26 アルテミスの矢
沖合に船首を連ねる艦隊を睨み据える、魔導士たち。
ヘルガ・ルシッカをはじめとするフィンドラの魔導士隊は浮遊魔法での飛行術で艦隊と並走、敵の砲撃に対して全魔力を注ぎ込んだ防壁を張ることで、どうにか艦を守れていた。
「しかし、我々の攻撃魔法を鼻で笑うような砲撃だな、あれは。一体どれだけの魔力を燃やしているのか……」
頬に汗を垂らすヘルガは忌々しげに唇を曲げる。
一定間隔で撃ち出される砲撃は、威力にも一切ブレがない。完全にコントロールされた魔道具でなくては為せない、規則的な攻撃だ。
規則的ならば、次弾が放たれるまでの間隙を突けば崩せるはずだ。そうしたところで敵の防壁魔法を突破できるかは別問題だが……とにかく、守勢に入ってはいられない。攻撃力で敵側が優っている分、彼らをなるべく受身にさせなければスウェルダ海軍に勝機はないのだ。
「次弾、来るよッ!!」
魔導士隊の中で最も魔力察知能力に優れるティーナが、鋭く警鐘を鳴らす。
艦隊の前方まで飛び出した彼女は巨大な防護結界を張り、その裏に二重になるようにヘルガらも防壁を展開する。
直後、瞬いた赤い閃光が防壁を撃ち――衝撃が魔導士たちと艦艇を襲った。
大きく横揺れする船は、後方に控えていた魔導士たちの重力魔法の制御によって体勢を立て直す。転覆を回避したことで何度目とも知れない安堵の表情を浮かべる水兵や海兵たちに、ティーナは空中からピースサインを送ってみせた。
衝撃に揺さぶられはしたが、逆に言えばそれだけだ。またも攻撃を防いだ魔導士たちに兵たちの喝采が上がる中、ティーナはエールブルーの港から急接近してくる何かに気づいた。
「あれは……?」
振り向いた彼女の目に映るのは、二つの人影。浮遊魔法による高速飛行で瞬く間に艦隊との距離を縮めた彼らは――ティーナもよく知る【神器使い】たちであった。
純白の長髪を靡かせ、黒い鎧と赤い裏地のマントという装備の少年。彼と共に飛翔するのは、透明に近い白髪を流し、天女の如き羽衣を纏った少女だ。
「トーヤきゅん! ミラ陛下!」
頼れる増援にティーナが歓喜の声を上げる中、艦上でも女王の登場に兵士たちが沸き立っていた。
女神のような優美さと放つ魔力の威容に、彼女の臣民たる兵たちは一様に跪く。
「そういう儀礼はいらないわ! 貴方たちは私を仰ぐのではなく、敵艦だけを見据えていなさい!」
戦場での余所見は破滅の引き金となる。それを弁えている女王は、長らく戦争を経験せずに弛んでいた兵たちを叱咤した。
ここにもマギアとの差が出ている、と彼女は内心で溜め息を吐く。マギア兵たちは戦争慣れしている上に、『帝』という神にも等しい象徴の下で戦っている。彼らの士気の高さの要因は帝への「信仰」であり――骨の髄まで染み付いたそれが揺らぐことは、決してありえない。
ある意味ではマギアは宗教国家といえるかもしれない。「思想」の力は人を縛り、その道を一本化する。
その点で三国側は様々な意志を持つ者を内包する分、劣っているのかも――ミラはそう思いかけるが、すぐにそれは違うと改めた。
(幾つもの考え方があって、多岐にわたる生き様というものがあって……その共同体が国なんだわ。無理やり一つに纏める必要なんかない。一つだけが正しさなんて、認めたくなんかない)
「私の【光の細剣】が放つ光線の射程は、理論上は遮蔽物がなければ際限がないわ。もちろん、込めた魔力が少なければ短くなるけれどね」
敵艦との距離は約四キロメートル。それだけの離れた相手に攻撃を届かせられるのは、ミラの光魔法以外にないだろう。
そうであるならば、トーヤの役割も自ずと決まってくる。
