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黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
最終章【傲慢】悪魔ルシファー討伐編/マギア侵略編

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44  最終決戦

 爆風と、轟音。

 光の奔流に呑み込まれたそれが崩壊していく光景を、【神器使い】とその仲間たちは固唾を飲んで見守っていた。

 やがて――何もかもが動きを止め、静寂が訪れる。

 彼らの視界を覆っていた光も切れ、赤く染まり始めた陽だけがその場所を照らしていた。


「お、終わった、のか……?」


 荒い呼吸をしながらも呟くカイ。

 彼の言う通り、先程まで【悪魔の心臓】があった地点には何もなくなっていた。

 三国とマギア、両陣の【神器使い】たちが力を合わせた結果、強大な【悪魔の心臓】を打ち砕いたのだ。

 それを遅れて実感した彼らは、胸に湧き上がる喜びをこれでもかと発露しようとして――出来なかった。


 なぜなら――彼らの頭上に、斜陽を背後に微笑む魔女の姿があったから。

 

 青色の髪に白い肌、すらりと背の高い痩身の女性。

 それが誰か、三国側の少年たちは知っていた。マギア側は知らずとも、彼女が相当な実力者なのだろうことは悟っていた。


「世界は不完全なのだから、罰を与えなくてはいけないわ。そう、これは憤怒なのだ。汚れを罰し、祝福を授けるための、まことの救済なの」


 二人の人格が混じり合った歪な口調で、その女はのたまった。

 イヴとリリス。【ユグドラシル】時代から2000年の時を生きた、神と悪魔の母である魔女だ。


「あの女を倒さねば【悪魔】との決着はついたことにならない、そういうわけか」


 アダマスが魔女を見上げて舌打ちし、彼の言葉にトーヤは頷く。


「ええ。あれは、イヴ……そしてリリスという魔導士の人格が融合した、【神魔の母】です」 

 

 青白く燃え上がる眼光はリリスのもの。口元に刻まれる微笑みはイヴのもの。

 悪魔の心臓が崩壊しても、それを意に介さないとでもいうように、女は杖を振るって魔法陣を描き出す。

 大魔法を一斉に撃ち出したトーヤやアダマスらに、彼女の速度に対応する余裕はもはや残されてはいなかった。

 虹色に輝く六芒星の魔法陣。それは、鏡だった。

 イヴとリリス、二人の記憶が浮かんでは消えていく、記憶の海。

 

「――私の世界は、いま生まれ変わるのよ」


 雲が全て吸い込まれてしまうほどの強烈な風の渦が発生し、大気中から、さらには海から魔力を巻き上げて力を増幅させていく。

 生まれた巨大な竜巻に、いち早く対処したのはカロスィナトスであった。

 

「貴方たち、私の防壁の後ろへ!」


 彼女の【神器】は防御に特化している分、先ほどの一斉攻撃の際にも支援に徹し、自らが全力で魔力を放ったりはしていなかった。

 大技を撃った後の味方をカバーする。カロスィナトスがこの場にいる理由は、使命はそれなのだ。ならば、見せなければ――デメテルの神器使いとして、帝の娘として、誇れる姿を咲かせなければ、ここにいる意味などありはしない。

 悪魔の心臓があった位置にそのまま出現した大竜巻。円陣を解いて宙を蹴り、カロスィナトスの岩盤のごとき防壁の陰に【神器使い】たちは飛び込んでいく。 

 が、しかし。


「っ、いやっ、届かなっ――」

 

 カロススィナトスの対岸に位置していた者たちにも間に合えというのは、無理があった。

 出来うる限り手を伸ばし、指で空を掻くシアンの顔が絶望に染まる。

 消耗した状態で暴風に呑まれることは、この空中の戦場において死と同義だ。

 ストルム郊外で怪物たちと戦った時も『アイテール』内でエウカリスと戦った時にも感じなかった死の恐怖が、彼女に這いより、その首に冷たい手を添わせる。

 じっとりとまとわりつく死の臭いに少女は慄いた。四肢が自由を失い、風にいいように弄ばれる。重くのしかかるそれから逃れる術を、彼女は知らなかった。


 ――羽根さえあれば。この風の中でも飛んでいける、大いなる翼があれば――。


 骨が折れている。だが、それが身体のどの部位であるか知覚できない。視界は掻き回されて濁った水中のようで、もう何も分からない。

 

 ――死ぬの、わたし? 


