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黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
最終章【傲慢】悪魔ルシファー討伐編/マギア侵略編

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17  黒き疾風

 王都ストルム)を覆っていた「耐魔法防壁」が解除されたのを好機と見なし、フィンドラの戦士たちは王宮への突入を開始していた。

 ルノウェルスの第三旅団もこれに加わり、阻むスウェルダ兵たちとの交戦がここに勃発する。

 夜の静寂は途端に喧騒へと転じ、魔導士たちの魔法の光も入り混じって戦場という血の舞台を演出していく。

 

「あはっ、カチンコチンにしてあげる♡」


 西の通りから進軍するルノウェルス軍に対し、スウェルダ側は城壁での迎撃を選択した。

 高さ五メートルに及ぶ壁に陣取った弓兵や高所からの投石器による攻撃は、過去の戦争ならば猛威を振るっただろうが――悲しいかな、時代は先へ進んでしまっている。

 浮遊魔法を用いる魔導士たちに、彼らは高さでアドバンテージを得られない。

 蠱惑的な笑みを浮かべるケルベロスの吐息で眼下の兵たちは一瞬で凍りつき、それを目撃した味方の兵たちの中には恐れをなして逃走する者も少なくなかった。


「城壁だって? そんなのでオレを邪魔できると思うなよ!」


 白銀の槍となって突撃するのは、リルだ。彼の突進は分厚いレンガの壁に風穴を開け、突入した側から手当たり次第に敵兵を爪牙で切り裂いていく。

 リオとオルトロスの風の砲撃が、ヴァルグの死霊術ネクロマンス)が、ティーナとヘルガが咲かす氷の華たちが――その城壁を穿ち、砦としての機能を奪い去っていった。


「おいおい、これじゃ俺たちの出番なんてなくねぇか?」

「気を抜くな。我々には彼らが突破した後に、制圧を磐石にする役割がある」


 兵の一人がそうぼやくが、指揮官は彼を冷静に咎める。

 時代の流れで兵の役目は変わる――それを理解した上での発言だったが、自分たち非魔導士の活躍の場が減っていくことに寂しさを感じないわけではなかった。


「ぼさっと突っ立ってる場合じゃないぞ。突破口は開かれた――さあ、行けッ!」


 魔導士や「怪物の子」らが開けた城壁の穴へと、歩兵たちも侵入を開始する。彼らを阻もうと敵兵がそれらの穴に集中する隙に、数で勝るルノウェルス軍は次々に壁へ梯子をかけ、乗り込んでいった。


「順調ですね。私たちはノエルがいるであろう『玉座の間』を目指しましょう」


 エミリア・フィンドラの言葉に、エインは静かに頷きを返した。

 彼らは浮遊魔法で王宮の一室の窓へと向かい、そのガラスを蹴破って侵入を果たしていた。

 

「ここまで俺を運んでくれてありがとう、エイン。重かっただろう」

「いえいえ、そんなことないですよ。【ヴァルキリー・飛翔型】の筋力補正があれば、多少の重みなんてないも同然ですから」


 浮遊魔法を習得していないカイ・ルノウェルスは、エインに横抱きにされてここに来ていた。

 自分より小柄な少年に持ち上げられていたのは妙な気分ではあったが、青年は素直に感謝する。

 エインも笑って応じ、それから部屋をぐるりと見回した。

 机が幾つか置かれ、壁際には書棚が並んでいるこの部屋は執務室だろうか。埃を被っていない床や整然と配置されているインテリアに生活感を覚えながら、エミリアはドアを開けて廊下を覗く。


「……誰もいないようです。行きましょう」


「はい。ところで殿下、『玉座の間』の場所はお分かりになられているのですか?」


 彼女に続いて執務室を飛び出し、エインは訊いた。

 エミリアはその問いに首を横に振る。この王宮に訪れたことは何度かあるが、実際に彼女が『玉座の間』の床を踏んだことはない。彼処あそこ)は王と限られた臣下のみ立ち入りを許された特別な場所なのだ。部外者に宮殿内の地図が渡されることは当然なく、エインたちはこれから手探りで『玉座の間』にたどり着かねばならない。


