しがない鑑定眼の情報屋さんの天敵
私はその魔物を見た瞬間に目が滲むのが分かりました。2階に上がった直後です。目の映る位置に待ち構えていた様にその魔物はいました。御存知だと思いますが、私ダメなんです。すごい苦手なんです……
「やぁだぁ……もうでてるぅ……なんにもしてないのにぃ……ひっく……ぐす……」
グールガール
属性 不死
特徴 痛覚が無い為、攻撃を受けても怯まない。しかし一定以上のダメージを与えれば絶命する
能力 相手を溶かす酸を口からも吐くし。体のドロドロも酸効果有。酸が強すぎて自分の体も少し溶けてる。可愛いだろ? これ女なんだぜ?
「女に見えないっっ!!」
何かとても失礼な事を言った気がしますが、気にしたら負けです。
グロテスクな光景が見たくなくて闇魔力圧縮を覚えたのに、お手上げです。まさか初めからグロテスクな魔物がいるとは思ってませんでした。
「うぐ……ダークボール……」
目をうっすらと開けています。お腹から何か長い物が飛び出て引きずっています。生々しい肉感がありそうな何かです。動く度に グチャァ と粘着性の音が聞こえます。
私は気付きませんでした。あまりの悍ましい姿に魔力を圧縮する事を忘れ、早々に目の前のグールガールを視界から消したくて、普通にダークボールを放った事を。
ズオオォォォオ!! ブジュルルルゥルルルルゥルルゥル!! ブギャァァァアアァ!!
☆阿☆鼻☆叫☆喚☆
「もぉいやぁああぁぁ!!」
元から少し溶けている体がさらにドロドロになりました。かなり濃いめのシチューといったところです。濃緑色の。
「うふぅ……もうシチュぅ……食べれなぃ……」
何故私は圧縮しなかったのか、悔やんでも悔やみきれません。私の好きな食べ物が一つ減りました(号泣)
私は涙を拭き、立ち上がります。こんな所で立ち止まっていては、また可愛いグールガールが襲って来るかもしれません。
そんな事になるぐらいなら私は塔から出ます。既に深い心の傷を負いました。塔の攻略を諦めるに値する程の。
「いくもん……」
それでも私は進みます。私だって、強くなりたいんですよ? 体も、心もです。
私は歩き出します。ドロドロの半液体は視界に収めない様に細心の注意を払います。例えそこにA級魔石が落ちていたとしても、私は見ません。ドロドロ濃緑のシチューの中にある時点で、伝説のアイテムでも視界に収めない所存です。
もう出来ればグールガールは見たくもないので、曲がり角に差し掛かる度にこっそりと壁に張り付きながら、チラリ っと先を確認します。次にグールガールを発見したら上を向きながら前方に圧縮したダークボールを撃ちます。当たるまで。
そんな事を8回程繰り返しました。一階ではハーピィ一体しか会わなかったのに、何故グールガールとはこんなに遭遇するんでしょう。
上を向いてダークボールを撃っていた時に涙が止まりませんでした。
あまりの遭遇率に鑑定眼でさえ。
グールガール
属性 その……元気出せよ……
特徴 お前……シチューそんな好きじゃなかったじゃん……?
能力 これ……1回目って事にしようぜ……
と鑑定する始末です。途中までは楽しそうでしたけどね。
どれだけ涙を流したでしょう。涙が止まる頃、私は3階に続く階段に辿り着きました。