6 炎雷の魔具
聞こえて来たのは力強い男性の声。
【神殿】の主、神テュールが僕らに語りかけていた。
「貴方が、神テュール……!?」
エルは驚いている様子だ。僕も、エルと同じ気持ちだった。
前回の【神殿】オーディンでは、神様が語りかけてきたのは『神の館』に入った後だった。こんな早い段階で神様が出てくるなんて、何か違和感がある。
「このひとが、神様……」
シアンが呟く。緊張感が呟きから感じ取れた。
『そうだ。俺が神テュール。……お前たちに、一つ忠告しておきたいことがある』
僕らは真剣に神様の言葉に耳を傾ける。暗黒から聞こえる神様の声は、僕らの頭の中で反響した。
『【神器】を持つ『英雄の器』にはこの【神殿】は易しすぎる。そこで試練をうんと難しいものにしておいた。洞窟の一番奥、神の館に辿り着くことが出来た者の中から神器を渡す者を選ぼう。楽しみに待っているぞ……』
神の言葉はそこで終わった。僕らは、茫然とその場に立ち尽くしていた。
「うんと難しい、試練……」
エルが神テュールの言葉をそのまま繰り返す。
「オーディン様の【神殿】でもギリギリだったのに、できるのか……?」
エルは不安そうな様子だった。僕は彼女を振り返り励ますように言う。
「大丈夫だよ。僕らは強くなった。頼れる仲間もいる。だから必ず攻略できるよ」
シアンたちも勢いよく頷いた。
「そうですよ! 私たち皆が力を合わせれば、どんな試練でも乗り越えられます!」
「シアンの言う通りだ。俺たちは何にも負けない。絶対に【神器】は手に入れる。そして、アリスの兄さんも見つけ出そう」
ルーカスさんは強い覚悟をもって拳を握り締める。
どんな相手でも、僕らは勝ち進む。今の僕らの力ならば出来ないことは何もない!
僕らは再び進み出した。洞窟も入り口が全く見えない程奥に来て、エルの光魔法だけでは充分に周囲を照らす事ができなくなった。
そこで、モアさんとシェスティンさん、ベアトリスさんが松明を持つことにした。戦える人員は減ったが、そもそも暗くては戦うことすらままならない。
突然闇の中から現れるモンスターに対し、僕らは冷静に対処していた。
その際、シアンとジェードの新しい『武器』が大活躍した。
「はああああっっ!!」
シアンが脚を振り上げ、目の前の大きな白い蛆虫のモンスター『ワーム』の群れを次々と蹴り飛ばす。
彼女のブーツには青い炎が纏い、蹴った相手を即時に燃やしていく。
「ふッッ!!」
そしてジェードは、雷を纏うグローブで蜥蜴のモンスター『サラマンダー』の腹を撃ち破った。
この二人が使う武器はルーカスさんが二人のために用意してくれた『魔具』だ。使用者の魔力を糧として、魔具は力を発揮する。
それは【神器】程ではないが、強力な武器であった。
「はぁ、はぁ……やりました、トーヤさん」
全てのワームを蹴散らし、シアンは息を切らしていた。ジェードも地面に座り込んでしまっている。
「ありがとう、シアン、ジェード。全部倒してくれて」
「よくやったぞ、二人とも。ここで少し休憩するか」
体力を消費したシアンたちのために、僕らは一時休息をとる。
疲れは戦いにおいて時に致命的なミスを呼んでしまう。だから僕らは、こうして適度なタイミングで休息をとっていた。
だけど、休憩だからって完全に気を抜いていい訳じゃない。休憩中でもそんなのお構いなしにモンスターたちは現れ、その度にルーカスさんが愛武器の【カタナ】でモンスターを処理していた。
「そろそろ動くぞ」
ルーカスさんが言い、シアンとジェードが腰を上げる。
洞窟の壁に僕らの影が揺れる。松明の火は少しずつだが確実に減ってきていた。
「今は、どれくらい奥まで進んでいるのでしょうか……」
モアさんが戦いで汗ばんだ金色の髪をかき揚げ、呟く。
「先が全く見えてこないねー」
シェスティンさんの言葉にも疲れがにじみ出ていた。
いつモンスターが現れるかわからない真っ暗な洞窟を僅かな光を頼りに進むのは、体力ではなく精神力がじわじわと削られる。
僕らは互いに励まし合いながら、暗黒の道を切り開いていった。