「時間のロスは否めない。しかし……感じるでしょう、魔力の高まりを。恐らくノエル・リューズが発しているであろう、この魔力の反応を辿っていけば、必ず着けるはずです」


「ええ。急ごしらえのチームですけど、ぼくたちならノエルにだって勝てる! ね、カイ陛下」


「ああ。……だが、心配なのはトーヤとエルだ。ミラ王女を助けられただろうか……」


 当初は、この三人にトーヤとエルを加えた五人でノエルとの戦闘に臨むはずだった。

 だが、トーヤたちが中庭で黒ローブの魔女に捕まっているミラ王女に気付き、二人は彼女を救出するべく飛び出していってしまったのだ。

 そのローブの魔女の姿は遠目にしか確認できなかったが――エインはその正体がシル・ヴァルキュリアではないかと思わずにはいられなかった。


 ――勝つんだ、トーヤ君。エルさん。


 彼らならシルを呪縛から解き放てるのだと、エインは信じている。

 この戦いが終わった後、トーヤたちや元の人格に戻ったシルたちと一緒に集まって、穏やかな団欒の時を過ごすのだ。

 それはきっと叶う。叶えてみせる。


「大丈夫。トーヤ君たちなら、どんな悪にだって打ち勝てるよ」


 エミリアもカイも、同じだけの信頼を彼らに向けている。首肯する彼らは魔力の導きに従い、階段を駆け上がって上階を目指していく。


 

 魔法陣の中心が眩く輝きを放ち、トーヤたちを殲滅せんと魔力弾を撃ち出さんとする。

 視界を虹色に染め上げる八つの魔法陣を見上げ、エルは防壁魔法を展開するが――魔力が足りない。

 さっきまでの軽い攻撃でも防壁に亀裂が入るほどだったのだ。あれは防げない、彼女は否応なくそう確信してしまう。


「うふふっ……さようなら、坊やたち」


 女王からの別れのみことのり)が贈られた。

 イヴは微笑んで彼らを見下ろし、そして目を閉じる。子供が消し炭になる瞬間など、見たくはなかったから。

 が――聞こえてきたいなな)きに彼女は瞼を引きちぎった。

 

『ヒヒィィィィイイイイインッッ!!』


 轟く馬蹄音。眼下に横切る漆黒の影。

 

