41 共鳴する心
帝弟タラサ・マギアはベッドに横たわりながら、側に立つ兄を見上げた。
「に、兄さん……これも、兄さんの計画のうちなのか……?」
天空要塞『アイテール』に設けられた看護室にて、モナクスィアとトーヤの『儀式』が終わるまでアダマスはタラサの様子を見ているつもりだった。
だがモナクスィアからはいつまで経っても連絡がなく、要塞の外からは異様な爆音が響くばかり。
何かがおかしい、計画が何者かの手により意図的に狂わされている――そう理解した時には、既に手遅れとなっていた。
「ああ、そうだ。これも世界を統べるための、理想を実現するための、必要な一手……」
アダマスは、認めたくなかった。
自分という人間は完璧でなくてはならないのだ。そうでなくては、民や兵士がついて来ない。信心を失えば、彼の理想は潰えてしまう。
そして、彼の初めての失態はおそらく、致命的な傷を彼に負わせる。
――誰が狂わせた? 誰が、私を阻んだのだ? 兆候など、見られなかった。いや、私の目が曇っていただけなのか? いつまでも若き日の栄光は続かないと薄々感づいていながら、それを放置した私の罪なのか……?
ゼステーノの離反も、影で糸を引く【マギ】の意思も、アダマスは見透かせなかった。
無能。
かつて数え切れないほどの部下をそう切り捨てた報いを、ここで受けることになってしまうなどとは、到底受け入れがたい話であった。
「……兄さん。兄さんは、俺に嘘ばかり吐く」
兄と二人きりで話す時だけ口にする、「俺」という一人称。
それが今だけは、アダマスには酷く不気味に思えた。
なぜ海軍元帥としての立場で失敗を責めないのか、なぜ皇太子として叱責しないのか、帝には分からない。帝と唯一対等に限りなく近い立場で話せる人間こそが、タラサだというのに。
「嘘など吐いていない。タラサ、お前は怪我人なのだから安静にしていろ。戦場のことは私や子供たちに任せていればいい」
「兄さんは昔から、嘘を吐く時に早口になる。俺がそれを知らないわけないだろ?」
皇族としての立場を持たなかった少年の頃に戻ったかのような言葉遣いで、タラサは指摘した。
アダマスは言葉に詰まる。それは彼も自覚のあったことだったのだ。にも拘らず、誤魔化すのさえ忘れてしまったのは――彼のショックが大きすぎたからだ。
「……それは、」
「失敗しても隠さなくていい。どの道、皇帝がその事態を見過ごしてしまったことは、露呈するのだから」
断言してくるタラサの目を、アダマスは正視できなかった。
後ろめたさに苛まれる帝に、タラサは言葉を続ける。
「真摯に向き合えば子供たちも許してくれるさ。今は、事態の解決に当たるのが先決だ」
現れた脅威に対抗できなくて、何が【神】か。
己が世界を統べる者だというのなら、力で示してみせろ――弟の優しい言葉の裏に、【マギ】の冷たい瞳をアダマスは幻視する。
「海軍元帥タラサ・マギア――身体が完全に治るまで、貴君の出撃を禁ずる。これは帝の命令だ」
皇帝の名において弟の無茶を牽制しておいてから、アダマス帝は看護室を去った。
マントを翻して足早に向かう先は、『魔導航空機』及び魔導士のための発着台。東西南北、アイテールの四方に張り出した舞台のうち、北側に立ったアダマスは、そこから【悪魔の心臓】を黙して見下ろす。
「運命が滅びを定めるのなら、私はそれに抗うまで。運命とは、私達の意思が紡ぐ因果であり――それは人の行動の結果で変わりうるものなのだから」
*
瞬間、心、重ねて――。
トーヤとエインは共にクラシックのメロディを奏でながら、完璧にシンクロした動きでフォティアの武具の連撃を躱していく。
突き出される剣――二手に分かれて回避。
