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黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
第3章  神殿テュール攻略編

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11  アリスの目

 アリスを加え、僕たちは動き出す。

『パルナ洞窟』に詳しいアリスによると、『パルナ洞窟』の奥に『暗黒洞窟』に繋がっているという穴があるらしい。

 僕らは、その穴を目指すことにした。


「でも、おかしいです」


 アリスが呟き、僕は「何で?」と訊く。


「トーヤ殿達は『暗黒洞窟』の奥で横穴を見つけ、ここまで来たのですよね? 『パルナ洞窟』から『暗黒洞窟』に通じるルートは私が知っている限り一つしかありません。そしてそのルートは横穴ではなく、縦穴を上っていくルートなのです」

 アリスは続けて自分のこれまで起こったことを話した。


『パルナ洞窟』は『暗黒洞窟』の更に下にあり、小人族がコケを採るのによく入っている洞窟であること。

 アリスは、通り慣れたその洞窟を利用し、暗黒洞窟への縦穴へ向かっていた時モンスターに襲われてしまったのだということ。

 そして、突然現れたモンスターに対応しきれず、モンスターから一撃を喰らってしまったこと……。


「弓矢でモンスターの肩を射抜き、追い払うことが出来たのですが、相手の爪からは毒が染み出ていたようで……私は倒れてしまったのです」


「そうだったのか……でもどうしてモンスターがあんなところに現れたんだろうね? 僕らが歩いていたときはモンスターは一匹たりとも見なかったけど……」


【神殿】は姿を変える。僕は、アリスが【神殿】に近付いているのを知り、神殿が姿を変えたのではないかと考えていた。

 だが、それを口に出すことはしなかった。言うと、アリスが「自分のせいだ」と気負ってしまうと思ったから。


「たまに、【神殿】は姿を変えることがある。何故かはよくわからないんだけど、時折そんなことが起こるんだよ。モンスターが現れたのもそのせいだろう」


 アリスが入ったからとは伝えず、エルが静かに言った。


「そうだったのですか……知らなかった私の不覚でした」


 アリスが気落ちする。僕は、落ち込まないでと彼女の頭を軽く叩いた。


「知らなくて当然だよ、アリスは初めてなんだから。大切なのは、未知の現象に対して、どう対応するかだ。アリスは矢で敵を射ったんでしょ? その行動は良い判断だと思うよ」


 アリスは顔を上げた。苦い表情だったが、目は笑っていた。


「そう、ですか……」


「そうだよ、だから自分をそんなに駄目な小人だなんて思わないで欲しいな」


 さっきまで、アリスは出会ったばかりのシアンと同じ目をしていた。

 何かに諦め、悲しむような目。それが何かは僕にはわからないけど、アリスには、アリスの考え、悩みがある。

 僕は、この子を助けてあげたいと本気で思った。


「僕が君を助けるから、安心してよ。君のお兄さんは絶対見つかる」


「トーヤ殿……」


 アリスが僕を見つめる。……見つめるのはいいけど、立ち止まって長い時間それをやられるのはちょっと困る。

 僕がどうしようと戸惑い、エルとシアンに助けを求めようとすると、二人はくっついて何やら囁き合っていた。


「あの子……清純そうな雰囲気出しておいて、トーヤくんに惚れやがったなクソビッチが」


「エルさんそれは言い過ぎでしょう。でも私もそういうの許しがたいですね」


 何を言ってるんだ二人とも。

 僕はジェードに何とかしてくれと目で訴えたが、彼は面白がっているのか手を出そうとしない。


「トーヤ、自分でなんとかしろ」


 からかうように言うジェード。

 僕は、僕をぼうっと見つめるアリスにおずおずと言った。


「あの、アリス……あんまりじろじろ見るのは止めて欲しいなぁ……」


 アリスはビクンと体を震わせ、頭を振った。口の端から涎のようなものが一瞬見えたのは気のせいか。


「はっ!? す、すみません! お気になさらず!?」


 ……すごい動転してる。僕は苦笑した。

 アリスは、羞恥に頬を真っ赤に染め、うつ向いた。そして足早に僕らの前を歩き出した。


「さ、さあ行きましょう。『パルナ洞窟』の地形は把握していますので、私の後についてきてください!」


 アリスは下を向いたまま歩調を更に速める。


「待ってよ、そんなに急ぐと危ないから!」


 僕は叫び追いかける。エルたちもその後についた。


 乏しい光の中、アリスの姿がどんどん離れていく。アリスは意外と足が速かった。


「はぁ、はぁ……あの子足速いな……待って私限界……」


 この中で一番体力の無いエルが悲鳴を上げる。僕らも、『暗黒洞窟』での戦いもあり、正直走るのはきつかった。


「敵もいないのに走るなんて……トーヤさん、アリスを止めてください!」


「ア、アリス止まって! 止まってよ! あーダメだ聞かない」


 シアンが叫び、僕はハァハァと息を切らしていた。




 アリスがようやく止まったのは、洞窟が行き止まりになったところだった。


「……皆さん、本当にすみません。私が、トーヤさんを変な目で見たのが悪いんです。私が悪いんですっ……」


 アリスは地面に頭を垂れ、恥ずかしさのあまり泣きながら言った。


「い、いや大丈夫だよ。僕は別に見られて嫌な思いをした訳じゃないから」


 僕はしゃがみこんでアリスに優しく言う。アリスは顔を上げかけたが、エルは、


「いや私達が嫌な思いをした」


「ほら、やっぱり私が悪いんですよ~っ」


 そう言ってアリスを追い込んだ。

 エルは、僕の周りにいる女の子にとても攻撃的になる。それは止めて欲しい。


「エル、そんな言い方ないでしょ。……アリスに悪意があったとか、そんなんじゃないし、もうこのことは無しにしよう」


 まさか洞窟の中でこんな会話をするなんて、誰が思っていただろうか……。

 僕は皆を見回し、「いいよね?」と訊いた。

 エル、シアン、ジェードはこくりと頷いた。


「あんなことは無かった。決して無かった。だからアリスは何も悪くない」


「そうですね。……そうなんですよ」


「俺は何も知らない。何も知らない」


 皆なんかブツブツ言ってるけど気にせず、僕は続ける。


「皆わかっていると思うけど、僕たちは【神殿】攻略に来てるんだ。本来こんな気を抜きっぱなしな状況はあってはならないことなんだよ!? わかってる!?」


 正直、体力的にも精神的にもきつい。だから、一刻も早く【神殿】に辿り着きたかった。

 上を見ると縦穴があり、僕はここが『暗黒洞窟』に繋がる道だと知った。

 壁から縦穴に、鉄の梯子(はしご)と取っ手のようなものがあり、僕はそれに手をかける。


「さあ、皆行くよ。今こうしている間にも、ルーカスさんたちが頑張って戦ってるんだから……」


 エルたちも、アリスも流石に反省した顔をしていた。

 僕が梯子を上る後に、彼女らも続く。

 劣化した梯子を恐る恐る上る僕は、縦穴を覗いている少女らの視線に気付いた。


「ト、トーヤくん!?」


「シェ、シェスティンさん!?」

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新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
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