43 三位一体の剣
シル・ヴァルキュリア一人の魔法では、【悪魔の心臓】を破壊するには足りない。
【永久の魔導士】の一撃が無意味に終わってしまった光景に絶句するトーヤは、息切れして動けないシルのもとへ飛びかかる悪魔の群れに、無我夢中で飛び出していた。
「シルさん――!」
【グングニル】の大薙ぎで正面と左右の悪魔を蹴散らせはしたが、背後、そして下方から迫るものまでは対処できない。
大技を撃った直後で防衛魔法を発動する余裕もないシルは、完全に無防備だ。
「姉さんにだけは、触れさせてなるものか!!」
空気を震わせる大声量を上げるエルは、悪魔の手が姉へ届く寸前に割って入り、防壁を展開する。
前と上方の悪魔をトーヤ、後ろと下方をエルが阻むことで、すんでのところでシルを助けた。
「……エル、シルさんを守ってあげて。この戦場で最も硬い防御を実現できるのは、君なんだから」
「言われるまでもないよ。姉さんは私が守りぬく」
間を置かず返したエルにトーヤは頷き、彼女がシルごと自身を球形の防壁で包み込んだのを確認する。
それから高く飛び上がって悪魔らとの距離を取った彼は、【心臓】周辺で悪魔と交戦する【神器使い】たちへ声を投じた。
「皆さん! あの【悪魔の心臓】は僕ら全員が力を合わせないと勝てない相手です! 三国もマギアも関係ない――皆で心を一つにして、【悪魔の心臓】を破壊する! それしか道はない!」
少年の呼びかけに異を唱える者は一人としていなかった。
所属する国や理想が違えど、同じ【神】から力を得た者同士なのだ。悪魔から世界を守る使命は、等しく彼らに課せられている。
「よく言ったじゃねぇか、坊や! プラグマ、エウカリス、お前らもちゃんと協力しろよ」
「お姉様、と呼びなさい! それから、何でトゥリには言わないのよ」
「トゥリはそのへん弁えてそうだからな。さぁ、やること決まったんだし、さっさと片付けちまおうぜ!」
この非常時を楽しんでいるようにも取れる弾んだ口調のロンヒに、プラグマはつい溜め息を吐いてしまう。
だが、危機に絶望するあまり何も出来ないより、ずっとマシだと思い直す。彼の部下たちからの信頼が厚いのも、そういった前向きな姿勢が評価されてのことなのだろう。
アレス、ヘラ、アルテミス、アフロディーテ、そしてゼウス。5つの【神器】とその使い手は一つに集い、周囲の悪魔を現れる都度倒していく。
「少年、こちらの準備はできている! あとは君たち側の調整が済めば、いつでもいけるよ!」
「えっと、トゥリさん……でしたよね。僕らの方も、すぐにやれますけど――」
『アイテール』内で知り合ったばかりの彼女の名を呼び、トーヤは手を挙げて応じた。
【悪魔の心臓】の座すエールブルー上空、その付近まで来ているのはシアン、ジェード、ユーミの三人だ。カイやミラ、エミリアとエンシオ、アレクシル、そしてウトガルザ王やリカールは未だ辿り着けずにいる。
「今、【悪魔の心臓】に一斉射撃可能な【神器使い】は9名……残りの人たちが集合するまで待つべきか……」
マギア側はすぐにでも行動に移したいようだが、トーヤはその判断は早急すぎないかと懸念する。
もし火力が足りなかった場合、敵の自己再生を許してしまい、放った魔力は水の泡だ。シルの二の舞を演じるわけにはいかない。いくらでも魔力を吸い取れる敵とは違い、トーヤたちの魔力は有限なのだ。
それに――大魔法を撃つには詠唱が必須だ。その際、魔導士には多大な隙が発生する。空を黒く覆い隠すほどの軍勢に対し、そのような隙を晒せば貪り尽くされるだけだ。かといって、悪魔に対処しながらの詠唱では集中しきれず、魔法が完成したとしても半端な出来になってしまうかもしれない。
「トゥリ、トーヤの言うことも一理ある。お前の行動力は評価に値するが、いかんせん前のめりになりすぎる部分もあるな」