頭上から振り下ろされる斧――前のめりに転がり込み、その刃を床に突き立たせる。
前転した刹那に低く薙がれる槍は、両手を突いた状態から腕の力だけで飛び上がり、前髪を掠めさせるに留める。
最後にやって来たハルバードの一閃は、空中で二人の脚を交差させ、柄の部分を受け止めた。
「二人同時に、同じ動き――!? でも、いつまで続くかな」
フォティアの声にはまだ、余裕の色が濃く滲んでいた。
彼を護る盾と棍棒、そして、空中で弧を描いて迫り来るブーメランと苦無。
魔力を探知できるトーヤらには見えずともその二つの飛び道具を捉えられた。だが、ハルバードを受け止めたままの姿勢では避けられない。そうなれば最後、彼らの首は刃に刈り取られる。
「――――♪」
それでも、二人の身体と心は共鳴し、繋がっていた。
ハルバードの柄を互いの脚で弾き、くるくると回転させながら天井へと飛ばす。それは真っすぐには飛ばなかった。踊り上がったかと思えば翻って回転を速め、降下する。
直後――金属と金属が衝突する甲高い音が、二人とフォティアの耳朶を打った。
ブーメランと一対の苦無はハルバードの長柄に軌道をずらされ、トーヤらとは見当違いの方向へ流れていく。
床に突き刺さったハルバードは既に彼らの背後にあった。
棍棒を掴み、盾を構えるフォティアへ、トーヤは叫ぶ。
「僕たちの連携が――絆が、あなたを超える! 超えてみせるッ!」
一つの呼吸、一つの意思。
彼らの「無音詠唱」はこの時、頭の中で同時に完了していた。
自分のあり方を認め、信念を貫くための魔法――この『アイテール』に連れて来られてからの戦いでトーヤたちが得た、新たな技!
「「――【信念拳】ッ!!」」
重なる声に乗せて放ったのは、白と黒の拳だ。
流星のごとく瞬き、大盾を貫かんとするその拳撃に、フォティアは右手に握る棍棒を支え棒代わりに盾の後ろに立てる。
彼自身も、自分がとった消極的な行動に驚いているようだった。
瞳が揺れ、唇が震えている。
「僕は、強いんだ……ここで負けてしまったら、笑いものになっちゃう。僕は、ロン兄さんにだって劣らない【神器使い】なんだって……戦えるんだって、証明しなくちゃいけないんだ……!」
まず折れたのは、支え棒としての役割を果たせなくなった棍棒だった。
ふたり分の【心意の力】は、無限大の威力の増幅を実現する。
その脈打つ二色の光が強まれば強まるほど、盾が上げる悲鳴という軋みも激しくなっていく。
「終われない……いやだ、僕は、僕はッ……!」
「この天空要塞を設計したあなたは、十分優れた人間だ! 【神器使い】の価値は、何も戦いが全てじゃない! 己の使命のために力を尽くしたなら、その人は尊ぶべき存在と言えるんだ! 誰かと比べて劣ってるだとか、そんなことは言わせない!」
トーヤの言葉は意固地になっていたフォティアの心に風穴を開け、新しい考え方を芽吹かせる。
その訴えは自分が嫌いで仕方なかったエインをも救った。何かのために力を発揮できたなら、たとえ他人と違っても構わない――その努力は、その人だけのものなのだから。そこには無二の価値があり、それは誰にも汚せないものだから。
「――っ」
盾が破砕され、防御を失くしたフォティアは腹に二撃の拳を食らって吹き飛ばされる。
彼は壁際にある箱型の「制御装置」に背を打ち付け、血の混じった呼気を吐き出した。
敗北だ。だが、不思議とフォティアは悔しくはなかった。戦いが始まる前に感じていた作品が壊されたことへの怒りも、薄らいでいた。
と、次の瞬間。
「おい、ティア!」
術者が倒れて『焔の檻』が効力を失い、制御室は侵入者を素通ししていた。
青年を愛称で呼ぶ人物は、この世にたった一人の実兄のみ。
