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闇の聖女も女の子

「……え?」

 私は困惑しました。東に真っ直ぐ進んで来ました。ずっと一本道なのだろうと思っていました。

 モジャスターは確かにそう言いました。親指を立てて疑うのが失礼な程の笑顔で笑っていました。


 私の目の前で道は二手に分かれています。Y字路というやつですね。私の頭はガクリと力なく垂れます。

 モッジャモジャのモジャスターの顔が過ぎります。いえ、もう考えるのはやめましょう。仕方ありません。モジャモジャでしたしね。

 私は両腕を組みながら二つの道を交互に見ます。どちらも先に見える森には続いてる様ですが、森の中で野宿なんかしたくありません。


 人生のターニングポイントですね…………


 森の中で野宿なんてしたら、朝まで泣いている事間違いなしです。脱水症状で倒れる危険性すらあります。魔物に襲われるかもしれません。荒くれ冒険者に見つかれば夜のうちにすっぽんぽんなんて事も考えられます。


 嫌です。初めては優しくも激しく愛に包まれてベッドの上でしたいものです。

 まぁそれは置いておきましょう。


 正直夜の森に荒くれ冒険者がいるとは思いません。危ないですし。魔物に遭遇する危険が高い場所に身を置く事は冒険者なら避けるでしょう。夜の森なんて基本的に誰も出向きません。

 最悪は間違った道を進み妖精の森に辿り着けずに森を彷徨う事です。それだけは避けたいです。


 一旦町に戻ろうかとも思った時に内ポケットがごそごそと動きます。


「うみゅ! みゅみゅー!!」


 ポケットからうーたんが飛び出し左の道の前で円を描きながら走り回っています。どうも左の道へ行けと言っている様です。

 仮にもウサギ妖精。妖精ウサギでしたっけ? なのですから、妖精の森を知っているのかも知れません。私はうーたんに微笑んで右への道に歩き出します。


「みゅみゅ!?」


 動物の言う事なんて宛てに出来ません。どうせ美味しい匂いがするとかそんな感じに違いありません。きっとそうでしょう。左の道から香ばしい匂いが漂って来ている気さえしてきました。

 あぶないあぶない。


「うみゅみゅ!! うーみゅー!!」


 うーたんは私の左足にしがみ付きグイグイと力いっぱい引っ張ります。あまりの必死さに私は折れる事にします。

「仕方ないですね」


 左の道に歩を進めます。どっちか分からないのでどっちでもいいんです。

 うーたんは左の道を選んだ事が嬉しいのか、垂れた耳をパタパタと動かしながらピョンピョンと跳ねています。


 浮きました。


「うーたん…………」


 どうも耳をパタパタすると飛ぶらしいです。体がぶらんと垂れ下がっている感じがなんとも言えません。もっと可愛らしく飛べないものでしょうか?


「うみゅ♪ うーみゅー♪」


 本人は気にしてないみたいですが、私は気になります。確かに頭を支点に跳べば。体はダラリと垂れ下がるでしょうが、もっとファンシーに飛んでほしいものです。これでは魔物と思われても文句言えません。


「飛ぶの禁止」


「ヴにゅ”!?」


 私がローブを軽く広げると、見事に内ポケットに収まっていきました。少し寂しそうでした。


 森に入るとテンションが上がったのかすぐさま耳をパタつかせ飛び始めましたけどね。諦めて好きにさせてあげる事にします。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 うーたんが先導して道を教えてくれます。

 ぶらりと垂れ下がるうーたんを見ているのはまだ慣れませんが、我慢しています。

 辛うじて道といえる様な獣道でしたが、浮いているうーたんには関係ありません。パタパタと飛びながら森を進んでいきます。


 うーたんが弾む声を出して私に振り返ります。ぜんぜん可愛くありません。やはり耳で飛ぶのはやめてほしいです。


 木と木の間を抜ける様に道を抜けます。


「わぁ……」


 森の中とは思えない光景に感嘆の声が出てしまいます。そこには小さな滝が流れる川がありました。滝壺の辺りは小さな湖の様に広がっています。辺りの木には丸く桃色に実る果実も見受けられます。


 うーたんは耳をパタパタと羽搏かせながら、木になる果実を直に齧っています。手を使わずにです。浮いている状態で口をあけ。両手両足、体をブランと垂れ下げながら、口だけを開けて果実を齧っています。

 私がうーたんに出会った時この状態だったなら、問答無用でダークボールです。一切の迷いなく撃ったでしょう。それほどに気味が悪い食べ方でした。


 問題はそれだけではありません。妖精の森はどこにあるのでしょうか? うーたんはこの果実が食べたかっただけではないでしょうか? そうですよね? 美味しい匂いに惹かれただけなんですよね?


「う~た~ん」


 美味しそうに果実を食べるうーたんを睨みます。私が睨むと ビクン と体を跳ね上げ、弁明するように飛ぶのをやめて滝の裏側まで走って行きます。


「みゅ! うみゅ!」


 滝の裏側に何かあるのでしょうか? 流れ落ちる滝の裏側を ひょい と覗くと人が一人歩いて通れそうな空洞が見えます。空洞までは細い道になっていますが滝の裏側には地面が続いています。どうもこの洞窟に案内したかったようです。

 絶対果実も食べたかったと思いますけど。


 滝の裏に入る前に果実をもぎり覗いてみます。



 桃色のたわわな果実

 属性 無

 特徴 美味しいよ!!

 効果 言いたくないが、胸を大きくする効果が……これぐらいたわわに……



「──────ッ!!?」


 信じられない鑑定眼の文字にぽよぽよと自分の胸を触ります。無いわけではないですが……小ぶりでもないとは思うんですが……大きくはないです。


 まさか……この果実に胸をたわわにする効果があるなんて……私は生唾を飲み込みます。


 私は心の中でうーたんに感謝します。まさかそんな果実が存在するなんて……。伝説の魔石より珍しいんではないでしょうか?


 お、美味しいらしいですし。食べてみましょうか。特に胸がどうこうというわけではないんですが、どんな味か興味ありますしね。私も果実は嫌いじゃないですし。


 震える手を何とか深呼吸で押さえ果実を近づけます。


 一言 なるわけないよね~ん!


「ですよね~ん!」


 私は無心で果実を食べました。水水しくて甘い果汁が溢れて美味しかったです。私の涙も溢れそうだったのは言うまでもありません。


「いいもん……小さくないもん……」

 気にしてるわけではないんですよ? 気にしてるわけではないんですが……。


 私だって女の子です。そんな事言われたら……だって。食べちゃいます……(涙)


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