雷霆を閃かせ、下方から急上昇してくる悪魔を粉砕してみせながらアダマスはそう諭した。
しかし、彼女が間違っているとも言い難い。悪魔を産み落とし続ける永久機関を破壊しなければ、いずれは世界全体が悪意に染まってしまうだろう。事は一刻を争っている。
「おいおい、ごちゃごちゃ言ってねーで動けよ【神器使い】ども! ただの『怪物の子』でしかないオレ様が来てやったんだからよ!」
「はーい、ケルベロスちゃん参上です♡ あたしも一発、でっかいの撃っちゃいますねー♡」
逡巡する2陣営の【神器使い】たちへ、地上から叱咤の叫びが上がる。
焼け野原と化したエールブルーの大通りを駆けるのは、リルとケルベロス、そしてヨルとオルトロスだった。
「ここらに毒を撒いておいたから、地上に悪魔は降りてこない……」
「あいつらの味、すごく不味い。でも、魔力はたくさん貰ったぞ」
ヨルの発言通り、彼女らの周辺およそ半径25メートルの範囲だけ、悪魔が一切立ち入っていない。【悪魔の心臓】直下の通りに黒い影が隙間なく蠢いているのと比べれば、その差は歴然だった。
そして彼らの背後に、さらに三人。
「ふふっ、私たちもいるぞ!」
「【神器】を持たずとも、私たちもトーヤ殿をサポート致します!」
「ヨルちゃんの毒を撃ち込めば、俺たち小人族だって役に立てるはずさ」
リオ、アリス、ヒューゴの3名も、【悪魔の心臓】が現れていてもたってもいられなかったのだ。
ユグドラシルを滅ぼした大災厄に、自分たちの力が通用するかは分からない。【神器使い】たちに邪魔だと一蹴されてしまう可能性だって、あるだろう。
にも拘らず彼女らがここに集ったのは、トーヤたちの力になりたいという純然たる意志があったから。
その思いは共に旅をしようと決めた時から変わらない。彼に救われ、その恩に報いたいのだという一途な願いが、そこにあった。
ヴァニタスは悪魔に片腕を食いちぎられ、もはや魔力も限界を迎えつつあった。
だが、彼女はそんな苦境に立たされても、笑えていた。
背中に守るべき存在があり、その人に尽くせるのだという安心感は、彼女に苦しさを忘れさせた。
「あなたは独りではありません。私が、側にいますから」
「ねぇ、ヴァニタス! お願いだからもう戦わないで! これ以上魔力を使ったら、あなたの身体が壊れてしまうわ……!」
四面楚歌。
一言で現状を表すなら、それしかなかった。
浮遊魔法を使う魔力もない彼女らは軍港の地面に背中合わせに立ち、周囲をぐるりと取り囲む悪魔たちを睨む。
『サァ、コレデオシマイ』
少年の姿をした悪魔が、あどけない笑みを浮かべる。蟻を潰して喜ぶような無邪気な残酷さで彼女らを追い詰める悪魔は、手下どもに殲滅を命じた。
円形に立ち並んだ悪魔たちが掌を二人へ向け、魔法の一斉射撃を放とうとする。
「私はここで死んでも構いません。どの道、私のような人のなり損ないなど、長生きはできないでしょうから」
「そんなの、まだ分からな――――」
ミラの反論はそこでぶった切られた。
紅き閃光が彼女らの視界から他の色を奪う。
自分たちはここで死ぬ――刹那にそう悟るが、しかし。
「っ……?」
死んでいない。というか、何の攻撃も受けていなかった。
何がどうなったのか、彼女らにはしばし理解が追いつかなかった。
解っているのは、目の前にいた悪魔たちが例外なく黒霧となって散っていること。そして、少年の悪魔が何か言っているということだけだった。
『ナッ……オマエ、ハ……!?』
「ミラ陛下! 小官はあなた様をお救いするため、ここに参上したのであります!」
その声に、ミラの視界は奇妙に歪んだ。
目頭が熱い。何故なのだ。この女に自分は裏切られ、二度と会うこともないだろうと、彼女との思い出の何もかもを心の奥底に封じ込めたはずなのに――。
「これまでの裏切りへの許しは乞いません。しかし、小官の陛下を護りたいという意志だけは、偽らざる本心であります。ですからどうか、今だけでも、あなた様のために戦うことをお許しください」