「スレイプニル!? どうして――」

「――乗って、エル!」


 少女の驚倒の声を遮って少年が叫んだ。

 エルの腕を掴んで黒馬の背に飛び乗ったトーヤは、駆けつけてくれた彼に感謝しながらその手綱を握る。


「さあ、駆けるんだスレイプニル!」


 言われずともそのつもりだ、とでも言うようにスレイプニルは鼻を鳴らして応じる。

 射出される魔弾が地面を抉るのを背後に、黒馬は全速で疾駆していった。

 耳をつんざく破裂音。爆風が彼らを突き飛ばそうとしてくるが、異形の馬の強靭な脚には些事に過ぎない。

 中庭の端で縮こまっていたミラ王女をすれ違いざまに【浮遊魔法】ですくい上げたエルは、自分の後ろに彼女を乗せた。


「あ、ありがとう――」


 足跡が即座に魔弾によって塗りつぶされるギリギリの逃避行。

 一瞬でも遅れれば死ぬ――そんな極限の状況下にありながら、トーヤは声を上げて笑っていた。


「ははっ、あははははははっ!? こんな愉快で危険なレース、前代未聞だ! いいねっ、予測不可能な戦いほど、面白いものはないよ!」


 頭のネジが外れたように笑いが止まらない少年だったが、その眼は酷く冴え渡っている。

 手綱を繰り、障害物を的確に避けて最速の走りを実現する彼とスレイプニルのコンビネーションは、完璧だった。

 中庭の端まで達するのに、あと20メートル。このままでは壁にぶつかってしまう、とミラが危惧する中、トーヤは――


「皆、頭下げてッ!」


 突っ込む先は渡り廊下の先、建物内への入口だ。

 少年の指示に無条件に従うと、直後、天井が頭上を掠めていく。

 廊下に飛び込んですぐに手綱を引っ張り、スレイプニルを停止させたトーヤは背後を振り返って息も切れ切れに言った。


「ノエルが、この宮殿内にいる限り……あの人は、ここを破壊する火力の魔法を撃てない。傲慢の悪魔が攻撃に巻き込まれることを、彼女は望まないはずだ」


「……ひとまず、助かった、ってことかしら?」


「いや、油断はできないよ。あれだけの大魔法を撃った直後だから、彼女が転移魔法でいきなり僕らの目の前に出てくることはないだろうけど、宮殿内に入ってきて追ってくるのは確実だ。どこか身を隠せる場所に、急いで逃げたほうがいい」


 安堵に表情を緩ませるミラを、トーヤはきっぱりと否定した。

 先に下馬した彼は少女二人が降りるのに手を貸しながら、焦燥を孕んだ声音で言う。

 走り出す少年の後を、エルはミラの手を引いて追う。スレイプニルをこの場に乗り捨てることになるのは心苦しいが、神が遣わしたこの馬はどんな怪物よりも頑強だ。きっと、生き延びてくれる。


「私たちの消耗は激しすぎて、ノエルさんとの交戦はすぐには出来ない。君の言うとおり、どこかで魔力と体力の回復を済ませないといけない。ミラ殿下、それに丁度いい場所を知りませんか?」


「三階の医務室か、もしくは地下牢か……近いのは地下牢だけど、休むならベッドのある医務室かしら」 


 エルから訊ねられてミラは該当箇所を口にするが、すぐに頭を激しく振った。

 分かり易すぎる。敵が宮殿の地図を記憶しているとは考え難いが、簡単に当たりを付けられてしまう場所だ。

 

「――私についてきて。隠し通路を使うわ」


 宮殿や城には往々にして、攻め込まれた際に要人を逃がすための隠し通路が設計されている。

 それはシル・ヴァルキュリアが場所を割り出すのも不可能な、限られた者しか知りえない秘密の抜け道だ。

 突き当たりの階段を駆け上がり、廊下を走り抜け、ある一室にミラは潜り込む。

 窓から差す月光が浮かび上がらせるのは、幾つも配置された書棚。少し古びた紙の匂いが充満する、広々とした部屋――図書室である。


「こっちよ」


 少年らに手招きしながらミラは本の森の中を縫って歩き、壁際のある一点で立ち止まった。

 棚から一冊の書物を引き出し、そうして空いた隙間に手をねじ込む。

 カチリ、と小さく解錠音が鳴ったのを確かめ、彼女がその棚を両手で押すと――先程まで棚の側面が隠していた壁面に、かなり横幅の狭い扉が露になった。

 

