唐突に迫り来る○○
「おはようございます。その……奇遇、ですね?」
本気でそう思っているなら、言葉の使い方を間違っていると言わざるを得ない。
朝一で俺を訪ねてきた客は、やはりというべきかロードだった。
昨日は暗くてあまり見えなかったが、同じようなローブを着ている。ただし、今はフードを被っていた。
「……そうだな、奇遇だな」
そっちが偶然だというのなら、用があるわけではないということになる。適当に流して話を終わらせてしまおう。
「こ、これは私達に仲間になれというお導きですかね……」
「はぁ?」
「あ、す、すいません。さすがに急でしたよね」
「いや、急もなにも……」
そんな話をしたことは全くなってなかったと思うんだが。
「じゃ、じゃあまずお友達から! お友達からお願いします」
「いや、だから、さっきから何を」
「ダメでしょうか……?」
確かにダメだ、いろんな意味で。
こちらの話を全く聞いていない。
正直なところ仲間は欲しいとは思っていた。が、この子は遠慮したい。
フードの隙間から心細そうな潤んだ目がのぞく。なんでそんな顔をするんだ。訳がわからない。
「……ダメってわけでもないが」
折れた。俺は折れてしまった。
「あ、ありがとうございます!」
何がそんなに嬉しいのか分からないが、ロードが笑顔を見せる。
ぼっちに友達ができる瞬間ってこんな感じなんだろうか。
俺も友達が多い方ではなかったが、ロードの気持ちは分からなかった。
感情豊かな方ではないからな。
やったやった、と小躍りしそうなテンションのロードを冷めた目で眺める。
「そうだ、あれを確認しないと」
後ろを振り向いたロードは何かを見ているようだ。そしてこちらに向き直ると、
「れ、レイさん!」
「ん?」
「私とお買い物に行きませんか!」
「なんで?」
さすがに素で返してしまった。ここまでの流れのほとんどが俺には理解不能であったが、許容範囲を越えはじめている。
素っ気ない言葉を返されたロードは戸惑っている様子だ。
「え、なんでって、その、と、友達はお買い物に一緒に行ったりするものですから……?」
しどろもどろに言うロードは、彼女自身何を言っているのか、分かっていないような、俺にはそんな風に見えた。
「はあ……」
何となく、この状況の理由が分かった気がした。
「こ、こんなときは……」などと言いながら、再びこちらに背を向けるロードの背後に近づき、その手元を覗き見た。
「そういうことか……」
「ひゃあっ」
気づかないうちに傍にきていた俺に驚くロードをしり目に、さらに手元に持っている「紙」をよくみる。
【クエスト】
1、人間と友達になってみよう
あなたは引っ込み思案すぎて、だめだめです。友達を作るのも難しいでしょうが、すこしでも気が合う人を見つけたらアタックあるのみです。まずは――
「み、みないでくださいっ」
「あ、悪い」
ロードが「紙」を隠してしまったので、その先は読めなかった。
しかしクエストとは……気になるな。
「その紙なんだが……」
「……母が私が旅立つ際にくれたものです」
俺が見ていたのは明らかだし、ロードは顔を真っ赤にしていたが教えてくれた。
「クエストっていうのはどういう意味なんだ?」
「母の趣味です。……も、もういいでしょうか、その恥ずかしいので……」
「……あぁ」
趣味……か。まあこの世界にもクエストって言葉はあるだろうしな。
これ以上詮索しても仕方ない。
「で、そのクエストとやらに従った結果が買い物にいくということになるのか?」
「……はい」
序盤の勢いはどこへやら。クエストという支えを見失ったロードは最早風前の灯……ってそれはいいすぎか。
「なら、いくか? 買い物」
「い、いいんですか!?」
お、勢いを取り戻したな。
「勝手にお前のもん見ちゃったのも悪かったしな。買い物くらいなら付き合う。ただ、俺はまだこの辺りの店はよく知らんぞ」
「わ、私もですが、きっと大丈夫でふ! で、では、早速参りましょう!」
そういいながらロードは俺の背後にまわった。
二人の間に沈黙が流れる。
「って、俺が先導するのか!」
「え、え、でも、こういうときは殿方がエスコートすると聞いたものですから……」
確かにそうかもしれんが、今の話の流れは違うだろう。
「はぁ……分かったよ」
仕方ないな……。