内臓なんてそこら中に飛び散ったりしたらそれこそ気絶してしまいます。
何か方法はないものでしょうか……
いい方法は思い浮かびません。あんな巨大な汚物の様な悪臭漂うグールをどうすればいいのか検討もつきません。
無臭の魔石の効果で私の周りの空気は澄んでいますが、あれほどの悪臭です。綺麗に洗い流しても匂いが無くなるのか怪しいものです。
そうです。あんな魔物綺麗に洗い流してしまえばいいのです。綺麗さっぱり洗い………
私は自分の言葉に、閃きました。
洗い流せる?
…………え? 出来るかな?
例えば……。頭上から闇属性の雨を降らしたらどうでしょうか? 魔力を圧縮して降らせ雨粒を弾丸の様に出来るとは思いませんが。
しかし雨を降らせることは出来るかもしれません。闇属性はデフォルトでは溶けます。あまり考えたくはないのですが、酸の雨で体が溶ければ弱点が露わになるかもしれません。
闇同化を纏っておけば自分自身に闇魔術が効果を発揮するとは思えないですし。もしかしたら何もしなくても私に効果はないかもしれませんが、怖いので闇同化は纏っておきます。
ここで座っていても何も始まりません。
「やってみましょう」
自分自身に問いかける様に言葉を呟き立ち上がります。今こそ決戦の時です。
私は通路内からヒョコリと上半身だけ出して大きな空洞を覗きます。
空洞の奥にはグールキングがズン、ズン。と重量感のある足音を響かせながら歩いています。改めて見てもその巨大な体にブルリと体が震えます。大きい宿屋ほどはあると思います。
グールキング
属性 おまっ…………
特徴 それは卑怯なんじゃ……
効果 まいっか!
そうです。勝てば官軍なのです。勝てばいいんです。誰も方法なんて見ていません。
こっそり通路から上半身を出している体勢のまま、グールキングの頭上に杖を向けます。
「そぉっと……えぃ」
どれぐらい魔力が必要なのかは分からないので、込められるだけ込める事にします。
見る見るとグールキングの頭上に黒い闇が溜まっていきます。こう見ていると真っ黒い雨雲の様にもみえます。
要はこの後に雨をイメージすればいいのです。私だって曲がりなりにも生命力を集めてきたのです。それに闇の聖女の力でAA級まで生命力の質も上がっています。出来ない事は無い筈です。
「えーと、えとぉ。ダークレイン!←(今命名)」
ドッザァァァァアアアアアァァアァアア!!
ビクッ!?
バケツをひっくり返した様な、強烈が雨がグールキングに襲い掛かります。想像を超える勢いに体が跳ねました。
ブビャアアァアアアァ!! ドジュルジュル!ブジュルルゥゥル!! ボトンボトン!
「うぅ。。ひぅぅぅ……」
目を逸らすわけにはいきません。どれだけスプラッタな光景が目の前に繰り広げられようと、目を逸らすわけにはいかないのです。でないとグールキングの再生能力でこの地獄の光景が永遠と続く事になります。
「ひぐ……えっぐ……ぐすぐす……」
苦行でした。私はこれを乗り越えた時に悟りを開けるかもしれないと思うほどの苦行でした。ガタガタと体を震わしながら壁に張り付いています。一歩もそこから動ける気がしません。
ブジュルルルルル!!ドジュルドジュルルルゥゥ!! ボタンボタボタァ!!
「あわわわわわ。えぅうぅうぅう」
体の震えが頂点に達した辺りでしょうか? 頭が完全に溶けて上半身も溶け始めたころ。胸の中心に緑色の鈍い光を放つ石の様な物が見えました。
「あふぁふぁふぁわわわわわ」←(ダークボールと言ってる)」
ズオオオオオオオンっっ!!
ダークボールは闇の雨を弾き飛ばしながら、グールキングの胸元目掛け一直線に進みます。
緑色の石に当たり
パキィィ───ッ
石が粉々に砕けると、グールキングの体はドロドロと溶けていきます。
私はダークレインを消さずにそのまま降らせ続けます。このままだとドロドロのでかい臓物が半ば形を残し残ると思ったからです。
俯きながら杖に魔力を込めます。
「うぅ……ぐすん…ひっ…ひっく…うわぁん」
もう泣いてもいいのです。
涙が止まるまでダークレインを続けると、空洞に臓物が残る事はありませんでした。