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黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
最終章【傲慢】悪魔ルシファー討伐編/マギア侵略編

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12  優しい真意

「んた……あんた……聞こえてるかい、あんた!?」


 体を揺さぶられている感覚に、少年は覚醒した。

 瞼を開け、まだ焦点の合わない目を瞬かせる。

 聞こえてくるのは女性の声。視界にぼんやりと映るのは、緑の髪と白い顔の輪郭だ。

 

「……あな、たは……?」


 彼の意識が戻ったことに安堵するように、その女性は吐息する。

 何度か瞬きするうちにはっきりしてきた目で確かめると、彼の顔を覗き込む女性は非常に整った顔立ちであることが分かった。

 瞳の大きな吊り目に高くシャープな鼻、控えめに紅を差した薄い唇。

 ――刃物みたいだ。

 そんな率直な感想を少年は抱いた。


「私はノア。トーヤに頼まれて、フィンドラ陣営に協力してる魔導士さ。直接話すのは初めてだったね」


「――っ、ノアさん。あの、ぼく……えっと……」


「その機械が魔力切れを起こして、あんたは上空から落下したんだ。あたしが受け止めてなかったら死んでたよ、あんた」


 まだ意識が混濁しているらしいエインに、ノアは静かに説明した。

 敵の【転送魔法陣】を破壊した際に起こった爆風により、周辺にいた怪物たちは木っ端微塵となった。ノアはその中にいながらプグナを守り抜き、風が収まった頃に落ちてきたエインを颯爽と救助したというわけである。

 

「あ、ありがとうございましたっ! あの、あなたのお陰でぼくは今も生きていて……その、命の恩人で……えと、その……」


「いいよ、水臭い。同じ使命のために戦う仲間なんだ、助けるのは当たり前でしょ?」


 溢れ出す感謝や彼女への賞賛、憧憬、好意……それらを上手く言葉に出来ないエインに、ノアは照れ臭そうに笑った。

 つられて頬を綻ばせるエインだったが、そこで自分がノアに膝枕されている状況であることに気づいて跳ね起きる。


 ――まだ近くに怪物がいるかもしれないのに、こんな無防備な格好はダメだ!


 と、彼は慌てて周囲を見回すが、先程までの狂騒は既にどこにもない。

 死屍累々の怪物たちと、その場に座り込む傭兵団員たち、そして怪物の子と神器使いたち。誰もが戦いを終えて、静寂に浸っていた。

 聞こえてくる低めた声は、ルノウェルスの兵士たち――衛生兵だろうか――のものだ。


「終わった、んですか……?」


「その通りさ。あんたがあの魔法陣をぶっ壊した結果だ。よくやってくれたね」


 所々が切り裂かれている黒いスーツ姿のノアは、立ち上がりながらエインの問いに答えた。

 彼女は少し離れた所に横たわる甲冑の人物へと歩み寄っていく。

 

「ノアさん、その人は、さっき戦ってた……?」


「ああ、プグナという【異端者】の竜人だ。どうにも見過ごせなくてね。つい、助けちまったよ」


「えっ……何でですか。その人――いや、怪物は敵なのに……」


「さあ、何でだろうね。あたしの気まぐれっちゃあ、気まぐれなんだけど。あえて言うなら、剣を交えて思うところがあったから……かな。彼女は『組織』ではなく『自分』の為だけに戦っているような……悪魔への執着を感じなかった」


 目を剥くエインを振り返ることなく、彼女はプグナの兜を脱がせつつぶっきらぼうに言った。

 露になった竜人の顔に、ノアは息を呑む。

 抜けるような白い肌をした、人と変わらない相貌は美しい。その顔の作りはどこかノアと似ていて、彼女は妙な親近感を覚えてしまった。

 あれだけ無骨な雰囲気を醸しておいて、兜を外せば繊細そうな面をしている。

 ――そりゃあ隠したくなるよなぁ、とノアはわざわざ大重量のフルアーマーを纏っているプグナに溜め息を吐いた。プグナはか弱そうな顔の女だからといって、舐められるのが嫌だったのだろう。