 最後の呟き。決して認めたくない、けれども回避できない、己の運命。

「でも、悪くはなかったんじゃないか」。頭の隅で卑屈な少女は笑う。

 奴隷に過ぎなかった自分がそれ以外の道を知り、大好きな仲間たちと歩めたのだから、身に余るほどの幸福ではないか。

「でも、まだ見ていないものがいっぱいある」。頭の隅で贅沢な少女が唇を尖らせる。

 トーヤが導いてくれる温かな未来を見たかった。エルやアリスたちと他愛のない談笑をもっと重ねたかった。エインやヒューゴ、リオたちに戦い方をまだまだ学びたかった。

 

『この先ずっと、俺がお前を守るから』


 普段は頼りなく感じる幼馴染の真剣な横顔に、どきっとした二人きりの時間。

 胸が熱くなって、彼女は溢れた感情に栓をするかのように彼とキスをした。

 だがそれが妙に恥ずかしさを呼び起こし、二人はその先に進むことなく戦いの日を迎えてしまったのだ。

 

 死にたくない。彼とずっと、一緒にいたい。夫婦になって、子供を産んで、孫が生まれるまで生き続けていたい。


 足掻きたかった。足掻くしかなかった。暴風の殴打を受け続けても離さなかった杖に、彼女は願いを込めた。

 ほんの少しの未来に救いを求めて、シアンという少女は祈りを捧げる。

 と、その直後――。


「【アイギスの盾】!」


 純白の翼が彼女の身体を抱擁し、黄金の光輝を放つ盾が風を遮って彼女らを守った。

 暴風から解放された彼女には、すぐさま生温かい液体がかけられる。嗅いだことのある、だがそれでいて不思議な酸味と苦味を醸した匂い。

 その液体が肌に触れた側から、折れた骨やぐちゃぐちゃになった内臓まで再生を始めたのを痛みや吐き気と共に感じたシアンは、液体の正体を悟った。

 不死者の血。ノアが自らの身を切って流した、どんな傷でも完治させる秘薬である。

 円弧を描くように反り返った盾は、同型のカロスィナトスの盾と組み合わさって一つの円筒を形作った。竜巻ごと囲んで中に風を封じ込めた二人の盾は、その暴風にも微動だにしない。


「あなたが私の脳内に鮮明なイメージを届けてくれたから、私はここに飛ぶことができました。ありがとう、よく頑張りましたね」


 アテナの【神器使い】、【王佐の魔女】ことモナクスィアが、【神化】によって生えた翼でシアンを抱き留めていた。

 目元の痣や口元に滲む血などノアとの戦いの傷跡が目立つ彼女は、【神化】の白銀の鎧の胸元に手を当て、アダマス帝へ一礼する。

 

「陛下のもとへ馳せ参じること、遅れてしまい申し訳ありません。少年との儀式も失敗した私に、【母】たる資格はないかもしれませんが――どうか、貴方の隣に居させてはくださいませんか」


 深々と頭を下げて願うアマゾネスに、アダマスは「見苦しい」と一蹴した。

 その言葉にモナクスィアは息を鋭く吸い込む。自分は見限られたのか、そう思ったのも束の間、アダマスの台詞は続いた。


「お前には毅然と顔を上げた姿の方が似合っている、という意味だ。説明がないと分からないほど、読みの浅い女ではなかったはずだが」


(だったら最初からそう言ってくれればいいのに。本当に、不器用なお方……)


