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黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
第3章  神殿テュール攻略編

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12  変化

 見上げると、シェスティンさんがいた。シェスティンさんは、固まったまま口を開けて僕をじっと見ていた。


「と、トーヤくん……? な、なんで?」


 なんでって、こっちがなんでって訊きたいよ。


 僕は梯子をするする上り、穴の上に出た。

 穴を出ると、モアさん、ベアトリスさん、ルーカスさんが驚いて、そして喜んだ顔で僕を迎える。


「トーヤ……良かった、他の皆は無事ですか?」


「はい、無事です!」


 モアさんが心配そうに訊き、僕は答える。

 シアンたちも上がってきて、モアさん達に気付くと破顔した。


「皆生きてて本当に良かったです~!」


 シアンがシェスティンさんに飛びついた。シェスティンさんはびっくりするも、抱きついてくるシアンを受け止める。


「全く、酷い目に遭ったんだから……『オーク』の群れと出くわして全部倒すのにかなりの力を使っちまった」


 ベアトリスさんが溜め息をついた。

『オーク』とは豚の体をした人型の割と大きなモンスターだ。『ミノタウロス』よりも力は劣るけど、決して油断は出来ない相手。


「それは大変でしたね……」


「ああ、ベアトリスが全部倒してくれたんだ。彼女には相当負担をかけてしまったが、俺やモア、シェスティンはまだ充分戦える力がある」


 ルーカスさんがベアトリスさんを労るように言い、僕は驚く。

 ベアトリスさん一人でオークの群れを倒した!? この人もしかしてかなりの実力者だったりして……。


「あたしをあんまり舐めてもらっちゃあ困るね。……ところで、何でアリスがいんのよ?」


 満更でもない様子のベアトリスさんは、アリスを一瞥する。

 アリスは、恥ずかしそうに下を向いた。


「アリスじゃないか。どうしてここに?」


「それが、色々あって……」


 僕はルーカスさん達にこれまでの経緯を説明する。

 ルーカスさん達は僕の話を聞き終えると、顔を見合わせ頷いた。


「わかった。アリス、俺達と一緒に行くぞ!」


「は、はいっ!」


 僕は良かった、と胸の中で安堵する。

 ルーカスさん達には会えたし、アリスが同行することも快くルーカスさん達は許してくれた。

 アリスもようやく一安心できたようで、ほっと息をつく。


「シアン、どうしちゃったの!? あったかくて良いけどそろそろ離れてよ!」


「シェスティンさ~ん……」


 モアさんが杖の光を調整しながら、二人を眺め微笑んでいる。

 僕は、モアさんに声をかけた。


「モアさん、モアさんが灯りの担当だったんですね」


「はい。私は魔法を使えるので」


「実は、僕も魔法を使えるようになったんですよ! 光魔法! 初めて魔法を使えて僕興奮しちゃって!」


 頬を上気させ興奮している僕に、モアさんは戸惑ったような視線を向ける。

 僕はモアさんに顔を近付け、彼女の手を握った。


「すごいでしょう!? 多分魔導書(グリモア)を読んだからなんでしょうけど、それでも僕嬉しいんです!」


「しかし、何故それを私に? トーヤ、あなたがそれを言う相手は私ではないでしょう?」


 モアさんはエルを見やる。僕は首を横に振り、モアさんの耳元で囁いた。


「モアさん、いつも僕が剣の特訓の後、一人で魔法の練習をしているのこっそり見ていたでしょう? 僕気付いてましたよ」


 モアさんはぽっと少し顔を赤らめ、僕から目を逸らした。

 僕は【神殿】オーディン攻略の後、魔法が使えないか毎日試していた。モアさんは物陰に隠れ、それをひっそりと見守っていたのだ。


「あ、ちょっ! トーヤくん!?」


 エルがモアさんをキッと睨んだ。最近エルは過敏になりすぎている気がする。

 とはいえ、僕がモアさんの耳元で何か囁き、モアさんが頬を染めるというこの場面はエルが焼きもち? を焼いても仕方ないとも思う。

 僕はモアさんからそっと離れ、何事もなかったかのようにルーカスさんに話しかけた。


「ルーカスさん、そろそろ行きませんか?」


「ああ、そうするか。……おい、皆!

動くぞ!」


 ルーカスさんの一声で皆がざっと動き出す。

 流石はルーカスさん。ノエルさん譲りであろうこのリーダーシップ、カリスマ性は見習いたい。


 気を引き締め、歩き出した僕らは、きょろきょろと辺りを見回してあることに気付いた。


「あれ? この道、前に通った気がする」


 ジェードが鼻をすんと言わせ、呟く。


「そうなんだ。俺達はトーヤくん達と別れてしまった後、恐らく同じ道をぐるぐると回り続けていた」


 僕は背筋がぞわっと泡立つのを感じた。

 何だって? それじゃあ僕らは『ゴール』に辿り着けない……?


「そんな、ここから出られますよね?」


 シアンは不安を滲ませた声で訊く。

 皆が押し黙る中、エルが重い口を開いた。


「それは、わからない……【神殿】では何が起こるのか、誰にも予想はつかないのだから」


 彼女はそれだけ言い、再び沈黙が降りてきた。

 一行は、僕とモアさんが照らす道を静かに進んでいく。

 寒さは、不思議と薄らいできた。風も音も一切しなくなる。

【神殿】が、変化を始めていた。


「……!?」


 僕はびくっと後ろを振り返る。

 だが、そこにはエルがいるだけだった。


「どうしたの? トーヤくん」


 別に、洞窟にモンスターが出てきたとか、特別大きな変化があった訳ではない。

 でも、僕の後ろ……首の辺りに、ちくりと刺すような視線を確かに感じた。


「ううん、何でもない。気のせいだったみたい」


「そうかい。まぁそういうこともあるよね」


 何事もなく僕らの進軍は続く。

 変わりのない景色が巡る洞窟を、僕らはひたすらに歩いて行く。


 と、その時。再びさっきの視線を感じた。


「誰だ……!?」


 激しい音と共に、大地が鳴動を始める。


 僕が、咄嗟に天井を見上げると。

 三つの頭に翼を持つ巨大な獣が、この場に降り立とうとしていた。


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新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
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