「おい、動けるか?」


「……か、勝手に、兜を外すな……」


「はぁ、それより先に考えるべきことがあるだろう? あんたのお仲間、全滅してるよ」


 プグナに兜を返してやりながら、ノアは彼女に厳然たる事実を突きつける。

 だが、竜人はそれを聞いても動揺などしなかった。心底興味なさそうに、地面に頭を預ける彼女は空を眺めるだけだった。


「……『エキドナ』」


「え?」


「そいつが【異端者】の『共同体』を束ねる頭であり、人間の『組織』とやらと手を組むことを決定した【母なる怪物】だ。あれの意思こそが『共同体』の総意……そう言わしめるだけの力を、あの女は持っている」


 唐突に語りだしたプグナに、ノアは彼女の意志を悟った。

 怪物たちは『エキドナ』に逆らうことが出来ず、彼女の意思のままに組織に加担し、人間を襲撃してきた。『エキドナ』さえ討てば、それも終わる――プグナはそう言っているのだ。

 

「分かった。エキドナはあたしたちが討伐しよう。だけど……【異端者】の本拠地が不明な以上、あんたに案内してもらわなくちゃならない。そこは頼むよ?」 


「無論、そのつもりだ」


 自分だけが動けずにいる状況下にあるプグナは、とにかくノアを信じるしかなかった。

 いつ首を落とされてもおかしくはないのだ、自分を生かす利点を用意しなければ……そんな狙いから発した言葉だった。

 ノアが思っているほどプグナは『共同体』や『エキドナ』について執着していない。闘争の場を得られるから他の異端者たちと所属を同じくしているだけなのだ。


(馬鹿な女だ。冷淡なように見えてお人好し……)


 そう蔑むが、ノアのことをどうにも憎めない自分がいることも自覚していた。

 それきり口を閉ざしたプグナから目を離し、ノアは立ち上がるとエインに視線を向けた。

 

「エイン、あんたの魔力、少し分けてくれない? 人ひとり運べるだけの【転送魔法陣】を描きたい」


「……分かりました」


 エインも敵だったラファエルを信じ、味方へ引き入れた過去がある。ノアの選択に文句を言える立場でない彼は、内心の疑念を押し殺して頷いた。

 彼の手助けもあって【転送魔法陣】はほどなくして完成し、プグナはここから遠く離れたノアの隠れ家の一つに飛ばされていった。


「……」


 ノアと二人きりになったエインは、魔力切れを起こした自らの装備を確認する。

 胸や肩、肘、膝といった最低限の要所を防護する白い鎧。そして【飛翔型】から追加された背中の小さな箱型のブースターと、その側面に収納され、戦闘時に飛び出る二対の翅。

 外見的な損傷は見られない。が、先程のような事故が起きても不味い。

 まだまだ改良してもらう必要がありそうだ、と内心でエインは呟いた。


「さて、とりあえず他の連中と合流しないとね。その翅は使い物にならないんだろ? あんたも一緒に来な」


「あ、はい!」


 手振りで促してくるノアに勢いよく頷き、エインは歩き出した彼女の後を追う。

 最前線のトーヤやカイたちは無事でいるだろうか――中点に差し掛かった太陽を見上げて、少年は大切な仲間たちを想うのだった。



【異端者】の指揮する怪物軍が壊滅したとの報せが王宮のノエルに届くまでは、少なからずタイムラグがあった。

 市壁上の監視役にして連絡役のイルヴァが持ち場を離れた影響が、最も大きい。

 さらにそれに加え、王宮に駐在していた兵士たちが都市の西区角へ防衛戦に駆り出されてもいた。

 現場での指揮官が討たれることによる混乱も、それに拍車をかけた。

 本来軍人でない男を総指揮官に据え、それ以下は全て魔法で従えた士官と兵たちという編制。反逆を防ぐために部下たちの主体性を奪った結果、想定外の事態への対応力は下がり、被害の拡大を招いてしまった。