「これが、隠し扉……。僕なら入れそうだけど、二人は――」


「な、何よっ、私たちが太ってるって言いたいの?」


「い、いや、そういうわけじゃなくて、えっと……」


 トーヤの視線は遠慮がちに、少女二人の発育のいい胸部に向けられる。

 途端に顔を真っ赤に染めるミラと、苦笑してみせるエル。

 これは失言だったか、と俯くトーヤに、エルは「まあ行けるでしょ」と気楽な様子だった。

 率先して横向きで通路へと身を滑り込ませ、彼女はその先の暗闇へ進んでいく。


「大丈夫、何とかいけそうだよー」


「じゃあミラ、お先にどうぞ」


 あのダンスパーティの夜のように砕けた口調で促してくるトーヤに、ミラはまだ収まらない頬の紅潮を意識しながらも頷いた。

 彼女はドレスの裾をちょこんと摘み、恐る恐る通路に足を踏み入れていく。胸が壁と擦れてしまう不快感に顔をしかめるが、側に彼がいてくれるならと我慢する。

 その後から細身の少年が難なく続き、短い通路を抜けた三人は小部屋へと到達した。


わたくし)が回復魔法をかけてあげるから、とりあえず適当に座ってて」


 ミラが壁に設けられたボタンを押すと、ガタンと音を立てて棚が元の位置へ戻っていき、同時に室内にランプの光が点った。

 二人は乱雑に置かれていた丸椅子に掛け、王女からの施しを静かに受けていく。

 バルドルの【神器】であるレイピアの切っ先に灯る白い光がトーヤたちの肌を撫でると、徐々にだが彼らの体力、及び魔力が回復していった。

 魔力回復による頭の冴えを感じつつ、トーヤはミラへ素直に礼を言った。


「ありがとう、ミラ。すっかり【神器】を自分のものに出来てるみたいだね」


「どういたしまして。貴方たち先達に追いつくために、公務の傍ら必死に練習してきたのよ」


「本当に凄いですよ、ミラ殿下。いやー、最近の【神器使い】は早熟で驚いちゃうね」


 トーヤに褒められてどうしようもなく胸が高鳴ってしまうのを、ミラは自覚していた。

 国の危機という状況にありながら、側にいる少年に触れたくてたまらなくなる。

 トーヤにはエルがいると分かっていても、危地に駆けつけてくれた勇ましい姿を見てしまえば、再燃する恋心を押さえつけるのも厳しかった。


「……あのね、トーヤ、エル。一つ、伝えておきたいことがあるの」


 その恋は許されない。王家の女性が、異邦の血の混ざった男性と結ばれることなど有り得ないのだから。

 ミラはぐっと唇を噛み、そして話題を変えた。

 

「イルヴァ少佐、って知ってるかしら」


「う、うん。三国会談の時に少し話したよ。彼女がどうかしたの?」


 首を傾げるトーヤが続きを促す中、ミラはそれを言葉にするのを躊躇ってしまった。

 最も信頼していた副官が、実はマギアのスパイだった。当人とノエルとの会話の中で判明した事実を、ミラは未だ受け止めきれずにいた。

 どう気持ちに整理をつけたら良いのか、分からない。

 王女の親衛隊長に任命された時の張り切った顔も、何気ない日常でこぼした笑い声も、【神殿】を戦い抜いて共有した歓喜と達成感も、全ては計略のうちだったというのか。

 紡いだ絆を信じていたのはミラだけで、彼女は利用されていたに過ぎなかったのか。


「あの子ね……私に嘘をついていたの。イルヴァ少佐の正体は、『魔導帝国マギア』のスパイだった」


 彼女の告白にトーヤもエルも、絶句していた。

 味方の裏切りによる痛みや喪失を知らない少年たちには、即座にかける言葉を思いつくことさえ出来なかった。

 その反応を承知の上で、ミラは感情を吐露していく。


「彼女はスウェルダを裏切って、ノエルに手を貸した。牢に囚われた私に会いに来てくれた時、彼女は深く語らなかったけど、きっとノエルに脅されて仕方なく彼に従ってるのだと思ってた。だって、あんなに辛そうな顔をしているイルヴァなんて、一度だって見たことなかったんだもの……。でも、現実に彼女はマギアのスパイであって。……私、もう何を信じたらいいのか分からない」


 声が震え、涙が混じるのをミラは堪えられなかった。

 グリームニルを救おうとミラに縋った彼女の意思が本物だったと、あの時の彼女は疑わずに思っていた。だから力を貸した。自力で回復していた少年と同盟を組み、三人でノエルを討とうと熱意を燃やした。