周囲を顧みずにフォティアへと駆け寄っていくロンヒに、トゥリは「素晴らしい兄弟愛だね」と状況も忘れて見入っていた。
【神化】が解除されてひ弱な青年の姿に戻ったフォティアをロンヒが介抱する中、プラグマは戦いの終わった「制御室」を眺める。
「この子たちがフォティアを? それに、ゼステーノまでも……。彼らが『アイテール』の魔力を不正に扱い、エールブルーを焼き尽くした首謀者なのかしら? でも、確かこの子は……」
「ええ、プラグマお姉様。黒髪の少年は三国同盟の【神器使い】、トーヤです。三国の中でも精神的支柱となっていると言われる彼がエールブルーへ『魔導砲』を撃つなど、支離滅裂ではないですか」
プラグマの台詞をトゥリが追って補足する。フォティアとの戦いで息を切らし、何を言う余裕もなかった少年二人に彼女は静かに歩み寄り、訊ねた。
「あそこの『魔導砲』のスイッチを破壊したのは、君たちだね?」
「は、はい。あの……ゼステーノ皇女が、あのスイッチを押して『魔導砲』を一発撃ったんです。僕たちは、二発目を撃とうとする彼女を止めようとして……」
「……すまない、少年。誰が撃ったんだって? 上手く聞こえなかったよ」
嘘である。少年から二度同じことを言われても、トゥリの耳は正しくその名を捉えていた。
――信じられない。あのゼステーノが、誰からも愛された善良な少女が、一般市民虐殺という凶行に及ぶはずがない。
理解を拒むトゥリにその事実を認めるよう促したのは、フォティアであった。
「……トゥリ、お姉様。彼の発言は、真実です。……僕は、彼女の『炉』が見せる幻に惑わされて、『魔導砲』を撃つための助力をしてしまいました。彼女に抗えなかった僕も、同罪です」
「おい、ティア! だったら悪いのは全部ゼステーノじゃねぇか」
「ううん、兄さん……僕が彼女に屈しなければ、『魔導砲』が撃たれることもなかったんだから……。僕を庇う必要なんて、ないよ」
兄の擁護を退け、フォティアは自身の過失を認める。
治癒魔法の純白の光に包まれながら、口元に血を零した青年は、トーヤたちへ首を回す。
「……ゼステーノを止めてくれて、ありがとう。それと……激昂して君たちを殺そうとしたこと、謝るよ。本当に、悪かった」
タラサが直々に捕らえ、傷つけてはならないと厳命していた捕虜を殺害しようとした罪。怒りに頭を支配され、暴力で解決しようとした浅ましさ。
フォティアは現在19歳で、「幼かった」などという言い訳など通用しない。それは彼自身が最も弁えていた。
何か言おうとする過保護な兄の口を手で塞いだフォティアは、集まった姉たちを見上げ、そして――
突如起動した壁のモニターに映し出された光景に、絶句した。
漆黒の翼を有する異形のモノたちが、無数に犇めき、エールブルーの軍港に蔓延っている。
消し炭となった街区の上空に鎮座するのは、闇よりもどす黒い繭のような物体だ。
その物体が伸ばす触手のような管から産み落とされる悪魔たちの一部は、この天空要塞『アイテール』にも接近してきていた。
「あれは――!?」
黒髪の少年は瞠目し、鋭く喘ぐ。
彼が最も恐れていた事態が、ついに現実に起こってしまった。大量殺戮の結果生まれた、人々の負の感情――それが発する魔力を糧として、【悪魔の心臓】は目覚めてしまったのだ。
「お姉さんたち、僕をアダマス帝のところまで案内してください! あれを倒すには、【神器】が絶対に必要なんです!」
懇願してくるトーヤにプラグマは苦言を呈そうとしたが、彼女が口を開くのに先んじてトゥリが一手打つ。
こうなってしまえば敵も味方も関係ない。【悪魔の心臓】を最優先に対処すべき脅威と定めた彼女は、少年たちへ呼びかけた。