【拳の魔女】、イルヴァ。
彼女の参戦によってミラとヴァニタスは急死に一生を得た。
漆黒の翼を生やした堕天使のごとき姿をしたイルヴァは、大空から主のもとに降り立ち、その翼を広げて少年の悪魔の目にミラが映らないようにする。
『邪魔ヲ、スルナ』
「ははっ、ははっ、はははははっ! いやぁ、失敬、失敬。最期くらいやりたいようにやると決めたものでな。悪魔ども、ミラ陛下を傷つけんとしたその罪、この手で裁いてくれよう!」
呵々大笑するイルヴァは、笑みを収めると黒い感情に満たされた瞳を悪魔へ向けた。
主のことは振り返らず、敵だけを睨み据えながら彼女は言う。
「あの黒い物体を破壊するのが【神器使い】に課せられた使命。陛下、ここは小官に任せてトーヤのもとへ合流を」
「そ、そうしたいのはやまやまなんだけど……ヴァニタスが」
「その娘は小官が責任持って治療するであります。陛下はご自分の為すべきことをなされてください」
本音をいうなら、イルヴァはミラといつまでも話していたかった。愛おしい主である彼女と再会できた喜びを味わっていたかった。
しかし、それは全てが片付いた後にイルヴァが生き残っていればの話。どちらも満たせなければ、夢物語だ。
「小官は心配無用であります。ミラ陛下、行って頂きたいのであります!」
「い、イルヴァ……私が正式に女王になったこと、知っていたのね」
「戦場の要人の情報は、常に掴むようにしておりますので」
イルヴァと話を続けたかったのは、ミラも同じだった。
何も知らなかった頃のように、笑顔の溢れる団欒の時を過ごしたい。たとえ戦場にあっても――絶望の痛みを和らげられるならば、少しの安寧くらい良いではないかと、ミラには思えた。
だが、イルヴァは短く答えたのを最後に話を打ち切った。
彼女は背中で語る――また会おう、と。
「頼んだわよ」
女王もそれだけ言い残して、両腕を広げ一身に太陽光からの魔力を得る。
回復を果たした魔力で浮遊魔法を行使し、舞い上がった彼女を悪魔は妨害しようとしたが――イルヴァの手で未然に終わる。
拳、一発。
飛ばされた一撃を顎に食らい、悲鳴すら上げられずに少年の悪魔は沈んだ。
「さあ、悪魔ども――【拳の魔女】の力、とくと味わえ!」
*
時は少し巻き戻り、トゥリたちが『アイテール』を出た直後。
『制御室』に残されたフォティアは、モニターに映る黒い軍勢を見て歯軋りしていた。
「魔導砲さえ残っていれば……あの悪魔たちを、消し飛ばせたのに」
ゼステーノさえいなければ、彼女が過ちを犯さなければ悪魔が目覚めることもなく、砲も無事であったかもしれなかった。だが、悔やんでも何も変わらない。
今、フォティアにやれること――それを全力をもって務めるだけだ。
「僕の『創る』力で、魔導砲のスイッチとシステム周りを復旧させる。そうすれば……!」
指針が定まってしまえば、気弱な青年の行動は迅速だった。
神ヘパイストスの【神化】を発動した彼は、頭の中に設計図を閃かせながら【神器】の槌を振るう。
自身のイメージ図をそのままに生み出されたそれを手に、フォティアはスイッチが設置されていた台座へと駆け寄った。
「スイッチは壊されたけど、台座は無事みたいだ。だったら、またコードを繋ぎ直すだけで――」
そこまで考えて、彼はある一点が抜け落ちていることに気づく。
魔力だ。悪魔の群れを焼き尽くすほどの高火力は、フォティア一人の魔力では到底足りなかった。
これでは砲が撃てる状態に戻っても、使い物になりはしない。
『アイテール』本体から魔力を掻き集めれば足りるだろうが、そうしたら飛行に必要な魔力が枯渇してしまう。最高の作品である『アイテール』を海に墜落させるという選択肢は、そもそもフォティアにはない。
――どうする。何か、何か策は……?
