唐突に……
いざ歩き出すと色々と考えが浮かんでくるもので、ギルドにこのまま行くともしかしたら面倒なことになるかもしれないと思い始めた。
有名な探索者ならまだしも、俺のような無名冒険者が、急にこんな稼ぎを出したら怪しまれないはずがあろうか。いや、ない。
しかし、現状では誤魔化す方法も思い付かない。
このギルドカードには所有GMも表示されるが、ご丁寧に「今回の探索で獲得したGM」という欄まで設けてあるのだ。
迷宮都市ではGMがそのまま通貨として利用できる。ギルドメンバーであれば、ギルドカード。所属していないものは、一般のカードを持っており、それで通貨のやり取りをする。
そこだけは何ともハイテクな世界である。
ゆえに何かを売却して得たことにしようかと考えたこともあったが、なにで識別しているのか、そういった方法で得たGMは別表示になるため不可能なのだ。
どんだけハイテクなんだよ。
まあ、おそらく人が作ったものではないのかもしれないな。
さてさて、どうしたものか、諦めるほかなさそうだが。
「ど、どうかされました?」
考えに没頭していた俺はいつのまにやら足を止めていたらしい。
ロードか。そういえば魔法使いなんだよな。このGMも魔道具なんかに用いられるらしいし、何とかならんかな。
なるわけないか。そんな方法があれば魔法使いはこぞってやっているだろう。
それに不正な話を持ちかけるほど信頼関係築いてないし。
「……なんでもない」
結局いくしかないな。面倒なことにならないといいが。
ギルドへ着いた。
結論からいうと、ギルドでは面倒なことにならなかった。
この間とまた同じ受付に対応してもらったのだが、特に大きな反応もなく、事務的に処理を終えてくれた。
ぼそっと何か言っていたようにも感じたが聞き取れなかったし、あまり俺にも余裕がなかった。
俺からすれば大金だしな。
ちょっとそわそわしてしまっていたのである。
その後も面倒に巻き込まれないよう足早に帰ったのだが、ここで一つ面倒が発生した。
何故か宿までロードがついてきてしまった。
俺的にはギルドで別れたつもりだったんだが、後ろに引き連れてきていたらしい。
「お前はこの先か? 俺はここの宿に泊まってるから……」
「……はい、今日はありがとうございました」
「じゃあな」
案外すんなり別れられたなと思いつつ、去っていくロードを一瞥して宿へ入る。
探索者という区割りのなかでは変わったやつだったな。
また会うこともあるかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は眠りに着いた。
「朝だよー! お客さんきてるよ! おーきゃーくーさーん!」
朝、そんな五月蝿い声で目を覚ました。俺は人に起こされるのが嫌いだ。
「……ったく、なんだよ?」
不機嫌からか何時もより数段低い声が出た。
しかし、カレンは俺の様子など全く気にせず、同じ言葉を繰り返した。
「レイ兄ちゃんにお客さんだよ!」
「……客?」
ぼんやりする頭を動かして、聞こえた言葉をおうむ返し。
客……、客か。
まだここに居着いて数日、招く相手どころか、言葉を交わす相手さえそうそういないというのに。
一体だれだ?
考える俺の脳裏に昨日の女の姿が過った。