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黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
第4章 【色欲】悪魔アスモデウス討伐編

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2  ストルムへの帰還

「……父上」


 アリスは、居間でくつろぐ僕らを見守っていた父親の前に立った。

 目はまっすぐ尊敬する一族の【英雄】を見据え、力がこもっている。


「父上。私は、あの方達にどうしてもついて行きたいのです。許して頂けますか」


「それは、何故だ? 相応の覚悟を持たぬのなら、私は許さんぞ」


 父親の厳しい問いに、アリスは静かに答える。

 

「……それは、私があの方達に命を救われたからです。彼らに救われた恩を、彼らに尽くすことで返したい」


 凛とした表情に迷いは一切なかった。

 村長は小さく笑みを溢し、娘の肩に手を置く。


「そうか。それが、お前の決めた生き方なのだな。ならば私は応援しよう」


「本当ですか!? ありがとうございます、父上!」


 多分、父親に駄目と言われてもアリスは僕に付いてきたと思う。

 彼女の意思の強さは本物だ。

 飛び上がって村長に抱き付く。胸がぷるんと揺れて、触れている村長も嬉しそう。

 ……いいなぁ。


 村長が僕を「父親の目」でじろりと睨む。

 な、何ですか……?


「娘に変な事をしてみろ、その時はすぐにでもお前の所に飛んでいくからな」


「そ、そんな事しませんって! むしろ心配なのは僕の先輩の彼女」


「あ、あたしかよ!?」


 村長の心配事は、ベアトリスさんに押し付ける。

 この人お風呂でアリスのおっぱい揉みまくってたし、僕なんかよりずっと注意しといた方が良い。

 

「にしても、ベアトリスが巨乳フェチだったとはね~。長い付き合いなのに、知らなかったよー」


「ええ。必死で揉みしだく姿を思い出すと……ぷぷっ」


 シェスティンさんが頭の後ろで腕を組んで笑い、モアさんはあの光景を思い出して噴き出す。

 ちょっと思ったんだけど、モアさんの笑いのツボって謎だよね……。あれは普通笑う所じゃない。


 モアさん達の笑いが止まるのを待ってから、ルーカスさんが村長に深々と頭を下げ、礼を言った。


「色々お世話になりました。本当に、ありがとうございました」


「ああ、こちらこそ礼を言わねばならんな。あの『魔の口』をお前達が攻略してくれたお陰で、もうこの村がモンスターの害に苦しむことはない。一族の皆が感謝しているぞ」


 誇らしい気分になった。

 僕達のやり遂げたことが、ある人達のためになる。それを実感して、心から自分達を誇りに思える。

 戦いの中で、自分達の道を見付けることが出来たから。

 僕達は、顔を上げて進んでいけるんだ。


「良かったですね、トーヤさん」


「うん。きっと、英雄はたった一人じゃない。僕達ひとりひとりが【英雄】なんだ」


 シアンとジェードは魔具(まぐ)で戦い、襲い来るモンスター達を次々と倒してくれた。

 ルーカスさん達は、磨き上げられた技で僕らを窮地から何度も救ってくれ、暗黒の中でも希望を見失わないでいてくれた。

 エルは、魔法で僕を限りなくサポートしてくれた。光を絶やさずに、限界まで魔力を注いでくれた。それが、彼女にとって危険だと分かっていても。


 そして、アリスは。

 僕の仲間を助けてくれた。これは昨日アリスに言ったことだけど、仲間を助けられた恩は、僕にとっての恩だ。

 アリスには、感謝してる。

 アリスだけじゃない。皆にも心からの感謝をしたい。


「じゃあ、俺達帰ります。待っている人がいるので」


「そうか。では村の外まで見送ろう」


 鬼蛇(きだ)様式の屋敷を出て、村にずっと待機させていた馬車に乗り込む。

 

「またいつか、会いましょう」


 ルーカスさんと僕は、村長と握手。

 アリスも、父親とお別れを済ませて、最後に村を一瞥(いちべつ)してから馬車に乗った。


「おーい! アリスー! 【英雄】様ー!」


 声の方を見ると、小人族の人達が地下から出てきて僕達に手を振っていた。

 僕たちも彼らに手を振り返す。

 

「皆さん、ありがとうございましたー!」




 僕たちを乗せた馬車は勢い良く出発していく。

 スレイプニルが久し振りに思いっきり走れて嬉しいのか、しきりに鼻を鳴らしていた。


「そういえば、今回の【神殿】攻略はタイムラグはそれほどでもなかったみたいだね?」


 過ぎて行く村を後ろに、僕はエルに訊く。

 村人の反応を見ても、精々長くて一週間ぐらいだろうか?


「うん、そのようだね」


 エルは一言答え、窓の外に目を向ける。

【神殿】テュールで僕を導いた赤猫……女神『シヴァ』。彼女の存在は、エルを大きく揺さぶったようだった。

 今も、彼女の事を考えているのか。僕も白い外の世界を眺めた。


 女神シヴァについては、謎が多い。神話では、神様達は最終戦争(ラグナロク)の後、人間達に世界を託して天界へ去り、二度と下界には戻ることの出来ない定めとなったという。

 なのに、あの女神シヴァは今も下界にいて、僕らに介入してきている。

 女神シヴァが神話から外れた存在なのか、そもそもその神話に誤りがあったのか。

 僕は、女神シヴァが神話から外れたイレギュラーな存在なのではないかと見ている。きっとエルも同意見な筈だ。

『アスガルド神話』が正統な世界の歴史を著したものだとエルも言っていたし、その神話が間違っているとはとても思えなかった。


「シル……」


 シル。シヴァ。

 同一人物だろうか。

 あの人は、エルとどんな関係なのか。

 あの人は、本当に『女神』なのか。

 謎は深まるばかりだ。


「考えても、わからないものはしょうがないね」


 僕は呟き、溜め息をつくのだった。




 約半日かけ戻って来たスウェルダ首都、ストルム。市壁の門を潜り、東の学院や大聖堂のあるエリアを通る。


「……ん?」


 いつもより街が騒々しい気がして、僕は窓から身を乗り出して外を見た。

 何やら、町中が大騒ぎになっている。


「大変だ、大変だ!」

「どこに行ったんだ!? 探せ!」

「王女が、いなくなっただと!?」


 え、嘘……。王女様がいなくなったって!?


「これは……神殿攻略を終えて、浮かれてる訳にもいかなくなったな」


 ルーカスさんが眉間に皺を寄せる。

 事故か、事件か。王女の捜索隊が町中を駆け回っていた。

 

「王宮へ向かおう。事情を聞く」


「はい!」


 通りは人が一杯で、馬車では早く進めない。

 僕達は馬車を降り、走り出す。


「モア、馬車を頼む!」


「わかりました!」


 モアさんに馬車を任せ、僕達は王宮へ急ぐ。

 一体、僕達がいない間に王女に何が起こったのだろう?

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新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
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