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闇の聖女の聞き込み

 冒険者ギルドで妖精の森の話を聞きました。

 冒険者ギルドは酒場も兼任しているので、夜は依頼や冒険を終えた冒険者達で賑わいます。私はマスターと話しやすいカウンター越しに座り話を聞いています。


 マスターが教えてくれた道順は極めて簡単でした。

「東に真っ直ぐ」

 そんな事は知っています。その後に言葉が続くと思っていたら、言葉が続く事はありませんでした。東に真っ直ぐ。そうですか、東に真っ直ぐですか。いいでしょう。その挑戦受けて立ちます。


 マスターに悪気は無いのでしょう。誇らしいほどの輝く笑顔がそれを物語っています。モジャモジャの髭にモジャモジャの髪。モジャスターは親指を立たせて 完璧だろ? と言わんばかりの笑顔でした。


 東に続く道に分かれ道がないのかも知れません。それならば東に真っ直ぐも納得出来ます。私の知っている情報だとそこまで距離がある場所ではありません。

 妖精族に宛てがあるわけではないので、行ってみない事には何も分かりません。


「森に入ってもそのまま真っ直ぐいけばすぐにわかるぜ! 妖精族は気さくだからな!」


 妖精族と妖精は異なる存在になります。獣人族と獣が異なる様に、妖精族と妖精もまた違います。純血の妖精族には蝶の様な羽根が生えています。鳥の様に飛ぶ事は出来ない様ですが、パッタパタとその場に浮く程度は出来るらしく、浮いていたりすると妖精そのものに見えますが大体分かります。


 妖精族は人。妖精は妖精なのです。情報屋さんをしていた時に妖精族の人を妖精だと思った事はありません。妖精族はあくまで人という事です。


「分かりました。ありがとうございます」


 妖精の森とは妖精族と妖精が暮らす村の名称です。私にも妖精族の血は流れていますが、混血の私に羽根はありません。それどころか、妖精の森に縁もゆかりもありません。この世界のほとんどの人は混血といっていいと思います。純血の人は世界で2~3割程度でしょうか? 純血は純血混血は混血で全く違う分類になります。


 私はモジャスターに頭を下げて、椅子から立ち上がります。


「わぁ!! すごぉい! 可愛い! なにこれー!」


 何やらギルド内で人だかりが出来ています。何かを囲む様に人垣が円を作っています。人垣はほぼ女性です。


「…………」


 テーブルの上で垂れた長い耳をパッタパッタと上下に動かし、宙を浮く小さな生き物がいます。


「うーたん……飛んでる……」


 いつの間に内ポケットから脱走したのか、全く気付かなかったです。うーたんは顔に食べかすを付けテーブルの上で羽搏いています。餌付けされている様にも見えます。


 きっと他の誰かに餌付けされたんでしょう。私にはあの人垣を掻き分けて その飛んでる変な生き物私のです と行動する勇気はありません。このまま飛んでてもらう事にしましょう。


 うーたん、自分の居場所を見つけたんですね。私は祝福して送り出そうと思います。うーたんが幸せなら、私はうーたんを無理に縛ったりはしないのです。


 まぁ私ならダンジョンじゃなくても、耳を羽搏かせ空を飛ぶウサギがいたら即座に攻撃を仕掛けますけど。怖くないですか? 耳で空飛ぶウサギって。


 私はこそこそと隠れる様にギルドの出口へと向かいます。


「うみゅ~~!!」


 変な鳴き声に振り向いてしまいました。恐ろしい事に耳を猛スピードで上下に動かし、突進するように此方に飛んで来る空飛ぶウサギが私の目に映ります。完全に魔物に見えます。


 怖い……。うーたんは魔物かもしれません。


「わ、私の知ってるうーたんじゃないっ!」


 体をビクつかせた私はギルドの扉を押し開けます。反射的に逃げてしまいました。うーたんは走る私の後を追いかけて来ました。空を飛びながら。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 宿に戻り、お風呂の準備をします。準備は簡単です。備え付けられている水が出る魔石に魔力を込めます。


 ドバアアアア


 浴槽に水が溜まります。次に浴槽に埋め込まれている温める魔石に魔力を込めます。私はぬるま湯が好きなので、込める魔力は少なめです。後は湯が温まるのを待ちます。


 魔術師時代は自分で水の魔術を出し、自分で温めていましたが今はそうはいきません。備え付けられている魔石を使うのにも慣れたものです。


 水を出す、温める等の魔石はE級魔石。攻撃には使えず簡単な魔石です。しかし需要が高いのであまり手に入りません。自分で見つけにいった方がいいです。

 宿を経営する人は魔石が揃ったから宿を経営してるという人が多いので、まず間違いなく付いています。

 私はその魔石出た事ないんですけどね。


 私はベッドの上に身を投げる様に飛び込みます。私が曲がりなりにも冒険をしている事に心地いい疲れを感じます。

 沈み込むベッドを意に介さないで、枕元でうーたんが丸くなって寝ています。


 ギルドで耳で飛んでいたうーたんを思い出し。もう一度鑑定眼で鑑定します。



 うーたん

 属性 このうさぎさ

 特徴 もしかして……

 能力 …………食べるの?


「食べないっ!!」

 どこに私がうーたんを食べる気配があったか教えて欲しいくらいです。どうやったらこんな鑑定結果になるのか分かりません。

 すると文字が消え新しい文字が浮かび上がります。



 うーたん

 属性 このうさぎさ

 特徴 もしかして……

 能力 …………食べるの?



「一緒じゃねぇかっ!!」

 寝ているうーたんがいる事を思い出し、起こしてしまったかと思ったのですが、うーたんは起きる事無くグーグーと寝ていました。野生のウサギだったら間違いなく食べられているでしょう。危機感なさすぎです。


 私はプンスカ頬を膨らませながら浴室に向かいます。

 脱衣所の扉を閉め、袖に通る腕を袖から外すように引っ込ませ、服の内側から裾を持ち上げて服を脱ぎ始めます。


 シュルシュルと衣擦れの音だけが脱衣所に響きます。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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