 唯一洗脳下にないイルヴァならばその混沌を捌くことも出来ただろうが、生憎彼女は王宮まで疾駆していて戦場など見ていない。


(これは負け戦だと、割り切るしかない。防衛など適当にやらせておいて、両軍の体力を削る。ルノウェルス軍を誘い込んだ暁には……眠れる虎が牙を剥き、彼らを食らう)


 一刻も早くノエルと接触し、彼の魔法でミラ・スウェルダを傀儡にするのだ。

 イルヴァはもう、迷ってはいない。

 敬愛するカタロンのために、彼女はひた走っていた。


 無人の中央通りを抜け、王宮の門を潜る。

 廊下の床を蹴り飛ばし、階段を駆け上がる。

 踊り場を数度通過した後の最上階、『王の間』の扉の前で彼女は足を止めた。

 取っ手に指を添わせ、握り込む。

 市壁内への敵の侵入を許したイルヴァを、ノエルは寛大に迎えたりはしないだろう。彼女をの失態を唾棄し、あまつさえ懲罰という名の暴力を振るうかもしれない。

 あれは、そういう男だ。


「失礼いたします、閣下――っ!?」


 扉を開いた途端に映った光景に、イルヴァは絶句した。

 黒い三対の翼を広げ、濃い闇のごときローブを纏った堕天使がそこにいた。

 その眼は鮮血の赤に輝き、反してその髪は汚れなき白。その特徴から、目の前の人物がノエルであることは間違いないはずなのだが――表情が、イルヴァの知るノエルのものではなくなっていた。


「……何だ、お前は?」


 無感動な瞳がイルヴァを捉える。

 光が一切ない、深淵を覗いた底にある暗黒のような眼だった。

 顔に色がないのだ。感情らしいものが、相貌の表層に全く見られない。


 ノエル・リューズは常に不敵な笑みを纏っている人間だったはずだ。

 自分が強者だと信じて疑うこともせず、傲慢に笑っていられる者だった。その瞳には他者への侮蔑が宿り、また己の欲望にぎらついていた。

 イルヴァと結託してからのそんな彼と、今のノエルは別人だとしか考えられなかった。

 だからだろうか――イルヴァは、起こっているもう一つの異変にすぐに気づけなかった。


「……あ、あれは……」


 ノエルの足元に蹲っているのは、白いワイシャツに黒のスラックスを履いた少年だった。

 浅葱色の髪は乱れ、顔は血塗れ、服は引き裂かれて肌が露出し、傷口を晒している。

 マギアで最高のスパイとして上り詰めたイルヴァを圧倒してみせた少年が、倒れている。

 

「ノエル閣下……この少年は!?」


「私に楯突いてきたから始末した。お前、そいつを始末しておけ。臭くてたまらん」


「了解、であります」


 ノエルはその少年の体を足蹴にし、抑揚のない声でイルヴァに命じた。

 女は硬い声音で応じる。

 ノエルに「ただならぬ何か」が起こったことまでは理解できる。だが、それ以上は何も分からない。

 性格から変貌してしまったように見えるノエルに対し、イルヴァは下手を打てぬとその場は従順になった。


(……この少年、ノエルに単身挑んだのか。いや、そんな愚行に及ぶような者だとは思えない。何か、そうせざるを得ない状況だった……?)


