表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
第3章  神殿テュール攻略編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/400

8  光からの進撃

 激しい音を立てて天井が崩れ出し、僕らは落石に巻き込まれた。


「エル! シアン、ジェード!」


 落石の前、僕は倒れているエルとシアン、ジェードを引っ張り、無我夢中で落ちてくる岩から逃げた。

 天井の岩がガラガラと崩れ落ち、砂煙が目や鼻に入って苦しい。松明の火は消え、真っ暗で何も見えなかった。




「皆、生きてるか!?」


 僕は叫ぶ。幸いなことに、僕は助かっていた。

 落盤は一部のみで、僕らがさっきまでいた場所の丁度真上の辺りが崩れていた。

 僕の呼び掛けに、ルーカスさんのくぐもった叫び声が返ってくる。落ちてきた岩の向こう側から声は聞こえた。


「……トーヤか!? 俺とモア、シェスティン、ベアトリスはこっちにいる! 多分、皆無事だ! そっちはどうだ!?」


「僕は助かりました! エルとシアン、ジェードも咄嗟(とっさ)に助けましたが……生死を確認するのは、これからです!」


「そうか! トーヤ、これからどうする!? 俺たちは完全に分断された!」


 岩の壁に耳を近付け、ルーカスさんの言葉を聞き取る。

 考えたくもなかったが、考えなければならない。分断され、光も失った僕らが、これからどうするのかを。


「僕たちはとりあえず出口を探してみます! そちらはどうしますか!?」


「俺たちもそうするつもりだ! 諦めず、状況を打開する策を探す!」


「はい、わかりました!」


 僕はルーカスさんたちの安全を願いながらエルたちの元へ歩み寄り、三人の胸の辺りに耳を近付けた。

 微かな鼓動の音が聞こえる。全員、確かに生きていた。


「良かった……!」


 僕はひとまず安堵する。

 この場からは迂闊には動けないからまずエルたちを起こして、それから具体的にどうするか決めよう。


「シアン、ジェード……意識は、ある?」


「トーヤ、さん……?」


 シアンがうわ言のように僕の名を呼んだ。


「トーヤ……俺たち、一体……? グールは……?」


 ジェードが、(かす)れた声で訊く。

 僕は二人の手を握ると、小さく言った。


「洞窟の天井が落ちてきたんだ。僕のせいだ。僕が【神器】を使ったから……本当に、ごめん」


「……トーヤさんが謝ることないですよ。私たちを……グールから守るために、【神器】を使ってくれたのでしょう?」


「トーヤは、悪くない。今は……どうやって、『神の館』まで辿り着くか、それを考えるべき……」


 二人は苦しそうに言う。僕は二人の手を握ったまま、エルに謝った。


「エル……ごめんね。エルがずっと光魔法で照らしてくれたから、ここまで来れたのに……エルの負担に、全然気付くことが出来なかった……」


 エルは何も言わない。彼女はまだ、目を覚ます様子では到底なかった。


「どうしよう……。シアン、ジェード、立てる?」


「足は、動きます。でも、腕が痺れて全く動かないんです」


「俺も、同じだ。腕が動かない。俺の武器は拳を使う武器なのに、これじゃ戦えない……」


 ジェードは悲痛な声で言う。

 僕も、胸が痛んだ。


「まずは、明かりを手に入れないと……こう暗くては進むこともままならないからね」


 僕はエルの方に手を伸ばし、彼女の杖を探る。エルの手元から少し離れたところに【精霊樹の杖】は落ちていた。

 今の僕なら、魔法だって使えるかもしれない。

 いや、使ってやる。見よう見まねだけど……エルの魔法、光魔法(ルミナ)を僕が使うんだ。


 そうすれば、先に進める。


光魔法(ルミナ)


 呪文を呟くも、光は点かない。

 どうして? 何か特別なやり方でもあったのか?


光魔法(ルミナ)!」


 もう一度試す。だが、これも失敗した。


「どうして、魔法が出ないんだ!」


 僕は魔法を使えない自分に腹が立った。苛立ちを込め、拳を固い地面に打ち付ける。


「くそっ、もう一度だ……」


 早くしないと、いつモンスターが現れるかわからない。

 魔法……そうだ、母さんだ。

 昔、母さんに教わった魔法の知識……きっとこんな時のために、あの知識はあるんだ。


『呪文を唱える時は、強い意思を込めるの。絶対に集中を切らしてはならず、それ以外の一切を頭の中から消す。そうすることで、より強い魔法が完成するのよ』


 僕は杖を握る手に思いを込める。

 絶対に、皆でここから生きて戻る。【神殿】も、必ず攻略するんだ。


光魔法(ルミナ)!!」


 僕が叫ぶと、杖先から白い光がほとばしった。

 あまりの眩しさに僕は思わず目を(つむ)る。

 太陽だ。暗い深海にも届くような、強い強い光。


「やった、出来た……!」


 僕は自然と立ち上がっていた。

 見ると、エルが目を擦りながら起き上がるところだった。


「ま、眩しいっ。何だい、この光は……」


「エル、見てよ! 僕、魔法が使えた!」


 僕は【神殿】攻略に来ているのだということも忘れ、子供のようにはしゃぐ。

 魔法は僕の幼い頃からの夢だった。その夢が、叶った。喜ばずにはいられない。


「トーヤくん……やったね」


「うん。ここからは、僕が道を照らすよ」


 僕はエルを抱き起こす。泥だらけになったエルは、僕の頬にそっと手を伸ばし、撫でた。


「ああ……トーヤくんだ……」


 エルは幸せそうな顔になり、ゆっくりと目を閉じた。


「えっ!? 大丈夫だよね、エル?」


「生きてるよ。でも歩けそうにないなぁ……私をおぶってくれないかい?」


「うん、良いよ。じゃあ……」


 僕はエルの前にしゃがみ込み、彼女は僕の背にしがみつく。

 彼女は相変わらず雲のように軽い。僕は立ち上がると、シアンたちを見た。


「二人は歩ける? 歩けるなら、行こう」


 シアンたちは足を軽く動かしてみてから、頷いた。


「問題ないです。歩けます」


「俺も大丈夫。いつでも行ける」


 僕は杖を掲げる。白い光が僕らの行く道を示した。

 見回してみると、グールと戦っていた時は気付くことの出来なかった横穴があった。元の一本道に戻るか、この穴に入るか……二択だった。


「君たちは、進みたい?」


 僕は訊いた。シアンたちは少し考えた後、しっかりと首肯(しゅこう)した。


「よし、行こう。必ずルーカスさんたちと合流して、【神殿】を攻略する!」


 僕らは黒い穴の中に入る。そこからは、もう一本道ではないだろう。

 暗黒の迷宮が、僕らを待ち構える。


 だが、進み出した僕らを、もう誰も止めることはできない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