「僕は君のサポートをする、ってことだね。君に魔力を分け与え、敵の位置を把握し、照準を合わせる補佐をする」
「言わなくても理解してくれる辺り、流石ね。私の次の副官に迎えたいくらいだわ」
「それはどうも。でも、そういう仕事の割り振りは戦争が終わってからだよ」
黒い影として見える艦隊を魔道具の眼鏡型の望遠鏡で観察しながら、トーヤはそう確認した。
上機嫌に頷くミラに彼は苦笑を返し、そして彼女の左腕にそっと触れた。
人から人への魔力の伝達を最も効率よく行うには、肉体の接触が欠かせない。直接力を送り込むことで、空気中を介するよりも純度の高い魔力を相手側は得られるのだ。
「――変に意識しなくていいからね」
「ばっ、馬鹿じゃないの!? 私は女王になったのよ、そんな気持ちに左右されるような乙女は卒業したの!」
トーヤが念のため忠告しておくと、ミラは顔を真っ赤にして叫んだ。
どうだか、と内心で呟きつつ、少年は意識を己の腕と両眼に集中させていく。
レンズ越しに望める敵艦隊の並びは壮観だ。その威容はまさに魁偉。水平線を縁どるように巨大な艦が横列展開し、魔導砲の掃射を浴びせかけんとしている。
(10、20……その後ろにも、もっと。あれだけの数が一斉射撃してきたら、数時間も経たないうちに艦隊が二つ壊滅するのも頷ける)
待機している第四艦隊、及びエールブルーの軍港はグリームニルが守っている。
港を破壊されれば補給も、艦隊の帰還も不可能になってしまう。そして敵の砲は、港を蜂の巣どころか文字通りの木っ端微塵にする威力を有していた。
鉄壁を誇るグリームニルの防壁は港一帯を覆い隠すように展開されており、いつ急迫するか知れない敵の攻撃に備えていた。
(こちら側が前へ出ていることで、敵は安全マージンを取るために後退している。敵側の指揮官は冒険をしない主義みたいだ。なるべく損害を出したくない……そんな優しさが見て取れる)
トーヤは敵の指揮官の性格をそう分析した。
もしかしたら話し合いでどうにかなる相手なのかもしれない、とも思った。が――まだそんな交渉を持ちかける時機ではない。こちら側はあくまで攻勢にあらねばならず、後ろ向きな行動に出た時点でそこに付け込まれてしまう。交渉するなら敵に損害を与え、弱みを握る必要があるのだ。
「ちょっとトーヤ! 何考え事してるの、どの辺を狙うべきかちゃんと教えなさいよ!」
「ご、ごめん! えっと……右80度のところをぶち抜いてくれるかな」
口を尖らせるミラにトーヤが指示を出すと、神化で白髪となった女王は不敵な笑みを浮かべた。
「旗艦をやろうってのね。そういう大胆なの、私の好みだわ」
「そこにダメージを与えれば敵側は確実に動揺する。彼らの一糸乱れぬ動きも、少しは攪乱できると思ってね」
「任せといて! 一発でかいの当ててやるわ!」
淑女には似合わない獰猛な笑みを口元に刻み、ミラは肩の高さに構えたレイピアを前方へ突き出した。
狙いを定め、魔力を【神器】の先端へと集束させていく。
どくん、どくんと脈打つ鼓動。上昇する体温は戦場での興奮によるものなのか、それとも少年に触れられているからなのか――正直、ミラにはどちらでも構わなかった。
今、果たすべき使命に真摯に向き合う。それだけだ。他には何もいらない。
「もっと、もっと魔力を頂戴! 遠慮なんていらないわ、私の身体が壊れる限界まで注ぎ込んで!」
「――うん!」
無茶を言っているとミラは自覚している。だが、それくらいしないと勝てない相手だということは、彼女も少年も承知していた。
二人は気持ちをシンクロさせ、【心意の力】による威力の増幅を図る。
女王が口ずさみ始めたクラシックの調べに少年が追随し、そのハーモニーと同時に二人の魔力も共鳴していった。