「君たちの【神器】は現在、海軍元帥閣下が預かっているということだ。さあ、ついておいで」
プシュケ経由でアダマスから【神器】の在り処を聞かされていたトゥリは、踵を翻してトーヤたちの案内役を買って出た。
足早に後を追うトーヤとエインを見送り、プラグマは肩をすくめて溜め息を吐く。
「ねぇロンヒ、相手が【神器使い】から悪魔に変わっちゃったら、私の神器封じの力なんて意味なくなるじゃない。面白くないわ」
「戦況ってのは目まぐるしく変わるものです。お姉様の活躍の機会も、そのうち巡ってきますよ」
本気か気休め程度なのか判然としない口調でロンヒは呟いた。
彼は呼吸が落ち着いてきた弟の様子を見守りつつ、その心を遠い場所に向けていた。
「……きっとこれが最後の戦争になる。部下の前では言えないが、そんな予感がしてならない」
豊満な胸の前で腕を組むプラグマは、その言を不謹慎だと責めたりしなかった。
何かが変わる、何かが起こる――帝を盲信するだけだった彼女にも、それは確かな感覚として察せていた。
*
押し寄せる有翼の悪魔たちに、イルヴァ少佐は苛立ちを露に激しく頭を振る。
アイテールに帰還しようと上昇を開始し、もう少しで辿り着けそうなところで入った思わぬ妨害。
誰が何のために悪魔を目覚めさせたのか。そんなことを考える理性すら既に捨て、魔力に酔った『鬼』と化したイルヴァは、背後より迫る悪魔らへ拳撃を見舞った。
だが、黒い鯨波に風穴を開けても、そうした側から新手の悪魔が現れて不足を埋めてしまう。
「ちっ……きりがないな!」
漆黒の翼――魔力の大量摂取が齎した肉体の変化によるものだ――を生やしたイルヴァは、それを羽ばたかせて突風を起こす。
拳撃よりも広範囲の攻撃だが、それだけでは悪魔を殺すに及ばない。
『アイテール』に帰還するのがイルヴァの目標だが、それ以前に彼女はマギアの軍人として敵を討たねばならない。
5、6体で構成された小隊を複数並べ、黒い砲撃の一斉射撃を浴びせてくる悪魔たち。
彼らに対し、イルヴァは大規模【防衛魔法】を発動してそれら全てを遮断した。
「くっ……威力だけは一丁前だな」
防壁表面で連続する爆発の衝撃に、彼女はノックバックを余儀なくされる。
魔力を吸っていた際の高揚感などとうに忘れて汗を流すイルヴァは、防壁にさらなる魔力を込めていった。
砲撃が絶えず襲い来る天空の戦場。
轟音の中で一人、巨大な盾を構えるイルヴァだったが――長くは保たないだろうと自覚していた。
「敵の数が多すぎる。悪魔を生み出す源を断たなくてはならないが……この防御を止めるわけにも……!」
誰かが大元を断ってくれることを期待するしかない現状に、イルヴァは唇を噛む。
スパイとしての正体を露呈させ、ノエルを利用することでのスウェルダ軍の撹乱も一日しか持たせなかったイルヴァには、もう失敗は許されない。
「魔力が、魔力がもっとあれば……」
先程喰らった量では到底、足りない。敵の物量はそれだけ圧倒的なのだ。
彼女が冷静に己の状況を俯瞰する中、ふと。
温かい光がイルヴァを照らし――彼女は、頭がすっと冴え渡り五感も研ぎ澄まされるのを感じた。
覚えのあるこの感じは、魔力を得た際の快感に近しい。ただそれと違うのは、そこに過剰なまでの高揚感は含まれないということ。
「これは――?」
イルヴァは首を上向けた。
天空要塞より舞い降りし、一人の影。青い雷を迸らせ、黒雲を引き連れた無双の男。
彼女が信奉する皇帝、アダマス・マギアその人が、この戦場に降臨していた。
「へ、陛下! このような下劣な悪魔どもの前に御姿を晒しては、汚れてしまわれます!」
「構わん。もとより、私の覇道は血に濡れたもの。人外の血だろうが、同じことよ」