 浅葱色の髪の少年を横抱きにして運び、足早に退出していったイルヴァは、廊下を行きながら黙考する。

 彼の胸に耳を押し当てると、鼓動は微かに聞こえた。

 死体処理ならば楽だったのに――そんな考えが一瞬でも過ぎった自分が嫌になる。


 医務室のベッドの一つに少年を寝かせたイルヴァは、そこに待機していた医者――もちろん洗脳済みだ――の手を借りて応急処置を始めた。

 傷口を消毒して包帯を巻こうと服を脱がせるが――そこに走った奇妙な「跡」に、眉根を寄せる。

 

「何だ、これは……!?」


 どす黒い呪いの刻印が、少年の白い肌の上を蛇行していた。

 それは彼の首筋から肩、腹、太ももから足首まで及んでいて、じゅくじゅくとした膿と腐敗臭を放っている。

 泥沼の戦場で散々嗅いだ臭いに舌打ちしながら、イルヴァは薬棚へと駆け寄った。


「おい、呪詛に効く魔法薬を片っ端から出せ! こいつには猶予がない!」


 何故こうも必死に少年を助けようとするのか、イルヴァ自身よく分かっていなかった。

 ノエルが変貌した理由の手がかりになりそうだから? 自分を上回った彼に感銘を受けたから? それとも、苦しんでいる彼を救いたいという、利害関係のない善意――?


「も、申し訳ありません! うちは魔法薬を置いておりませんで、普通の薬なら――」

「っ、この魔導後進国が! 魔法薬の一つくらい置いておけ!」


 柄にもなく怒鳴り、イルヴァは薬棚のガラス扉をぴしゃりと力任せに閉じた。

 そうだ。スウェルダの魔法技術が遅れているせいで、イルヴァはたった一人で都市全体に「耐魔法」の防壁を張ることになり、戦闘に出られなくなったのだ。

 それだけではない。スウェルダ軍に魔導士の部隊があれば、敵の【魅了】も軽減できた。ここまで追い詰められた理由は、魔法という分野で劣っていた一点に尽きる。


「そうだ、ミラ王女ならば……!」


 と、苛立ちと焦燥に支配されながらも、イルヴァはある可能性に思い至った。

 ミラ・スウェルダは光の神、バルドルの【神器使い】。彼女ならば、おそらく闇魔法と見られる呪いに対抗できるのではないか。

 そうと決まればイルヴァの行動は早かった。医者の男に少年を預け、地下牢へと急行する。

 役人はそれぞれの執務室に籠りきりで、兵士たちは王宮を取り囲む壁に詰めている。宮殿内の廊下には殆ど人気がなく、誰に咎められることもなくイルヴァは地下へとたどり着いた。

 看守の脇を通り抜けた彼女は、真っ直ぐにミラ王女の囚われる最奥の牢へ足を進める。

 鉄格子の向こうで身じろぎする気配。イルヴァは王女を安心させるべく穏やかな声を投じた。


「ミラ殿下、イルヴァであります」


「イルヴァ……! また、来てくれたのね」


 潜めた声から滲むのは喜びだった。

 その声を聞いてイルヴァの胸はちくりと痛む。王女は未だ、イルヴァとの絆を本物だと信じて疑っていない。マギアに尽くすスパイ、それが彼女の正体だというのに。

 格子越しに窺える王女の顔は青白くやつれてはいたが、その瞳に宿る灯火は失せてはいなかった。


「はい。ミラ殿下、貴女の力が必要なのです。貴女の【神器】の力がなくては解決できない問題が、起こってしまったのです」


「それは……ノエル・リューズの命令なの? 彼のために、私の力を使えと? そもそも、あの男が私に【神器】を返そうなんて、言うわけないじゃない。貴女の意図が分からないわ、イルヴァ」


 武装の全てを剥ぎ取って牢にぶち込んだと思えば、今度は自分たちのために【神器】の力を使えという。

 言い分に一貫性がないのはイルヴァも承知の上だ。自分がミラの立場だったら、同じように狼狽するだろう。

 

「ノエルとの戦いに挑み、呪いを食らってしまった少年がいるのです。小官は彼を救いたい。ノエルに付き従っていながらこのような頼みごとをするのは、矛盾していると思われるでしょうが……小官はどうしても、その少年を助けたくなってしまったのであります! どうか……お力添えを」