「そろそろかな、ミラ!?」
「ええっ、いつでも撃てるわ!」
体内に渦巻く魔力は、手綱を離した途端に暴走する暴れ馬のよう。
それを意思力で懸命に制御しているミラは、額に脂汗を浮かべながらもトーヤに答えた。
彼女の了承を得たトーヤはクラシックの最後の一節を歌い上げる。彼は敵旗艦の砲台へと照準を固め、ミラの背後から腕を回してレイピアを握る彼女の手首に手を添え、角度の最終調整を行った。
「いくよ――発射ッ!!!」
少年の号令で【神器】より放出される極太の光線。
空気を貫いて一直線に敵艦隊の正面中央、旗艦へと突き進むそれを見送り、二人の【神器使い】は攻撃の成功をただ祈った。
「行けっ……!」
「お願い……っ!!」
が――その光線は、敵旗艦前方に出現した防壁魔法によって遮られる。
緑色に輝きを放つ光の壁。命属性の温かな魔力を宿すそれはミラの攻撃を受け止め、吸収し、一切の痕跡を残すことなく消えていった。
「何よ……私の、私たちの攻撃が、あんなに簡単に防がれるなんて――」
敵側もミラたちの姿を確認し、攻撃に備えていたことくらいは分かる。だが、そうであったとしても、全く魔法が通らないとは想定していなかった。
信じられない。が、これは紛れもない事実なのだ。
【神器使い】の全力を防げるほどの防御力。それを成せる存在は、同じ【神器使い】以外に有り得ないだろう。
少年がそう推測する中、マギアの旗艦に乗船していたその防壁を展開した当人は、受けた魔法の威力に感嘆の声を漏らしていた。
「やりますわね、あの子たち」
緩くウェーブのかかった豊かな栗色の長髪を流す、垂れ目に泣きぼくろが特徴的な美女。
軍服に押し込められたたわわな果実は、その【神器】が司る「豊穣」を象徴しているかのようだ。その身体もエウカリスやモナクスィアと違い、筋肉質というよりは丸みを帯びた女性らしい肉付きであり、一見して軍人とは思えない。
貴族然とした佇まいの彼女の名は、カロスィナトス・レ・マギア。女神デメテルの【神器使い】である、静かなる実力者である。
「ありがとう、カロスィナトスお姉様。お陰で艦が沈まずに済んだよ」
「私は私に出来ることをやったまでですわ。私がいる限り、この船が破れることはありません。安心して攻めてくれてもよくってよ」
謙遜しながらも、積極的な攻勢に出ないカタロンへの不平を滲ませるカロスィナトス。
そんな彼女に橙黄色の髪の少年は、「まぁまぁ」と宥めて話しだした。
「敵の艦隊を二つ壊滅させたんだ。そう焦ることはないよ……現に、彼らの【神器】による攻撃はお姉様の防壁を突破出来なかったんだ。冒険するよりも、堅実にやった方がいい。失敗してオレらの名に泥を塗りたくはないでしょう?」
「た、確かにそれは頷けますが……それにしたって、ですわ。帝の血を引く男子が、そのような及び腰で恥ずかしくありませんの?」
「やだなぁ、お姉様。オレはカタロンだよ、『帝の息子』とかいう記号じゃない」
オレはオレのやりたいようにやる――そう主張を突き付け、カタロンはそれで話を切り上げた。
カロスィナトスの不満は払拭されなかったが、この場のトップを務めるのはカタロンである。彼に真っ向から反論することは、差し控えるほかなかった。
カタロンの「アポロン」、エウカリスの「アルテミス」、プシュケの「ヘルメス」、そしてカロスィナトスの「デメテル」――この旗艦には四人の【神器使い】が乗っている。
戦闘に向かない能力者のプシュケを除いても、三人。敵側に現在確認された【神器使い】を抑えるには充分な数だ。
加えて、帝やモナクスィアをはじめとする残りの【神器使い】たちも逐次合流することになっている。
