闇の聖女の旅立ち
東門から町をでると、吹き抜ける風が出迎えてくれました。
このまま東の町グランツまでは一本道です。野原を縦断する様に続く一本道は歩いていて気持ちがいいです。
大量にでたB級光る魔石のお陰で、旅費は当分困る事は無さそうです。
迷宮、塔で手に入れた物は一つの魔道具を残し、片っ端から換金しました。
現在手元には金貨16枚銀貨32枚銅貨30枚となっています。私なら一年はゆうに過ごせる金額です。余裕です。貧困時代を舐めないでほしいです。
宿は高い宿で金貨1枚の宿もありますが、大きな町しかまずありません。安い寝るだけでよければ銅貨4枚で泊まれる宿もあります。本当に安い宿は銅貨3枚という所もあります。野宿よりはマシといった所です。私は喜んで泊まりますけど。
残した物は使わずに残った中級治癒魔石と鑑定の魔道具です。私に治癒魔石は使えませんが、人を助ける為には必要になります。もしもダンジョンで目の前に瀕死の重傷を負った人に遭遇した事を考えてみてください。治癒魔石が無ければ、体を震わせながら治癒魔石なくてごめんなさいと謝る事しか出来ません。そしてその人の最後を看取る事になるんです。そんなのは御免です。恐ろしい事この上ないです。
ささっと治癒魔石を使って キィン っと光に包まれて。パッパカパーンっと回復してくれる方が私の精神に優しいですから。
鑑定の魔道具。輪っかの様な物なんですが、その輪っか越しに物や魔物を覗くと鑑定出来るという便利な物です。半永久に使えるこの輪っかはかなり珍しい物らしく、換金するときに金貨15枚で譲ってくれと言われたぐらいです。人には効果がなかったです。何故か鑑定眼が一言で とっとけ っと文字を映したので取っておく事にしました。私は鑑定眼持ちなので全く意味がないんですけどね。
それよりも私の心をざわつかせたのはその値段です。
人を鑑定できない鑑定の輪っかで金貨15枚ですよ? 私。今までずっと人を鑑定してきましたけど。金貨をくれたのは一人だけでした。マイル・フォレグランさんです。今でも忘れません。
あの人はそれを分かっていて、相応の支払いをしてくれたんだと気付きました。
それに比べ情報で料金を支払っていた人達。私はどうも年中安売り叩き出し商品だったらしいです。悲しいです。
あ、涙が出そう……
私はあんな風が強くて、寒い日に野宿までしてたのに……
「うふぅ……ひどぃ……」
思わず口元を手で覆ってしまいます。
世間知らずだった私が悪いのですが、生まれ付き鑑定眼を持っていた私にとって鑑定はごくごく普通の事だったので、そこまで値段をとっていい行為だとは思いませんでした。
大々的に商売しようと思うと商人ギルドの承認が必要になるので、それはそれで面倒ですが、それでも野宿する事はなかったんじゃないかと思います。
しかし、高価な事を情報で取引(認めてはいない)をしていた事で、教えてくれた情報は真実味が高いものが多い様です。
中には偽りと思えるような話もあったのですが、もしかしたらそれも何かの手掛かりになるのかも知れません。
お金が欲しかったですけど。
トコトコと歩いていると、道の真ん中に耳の長い小さ目な生き物が倒れています。
ウサギ?
魔物ではないらしく、怪我をしている様子もありませんが、ぐでぇっと舌を出しながら寝ている様に見えなくもありません。
ウサギって舌だして寝たりしましたっけ?
そう思ったのですが、私は少し立ち止まり考えた後。また歩き出しました。
罠ですね
見なかった事にしましょう。
私は何も見なかったかのように歩を進めます。ウサギなんていなかったんです。
澄まし顔で通り過ぎていく私に驚いたのか、ウサギはよく分からない鳴き声をあげて跳び上がりました。
「うにゅ! うにゅ~~~!!」
左足に抱き着く様にしがみ付きます。やはり、罠でしたね。何もいない事にしましょう。
左足に重さを感じながらも、わたしはトコ トッコ トコ トッコ と歩を進めます。左足が重くて変な足音を刻んでいますが、まぁよしとします。
「うにゅにゅ! うにゅ~~↗↗!!」
ウサギは大きく鳴くと、ポテリと落ちました。力尽きたのかもしれません。
チラリとウサギを見ると。
「きゅるるるぅぅぅ」
お腹のなる音が聞こえます。私じゃないですよ?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
旅用にと買っておいたパンを食べやすい様にちぎってウサギに渡します。
ウサギは美味しそうに はぐはぐ とパンを貪っています。
近くの木の根元に座り込み、日陰で腰を下ろしながら。私の上でパンを食べるのに夢中なウサギ。
何となく鑑定眼でウサギを覗いてみます。
ウサギ
属性 風
特徴 ウサギ型妖精
能力 ウサギ
「…………?」
どういう事でしょう? 妖精のウサギなんですか? ウサギの妖精なんですか? ただのウサギではないんですよね? 能力ウサギって……?
食べかすを私のスカートに飛び散らかせているウサギを見ます。どうやったらこんなにパンをボロボロに出来るのか分かりません。
私の上で身動きが止まり、体がブルブルと震え始めます。パンを喉に詰まらせたのでしょう。
私は水筒を取り出し、大きめの葉っぱに水を注ぎウサギの前に置きます。
バチャチャチャチャ
このウサギ。水飲んでます? 私にはスカートと服を濡らす為に水を飛び散らせたとしか思えないです。
「ふぅ……」
吐いた息が風に流された気がします。この気持ちのいい風に免じて、許してやります。
ウサギはありがとうとでも言っているかの様に。弾む様な声で鳴き。頭をペコリと下げた気がしました。
「うにゅ♪」