フォティアがそう逡巡した、その時。
一度は殺してしまおうとさえ思った妹の声が、彼の耳朶を打った。
「お兄様……私の魔力を、お使いください」
紅のツインテールを揺らし、緩慢な動作で立ち上がるゼステーノ。
彼女の傷はロンヒとプラグマの手で治療されており、青年にいたぶられた跡はほとんど残っていない。目元に走った切り傷だけは、フォティアの込めた「恨み」がもたらした魔力が強すぎて治らなかった。
「今更何を言っても、取り返しがつかないのは承知の上ですが……私は、知らなかったのです。神を降ろすためにした行為が、まさか、悪魔を呼び寄せてしまうなんて……」
「僕は君を許しはしないし、君の犯したことは罰されるべき罪だと思うけど――今は、何も責めないよ。そんなことは後回しでいい、とにかく魔力を砲に送るんだ」
女神ヘスティアの【神化】により、ゼステーノの胸に現れるオーブ型の『炉』。
エールブルーを焼き尽くした砲の魔力をたった一人で担えるほど、その『炉』が燃やす魔力量は莫大だ。
感情と理性を切り離したフォティアは、ゼステーノの協力を受け入れる。
「悪魔を倒して私の償いの全てが終わるとは、断じて言えませんが……」
騙されたから、そんな言葉は免罪符にもならない言い訳だ。覆水盆に返らず――【悪魔の心臓】を覚醒させるために供物となった者たちの命は、二度と還らない。
マギアの軍法に照らして考えれば、ゼステーノの行為は死刑に値する重罪だ。彼女もそれを拒むつもりは毛頭ない。【マギ】にいいように操られ、自身が望んだことと正反対の結果を引き起こしてしまった愚かな自分を、ゼステーノは愛し続けようとは思えなかった。
ただ、刑を受ける前に。自分にしかできない使命が残っているならば、それを果たしたかった。
*
雲を切り裂いて海に達する、一条の極太の光線。
それは海上に蔓延る黒い軍勢を一撫でし、その極熱で異形の体躯を瞬時に蒸発させていく。
エミリアは、絶句していた。エンシオは剣を取り落としそうになった手に慌てて力を込め、結局取り落とした。それを海上すれすれの所で掴み取ったアレクシルは、目を瞬かせて黒がなくなった青を見ていた。
フォティアが制御した砲撃は【神器使い】の魔力を感知し、彼らを避けるように空中を走っていた。目の前で悪魔が殲滅された光景を目撃した三人の【神器使い】は、砲の威力に畏怖しながらも、次には飛び出す。
彼らの背中を押したのは、ティーナ・ルシッカの声であった。
「王様たち、急いで! 新たな悪魔が湧き出さないうちに!!」
喉が張り裂けんばかりの声量で叫んだティーナ。母親を亡くした直後であっても、彼女は戦うのを諦めたりはしなかった。
自身も【悪魔の心臓】へと翔けていきながら、ティーナは空を並走するエミリアへ言う。
「私のことは気遣わなくていいからね! お母さんはもういないけど、私、頑張るから!」
「ティーナ……」
親を亡くした経験のないエミリアには、掛けるべき言葉を選べなかった。その悲しみを本当の意味で知らない者が何を言おうが、それは薄っぺらい何かにしかならない。
今必要なのは慰みではなく、勇気だ。強大な敵に抵抗する、芯のある覚悟だ。
「我々もお供させていただこう!」
「この危機に、人も亜人も関係ないのでな」
ダークエルフ族のリカール・チャロアイト族長、及び巨人族のウトガルザ王も、スウェルダの旗艦から浮遊魔法で飛行する。
既に神化を行使している二人は、紫紺の長髪と真紅の分厚いマントをなびかせてエミリアらと合流した。
動きはそれだけではない。マギア軍の【神器使い】たちも、一つの使命を皆で果たすために出撃を開始していた。
「陛下、アタシたちもいますわ!」
転送魔法陣の白い輝きが瞬いた直後、青年の声が高らかに響く。
【ヘルメスの神器使い】プシュケと、【デメテルの神器使い】カロスィナトスである。
女装の青年は大切な弟がこの場に向かっていることを敏感に察知していた。彼の脳内に「さっさと来なさいよ!」と呼びかけつつ、プシュケはぐるりと辺りを見渡す。