 面を上げつつモナクスィアは思う。

 そして自分がこの人のことをどうしようもなく愛しているのを、強く自覚する。


「お喋りは後にしな。今すべきことは、あの魔女と向き合うこと。それも、ただ倒すだけでは駄目だ。あの女は肉体が死んでも魂を別の身体に宿らせ、生き延びるかもしれない」


 ノアは防壁越しに魔女を睨みつけ、淡々と言った。

 イヴがノアに施した不死の術式。あれを彼女が自身にかけていたとしたら、そもそも肉体を殺すことさえ出来はしない。

 見るべきは心だ。精神だ。

 イヴとリリスの人格が混ざりあったように、「魂」は絶対不変のものではない。突くとしたら、そこしかないのだ。

 魔女の魂を殺す。彼女の精神世界に入り込めば――『記憶の海』に干渉する魔法を用いる――それも可能なはずだ。

 

「シルが動けない今、この魔法を使えるのはあたししかいない。それから……トーヤ、エル、あんたらに頼みがある!」


 ノアはカロスィナトスの防壁の向こうにいる二人へ呼びかけたが、それ以上話を続けられなかった。

 彼女の声を遮って魔女は嗤う。妹との再会を喜ぶように、天の頂に座す女は身体をくねらせた。


「あら、また私に会いに来たのね、ノア? あなたが敗れて一夜……たった一夜で、何が変わったというの?」


「あたし自身は、大して変わっちゃいないよ。不老不死のあたしは、結局昔から何も変えられなかった。でもね、姉さんのもとを離れてから、あたしには多くの同志ができた。【ユグドラシル】時代から現代にかけて、使命を共にする仲間が!」


 日光を背にこちらを見下ろす魔女へ、ノアは強い語気で主張した。

 かつて愛した優しい姉はもういない。彼女は記憶の彼方に葬り去られ、ノアの思い出の中でしか生きられない虚像となった。

 

「仲間、ね。昔は私もそれを信じていたそうよ。子供たちに無償の信頼を傾け、一緒に理想の世界を築いていこうとしていた。だけど、彼らは不完全だった。勝手に争いを始め、権力を求め、理想ではなく自分の利益だけを願った。彼らは世界なんて見ていなかった。千年後、1万年後の未来まで平和を繋ごう――そんな視点は、彼らには微塵もなかったの。

 それで、知ったわ。彼らは私の子として生まれながら、私とは別の場所に生きているんだって。私と同じ理想は、目指せないんだって」


 魔女の魂の片割れは過去を振り返って語る。

【神】を信頼できなくなった彼女は、より完璧な世界を運営するために、まず自身を完全な存在に仕立て上げようとした。その結果が、人としての「甘い」感情と記憶を捨てた現在の彼女だった。

 そこには、孤独があった。故に、彼女はそれ以外の道を見いだせなかった。


「【悪魔の心臓】は単なる前座。さぁ――覚醒めざめの時よ、サタン。あまねく世界を憤怒の炎にかえしなさい」


 最後の悪魔、憤怒のサタン。

 それを身に宿す女は漆黒のオーラに包まれ、姿を変えていく。

 先程までの暴風が止み、防壁魔法を解除したカロスィナトス、モナクスィア両名は、起こる敵の【神化】に再度の防御を実行する。

 

「いけ好かないですが、あなたに頼るほかありませんね、不死者。この場で余力があるのはあなたくらいですから」


 モナクスィアの請願にノアはすぐさま応じた。

 短く唱えられる詠唱。魔女が【神化】している数秒の隙に、味方全体が緑色の温かな光に満たされ、彼らの魔力が回復していく。

 

