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黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
第4章 【色欲】悪魔アスモデウス討伐編

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9  女装潜入

 アマンダ達とマーデル兵の戦いが薄闇の中、幕を開ける。

 大勢の兵士達は、その数およそ百。

 対する彼女らは八人、戦力差は歴然だった。

 王城の兵士達は、皆この勝負に負けることはないと思っていた。

 だが、その認識を彼らはすぐに改めることとなる。


「な、何だこいつら!?」


 兵士達が悲鳴を上げる。

 ルーカスの刀、【紫電(しでん)】は魔力(マナ)を纏い、兵士達の槍を簡単にへし折ってしまう。

 アマンダが使う魔法は変わったもので、東洋の格闘術『空手(カラテ』を彷彿とさせた。杖は使わず、手の周りに赤い光の粒を収束させ、手を相手に突き出す。彼女の手に触れた槍や鎧は、瞬間的に砂塵と化す。

 踊り子のように舞いながら次々敵を打ち倒すアマンダは、ニヤリと笑みを見せた。

 彼女は、複数方向から同時に差し向けられる槍も飛び上がってかわし、火球を放って応酬する。

 シアン達も、怯えながらもトーヤのため、そして王女のために魔具(まぐ)や武器を使い懸命に戦った。


 兵士達の中には、自分達の知る戦い方と全く異なる未知の相手に、怖じ気づいて早くも逃げ出す者さえ現れた。

 既に大将は倒れている。この場を制圧するのは容易と思われたが……。


「何をやっている! 貴様らはそれでもマーデルの戦士か!? 王に命を捧げるのが、貴様らの使命なのではないのか!」


 大男が、城壁からその体格のように大きな声を放ち、兵士達の士気を取り戻させる。

 男自身も城壁から恐ろしいスピードで駆け下りると、ルーカス達の前に立ち剣を抜いた。


「なんだ、あんたは? 俺達に降伏する気はないのか?」


「お前らごときに降伏なんぞしたら、王家の名に傷が付く。ここは、わしが力ずくでもお前たちの考えを改めさせよう」


 大男は纏う黒いマントを揺らして笑う。

 アマンダは光る両手を突き出して、襲い来る兵士達を気絶させながら、本当に不快そうに大男を一瞥した。


「考えを改めさせるって? どうやってよ?」


 アマンダが二十三人目の兵士の意識を奪い、大男は一瞬恐れる顔をしたが、直後に何もなかったかのような口振りで言い出す。

 

「お前達をこのわしが叩きのめし、我が王に二度と無礼な口を利けないようにしてやるということだ」


 大男は今手に持っている剣と対になっている、二本目を腰から引き抜く。

 双剣使いの巨漢。「大剣の方が似合ってるぞ」とルーカスが半眼で言う。


 周囲では、モア達が兵士達と必死で戦っている。

 ルーカスとアマンダ、二人と対峙する大男は、部下達に手を出すなと厳命した。


「わしの名はマーデル王国軍将軍、ガーラティス! 亜人の賊どもめ、今このわしが退治してくれるわ!」


「それはこっちの台詞だッ!」


 ルーカスとガーラティスの剣がぶつかり合う。

 ガーラティスが器用に放つ二つの斬撃を、ルーカスは魔剣で弾く。


「中々、やるな。流石は将軍だ」


「フン、お前ごときに押されるわしではないわ!」


 だが、実際将軍は押されていた。

 ルーカスの扱う魔剣は驚くほどに速く鋭く、将軍が攻める隙を一切与えない。

 将軍ガーラティスはぎりぎりと歯ぎしりをする。

 勝負は、既にもう見えていた。


* * *


「よし、誰もいないみたいだ」


 僕達は王城の裏側、木が繁る山の中からお城に侵入していた。

 高さ十五メートルの城壁をなんとか乗り越え、手入れの行き届いた庭園を音も立てずに駆ける。

 植え込みの陰、使用人が使うであろう裏口の方をちらりと覗き、僕はエルに囁いた。

 裏口のドアは開けっぱなし。ここの使用人は、随分と戸締まりがいい加減なようだ。


「わかった、トーヤくん……いや、トーコちゃん」


「……その呼び方は止めて」


 僕は頬をほんのり赤く染める。

『トーコちゃん』と不名誉な呼び名で呼ばれてしまったのは、僕のこの格好のせいだ。

 裾にヒラヒラしたフリルの付いた黒いワンピース。その上にかけられたのは白いエプロンだ。そして頭にはカチューシャ。黒と白を基調としたその衣装はいわゆるメイド服で、エルも同じ服を着ている。