 跪き、うなじが見えるまで頭を下げ、イルヴァは震える声で訴えた。

 彼女の腰には【神器】である【光の細剣レイピア)】が差されている。牢の看守に管理させていたそれを鞘ごと抜き、王女に捧ぐように持ち上げる。

 格子の隙間から細い腕を伸ばし、指先でその柄を掴んだミラは――微笑んでいた。


「貴女の優しさは、何も変わっていない。それを確かめられて、本当に良かった」

 

 思わず顔を上げて王女の表情を見ると、彼女の赤い目からは雫が一滴、こぼれ落ちていた。

 その思いに目頭が熱くなる。俯いて涙を堪えるイルヴァは、やはり自分がこの王女のことをカタロン)と同じくらい大切に感じていると認めざるを得なかった。

 中途半端な蝙蝠だと蔑まれても構わない。ノエルを支援し、ミラを救い出し、マギアの侵略に最適な舞台を作り上げるのだ。

 そのどれも捨てられない。これらを全力で実行しないことは、彼女の信念への裏切りだ。

 スパイとして失格だと見做されようとも、彼女はミラを守りたい。


「殿下……小官は、自分に嘘をつくのはもう、嫌なのであります。小官はスウェルダの裏切り者と成り果てましたが――殿下だけは、裏切りたくないのであります」


 これはエゴだ。祖国を最優先すべき彼女の、愚かな選択だ。

 だが、この場にそれを責める者はいない。ミラ・スウェルダは「スパイのイルヴァ」ではなく、「臣下としてのイルヴァ」しか見ていないのだから。

 イルヴァは牢の鍵を解錠し、ミラをそこから解放した。

 足首に繋がれた枷を外し、手を引いて外へ。


「い、イルヴァ殿、王女を外に出すなど――」

「黙れ」


 彼女らに気づいた看守は慌てて制止しようとするが、すかさずイルヴァは懐から取り出したピックを放つ。

 狙い澄ました一投が音もなく看守の首に刺さり、抵抗も許さずに彼を眠りに誘った。

 

「あなた、暗器の類いも扱えたのね」


「は、はい。これでも芸を色々仕込まれていまして」


 汗を垂らしながら誤魔化すイルヴァ。ノエル側についた彼女が魔導帝国のスパイであることは、ミラも察せていないように見えた。

 スパイであることは隠し通さねばならない。が、問題はあの少年が回復した暁にそれを吹聴して回らないかだ。


(ノエルとの間にあったことを聞き出した後、始末するべきか。だが、ミラ殿下の手前、助けたばかりの少年をすぐに殺しては彼女の信頼を損なうことになる。殺さずに口封じする方策を見いださねば……)


 黙って思索するイルヴァに、ミラは何も声をかけなかった。

 それを有り難く思いながら、イルヴァは王女を医務室へ引き入れる。

 扉を開け、少年の横たわるベッドを探した彼女だったが――


「……いない? おい、医者! さっきの少年はどうした!?」


「い、イルヴァ様、その……」


 入って左手の薬棚の側に立つ医師の男は、引きつった表情で口籠った。

 判然としない男の態度をもどかしく思いながら、イルヴァは彼に詰寄る。

 と、その時だった。


「よく、ミラ王女を連れ出して来てくれたな。君の善性はちゃんと残っていた……少なくとも、瀕死の少年を助けようとするくらいには」


 カーテンの閉ざされていた隅のベッドから、声が聞こえてきた。

 開かれた布の合間から姿を現したのは、浅葱色の髪の少年。

 先程イルヴァが治療のため脱がせた下着一枚の格好でいる彼の黒い傷は――何事もなかったかのように、もとの白い肌に戻っていた。


「ふふっ……よろしくな、イルヴァ少佐。そしてはじめまして、ミラ殿下。私はグリームニル、悪魔に抗う【神器使い】の同志だ」

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新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
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