 ――疑いたくなどない。だが、疑うしかないのだ。

 王女と敵国のスパイという隔絶された立場にいる彼女らの関係が修復することは、この先も恐らく有り得ないのだから。


「ミラ……ミラはイルヴァさんのこと、好きだったんだよね」


「……え、ええ。誰よりも信頼していたし、一緒にいて一番自然体になれる人だった。出来ることなら、離れたくなんてなかったわ」 


 掠れた声で訊ねてくるトーヤに、ミラは偽らざる本心を明かした。

 その答えにエルは弓なりに目を細めて、穏やかな声音で言った。


「その気持ちを尊重してください。一個人としてイルヴァ少佐のことが好きだという想い――それを少佐にぶつけるんです。何を信じるかを決めるのは、彼女から真意を聞き出してからでいい」


 もしかしたら、エルの言葉は甘いまやかしに過ぎないのかもしれない。そんな感情論が通用するとは限らない。

 だが、ミラは――その「好き」を信じたかった。

 また彼女に会いたい、共に生きていきたい。その思いを確かに抱いた彼女は、エルとトーヤに深く頷いてみせた。

 

「そう、ね……。私、イルヴァと向き合ってみるわ。そのためには、ノエルから彼女を取り返さないといけない」


「えっ、イルヴァさん捕まっちゃったの!? なんで……まさか、謀反したとか?」


 驚愕する二人にミラは事の顛末を語った。

 彼女が話すイルヴァの行動には、マギアのスパイらしい一貫性が見られず、エルは困惑の表情を浮かべるしかない。

 そんな彼女の隣で、トーヤは「これは推測だけど」と前置きしてから呟く。

 

「きっと、イルヴァさんは迷っていたんだと思う。マギアのスパイとしての立場と、ミラへの想い――その狭間で、揺れていたんじゃないかな。ノエルさんに反旗を翻したのは、彼がマギアの障害となり得るからで……」


「――ちょっと待って。今、この時期にイルヴァさんというスパイが派手に動き出したってことは、マギアにも何か思惑があったわけだろう? 彼女がノエルに手を貸した結果、スウェルダの王位は簒奪されて大混乱が起こっている。マギアがそれを望んだのは、つまり――」


 そこから先は言わずとも悟らざるを得なかった。

 魔導帝国の侵略が寸前まで迫っている。

 ノエルという敵を内部に抱えたまま、三国は外敵と戦わねばならないのだ。


「板挟みの現状から脱却するには、一刻も早くノエルを討たなきゃいけないわね。マギアに上陸される前にノエルを始末できれば、海での迎撃も間に合うかもしれないわ」


 決意を胸にミラ・スウェルダは立ち上がる。三国の未来を守るために、彼女は剣を執ってノエルへ抗っていく。

 同じ意志を掲げる少年少女と共に、彼女は隠し通路を出るとノエルのいる『玉座の間』へ急行した。



「……あれは、シルか?」


 同じ頃。

 ノアは王宮上空に【転送魔法陣】を発動し、浮遊魔法でその場に留まって眼下を俯瞰していた。

 城壁にて両軍の兵たちが交戦する光景を眺める彼女が視界の端に捉えたのは、黒ローブの魔女。見覚えのある姿に思わず声を漏らす中、中庭に佇むその女もノアに気づいたのか空を仰ぐ。


「あら、ノアじゃない。正義感に唆されてここまで来たのかしら? 相変わらずね」


 シルの声は兵たちの喧騒が響いてくる最中でも、よく通っていた。

 その口調に色濃く滲む「イヴ」の気配にノアは唇を噛む。

 

(姉さんこそ変わっていない。リリスが悪魔を生み出すきっかけとなった、【原罪の魔女】……ここで倒し、シルの呪縛を解く!)


 親友の肉体に憑依している女に、ノアは腰に佩いた剣を抜く。

 鯉口を切る擦過音が高らかに鳴り、鋭い銀閃が満月を背後に輝いた。


「姉さん――いざ、勝負!!」 

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新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
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