 そう、僕はマーデル王城に入り込むため、女装をしているのだ。

 といっても、かつらを着けたり化粧をしたりとかそんなことはなく、ただ女物の服を着ただけ。

 エル曰く、「これで充分通用する」とのことだけど……声でバレちゃわないか、僕は不安だった。


 スカートはなんか短かった。どうやら、マーデルのメイドさんのスカート丈はこれが普通らしい。

 脚がスースーして寒い。露出した僕の脚は、鳥肌が立っていた。

 腕で身を抱え、寒さに震えながら僕はそーっと裏口に入る。

 

「にしても、可愛いなぁ」


「やめてよ、僕はそんなんじゃ……」


 誰もいない暗い廊下を走りながら、エルがうっとりと隣を走る僕を見る。

 僕はまだ頬を染めたまま、首をブンブン横に振った。


「僕、じゃなくて『私』だよ。口調も変えて、女の子らしくして」


「かえって怪しくならない? 大丈夫?」


「平気、平気。トーヤくんの、おっと……トーコちゃんの可愛さなら誰も性別なんてわからないさ」


 僕は溜め息をついた。

「トーコちゃん」呼ばわりされるのは嫌だったけど、王女奪還作戦は僕の女装が無ければ成功はありえない。

 僕は仕方なく、この姿に甘んじた。


「にしても、普通なら人がもっといていい筈なのに……灯りも点いてないし」


「そうだね。私もそれは不思議に思っていた……」


 僕達が侵入したこの場所は、マーデルの王族が住まう城である。常なら、窓には光が灯り、もう少し人が立てる音が溢れているだろう。

 だが今は、それが無い。異常だった。


 僕達が訝しんでいると、直線の廊下の前方より、女の人の声が聞こえてきた。

 僕達は一旦走る足を止める。

 廊下には隠れる場所は無い。どこか部屋があればそこに隠れようと思ったが、それも無かった。


「誰かいるのか? いるのなら、姿を現せ」


 鋭い女性の声。背筋が凍りつく。

 光が、暗がりからこちらに向けられた。ランプの炎が僕達の姿をくっきりと映し出した。


「みつけたぜ」


 その女性は、僕達に近づいてくる。

 僕は走り出しそうなエルを、目配せして制した。

 逃げるような真似をしたら、それこそ僕達の正体をあの女性に知らせることとなる。ここは、なんとかあの女性を騙して王子の居場所を聞き出すんだ。

 

「あんたら……見ない顔だな」


 金の短髪の女性は、僕達の格好を見て目を見開く。

 僕は焦る鼓動を落ち着かせながら、口を開いた。


「す、すみません。私達、新しく使用人として雇われたんですけど、道に迷ってしまって」


「……今はメイドの募集なんてしてなかったと思うけど?」


 心の中で、くそっ、と歯噛みする。

 冷や汗をかく僕の後をエルが継いだ。


「私達はマリウス王子の専属メイドとして、雇われたんです!」


 僕も、女性も驚いた。といっても、僕はそれを表情に出すことはなかった。

 危なかった、ここで驚きを見せてしまったら終わりだった。

 

「王子様の専属メイドか……いや、最近のあの方ならやりかねないな」


 金髪の女性は、眉間に皺を寄せ唸りを上げる。

 お願い、うまくいってくれ……。


「はぁ……。あんたらの容姿なら王子様が手を出したくなるのも、仕方のないことなのかな」


 女性は溜め息をつき、僕達の顔を半眼で見た。

 彼女は逡巡の後、自らの後ろに親指をぐっと向ける。


「ついて来い。王子様のもとに連れて行ってやる」


 


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新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
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