「おおっ、これなら戦えるぜ!」


 歓喜するロンヒの隣でトゥリやプラグマは目を見張った。

 これだけの多人数の魔力を同時に回復させることのできる魔導士は、彼女らは【神化】したゼステーノしか知らない。

 力がみなぎれば戦意も高揚する。少年の鼓舞に三国同盟の【神器使い】たちは叫び、マギアの戦士たちも呼応した。


「これは世界の今と、未来を守るための戦いだ! 悪意を弾き、正義を貫く――僕らの意志で、あの魔女を討つ!」


 拳を掲げる若者たちは【神器】に魔力を溜め、詠唱を開始しようとする。

 が――見上げた空を覆い尽くすほどの黒い影が現れ、彼らは戦慄した。

 青い肌に青い髪をした、裸身の女。その眼は赤くぎらつき、唇はなまめかしく、四肢はしなやかで筋肉質。

 大地を踏みしめて立つその姿は、まさしく巨人だ。ただ巨人族と異なるのは、頭部に生えた2本の角と、体高20メートルにも達そうかという超大型の身体である。


「なんだ……俺より巨大な――」


 ウトガルザ王の驚嘆の声は途切れた。

 体を()()()に折って吹っ飛ばされながら彼が目にしたのは、青き女巨人の蹴りあげられた脚。

 誰も、反応できなかった。

 巨大な体躯からは考えられない、目で追うことも叶わないほどの速度を、魔女は実現していた。

 鈍重さを付与魔法による加速で補い、余りある力で彼女は暴虐の限りを尽くす。


「なっ――!?」


 一人沈めたそばから大跳躍、踊り上がった彼女は掌を眼下の者たちへ向け、漆黒の魔弾を放つ。

 黒き瞬きが【神器使い】たちの眼を焼き、次には彼らを守る二枚の防壁が崩壊した。

 岩盤の割れる醜い音。純白の盾が破砕される歪な音。耳朶を打つそれらに、【神器使い】たちは咄嗟の回避を成功させるも――僅かに遅れて放たれた「第二波」への対応は間に合わなかった。


 降り注いだ、黒い雨。

 それは触れた者の腕を、脚を、首を溶かし、侵食する猛毒だ。

【神化】の鎧やマント、ローブも溶解されて裸同然となった戦士たちの姿は、魔女から見たら滑稽でしかなかった。

 身体は毒に侵され痙攣し、もしくは麻痺して自由を奪われる。


「くッ……こんな毒に、屈するわけには……!」


 呻吟するダークエルフのリカール族長は、浮遊魔法を維持できず落下していく。

 防壁を破った初弾からすかさず投じた次弾で勝敗を決する敵のやり口は、単純にして強力だった。一切の小細工なしに、実力で相手の防御を叩き潰す――自分たちの戦法と同一の手で打ちのめされたマギアの【神器使い】たちは唇を噛む。

 蹴りの一撃で意識を刈り取られたウトガルザ王に加え、リカール、カロスィナトス、プラグマ、エウカリス、プシュケの5名も猛毒に屈して墜落を余儀なくされる。

 

 そんな中――その毒を浴びてもなお、戦える状態にある者もいた。

 

「不味いね。マギアの【神器使い】たちの半数が倒れたか」


【神器使い】の3分の1を戦闘不能まで追い込んだ魔女の毒の雨に、ノアは思わず舌打ちする。

 敵に【神化】を許してしまった以上、犠牲が少なからず出るのは想定していた。だが、1分にも満たない時間でこの数が倒れたとなると、勝てる見込みは限りなく薄くなる。


「っ、次弾、来ます!」「また来るぞ!」


 微かに強まった毒の臭いを嗅ぎとったシアンとジェードが警告する。

 それからほどなくして放たれた毒液に、今度は彼らも防衛を間に合わせた。

 

