5 『魔導書』の主
五匹のゴブリンを一気にぶった斬った僕は、少し息を切らしながら剣を杖代わりにして立っていた。
「もう、トーヤくん! 力は温存しておく筈だっただろう?」
エルにお叱りを受ける。……つい、体が前に出てしまった。
「しかし、一気にモンスターを五匹も倒すとは……中々やるな、トーヤくん」
「流石です、トーヤさん!」
ルーカスさんとシアンは、僕の【神器】捌きに感心していた。
これまで、僕は【神器】の魔力を殆ど引き出すことができなかった。しかし、あるものが僕を変えた。
それは、ノエルさんからの『プレゼント』、魔導書だった。
魔導書を読んでからの僕の体には、これまでとは全く違う、魔力が溢れ出していた。
「『魔導書』が僕の力を引き出してくれたんだよ。僕は別に何も……」
* * *
数日前、ノエルさんに『魔導書』を貰った後、僕は早速それを読んでみた。
本を開き中に目を通すと、僕には読めない不思議な文字が羅列されていた。
すぐに読むのを諦めた僕が黙って本を閉じようとすると、信じがたいことにその本が語りかけてきたのだ。
『貴方の願いは、何?』
僕は驚いて本を取り落とした。
本のページがパラパラと勝手にめくれ、あるページで止まった。そのページからは光のようなものがほとばしり、僕はそこに引き込まれた。
「な、何!?」
『私は魔導書の主。少年、貴方の願いは何かしら?』
女の人の包み込むような優しい声。僕は『魔導書の主』の問いに答えた。
「僕は、強くなりたいです」
『そう……貴方ならそう言うと思ったわ。私が貴方の力、引き出してあげる』
『貴方ならそう言うと思った』? この女、僕のこと知ってるのか?
『どうなの? 私なら、貴方の願いを叶えられるわ』
僕は一瞬躊躇したが、誘惑には勝てなかった。
力が欲しい。僕はその一心で『魔導書の主』に頼んだ。
「お、お願いします! 僕は、力が欲しいんです!」
『うふふ……貪欲なのね。いいわ、やってあげる。私に全てを委ねなさい……」
目を覚ました時、開かれていた『魔導書』は閉じられていた。
僕は妙に冴えていた目で自分の胸を見下ろす。
心臓のあたりから、力がみなぎってくる。そんな感じがした。
* * *
「君の体内の魔力は何故かはわからないけど、今までセーブがかかっていた。だけど魔導書がそのセーブを解いて、君は本来持っていた力を発揮したんだ」
エルが言った。僕は【グラム】を鞘にしまい、頷く。
父さんと母さんから受け継いだ力。僕はそれを解放した。【神器】を使うことも以前ほど苦ではなくなっている。
「さあ、先へ進もう!」
暗い洞窟の中、僕は明るく言った。
僕らは進み出す。その足取りはさっきより早かった。
僕がモンスターを倒して、皆の士気が上がったのかも。
「トーヤ、次はあたしらが戦うよ」
「私も戦います!」
ベアトリスさんが僕の肩をバンと叩き、シアンが拳を強く握り締める。
「俺も、先陣切って戦わないとな。トーヤくんには負けていられないよ」
ルーカスさんが腰の【カタナ】に触れる。彼の【カタナ】は、静かに戦いの相手を待っているように見えた。
と、その時。洞窟の中に誰かの声が響き渡った。いや、僕らの頭の中に声が流れ込んでいるようだ。
『ようこそ、俺の【神殿】へ。俺の名はテュール。この【神殿】を支配する神だ!』