「恐れこそが最大の敵よ、エウカリスちゃん。貴女の偉大なお兄様を信じなさいな」
「え、ええ。当たり前です」
妹の表情から不安を見て取ったプシュケは、彼女の背中をポンと叩いて言う。
そんな兄につっけんどんな声を返すエウカリスの目は、前方の上空にある二つの人影に釘付けとなっていた。
「そんなに気になるなら射ってみたら? 【神器使い】相手なら、無駄撃ちにもならないでしょ」
「そうだね。敵の防御力、対応能力を見たい。まずは一発、仕掛けてみようか」
プシュケの提案にカタロンが了承する。
あとはエウカリスの意思次第だったが……兄たちから期待の目を向けられてしまえば、いつまでも不安なままではいられなかった。
「――やりましょう。百発百中のアルテミスの矢で、あの少年たちを射つ」
濡れ羽色の髪をした皇女は、毅然とした口調で言い切った。
彼女は背に掛けていた弓を構え、夜闇の如き漆黒の矢を番える。
狩猟神がもたらす加護は、四キロもの距離でも獲物をくっきりと捉える視力をエウカリスに与えていた。意識を集中させた一時のみだが、それでも十分すぎる。
優れた空間認識能力で彼我の距離感を把握した彼女は、敵の二人が目の前にいるものとして弓矢を引き絞った。
「……お手並み拝見!」
「――危ない、ミラッ!!」
喉が張り裂けんばかりのトーヤの警告が、ミラの耳朶を震わせた。
空中で自分を突き飛ばした少年に、彼女が訳も分からずにいる中――彼の槍は、飛来した矢の柄の中央を打ち払う。
甲高い音を上げて弾かれ、海面へと落下していく黒い矢。
まさかこの距離を矢が飛んでくるなんて――瞠目するトーヤに追い打ちをかけるように、緻密に計算されたタイミングでの第二射が放たれた。
「っ、間に合わな――」
少年の人並み外れた聴覚は、その矢が風を切って飛来する音を捉えていた。
だが身体が間に合わない。第一射を打ち落としてから、逆方向の左側より迫る矢を弾く動作への移行が、追いつかない。
「あがッっ!?」
激痛と衝撃がトーヤの左肩を射抜いた。
突き刺さった矢は瞬間、先端に仕込まれた毒液入りの嚢を破裂させ、少年の身体に速効性のそれを巡らせていく。
「と、トーヤ! 今助けるわ!」
防壁魔法で自分とトーヤを覆い隠し、ミラは傷を負った彼を救護しようとした。
が――突如、二人の頭上に白き魔法陣が出現し。
そこから登場した一人の少年の微笑みに、ミラの背筋は凍りついた。
「やぁ、スカナディアの【神器使い】たち。オレと勝負しようよ」
橙黄色のふわりとした豊かな髪に、中性的な相貌。体躯は華奢に見えるが、晒されている白い腕や脚は引き締まった筋肉質だ。
浮遊魔法で空中に留まり、ミラたちを見下ろす彼が持っているのは、陽光のごとく輝く波状剣。それが放つ神威、そして見た目の特徴から、ミラは彼がマギアの【神器使い】――カタロンだとすぐに悟った。
「【太陽の寵児】、カタロン……!」
「おや、オレがここにいるのが意外だって顔してるね。皇族の中でも年少のオレが、なぜこんな最前線にいるのか……疑問に思われても当然だろうさ」
そう見られるのに慣れたふうにカタロンは言うが、ミラはそれどころではなかった。
トーヤは彼女の腕の中でぐったりと動けなくなっている。恐らくは麻痺毒にやられたのか――彼の身体は石と化したように硬直してしまっている。
人ひとり抱えて戦い抜かねばならないという試練を、ミラは押し付けられてしまった。それも、自分がエウカリスの矢に気づけなかったせいで。
失態が最悪の状況を引き起こした。仲間は動けず、敵は目の前にいる。
――失敗を埋め合わせるには、ここでカタロンを討つしかない!