「【アイギスの盾】!」

「いいえ――それでは足りないわ! 【絶対障壁】!!」


 モナクスィアの純白の防護壁に重ねて、六角形の黒い盾を幾つも連結させた防衛魔法が発動する。

 永久の魔導士、シル・ヴァルキュリア――イヴとの決着をつけるため、彼女は妹の助力を受けて再起していた。


「エル、助けてくれてありがとう。ノア、また一緒に戦えて嬉しいわ。それから、トーヤ君。私は今まできみをハルマ君の代わりとしか見ていなかった。ごめんなさいね」


 毒の侵食を受け付けない、鋼よりも硬い絶対の盾。神のそれをも凌駕する、シルの持つ最強の防衛魔法である。

 その下で自分たちを守りながら、シルは大切な人たちへそれぞれ言葉を贈った。

 エルが微笑み、ノアが頷く中、トーヤだけは首を横に振っていた。彼はシルが何故このタイミングで謝ってきたのか、悟ってしまったから。


「最後の戦いよ。策は固めてあるわね?」

「ああ、さっきはトーヤたちに伝えそびれたけど、ちゃんと用意してある」


 シルの問いに答えたのはノアだった。

 深緑の髪の女傑はこの場の全員を見渡し、告げる。


「あの女を倒すには、肉体と精神の両方を殺さなくてはならない。そこで、精神――いわゆる脳内の感情や記憶に関する部位――に干渉する魔法を用いるんだ。その魔法はあたしとシルが使える」


【絶対障壁】は発動直後には何をも通さない盾であるが、時間が過ぎるにつれて力を弱めてしまう。それを意識してノアは早口に説明し、【神器使い】たちに協力を頼んだ。

 この場に残った戦士たちは、毒に強い光属性の魔力を体内に多く有する者、あるいは【神器使い】として【神】の領域に達しつつある者たちだ。闇属性の攻撃を主力とするだろう【憤怒】の魔女に対し、抵抗できるのは彼らしかいない。

 アダマス帝はノアの指示に、逡巡することなく頷きを返す。


「承知した。では、肉体の方を討つ役目は我々が引き受けよう」


 マギアの【神器使い】たちは衣装の殆どを毒に溶かされ、露になった肌もどす黒く変色した状態にありながらも、その瞳の炎を絶やしてはいなかった。

 ロンヒも、トゥリも、カタロンも、モナクスィアも、誰一人として諦める選択肢を念頭に置いていない。

 

「私たちも、マギアの人たちと一緒に戦います!」


 ユーミとジェードの手を取って、シアンはそう申し出る。

 イヴやリリスの精神と向き合う役目は、彼女と関わりの深いシルたちに任せるべきだとシアンは弁えていた。

 それにモナクスィアには命を救われた恩がある。彼女をサポートすることで、その恩に報いたかった。


「無論、その意志は我々も同じだ」


 アレクシル王も自分たちの意志を表明する。

 彼とエンシオ、エミリア、カイ、ミラといった三国の【神器使い】たちも共に戦う覚悟でいた。


「頼むぜお嬢ちゃんたち! でっけえ敵をぶっ倒せば、俺たちがそいつより強え戦士だって証明になる! そりゃあ凄えことだろ!?」


「脳筋野郎の言うことは置いといて、君たちの能力を手短に教えてくれるかな。そこを把握しておかないと、協力以前の問題になるからね」


 盛り上がるロンヒを無視して訊ねてくるトゥリに、シアンやアレクシルらは短く応じる。

 その間、トーヤたちはノアのもとで作戦の最終確認に入っていた。


「あの青い巨人の頭部に、『記憶の海』へ潜り込む魔法を照射する。あたしとトーヤ、エル、シルの四人なら、人数的にも問題なく精神世界に入れる」


「ちょっと待ってください。精神世界に飛び込んでいる間、僕たちの身体は幽体離脱みたいな状態になると思うんですけど……」


「それなら心配いらないさ。守ってくれる奴がいる」


 トーヤの疑問に答えるノアは、指をパチンと鳴らしてその人物を呼びつける。

 転送魔法陣から登場したのは、浅葱あさぎ色の髪をした学生服の美少年であった。


「お前たちがあの魔女と相対している最中は、私が命を賭して身体を守ってやる。お前たちには死んでほしくないからな」


 グリームニルは覚悟を宿した真剣な顔でシルたちを見つめる。

 と、その時。シルの【絶対障壁】にも遂にひびが入り始めた。


「さあ――行こう」


『魔女計画』から始まった悲劇の連鎖を断ち切るために、少年たちは飛び立つ。

 憤怒の巨人に抗うは、オリュンポスとアースガルズ、ヴァナへイムの神々に選ばれし戦士たち。それぞれに抱えるものは違えど、願う結末はただ一つ――勝利である。

 

 黄昏の戦場にて、【神器使い】たちの最終決戦が幕を開けた。

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新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
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