闇の聖女のわけもわからずA級迷宮
「そうかい……そこまでの覚悟があるなら仕方ないね」
白い髪を一本に編み込み、鉢巻をする様に布を巻いた初老の女性は言いました。力強い眼差しで私を見据えます。
私は今妖精の森の村長の家で正座で話を聞いています。何故こんな事になったのか私にもよく分かりません。
「お前さんの覚悟を……見せてもらおうかい!」
あの……私は別に……光の破壊者の事を知っていれば教えてもらいたかっただけで。そんな大それた話じゃ……。
「村の外れに私達の天敵の迷宮がある! 突破してみせな!!」
そうして私は妖精の森の外れにある迷宮に挑む事になりました。えっへへっへ…………(涙)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ほんとに行きたくないです。ほんとに嫌です。
妖精の森の外れの迷宮。ランクはA級。それだけならまだ何とかなったんですが、私の足は一向に迷宮の前から進む事はありません。
何故かというと。妖精族、妖精の天敵というのはグールの事です。悪臭放つドロドロのアンデット。妖精の天敵です。
「えろろろろぉぉぉぉ(ヨダレ)」
既に私の体力は0と言っても過言ではありません。もう嫌なんです。どうしてこうなった状態です。
宿に荷物を置いて妖精族の人に話を聞こうとしたらうーたんが飛び跳ねて行ったんです。なんとなくそれを追いかけたら、村長の家の前だったらしく丁度村長が出てきて。
『どうしたんじゃ? 何か聞きたい事でもあるのか?』
なんて言うもんですから。
『え、えと。光の破壊者って御存知ですか?』
っと答えたらこうなりました。思い返しても私は思います。どうしてこうなった(涙)です。
「う、うぅ……うぐぅ……」
がんばれ私。よく分からないけどがんばれ。時にはよく分からなくても頑張らなきゃいけない時があるの。
どうしてこうなった(ヨダレ)でもがんばらなきゃいけない事があるの。
「えぅぅ……うぇ…えく…ぐすっ…うぅぅ」
私は迷宮に向けて一歩踏み出します。まさか泣きながら迷宮に入る事があるとは思わなかったです。
「えぅぅぅ……うぇぇぇぇん!行きたくないよぉぉ!行きたく……ぐすっ…なぃ…よぉ!!」
私は迷宮に向かい走り出しました。泣き喚きながら。
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私は壁に張り付く様に迷宮を歩きます。迷宮は幸い歩きやすい洞窟になっています。あまり岩肌もごつごつはしていません。
迷宮内は暗いです。私が猫目じゃなかったらすでに泣きながら 闇の聖女 は死にました。っといって迷宮から出ていると思います。
こっそりと、静かに壁伝いに歩いていきます。
グールの巣窟で道の真ん中を歩くなんて恐れ多くて出来ません。真ん中通っていただいていいので私に気付かないで下さい。
ガキィン
金属の何かが当たる音がしてビクつきます。通路の奥から響いてきました。おどおど視線を漂わせていた私は正面を見据えます。
正直見据えたくないです。だっているのはグール系しかいないんです。
しかしここはA級の迷宮。敵を見ないでどうにかなるとは思えません。見たくない。でも見なきゃいけない。私は見たくない。
そんな葛藤の果てに、私の両目からは涙が止まらなくなりました。
「もう私の体力は0よ……」
そんな言葉だって出ます。迷宮に入る前から0の様なもんです。
グールナイト
属性 不死
特徴 グールなのに素早い
能力 剣技を使うグール。近寄ると酸効果のある嘔吐物も吐く。
一言 テヘペロ☆
「ダークボール(怒)」
こんな辛い状況の私に テヘペロ☆ とか信じられなくて スッ と頭から血の気が引くのが分かります。
ズゴォォォォォオオン!
大きなダークボールはグールナイトを簡単に飲み込みました。ふわふわと光の玉が浮き出します。
というか、グールナイトは鎧を着て剣を持っていました。これは私にとってこの上ない僥倖です。何せドロドロのグロテスクな状態が鎧で隠れて見えないのです。
「い、いける、かな?」
私はそれでも恐る恐る歩を進めます。願わくばグールガールみたいな始めからグチャグチャの奴は出て欲しくないです。
ふよふよと生命力が宿らずに浮いている事に気付きます。よく見ると魔石が一緒に浮いていました。
私が両手を器の様に重ねると ポテッ と魔石が落ちました。
B級魔石
属性 無
効果 光を放つ
能力 魔石に生命力を込めれば光を放つ魔石。生命力が無くなれば光を失うが込めればまた光る。任意の方向。光の明るさまで調節可能
「なんでよっ!!」
スコーン!!
まさかの光を放つ魔石に魔石を投げ飛ばしました。勿論その後拾いにいきましたよ? ちょっと信じられなくて取り乱しました。
その後何度かグールナイトに出会うものの、鎧を着ているお陰で嫌な光景を見る事なく、地下へ続く階段に辿り着きます。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