表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
第4章 【色欲】悪魔アスモデウス討伐編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/400

プロローグ  紫水晶の指輪

 スウェルダ王宮――ミトガルド地方で最も大きな建造物として知られているその宮殿で、今宵、豪奢なパーティーが開かれていた。

 マーデル王国の王と王子を招いて開かれたパーティーには、ノエル・リューズと彼の娘、アマンダも参加している。

 スウェルダ王とマーデル王が和やかな雰囲気で談笑しているのを、彼らは少し離れた壁際から見つめていた。


「王と王が手を取り合っているわね。かつて対立していたとは思えないくらい、結束を強めて……」

「ああ。……素晴らしい事だ」

「……ふふっ」


 ノエルは目を弓なりに細め、アマンダは口元に手を当てくすりと笑った。

 白髪の女はワインの入ったグラスを揺らし、赤いワインに透ける二人の王と、彼らの側で微笑んでいる二国の王女、王子の姿を見据える。


「少し、イタズラしちゃおうかしら」


 アマンダの美しい指輪の宝石が、紫に輝く。

 父親を仰ぎ、彼が首を縦に振るとアマンダは動き出した。


「あらあら、王子様! ご一緒してもよろしいでしょうか?」


 マーデルの王子はアマンダの白い髪を見て一瞬嫌悪の表情を浮かべたが、ノエルの姿を確認すると嘘の仮面を顔に貼り付けた。


「ええ、踊りましょうか」


 スウェルダ王女とついさっき一曲踊り終えた彼は、頬を微かに上気させたままアマンダの手を取る。

 二人は、ダンスホールとなっている広間の中央に出た。

 オーケストラが演奏する曲に合わせ、王子にリードされながらアマンダは躍りを楽しむ。


「王子様、貴方のような高貴な方と踊ることが出来て、私は心から光栄に思っております」

「フフ、そうか。貴女は美しい、私も共に踊れて嬉しいよ」


 王子の言葉は綺麗だが、これは嘘か本心か。

 そんなことは、今のアマンダにはどうでも良かった。


 踊り終え、二人で外の空気を浴びに誰もいない中庭へ。

 そこでアマンダは王子にあるものを渡した。


「王子様、私から贈り物を」

「む、これは……?」


 紫の宝石がはめられた、指輪。

 それを指から抜き取ったアマンダは、妖艶な笑みでこう言った。


「その指輪は、貴方様に大きな力を与えるでしょう。リューズ商会自慢の逸品ですよ」


 ――あなたは、欲望に支配されるの。


 小さく呟かれた女の声は、王子には聞こえなかった。

 

「こんなものを……良いのか?」

「ええ。わざわざ海を越えてこの国まで来てくださったのだもの。これくらいのサービスをして差し上げるのは当然のことでしょう?」

「まあ、そうだな。ありがたく貰っておこう」


 王子は美麗な顔を子供のように綻ばせる。

 彼はこの指輪の美しさに対して喜んでいるのだろう。

 だが、本当に見るべきものは別にある。常に、それは凡人には見えぬよう隠れ、見つけられる者こそが特別な者と呼ばれる。

 

 ――この男は、どちらだろうか。


「では、私はここで失礼させていただきます」

「待ってくれ、この指輪の礼をしたい」

「いいえ、結構ですよ。私のような汚い人間には、貴方様から礼を頂くなど、とても畏れ多くて出来ません」


 そう頭を下げて、アマンダは王子から離れた。

 柱の陰に身をもたれかけ、ホッとしたようにため息をつく。

 

「あぁ……大分楽になったわ」


 アマンダ・リューズが所有していた悪魔の器。

 それが海の向こうの国の王子へと渡り、彼女はほくそ笑んだ。


 器に眠るのは【色欲】。

 運命の歯車は今、狂い始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