しがない鑑定眼の情報屋さんの決断
月明かりの降り注ぐ場所は森の中でした。
森の中にぽっかりと穴が空いたようにそこだけ木々が生えていなかったです。
走り出した手前ここまで来てしまったけど、夜の森って怖くて引き返したいです。
魔物が来たらどうしよう……。
円柱の薄い月明かりと同じ程の丸い空間には何もないです。
迷宮へ続く階段でも現われているのかと思ってましたけど、なんにもありません。
噂はやはり噂なのかな?
じゃぁ、このぽっかり空いた空間はなんだろう? この降り注ぐ月明かりは何?
私は中心に向かって歩を進めます。
空を見上げると満月から一直線に月明かりがここに集まっているようです。
ズボッ
空を見上げていたせいで、私は地面を見てませんでした。
右足が何かを突き抜けたと気付いた時には、私はそのまま地面を突き破り落とし穴に落ちていました。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
真下ではなく斜め下に穴が続いていたので、私は滑るように丸い穴を落ちていきます。
誰に見られるわけでもないのにスカートを押さえてしまうのは私が女だからでしょう。
私は抵抗するすべもなく、落とし穴を落ちていきました。
どれ程滑り落ちたでしょう? 地面が並行になり、私の体が動きを止めた後。落ちた穴を見上げると穴が空いているのがわかります。少し登るのは大変そうですが、なんとかなりそうです。
出口を確認した後に洞窟内を見渡すと、大の男の人が一人通れるほどの空洞が続いています。
空洞内に光る魔石がちらほら埋め込まれているのか、空洞は明るいです。
噂では、魔物はいないんですよね?
いろんな人の話を聞きましたが、伝説の迷宮に魔物が出るという話は聞いたことがありません。
伝説の迷宮なら何かを守る門番や、守護する魔物がいるんじゃないの?と私は思っていましたが、そんな話を聞く事はありませんでした。
進むしかないですね。
歩き始めた私は思います。これって迷宮じゃなくて、空洞なのでは?っと
もしかして、噂の迷宮とは違うものなんじゃないかな?っと
いまさら思っても仕方ないので、私は迷宮だと思い進む事にします。
空洞は洞窟というには整備されているように歩きやすく、人の手が加わっているかと言われると加わっていません。
歩きやすいのでよしとします。
程無く進むと、大きな部屋の様な空間に辿り着きました。
大きめの宿の一室ぐらいはあります。キョロキョロと辺りを見渡していましたが、正面にあるものから目が離せなくなります。
祭壇?
石段を三つほど積み重ねた上に、石の杖の様な棒が立ててあります。
石の杖の先は受け皿の様に丸く 魔石 を乗せてありました。
というか、乗っていません。魔石は受け皿の上で浮いています。
「魔石? ですよね?」
魔石にしては光り輝いてないというか、輝きが無いというか。魔石は水晶の様な透明度があるものですが、浮いているので魔石なんでしょうけど。透明度が無いというか……
私は祭壇に近づいて驚きました。この魔石は信じられない透明度でした。ただ。信じられない程真っ黒です。黒すぎて透明度が無いと思える程漆黒です。暗黒。鉄黒。とりあえず黒よりもどす黒い黒さです。
「これが伝説の魔石かな?」
正直手に取るのを躊躇します。魔操師気操師、どちらでも使える能力と聞いてますが、ここまで黒いとなんの能力か予想も出来ません。
不死者や不死身にはなりたくありません。そんな能力は聞いた事がないですが、伝説の魔石です。どうなるかは分りません。私はそれならばこの祭壇は見なかった事にして戻る所存です。
どうしようかと思っている時に気付きました。
こんな時の鑑定眼です。今使わずにいつ使うのかというもんです。
この伝説の魔石を丸裸にしてやります。
「むむー」
鑑定眼を使える魔力があってよかったです。
私は右目の魔眼に魔力を込めて。鑑定眼を開眼します。
伝説の魔石
属性 闇
能力 判別不能
効果 不死身……では……ないかなぁ?
「ふざけんなっ!」
あまりにも曖昧な鑑定ぶりに私はご立腹です。
もう見た目だけで闇なんてわかりますし、不死身…では…ないかなぁ? なんてめちゃくちゃです。私の魔眼は茶目っ気があり過ぎて困ります。
でもそこで私は気付きました。
「闇……?」
この世界の属性は 火 風 土 雷 水 の五大属性です。闇なんて属性は存在しないのです。
しがない情報屋ですが、そんな話は聞いた事もありません。
もう一度鑑定眼で魔石を見ます。
伝説の魔石
属性 闇!! 闇だよ!!
能力 多分闇に関わる事!!
効果 不死者とかには……ならないんじゃ……ないかなぁ?
「なんで変わってるんだっ!」
闇を強調する様に変わった文字、相変わらず変わらない曖昧な効果に私はご立腹です。
闇に関わる事なんて誰でも分かります。
んーどうしましょう……
鑑定眼では余りにも力の差があり過ぎると上手く鑑定出来ない事は、今日知ったばかりです。という事は、この魔石には金貨をくれたマイル・フォレグランさん程の力が宿る可能性があるという事です。
んー。踏ん切りがつきません。
チラリとどす黒い魔石を見ると、鑑定眼を開眼しっぱなしでした。
伝説の魔石
属性 野宿しなくてもいいようになるんじゃね?
能力 強くなったらお金に困らなくなるんじゃね?
効果 不死身になったら野宿でもへっちゃらじゃね?
「泣いちゃうからっ!」
ふざけた魔眼です。ほんとに泣いてしまう所です。自分の魔眼に泣かされるとは思っていませんでした。
しかし何故か私の覚悟は決まりました。
このまま過ごしても何も変わらないからです。しがない情報屋をしていくよりは、人生が楽しいのかもしれません。
その日暮らしよりは、毎日充実なのかもしれません。
私浮いていた魔石を両手で大事に掴み取ります。
それでも、不死身とかは嫌です。別にそこまでは望んでませんから────。
魔力を込めると。 キィン っと音がなって黒い光が輝きました。
もう表現出来ません。真っ黒な光が辺りに煌いたんです。黒くてよく分りませんでしたけど。
魔石はその場で粉々に砕け、黒い光の粒子になって。私に宿りました───。