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黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
第4章 【色欲】悪魔アスモデウス討伐編

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6  夢見る者

 僕達が乗らせてもらっている巨大な帆船は、貨物を大量に積んだ商船のようだった。護衛の兵士や船員達も多く、かなりの人員とお金をつぎ込んであろうことが窺える。


 甲板に立つ僕らは、柵から身を乗り出し海を眺めた。

 風を受け髪が揺れる。冷えた冬の風だったがそれほど強くなく、スレイプニルの馬車で酔った体をすっきりさせてくれる。


「はぁ~。そういえば僕、船に乗るのは初めてだよ!」


「トーヤ殿、実は私も初めてなのです。ずっと内陸の村で暮らしていましたから、海というものも今日初めて見ました」


 僕が笑みを浮かべ、息を大きくついて言うと、アリスが背伸びして僕を見上げてきた。

 シアンは、何処か遠い目をして呟く。


「そうなのですか……。私は元々南方から来たので、船自体には乗った経験があります。しかし、こうして海を臨むのは、私も今日が初ですね」


 凍り付いた海を魔具(まぐ)で溶かしながら船は進んでいく。船の前方に取り付けられた熱風を放出する魔具は、魔導国家マギアの製品であり、どんどん氷を溶かして、夏とそう変わらない航行に貢献している。


「凄いよね。こんな大きな船が、凍った海を進んでいくなんて」


「トーヤくん、楽しそうだね。私もこうして船に乗るのは久し振りだから、懐かしい気分に浸ってたよ」


 エルは穏やかな声音だった。緑髪を風になびかせ、微笑んでいる。


「当然だよ、だってこんな大きな船滅多に乗れるものじゃないし、わくわくするじゃないか! ジェードはわかるよね、この気持ち!」


 僕は上がってきたテンションで犬の獣人の少年に話しかける。

 ジェードは、うんうんと頷いていた。


「わかるぞ、トーヤ。乗り物は、男のロマン」


「男のロマン?」


 シアンが首をかしげる。

 女の子にはわからないものなのかなぁ。


「ルーカスさんは勿論共感出来ますよね!?」


「あ、ああ。まぁな」


 ルーカスさんは僕のはしゃぎ様に辟易しているようだった。

 エルやモアさん、ベアトリスさんに苦笑される。


「トーヤくんも男の子だからね~。こういったところも可愛いよね」


「「「ねーっ」」」


「ね、ねーっ、って何ですか!? 可愛いなんて止めてください、僕は格好いい英雄に憧れてるんですから!」


 僕はシェスティンさん達へ叫ぶ。

 そんな事を言っていると何故か彼女らの視線が変なものに変わった。


「英雄に憧れてるって、そんなこと言ってムキになっている姿がよりグッドですね」


「英雄に憧れるなんて、まだまだ青い感じが良いねー。私なんて夢とか希望とか全部捨てちゃった」


「待て待て、それは捨てちゃダメだろ!」


 モアさんが鼻息を荒くし、ベアトリスさんは溜め息をつくシェスティンさんの頭を叩く。

 火に油を注いだような結果に、僕は苦笑いした。


「アハハ……。皆、船を楽しむのもいいけど、目的は王女様の救出よ? その事を忘れないようにね」


 アマンダさんが「いいお姉さん」っぷりを発揮していた。

 オープンになった胸がぷるんと揺れ、僕は思わず赤面する。

 ……にしても、寒いのによくそんな服着れるなぁ。

 真冬なのに、露出多めの服を着るアマンダさんに僕は感嘆した。


「姉さんの言う通り、君達、気を抜きすぎだな。周りの目もあるし……少し静かにしていてくれ」


 僕らは甲板にいる船員達に、白い目で見られていた。

 確かにはしゃぎすぎた。自重しよう。

 



 黙りこくる僕達。広い海を見渡し、しばし心を忘れる。


 ……世界は広いのだということを、僕は漠然と感じ取っていた。

 初めて船に乗り、航海する僕達皆がそう思ったに違いない。


 海の向こうには国があり、その果てには大陸の国々がある。遠く遠く離れた極東にも、人々が住まう小さな島国があるのだ。

 一生かかっても全て巡りきれない程に、世界は広く、大きい。


「僕達、見れるかな」


 この世界を。僕達のその目で。


「見れるさ。私達なら、どこにだって飛んで行ける。世界中を冒険しようよ」


「うん。僕達で、世界を冒険するんだ」


 樹木すら生えない、極北のここより遥かに寒い氷山とブリザードの極寒の地。灼熱と砂漠の王国、密林の熱帯地域。

 僕達が見たことも、聞いたことも、触れたことすらない国々がまだこの世界には沢山ある。

 僕はエルと、そして皆と約束した。 


「僕が、皆を新しい世界につれていってあげるよ。僕達で、道を切り(ひら)くんだ」 


 シアンは、ジェードは、アリスは……そして、エルは。

 目を輝かせ、期待に胸を踊らせながら、頷いてくれた。

 



「トーヤさん、私はあなたがどこに行ったとしても、必ず付いていきます。あなたが、私達を光へ導いてくれると信じています」


 僕はシアンの頭に手を置き、優しく撫でる。

 僕を信じてくれる彼女が、たまらなく愛しくなったから。


 シアンは顔を真っ赤にして、モゴモゴと何か言おうとしていたが……出来なかった。

 耳から煙でも噴き出しそうなくらい顔を熱くする。


「あははっ……シアン、大丈夫?」


「だっ、大丈夫、ですっ……」


 僕が微笑み言うと、シアンはボンッ! と爆発した。


「良いわね。この子たち、やっぱり見ていて楽しい」


 アマンダさんが目を細める。お姉さんの言葉に、ルーカスさんも「そうだな」と笑った。


「シアンだけずるい、私も撫で撫でされたいー!」


「いや、そこは私でしょう。小さくて愛嬌のある私をトーヤ殿が撫で撫でする様は、エル殿がやられるよりも見ている方々の目に毒にならないでしょう」


 アリスの口撃(こうげき)に、エルはぐっ、と一瞬息を詰めるがすぐ気を持ち直す。


「あ、アリス……君、意外と言ってくれるじゃないか。正直、君はある意味で眼中になかったんだけど、どうやらそれは私達の誤算だったようだね」


「ふっ、あなたには負けませんよ、エル殿。トーヤさんに仕え、いずれ伴侶となるのはこの私です」


「何ー!? き、君は皆が決して口にすることのなかった、その願望を言ってのけたな……。く、くそっ私が一番に……いや他の人がそれを言うのを聞きたくなかったー!」


 ぐあああ!? とエルが悶え、アリスはニヤリと笑う。

 たった一人の(ぼく)を奪い合う女達の争いに、ルーカスさん達はそっと目を背けた。


 な、なんか凄いことになってる。周りにいる船員さん達に引かれてるよ……。


「というか、今の何? は、伴……!?」


「伴侶、ですよ。トーヤ殿。私を『お嫁さん』にしていただけませんか?」


 堂々と言い切って見せたアリス。

 エルとシアンの殺戮の視線など意にも介さない彼女は、僕を見上げ返答を待っている。

 

 ど、どうしよう……。

 アリスも勿論好きだけど、エルやシアン達も大好きだし、こんなこと突然言われても決められないよ……。


 本来ここで起こるはずのない絶体絶命のピンチが、今僕に訪れていた。

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新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
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