【神化】によって全盛期の姿へ若返った、青年のアダマスがそこにいた。
アッシュブラックの髪は鋏で雑に切ったような無骨な雰囲気で、青色の瞳は海を映したかのように輝いている。今よりも活力に満ちた、それでいて秀麗な顔立ちは確かなカリスマ性を醸している。
纏う衣装は黄金の鎧にマントといった、物語の英雄然としたものだ。背後には羽衣のように雷光が煌めき、溢れんばかりの魔力を放散していた。
「弾けよ、【雷霆】」
アダマスが握った拳を突き出し、開くと、手のひらの上には小さな稲光が生まれる。
始めは小さく。しかし、その成長は無限大。さながらここまでの覇道を歩んだ、アダマス自身のように。
彼の手から投げつけられた雷は、悪魔の軍勢の合間に落ちた瞬間――超新星爆発のごとく巨大化し、世界を白い稲妻で染め上げた。
「あ、嗚呼……! これが、陛下の……神の、力……!?」
爆発音の連鎖に悪魔たちの断末魔の叫びは掻き消され、そこにはもはや消し炭さえ残らない。
白い閃光が漆黒の鯨波を消滅させた光景に、イルヴァは震えた。
一息だった。彼は特別なことを何もしていない。これは、呼吸だ。アダマス・マギアにとって、百にもわたる悪魔を一掃する行為は、呼吸のように出来て当然のことなのだ。
彼に比べればイルヴァの価値など道端の石ころにも満たない。
まさしく最強、この時代で最も【神】の領域に近い魔導士――それこそが、アダマス・マギアという男。
「邪魔者、外法の衆、皆々消し飛ばしてくれよう。我が道は誰にも阻ません!」
悪魔たちにその言葉を理解できる知能はない。が、目の前にいるのが最優先で排除すべき敵であるということを、彼らは本能的に悟っていた。
吼え、一斉に飛びかかる。多勢に無勢――この状況ならば、多くは数で勝る前者に軍配が上がる。
しかし、アダマスを相手にそんな常識は通用しなかった。
「弱い、弱い……私を満足させる強者は何処にいる!? 悪魔ども、お前たちに誇りというものがあるのなら、その力で示してみせよ!」
イルヴァの防壁に達する以前に、悪魔たちは伸ばした手を爆砕されていく。
飛散するどす黒い血液、上がる濁った悲鳴。痛みに叫喚する彼らへ語気を強めて迫るアダマスは、彼らが騒ぐだけで何も為せないのだとすぐに見切りをつけ、【雷霆】を轟かせた。
「アダマス帝! それに……イルヴァ、さん……!?」
頭上から届いた少年の声に、帝もイルヴァも顔を上げた。
【神化】により白髪で黒い鎧の騎士となっているが、その顔は間違いなくトーヤのもの。
彼だけではない――ロンヒとトゥリ、プラグマ、エウカリスといったマギアの【神器使い】に、シアン、ジェード、ユーミといった三国の【神器使い】、そしてエルとエインが悪魔打倒のために共闘せんと集ってきていた。
「じ、【神器使い】が、8名も――これなら、あの数にも対処できるかもしれない」
【神化】の戦士たちが居並ぶ光景は壮観だった。鎧やローブ、マント、武具の数々は魔力の光芒を纏い、【神】の名を冠するに相応しい威容を放っている。
声を震わせるイルヴァの胸に、希望の火が灯った。
エールブルーの軍港では白い光と紅き炎が瞬き、海上でも5名の【神器使い】――フィンドラ王族の3名に加え、巨人族とダークエルフ族の長たち――が、悪魔の大軍勢との戦いに臨んでいる。
そして、立ち上がったのはもう一人。
「イヴ女王――あなたの計画を壊し、千年前からの因縁もここで断ち切るわ!」
金髪碧眼の魔女、シル・ヴァルキュリアも巨大な七色の魔法陣を上空に展開――その射程範囲、半径45メートル内にいた悪魔たちへ、死後の世界への切符を贈った。
最後の戦いが、始まる。




