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黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
第3章  神殿テュール攻略編

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16  刺客

 また、ここに来た……!

 穴から投げ出されるように地面に落ちた僕は、(きり)に包まれた巨大な館を見上げた。

 周りに人はいない。穴から出られたのは僕だけのようだ。


「皆……もしかして、失敗したのか?」


 僕は頭を振る。

 いや、多分穴から出る時間にもタイムラグがあるのかもしれない。

 エルたちは先に行っていて、神テュールの元に辿り着いているのかも。


 希望を見失うな、前に進め。

 僕は霧の石畳の道を駆け抜けた。


 扉を体当たりで強引に開く。

 少なくともミノタウロス級のモンスターが待ち構えている(はず)、【ジャックナイフ】で早めに片付ける!

 僕は強烈なシャンデリアの光が照らし付ける玄関ホールに目を走らせ、耳を澄ませた。


 しかし、そこには何もいなかった。 

「何故だろう? 先に誰かがモンスターを倒したのかな」


 奇妙に思いながらも先を急ぐ。

 この【神殿】のどこに【神器】があるかはわからない。だから、行く先は神の運命に任せるしかない。

 玄関ホールの床を蹴り、廊下へと出る。

 美術品の数々が並ぶ廊下は、踏み荒らされた跡があった。粉々になった調度品が散乱している。


 嫌な予感がした。

 先に【神殿】に入った者が、ここを荒らしたのか。

 だとしたら、もしエル達が僕より前にここに来ていたとしたら……。


 遠くから、悲鳴。


「行かなきゃ!」


 僕は必死に音の元を探し、走る。

 部屋の扉を開けては閉め、また次の部屋へ。

 これは神様の試練ではない。僕は直感的にそう思った。


「はぁ、はぁ……どこだ!?」


 僕は焦っていた。早くしないと、エル達の命が危ない。

【神器】が今までにない色になって警鐘を鳴らしている。黒い光沢の【神器】は、血のような赤色に変色していた。


「そうだ……!」


 神オーディン、あなたの仲間の居場所を教えてください!


 僕は【神器】の柄を祈るようにぎゅっと掴む。

【神器】は一つの方向へ赤い光の道筋を示した。


「ありがとうございます、神様!」


 僕は指し示された方向、ここから真っ直ぐ進んだ突き当たりの部屋を目指し、ひたすら走る。


 もう少しで部屋に着こうとしたその時、ドンッ、と地面が揺れた。 

 衝撃で僕は床に倒れ込む。


「ぐっ! 地震……!?」


 違う。魔法の衝撃で床が揺れたのか。

 この先の部屋では、戦闘が……。


「今行くよ、エルッ……!」


 僕は力を振り絞って立ち上がり、大股で駆け出す。




 部屋の扉をぶち壊し、転がり込んだそこには、黒いローブを着た魔導士が三人いた。

 エルたちはそいつらと戦っている。


「あら? また一人増えましたわね」


「あいつは【神器】使いだよ。レオ、どうしよっか?」


「そうだなぁ……」


 三人の少年少女は、エルたちと交戦しながらも余裕そうに言葉を交わしている。

 レオと呼ばれた少年がリーダー格のようだ。

 金色の髪を揺らすレオは【ジャックナイフ】を構える僕を一瞥(いちべつ)し、笑った。


「……殺してしまおうか」


 広い部屋の床は(えぐ)れ、所々に血の跡が付いていた。

 今戦っているのはエルとモアさん、ベアトリスさん、ルーカスさんの四人。

 シアン達やアリスは、魔導士達の攻撃で再起不能の重症を負ってしまっていた。


「トーヤくん、気を付けて! こいつら恐ろしく強い!」


 鮮やかなピンク色の髪の少女と戦っているエルが叫んだ。

 少女の水魔法の攻撃を、防衛魔法(ディフューズ)で防いでいる。

 

 ルーカスさん達はレオともう一人の少年を相手取っていた。

 数ではこちら側が勝っているのに、勝負では押されている。

 モアさんが後衛、ルーカスさん、ベアトリスさんが前衛で戦うも攻撃を中々当てられずにいた。


「くそっ! 当てられさえすれば、魔法使いには肉薄攻撃が効く筈なのにッ!」


「全部、避けられてるね。生意気なガキ共だよッ!」


 ルーカスさんとベアトリスさんは唇を噛む。

 相手の炎や風の魔法を防ぎ、弾き返すモアさんも限界に近かった。


「こいつらは一体……!?」


「俺達は、『神殺し』の命を受けて動いている。アスガルドの傲慢な神々は我らの主には邪魔な存在。【神器】を破壊し、その力を奪うことが俺達の使命!」


 金髪碧眼のレオがいつの間にか僕の前に立っていた。

 レオは杖を僕に向ける。


「トーヤといったな? 鬼蛇(きだ)の蛮族の出だとか?」


「鬼蛇人は蛮族なんかじゃないよ!」


 故郷の民を侮辱されて僕は怒る。

 レオを睨み付けると、彼はそれでいい、とばかりに彼は薄い色の唇を歪めた。


「トーヤ、俺と戦えよ。【神器】を持つ『英雄の器』の力、見てみたい」


「望むところだよ。君たちは……『組織』の人間なんだろう?」


 かつて父さんを狙っていた組織の男が服に付けていた紋章。

 それと同じものが、彼らのローブにも縫い付けられていた。


「そうだ。……お前も、父親のように無惨に散れ!」


 レオの杖から炎が渦を巻く。


 僕と『組織』との因縁の対決の幕が今、切って落とされた。

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新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
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