しがない鑑定眼の情報屋さんの転機
私はしがない情報屋です。
情報屋といっても大した情報は持っていません。
近くの迷宮。塔。近隣に出る魔物。魔道具に付いている能力や効果の情報ぐらい。
どっちかというと情報屋としてより私の鑑定眼を目当てでくるお客さんが多いです。
私の右目は生まれ付き魔眼です。魔道具や装備を見た時に情報が文字になって現れます。さらにさらに、鑑定眼は人にも対応可能になっているんです。
冒険者が自分では気付かない才能。能力まで見る事が出来ます。
冒険者は私の噂を聞いては、自分の秘めた才能を確かめようと私の所に訪れます。
あんまり秘めた才能持っている人はいませんが……
今日も自分の隠された力を確かめようと冒険者が私の所に訪れます。
私は冒険者ギルドの端で立っているだけです。
あまり言いたくはありませんが。
私は確かに情報屋だけど、情報だけじゃ生活できません。鑑定の代金を秘密の情報で支払うのはやめてほしいです。
私はお金の方が嬉しいです。
うぅー。今日も使い道のない情報が溜まっていくよー(泣)
そんな事を思いながらも、私はせっせと鑑定を始めます。
私の魔力が少なくなって、鑑定眼を使うのがしんどくなったら店じまいです。
今日はお金がほしいです。私野宿は嫌なんです。
私の心の思いが届くと信じて、鑑定を済ませていきます。
でも全く私のお金は増えません。そろそろ鑑定眼を使うのがしんどくなってきました。
今日はこのお客さんを最後にしようと思います。
お金を下さいとありったけの思いを込めながら鑑定を始めます。
マイル・フォレグラン
職業 魔術師 魔弓術師
得意属性 雷
強さ トンデモナイ 測定不能
生命力 トンデモナイ 理解不能
固有能力 半雷化 魔眼(動体視力 深視力 周辺視 瞬間視)基本応力向上の魔眼
雷第二属性 魔力高度生成 高ランク気操師以上の体捌き 精霊化可能(自分以外)
器(生命力を溜めれる限度)
8割 ×3
生命力の質(生命力の量ではなく濃さ)
見た事なくて分からない 意味不明
開花前才能 風属性? 雷属性に関しては次元違いで鑑定不可
次習得可能 解析不能 雷属性で出来ない事なさそう
…………
………………え? なにこれ?
鑑定眼で鑑定出来ない項目がいくつかあるんですけど……
雷属性で出来ない事なさそうって書いてあるんですけど……
「どう? 何か分かった?」
黒いローブを羽織り、深紅の髪をしたマイル・フォレグランは呆然とする私に話しかけます。
私は慌てて見えた項目だけを話します。
「え、えと。生命力を溜められる器は8割です。通常は1~3割なので、かなり特殊な器を持っています。んと、しかも3つ? 器を溜める事が出来るみたいですけど、でも……全部最大まで溜めたらかなり危険です。死んじゃうかも……」
「おぉ!? すごいな。ほかに何か分かった?」
多分この人は自分自身の事をしっかりと理解している。
私が言う事は答え合わせみたいなものだと思います。
「は、はい。あの。もしかしたら何ですが。風属性も得意かもしれません」
「あー。なるほど。ウェンディもそんな事言ってたもんなぁ」
心当たりがあるのか。ウンウンと両手を組み頷きます。
私の生命力だと彼をしっかりと鑑定をする事が出来ません。差がありすぎると鑑定は曖昧になるらしいです。初めての経験です。
「あのぉ……申し訳ないんですが、後はうまく鑑定できませんでした。生命力の質もよく分からないです。強い事しか分かりません」
しっかりと鑑定出来なくて、私は頭を下げます。これだと代金は貰えなくても仕方ありません。彼が知っている事しか答える事が出来ませんでした。
「いや。色々と助かったよ。ありがとう」
彼はそう言って金貨を1枚私に握らせてくれました。
「え? えぇ!?」
情報じゃなくてお金をくれる人は『稀』にいますが。それでも銀貨1枚程度です。金貨1枚は銀貨10枚。つまり10倍のお金を渡してくれました。
「あ、あの!?」
私は鑑定も満足出来ていません。お金はいらないと言おうとすると、彼は私の言葉を聞かず自分の言葉を続けます。
「気持ちだ。いい事を聞けてよかったよ」
彼はそう言って右手を上げて立ち去って行こうとして、思い出したかのように立ち止まります。
「そう言えば。町の南側で月明りが集まってる様な場所があったんだけど。何か知ってる?」
町の南側? 南側は平野と小さな森があるだけで迷宮や塔がある話は聞いた事がないです。
「いえ、そこには何もないはずですが」
情報屋として、冒険者から役に立つか分からない情報も色々聞いています。この町の周辺の情報に私程詳しい人はいないと思います。
「わかった。危ない感じはしなかったし。危険じゃないならいいんだ。ありがとう」
彼はそう言って冒険者ギルドから出て行きました。
金貨は私の右手に握られたままでした。
どこかで会ったら、改めてお礼を言おう。そう思いながら私も冒険者ギルドの扉を開けます。鑑定眼を使えないとは言いませんが、魔力はそこまで残っていません。
私は宿に向かおうと町中を歩き始めた時。彼の言葉を思い出し、ふと空を見上げました。
仄かに青ばみ、青白い満月。
彼が言っていた通り、空から薄く円柱の様な月明りが町の南側に降り注いでいます。気を付けて見ないと分からない程度です。
私の脳裏に今まで聞いた情報が駆け巡りました。人に話す事はないと思っていた情報達。
この世界のどこかに伝説の魔石がある迷宮があるらしい──────
伝説の魔石は魔操師、気操師。どちらでも使える力らしい──────
一年に一度。満月の日にこの世界では何か特別な事が起るらしい─────
月明りに照らされた場所は次の日には何もなかったらしい──────
伝説の迷宮は何処に出るかわからないらしい───────
伝説の迷宮に魔物はいないらしい─────
そこには伝説の魔石が祭られているだけらしい─────
『そう言えば。町の南側で月明りが集まってる様な場所があったんだけど。何か知ってる?』
使う事がないと思っていた情報が私の頭の中で繋がった気がします。
あれ? もしかして……? あの月明りに照らされてる場所って?
私は月明りが照らし出す場所に向かって走り出しました。