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黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
間章 

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プロローグ  少年と聖母

 とある時間、とある場所。

 一人の少年が微笑をたたえる金髪の魔導士の前に跪き、『事件』に関する報告をしていた。


「【色欲】の片割れが、消えました」

 

「……そう、まあ良いわ。悪魔を破ったのは彼なのでしょう?」


「はい、そのようです」


 金髪の魔導士――シル・アレフ・ヴァルキュリアは、跪いている少年の頭にそっと触れる。

 砂のようにさらさらとした少年の白い髪を、慈しむようにシルは撫でていた。


「シル様……」


「エイン。私は、あなたに一つ仕事を与えたいと思っているの」


 シルの言葉に、エインと呼ばれた白髪の少年は少し顔を上げる。


「それは、どのようなものでしょうか?」


「……ふふっ、どんなものだと思う?」


 シルは少年の反応を楽しむように笑った。

 魔導士のフード付きローブの下に見える表情は、決して暗くはない。彼女の表情はここ最近、常に明るかった。

 それがある少年によってもたらされているものだということを、エインは知っている。

 彼はその少年に静かに嫉妬していた。無論、それを表に出すようなことはしなかったが。

 エインは主の命を待った。暫くして、彼の主であるシルは口を開く。


「あなたの義兄弟、ルーカスに渡して欲しいものがあるの。頼めるかしら?」


 エインは頷く。主に捧げた忠誠は、揺るぎないものだった。

 主のどんな命令でも聞く。

 自分を生み出した母親のためなら。全てを失った自分に全てを与えてくれたこの人のためなら。

 

「喜んで、承りました」


「ふふっ、いい子ね。……あなたは私の選んだ『勇者』。しっかりと、私のために尽くして頂戴ね」


 シルは微笑みを絶やさない。彼女はエインを息子同然に愛していたし、エインもそれは同じだ。

 エインに抱く感情は、エルがあの少年に抱くそれと似て似つかない。


 シルは遠い目になった。エインの事は一瞬忘れて、かつての日々を瞳の裏に映す。

 

「あぁ……どうして、こうなってしまったのかしらね」


「…………」


 エインにはわからない。

 シルの過去にあるもの、彼女が知っていて自分に教えていないこと、その全てがわからない。

 エインの知識は、シルに与えられたものだけだったからだ。

 でもそれでいい。例え箱庭の中に閉じ込められていたとしても、エインは幸せだ。

 シルの元で彼女の役に立てることが、エインにとって何より幸せなことであった。


 エインは立ち上がり、自分より少し背の高い『母親』を見て笑顔になる。

 前髪の一部、二つの長い束になった白い髪を顔の横で揺らし、エインは言った。


「行って来ます……母さん」


「いってらっしゃい。私の可愛い息子よ」


 シルは息子の頭にもう一度手を伸ばし、撫でてやった。

 女神の慈愛を送られた少年はとても嬉しそうにして、やがて仕事のため出ていく。

 エインがいなくなった後、シルは一人ため息をついた。


永久(とわの時を生きるというのも、罪深いわね。あの子が死んでも、私はそれを追うことも出来ないのだから。……なんて、贅沢な悩みよね」


 シルはもうとっくの昔に慣れてしまった一人笑いをする。

 赤猫が、音も無く彼女の肩に飛び乗った。

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新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
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