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黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
第5章  共生編

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8  神器決闘

「さあ、行かせてもらいますよ!」


 神器【グラム】を抜き、僕は駆け出す。

 巨人王は【神器】である大刀を構えて近付いてくる僕を迎え撃った。

 第一撃。刃と刃がぶつかり合い、火花を散らす。


「うむ……力は上々のようだな」


 巨人王は僕の剣を受け、相手の実力を計っていたかのように呟く。

 彼は大刀に力を込め、僕を押し返してきた。

 後退させられた僕は、後脚でブレーキをかけて何とか倒れずに間合いを保つ。

 やはり、恐ろしいパワーだ。

 僕とは体格の違いすぎる相手。どんな戦い方をすれば勝てる……?

 約五メートルの巨人の頂点を見上げ、僕は歯を食い縛った。

 両手で剣を振り上げ、声も上げる。


「うおおおおおッッ!!」


 雄叫びと共に、相手の後ろへ回り込もうと高速で走る。

 速度なら、僕が勝っている筈。

 相手の背後を取った、そう思った時……巨人王は振り返って刀を薙いだ。

 僕の剣は、またも巨人王に打ち返される。

 激しい衝突音がして、衝撃で体が吹き飛ばされた。


「うっ、ぐッ……!」


 直接剣をぶつけても、防がれる。打ち返される。

 単純な力では到底及ばない。

 僕は地面に唾を吐く。巨人達の騒ぎ声が耳に障った。


「はぁ、はぁ……」


「もう力尽きたか? 今度はこちらから攻めさせて貰うぞ!」


 巨人王は観衆全員に聞こえるように大声を上げる。

 あくまでも、これはパフォーマンスなんだ。

 どれだけ面白い勝負を展開できるか。いや、どれだけ血を流せるか……。

 彼らの苛烈な戦闘本能を、どれだけ満たせるか。それがこの勝負の意味なんだ。


「でも……僕だって、負けっぱなしじゃいられない」


 力で敵わないのなら、技術で勝負するだけだ。

 父さんとルーカスさんから学んだ剣術で、この強敵を打ち破る!

 巨人王が猛烈な大刀捌きで僕に迫ってくる。


「むんッ!」


 僕は素早く身を翻し、豪風を立てながら唸る刀をかわした。

 空を切った大刀は、地面に大きな亀裂を作り上げた。

 巨人王は、体の大きさの割りにはかなり速い。いや、大きいからこそ速いのだ。

 巨人王と僕では、まるで巨象と(あり)


「『蟻』でも巨象を破れるって事、証明してやるッ!」


 僕はそう叫び、【神器】グラムに魔力(マナ)を込める。

 少し早いけど、この相手を倒すには【神器】の本当の力を解放するほかない。

 

「ほう、『蟻』と『巨象』か……。的確な例えだが、果たして蟻が巨象を本当に倒せるのか?」


 不敵に笑う巨人王も、大刀に赤い光粒を纏わせ始めていた。

 彼の大刀に刻まれた紋章と、刀身に記された古代文字のようなものが血の色に輝き出す。

 紫紺の炎と青い雷を纏う【グラム】は、僕の手の中で力を最大限に放つ瞬間を待ち望んでいた。

 二つの【神器】は一方が神、もう一方は巨人の力を持つ。かつて神話の世界で最強といわれたオーディン、そして『最終戦争(ラグナロク)』で全てを焼き尽くしたというスルト。

 神の世界と巨人の世界。それぞれの王の力が今、激突しようとしている。


「ど、どうなるんだ……!?」


「力を解放した【神器】と【神器】のぶつかり合い……トーヤ、頑張って」


 ジェードが相対する二人を見て目を見張り、シアンは胸の前で手を合わせて愛する人の勝利を願った。

 既に酒が入ってしまっているエルと、彼女にどんどん酒を飲ませるユーミも、大切な人が戦う場面を見逃すまいと瞬き一つせず見守っている。


 力は最大限溜めた。後はそれを解き放つだけ。

 巨人王も、もう充分に魔力を蓄えているだろう。

 どちらが先に動くか……そんなのもう決まっている。


「はああああああッッ!!」


【神器】を振り抜き、炸裂させる。

 僕は全身の力をその一撃に乗せて放った。


「ぬううううんッッ!!」


 巨人王の炎の大刀は、炎と雷を纏う僕の剣を受け止める。

 だが、今度は押し返されたりなどしない。今の力はほぼ互角だった。

 交えた剣を離し、また交える。

 巨象を見上げて剣を振るう僕は、もう蟻などではなかった。

 

