17 【グングニル】
白い部屋の中で始まった戦闘。
『組織』の魔導士レオは、僕に杖を向けて魔法の呪文を高らかに唱える。
「『炎熱斬刃』!」
レオの杖先から吹き出す炎が剣の刃のように形を成し、僕へ飛んできた。
僕は炎を【ジャックナイフ】で弾く。
炎の攻撃は僕の剣には効かない!
僕は強烈な熱を放つ【ジャックナイフ】を構え、相手との間合いを詰めていった。
「ハハッ、俺に攻撃が当てられるかな?」
僕はナイフを突き出す。
だが、それは防衛魔法によって簡単に防がれてしまった。
「強力な魔導士の防衛魔法は、どんな物理攻撃でも通しはしない! お前の魔剣は俺の防御を崩すことは決して出来ないんだよ!」
レオは楽しそうに笑っている。
戦闘中なのに、どうしてそんな顔が出来るんだ?
少し苛立つ僕に、レオは囁いた。
「その顔だよ。『英雄の器』とやらでも、そんな顔をする……俺はそれを見るのが何より大好きなんだ」
本能的に後ろへ飛び退く。
その瞬間、レオの杖から雷魔法が放たれていた。
青白い電流が空気中を走り、すんでのところで僕はそれを避ける。
「惜しかったねー、レオ!」
「茶化すな、キルノ」
ルーカスさん達を一人で相手取って圧倒している黒髪の少年、キルノが囃すように言った。
ルーカスさん達はその隙を狙って攻めに出たが、キルノの速さには敵わない。
「遅いよ」
キルノは杖を振り抜き、雷魔法を一閃。
ルーカスさんとベアトリスさん、モアさんを再起不能に追い込んでしまう。
なんて強さだ……! これじゃ、【神器】を使っても倒せないかもしれない。
【神器】には溜めが要る。攻撃を当てる前に、やられてしまう……!
「僕も君の相手をするよ! 二対一の方が、滾るよね!」
キルノがにっこり笑みを浮かべ、レオに加勢してきた。
「雷魔法!」
避ける間もなく、キルノの魔法が僕を吹き飛ばした。
強烈な電流が体を流れ、手足を焼き焦がし、痺れさせる。
僕は床に膝を突き、絶え絶えになった意識の中、二人の魔導士を見上げた。
「あれれ? 倒し損ねちゃったかな? まあいいや、レオ、止め刺しなよ」
まだ、倒れる訳にはいかないのに……。
エルはまだ戦っている。彼女を置いて、僕が倒れてしまうことなんて許されないし、彼女が許さない。
僕は戦う。組織の魔道士なんかに負けるものか!
「フン、立ち上がったか。【神器】の加護か? あるいは……」
「面白いねー、君! 僕の雷魔法を受けても倒れなかったのは君が初めてだよ!」
お前達が笑ってられるのも、もう終わりだ。
【神器】の力をもっと引き出せれば、もっと素早く力を放つことが出来れば……。
あいつの防衛魔法だって、きっと破れる。
エルが一瞬僕の方を見た。
彼女は桃色の髪の女魔導士の攻撃を懸命に防ぎながらも、僕のことを想ってくれている。
僕が、彼女を想ったように。
「『光線』!」
エルが光魔法を桃髪の魔導士に浴びせかける。
桃髪の少女は、すかさず防衛魔法でそれを防いだ。
桃髪の少女に一瞬の隙を作らせると、エルは僕に向かって叫ぶ。
「トーヤくん、ぶちかましてやれ! 相手側がいきなり襲いかかって来たんだ、やり返しても何も問題はないさ!」
「こいつ……何を言っているの!?」
桃色の髪の少女が、水魔法をエルにぶつけて声を上げる。
水の塊を体に受けてもエルは屈しない。
ここで負けたら、全てが終わってしまうから。
僕が呟くのと、二人の魔導士が呪文を唱えるのと、ほぼ同時だった。
「神オーディン。僕に力を、勝利を与えてくださいッ!」
「『氷槍』!」
「『雷魔法』!」
僕は【神器】を抜き、想いを込めてぐっとその柄を握る。
ここまで共に戦った仲間のために!
神様、力を貸してください!!
槍のように尖る氷と、青白い雷が弾丸のように撃ち出される。
僕は【グラム】を振り抜く。
腕に走る、ドクンドクンという脈動。
体に、力が流れ込んで来る!
エルは、僕の名を声の限りに叫んだ。
「いけえええええッッ!! トーヤくん!!」
振り抜いたそれは、もはや剣の形をとっていなかった。
大剣よりも更にリーチが長い、『長槍』。
『神の槍』は、迫る魔法の攻撃を『打ち消した』。
レオとキルノの目が大きく見開かれる。
桃色の髪の少女も、動きを止めて僕を見ていた。
振り抜いた勢いのまま、長槍は二人の魔導士を斬り飛ばす。
防衛魔法さえ粉々に破壊するその一撃を目前にして、桃色の髪の少女は腰を抜かした。
エルもそんな魔道士の様子は目に入っておらず、ただ茫然としていた。
「その槍は……【グングニル】」
エルは『神の槍』の真名を、小さく呟いた。




