表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
第2章  解放編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/400

エピローグ  魔導書

 僕とシアンは調理場にタコを届け終わり、二人で廊下を歩いていた。

 シアンは少し気まずそうに僕を見上る。


「トーヤさん、私、その……あ、あれは気にしないでください。プレゼントは嬉しかったです。ですが、あの時のあれは……」


「シアン、さっき君に、ああ言って貰えて嬉しかった」


 これは、僕の本心からの言葉。

 僕は皆が大好きだ。その気持ちは変わらず、揺るがない。

 シアンは顔を真っ赤にしていた。可愛らしい尻尾をブンブン振っている。

 と、廊下の曲がり角を通った時にある人物から声をかけられた。


「やあ、トーヤくん、シアンちゃん。元気にしていたかな?」


 そう言って笑うのはノエルさんだ。この人はいつもニコニコ笑っている。


「はい。今朝は、タコを買いに行っていました」


「おお、タコか。食べるのが楽しみだ。……トーヤくん、実はね、今日は君に『プレゼント』があるんだ」


 ノエルさんの眼鏡がキラリと光る。

 彼は、鞄から大きくて分厚い茶色いカバーの本を取り出した。

 僕とシアンはその本をまじまじと見る。


「……これは?」


 僕は訊いた。本の表紙には、僕の知らない文字で題名のようなものが書かれている。


「これは、【魔導書(グリモア)】だよ。ぜひ君に読んで欲しい」


 ノエルさんは僕に魔導書を渡す。そして、僕らに背を向け立ち去ろうとした。


「待ってください! この本は一体何なのですか? 僕には、この文字は読めるとは思えません」


 ノエルさんは振り返った。


「読めなくても、本が導いてくれるさ。時間がある時にでも、読むといい」


 ノエルさんはそう言って去ってしまった。

 僕は、謎の文字で書かれた魔導書を、訳もわからず見つめていた。


* * *


 その日の夜。ノエルの元には、一人の女が訪れていた。

 女は黒いマントを纏い、頭にはフードを被っていた。フードの下から長い金色の髪が見える。

 彼女はノエルと向き合うように、テラスのテーブル席に座っていた。

 ワインが入ったグラスに口を付け、女は口端を歪める。


「あの少年……トーヤといったかしら? 彼に、魔導書を渡してくれたそうじゃない」


「ええ。彼には素質がある。あれが引き金になり、彼が力を開花させてくれればいいですが」


 ノエルはワインには手をつけず、女と談笑する。


「ふふ……面白いわ。彼がどう動くか、私には楽しみでしょうがないの」


「私も、彼には期待をしているのですよ。彼の魔力(マナ)の質は良い。私が見たのだ、間違いはないでしょう」


「うふふ……そうね」


 女はくすりと笑い、グラスを揺らす。ワインの水面が静かに波を立てた。


「【悪器(あっき)】の状態は、どう?」


「上々ですよ。新たな器候補も見つかりました」


「そう。それは……良かったわ」


 女はグラスをテーブルに置いて立ち上がり、空を見上げる。

 三日月の夜だった。


「良い夜ね。何だか、昔に戻ったような気分になるわ」


 ノエルは少しの間黙っていたが、やがて口を開いた。


「『永久(とわ)の魔導士』殿。……いや、シル・アレフ・ヴァルキュリア殿、と呼んだ方がよろしいかな」


 女はノエルを見た。青色の目が冷たくノエルを射抜く。


「何かしら?」


「貴女の目的は計り知れないが……私は、貴女に利用されるつもりは無い。貴女を逆に利用し、私の目的を達成する」


 炎のようなノエルの言葉は、氷の如く冷たい女を焦がす。


「うふふっ……面白いわね」


 女はフードを取った。この世界で最も美しいであろう、その美麗な顔が月明かりに照らされた。


「楽しみにしているわ。ノエル・リューズ」


 女はそう言い残し、消える。

 ノエルは女が消えた辺りを見つめ、一人ほくそ笑むのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
― 新着の感想 ―
[一言] この魔導書で更にレベルアップですね。 こちらでもよろしくお願いします。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