唐突に看板娘になつかれる?
「あら、お帰り。あんた無事だったのね」
「あぁ、まあ、なんとかな」
宿屋のおばさんに相槌をうちながら、そのまま二階の階段に足をかける。
「あぁそうだ。娘が随分と心配しててね。良かったら顔を出してやってくれないかい」
2階の一番奥の部屋にいるからさ、と付け加えて、視線を外したおばさんに「分かった」と頷く。
しかし、このおばさん、無用心すぎやしないか。俺が言うのもなんだが、粗野な探索者を一人娘のとこに案内すんなよな。
ギシギシと音のする階段を登っていく。
奥の部屋なんて行かずに自分の部屋に入ろう。そう思っていたが、娘さんは階段の頂点で待ち構えていた。
「なんだ、まだ起きてるのか。早く寝ろよ」
声をかけるが、
「レイ兄ちゃん! 良かった!」
俺の言葉はお構い無しで、ひしっと抱きついてくる。
因みに娘さんの年齢は10歳。名前はカレン。ショートの黒い髪がばっちり可愛い少女である。
すこし我が妹に似ているところもあり、贔屓目になっているかもしれない。
ただそれがゆえにあまり顔を会わせたくない少女でもあった。
「おいおい、カレン? どうした?」
肩に手をおいて、引き離そうとするが、強く掴まれていて離せない。
それどころか、顔のあたっている腹のあたりがじんわりと生暖かく感じるような……。
まさか……。
「泣いてるのか?」
頭をぽんぽんとしてやってから、顔を上げさせる。その目は赤く、濡れていた。
「ぶじで……ぶじでよかったよぉ……」
また泣き出すカレンに俺は困惑するだけだった。
俺、そんなに好かれるようなことしたっけ?
まだ出会って1日……くらいだ。特別なのことは、まあ、唯一所持していた飴をあげたことくらいか。
飴で懐柔されたのかもな。
親父さんもいないらしいし、色々と寂しい子なんだろう。
「ったく、ほら、部屋まで連れてってやるから」
カレンを抱き上げ、だっこしながら、背中をさすってやる。
今も昔も、子供は嫌いじゃない。
でも、今は子供は苦手だった。
どんな行動をとるか、どんな気持ちになるか、俺は同じ目線でそれを考えることができない。
「ついたぞ」
カリンの部屋。やけに静かなこいつをベッドに下ろしてやると、
「……なんだ、寝てるのか」
はあ、やっぱり子供はわからん。
布団をかぶせてから、俺は静かに部屋を出た。
自分の借りた部屋につき、ふぅ、と一息つく。
妙に悲しい気分になっていた。
「この宿にしたの失敗だったかもな」
とはいっても、金はないし、仕方ない……な。