先程マギア旗艦へと大魔法を放ったために、彼女の魔力は最大値の半分以下まで減っている。それも、トーヤがいなければ恐らくは全て消費してしまっていただろう。
「トーヤ――貴方の頑張り、無駄にはしないわ!」
柳眉を吊り上げてこちらを睨み据えてくる赤髪の女王に、好戦欲を刺激されたカタロンはニヤリと笑った。
「面白いじゃん。君の本気、見せてごらんよ!」
皇子の全身は眩い光に包まれていく。【神化】を遂げていくその光景に目を細めながら、左腕で少年を抱えるミラはレイピアの照準を敵へと合わせた。
騎士道など重んじる必要はない、【神化】している今が好機!
バルドルの光線が皇子の胸を穿たんと肉薄する。
文字通りの瞬く間にカタロンへと命中した光の細剣。回避も許されない刹那に、じゅわッ、と肉が焼け焦げる音が上がる。
――捉えた!
狙いがずれていなければ、致命傷を負わせられたはずだ。
だが【神器使い】が一発で倒れるなど甘い見込みだ。ミラは再度【光の細剣】に魔力を充填、最短の蓄積時間で次弾を射出する。
「これでどうよ!?」
光条が息つく間もなく連射される。
【神化】による魔力の輝きに包まれる相手の様子は分からないが、攻撃は確かに命中していた。何条もの光線に撃たれれば蜂の巣になるのは不可避だろう――と、ミラは思っていたのだが、
「オレがわざわざ君の前に出たのは何故か。その少年だけを無力化させたのは何故か。魔導士としての教養があれば、深く考えずとも分かる話だよ」
光の膜が霧散し、姿を現したカタロンは、【神化】を遂げる前と変わらぬ口調で言った。
橙黄色の髪や露出の多い衣装はそのままに、頭に月桂樹の環を被った少年はその表情に失望の色を滲ませる。
魔道具は自身が含有する属性と同属性の魔力を吸収できる、という性質を持っている。そしてその特性は、魔道具による効果が及んだ人物や物体にも適用されるのだ。
つまるところ、カタロンに光属性の魔法は効かない。そして、ミラが扱える魔法は【神器】をもって発動できる光属性のものしかなかった。
「そんなっ……さっきだって、手応えはあったはずなのに――」
「まぁ、いくら吸収できるとはいえ【神器】の攻撃を受けて無傷ではいられないよ。身体の所々を火傷してしまったけど、このくらいは後で簡単に治せるからね。戦況に影響を及ぼすものじゃない」
悠然と語るカタロンにミラは歯噛みした。
それでも毅然と顔を上げ、彼女は強気に言ってのける。
「勉強不足だったのは認めるわ。でも、じゃあそっちだって条件は同じじゃない。貴方の【神器】も光属性なんだから、お得意の魔法は通用しないんじゃなくて?」
「強がりは止めなよ。【神器使い】以前にオレは魔導士だ。それに……剣術だって嗜んでる。君が所望するなら、剣だけで戦ってあげてもいい」
【太陽の寵児】は不敵な笑みを浮かべ、その緋色の波状剣の切っ先をミラへと向ける。
脂汗を額に滲ませる王女はレイピアの柄を握り締め、唸るように答えた。
「敵にハンデを負わせるなんて情けないけど……貴方がその条件で戦ってくれるなら、歓迎だわ」
「決まりだね。さぁ――斬り合いだ」
カタロンの波状剣が光輝を帯び、太陽を具現化したかのような灼熱を発生させる。
光に縁どられた皇子を見上げ、少年を左手に抱えた女王は無謀なる剣戟に臨んでいった。