「皆、あの黒くて気色悪い物体を囲む円陣を組むのよ! 位置取りはアタシの光魔法がガイドしてあげるから、早く!」
シルの召喚獣が悪魔の殆どを生まれた側から喰らってくれている今しか、好機はない。
円を描くように光の線が【心臓】の周りに浮かび上がり、各人の立ち位置を点滅で導く。
「よし、間に合ったよお姉様!」
橙黄色の豊かな髪を陽光の下で煌めかせる美少年、カタロンは白い歯を見せて笑った。
トゥリをはじめとする女性陣に投げキッスを贈る少年にロンヒら男性陣は途端に無表情になり、彼をよく知らない三国の【神器使い】たちは呆気にとられた。
カタロンの【神器】は海の底に沈んだはずであったが、トーヤらを捕縛した際にタラサが海中に漂うそれに気づき、回収していたのだ。
「受け取って、カタロンちゃん!」
「サンキュー、お姉様! やっぱ持つべきものは有能な父兄だね!」
「ちょっと、人に尻拭いをさせといて上からの物言いはないんじゃないの!? プラグマお姉様にお仕置きしてもらおうかしら!」
「お姉様に鞭打ちされるなら本望さ!」
アポロンの波状剣を預かっていたプシュケは、それをカタロンへ投げ渡す。
プラグマは弟の軽口に肩を竦め、いつものことだと流しながら父へ耳打ちした。
「タラサ殿下とモナクスィア様、フォティア、ゼステーノを除く8名が集いました。三国側からも、フィンドラの王たち5名も今、到着したようです。それに……」
彼女が指差す先、軍港側からこちらへ上昇してくるのはカイ・ルノウェルスとエイン・リューズ、そしてミラ・スウェルダだ。
彼らはしつこくまとわりつく悪魔の残党を切り払い、振り切ってトーヤたちへと合流を果たした。
彼らの参戦を確認したアダマスは全員を改めて見渡し、この場で最強の【神器使い】として命じる。
「【神器使い】、及び彼らに付き従う魔導士の諸君! プシュケの円陣に立ち、各々自身の持つ最大火力の魔法を撃つのだ! さあ――詠唱を始めよ!!」
アダマスの声に行動を開始した彼らに混乱は一切見られなかった。不思議と滞りなく整然と立ち並べたのは、アダマス帝が持つカリスマ的な魔力があってのことだろう。彼の声を聞いただけで誰もが自ずと適切な立ち位置を理解し、そこへ動いたのだ。
「【迸る終焉の炎、吼える巨人】!」
「【我は狡智神の契約者、戦の果て、悠久の安寧を望む者】」
「【パトスの海に、愛の胤を。回帰の抱擁に心を委ね、迸る白き快楽を】」
「【熱く熱く燃え盛れ、戦の血潮よ】!」
ウトガルザが、カイが、トゥリが、ロンヒが――【神器使い】と魔導士たち全員が、魔法の詠唱を玲瓏に、或いは力強く紡いでいく。
膨れ上がる魔力が円陣を虹色に彩る中、彼らの精神的支柱となっている少年の叫びが、極大の一撃を放つ号砲となった。
「【猛れ、白銀の風! 唸れ、黄金の刃! 烈風となり全てを打ち払え、漆黒の槍!】 これが僕の放つ究極の技――【三位一体の剣】!!」
ノアから託されし【白銀剣】、軍神から授かりし【テュールの剣】、最後に老賢神から受け継ぎし【グングニル】。
それら3つの武器は天空に舞い上がり――太陽に吸い込まれたかと思えば、ひときわ強く瞬いてから落ちてくる。
少年の手に【神器】が戻った時には、それらは一つの巨大な剣として生まれ変わっていた。
白銀の剣身に黄金の鍔、漆黒の握りをした、両刃の長剣。3つの武器の色の要素を備える以外にこれといった特徴のない武器だが――纏う魔力は、周囲の空間が僅かに歪んで見えるほど強力だ。
「はあああああああああああああッッッ!!!」
少年の一刀が振り下ろされると同時、【神器使い】全員の攻撃も一斉に撃ち出された。加えて地上に集結した戦士たちの技も、上空の目標へと打ち上がった。
円陣の中心にある黒い太陽へ、正義を貫く者たちの叫びが轟いていく。
その【心臓】はたちまち光に包まれ――




