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黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
第3章  神殿テュール攻略編

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4  暗黒洞窟

 翌朝。僕らはホテルを発ち、地上へ上がった。武器や食糧を地下街で補給し、準備は万端だ。


「もう行くのか?」


 小人族の首長、ワック・ソーリさんが梯子(はしご)を上り、穴から出て訊いてきた。

 ルーカスさんが真剣な表情で彼の問いに答える。


「はい。俺たち、必ず【神殿】を攻略してきます」


「そうか。武運を祈る」


 ワックさんは短くそれだけ言い、穴の奥に引っ込んでいった。


「はぁ……寒いなぁ」


 僕はかじかむ手のひらに息を吐きかける。息は白く、手袋をしていても手は冷えていた。


「洞窟はもっと冷えるかもな……ちゃんと上着は着込んだか?」


 ルーカスさんは身震いして言う。

 僕たちにそう言った彼だが、彼は最低限の上着しか着ていなかった。なんでも、戦う時に動きやすいようにするためだそうだ。


「勿論着てますよ。しかしルーカス様、それでは戦う前に凍え死んでしまいますよ」


 モアさんがルーカスさんの上着を持ち、唇を尖らせる。


「いいんだよ、動けばすぐに暖かくなるから」


「はぁ、そうですか……」


 モアさんの手がうずうずしている。ビンタは止めてくださいね……。


「モア、余計なこと喋ってないで早く行きたいんだけど」


「ベアトリス……わかりました。行きましょう、ルーカス様」


 ルーカスさんを先頭に僕らは村を出、村から北にある『暗黒洞窟』へ向かう。

 洞窟への道は木が生えていたり高低差がある地形なので、雪の上を走れる馬を使うより歩いた方がいいというルーカスさんの意見で、僕らは今こうして歩いている。


「寒いと思っていたけど、歩くとだいぶ体が暖まってきたね」


 白い息を吐き、僕は言った。顔がほんのりと上気してきている。


「そうだね。でも、結構雪の上を歩くのはきついなぁ……」


 エルは早くも音を上げてしまっている。僕は普段から体を鍛えているからこれくらいで疲れはしないが、運動とは縁のないエルには辛いだろう。


「エル、頑張れ! もう少しで洞窟だよ!」


 僕はエルを励ます。エルは僕の言葉で力を取り戻した。


「うおおっ! 頑張るぞー!」


 調子に乗って走り出す。転ばないでね……。


「あっ」


 ほら、言わんこっちゃない……。エルは頭から雪に体を突っ込んでいた。


「ははは。元気だな、エルは」


 ルーカスさんに暖かい目で見られてしまっている。エルは気にせず立ち上がり、歩を進めた。


「おーっ、見えてきたよー!」


 シェスティンさんが歓声を上げる。

 白い雪の中、黒々とした洞窟がその大口を開いていた。


「あれが、『暗黒洞窟』……」


 僕は洞窟の闇を見つめ呟く。近付いても、洞窟の穴の先は見えない。


「ここに入るのですか……」


 モアさんが腕を抱えた。怖がっているのか。でもそれは無理はない。僕だってちょっと怖いし……。


「エル、灯りは用意できるか」


「任せてください! 今やります」


 ルーカスさんが言い、エルが杖に光を灯す。


光魔法(ルミナ)!」


 眩い光が溢れ出した。以前より強い光だ。エルも密かに魔法の特訓をしていたのかもしれない。


「入るぞ」


 ルーカスさんが一歩前に出た。

 そのまま、闇の中へ入っていく。


「僕らも、行こう」


 僕はエルの手を取り、ルーカスさんの後に続く。

 またこうしてエルと【神殿】攻略に出られることが、僕には嬉しかった。

 遅れてシアンたちが来て、僕らは自然とエルの周りに固まった。光源を中心として、僕らは一旦立ち止まる。


「今ならまだ戻れるが……戻りたいやつはいるか?」


 ルーカスさんが訊く。誰も、何も言わなかった。

 ルーカスさんはその沈黙を肯定と取る。


「そうか。……進むぞ」


 暗い洞窟では、エルの光は半径二メートル程しか照らせなかった。僕らは先の殆ど見えない道を進んでいく。

 不気味な洞窟は、ひゅうひゅうと風の音がする。水音も微かに聞こえることから、どこかに地底湖のようなものでもあるのだろう。


「水の音、聞こえた?」


 僕は囁く。ごく小さな声なのに、大声で話しているかのように洞窟内に響き渡った。


「ええ。私にも聞こえました」


 そう呟き返すのはモアさんだ。エルフは、耳がいい。

 足元には無数の骨片が落ちていて、踏むとバリバリと音を立てた。

『古の森』と比べて、この『暗黒洞窟』は随分とうるさい洞窟だ。……この闇で音もなかったら、あまりの怖さに死んでしまうところだったので助かった。


「エル、怖くない?」


「トーヤくんは怖いの?」


「いいや、怖くないよ」


「そう、私も不思議と怖くない。多分、前の【神殿】を乗り越えて私たちは成長していたんだね」


 エルの言葉に僕は頷いた。僕らは成長していて、【神殿】の恐怖を知っている。

 だが、ルーカスさんやシアンたちは【神殿】の本当の恐ろしさを知らない。知らないから、突然の恐怖に対応しきれるか心配だった。

 今はまだ怪物(モンスター)が出現していないけど、いつ現れるか怪物(モンスター)は決して教えてくれない。


「いつ敵が現れても、しっかりと戦えるようにしておいて」


 僕は誰にともなく呟く。

【神殿】オーディンの『古の森』では、闇の中から突然『ブラックドッグ』が現れた。あの時はなんとか切り抜けられたけど、今回は怪物(モンスター)を産むという【神殿】テュール。怪物(モンスター)の数も桁違いなのだろう。


 僕がそんなことを考えていると、突如ガサガサッと何かが動く音がした。

 前方から現れたのは、小型の人型モンスター『ゴブリン』だった。しかも、一匹だけではなく、二……三……五匹いる。


「こ、来ないで!」


 初めて遭遇する怪物(モンスター)に、シアンが悲鳴を上げる。


「落ち着いて……僕が斬る!」


 ニタニタと意地汚い笑みを浮かべるゴブリンたちに、僕は【神器】を振りかざす。


「神オーディン、力を貸してください!」


 グラムが紫紺の輝きを放ち、炎のようなオーラが剣を纏う。

 僕は足を前に踏み出し、大剣をゴブリンに叩きつけた。


「おらぁッ!!」


『プギッ!?』


 紫の炎がほとばしり、ゴブリンたちは奇声を上げて肉塊となった。

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新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
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