「ふッッ!」


 三合、四合……剣戟(けんげき)は続く。

 巨人達の熱狂は高まり、僕の鼓動も熱く激しく昂っていた。

 楽しい。今の僕は、この戦いに楽しさを見出だしている。

 初めての同じ【神器】を持つ相手との戦いで、僕自身も闘争心を掻き立てられているのだ。

 爆炎の花が咲き、青白い稲妻が閃く。

 神器の戦いは拮抗していた。どちらかが気を抜いた瞬間、その拮抗は刹那にして崩れ去ってしまうだろう。

 

「……不屈と高潔の巨人スルトよ。我が身に真の力を貸し与えんことを」


神化(しんか)』。巨人王は自らの身に更なる力を降ろそうとしている。

 赤い光粒と炎を纏う大刀は、その刀身を芯として周りに炎を細く長く渦巻かせた。

 巨人王の背丈を優に越す長さの、炎の剣がそこに生み出される。

 

「神オーディン、僕に力を」


 呟き、僕も『神化』を発動した。

【グラム】の黒い刃が変化し、柄が長く伸びる。

 溢れる魔力を帯びる黒き長槍、【グングニル】で相手の炎の剣を打ち払った。

 巨人王の巨大な体が後退する。だが彼は体勢を崩すことなく、片手で炎の長剣を振り上げて次の攻撃に移った。


「トーヤ! スルトの炎、受け止めてみよ!」


 僕は【グングニル】を構え直し、巨人王の炎の剣を受け止め打ち払うために再び魔力を最大にまで高める。


「はああッ……!」


 頭が割れるように痛い。体は力を既に出し尽くして立つことすらギリギリの状態だ。周囲の喧騒などもう聞こえない。

 巨人王は爆裂する炎の剣を振り下ろす。

 大地を揺るがし裂く一撃が、王の手から放たれた。

 激しい熱と音と共に、水面を切る鮫の背びれのごとく炎は地面を突っ切って僕に向かってくる。

 炎の剣が放たれると同時に、僕は全ての力を込めて【グングニル】を薙いだ。

 

「ああああああああッッ!!!」


 喉が張り裂けんばかりの声で吼え、灼熱と雷鳴の槍で炎の剣を迎撃する。


 激突、そして爆風と爆音。

 赤き炎が弾け、突如黒煙が視界を奪う。


「ぐッ……あっ!?」


 スルトの剣が放ったのは、熱と炎だけではない。【グングニル】で炎を消し飛ばしたと思った僕は、腹を強く殴られるような衝撃波に吹き飛ばされ地面に倒れてしまう。

 跳ね起きようとしても動けず、顔を上げて相手の動きを窺うも……黒い煙はまだ晴れず、辺りは全く見えなかった。

 僕は服の袖で鼻と口許を押さえ、煙を吸い込まないようにする。


「ゴホッ、ゴホッ……。王よ、どこにいますか!?」


「トーヤ、すまん! ちとやり過ぎた」


 巨人王はまだ疲れを見せない声で、僕の問いかけに返した。

 黒い煙で周囲は見えなかったが、聴覚は右の方から少女の声を捉える。

 エルの声であった。


「浄化!」


 エルの杖の白い光が、煙に汚れた空気を浄化していく。

 エルの魔法により、次第に辺りの様子が見えてきた。

 巨人王は静かに息を吐きながら、炎の剣を杖がわりにして立って僕を見下ろしていた。

 その様子は全く限界を見せていない。巨人王は、まだ余裕で戦えるだけの体力と魔力を備えているということだろう。

 対する僕は……もう戦える力を残していなかった。『神化』も倒れた時に解けてしまっている。

 僕は荒く息を吐き、手元を離れて地面に転がっている【グラム】を引き寄せた。

 巨人王を見上げて、自分の敗北を知る。


「……流石は、巨人の王。僕、なんかじゃ……到底、敵わない」


 体力の消耗は激しく、これまで意識を保っていられたのが奇跡的なくらいだった。

 僕は最後に王に敗北を認め、意識を手放した。


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新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
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