表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
最終章【傲慢】悪魔ルシファー討伐編/マギア侵略編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

353/400

6  集う戦士たち

「さて……いよいよだね」


 エミリアさんと語り、飲んだひと時から一夜明けた、早朝。

 僕は王城の中庭で、エルと二人で【転送魔法陣】の準備を行っていた。

 

「ああ。フィンドラ政府の招集――と言っても、同行するのは殆ど私たちの身内の人たちだ。気負わずにいこう」


 これから始まるのは文字通りの戦争だ。そして、ノエルさんとの最後の戦いでもある。

 僕らが彼を下すか、敗れて散るか――二つに一つ。そんな状況にありながら、エルは緊張を窺わせない穏やかな口調で言ってきた。

 それを有り難く思いながら、僕は彼女に【転送魔法陣】の発動法について確認する。


「えっと……力属性の魔素αを八乗して、それから――」


「大丈夫、ちゃんと理解できてるよ。あとは転移する場所を鮮明にイメージできるかどうかだ。それが不十分だと不発に終わるか、最悪の場合、見当違いの場所に飛ばされちゃうからね」


 ここ最近、僕は【転送魔法陣】を習得するためにエルに師事していた。

 座学は好きじゃないけどどうにか魔法式を頭に叩き込み、一月かかってようやく完成させることが出来たのだ。

 僕の習得速度は相当早かったらしく、初成功の時にエルが仰天のあまり腰を抜かしたのは良い思い出である。


「流石はハルマくんの生まれ変わりなだけあって、力魔法に関してはもう私より君の方が上だよ。本当に、よく完成させてくれたね」


 ユグドラシル時代のパートナーが発明した魔法を僕も習得できたことを、エルは感慨深そうな顔で褒めてくれた。

 そう言われると照れ臭いけど、やっぱり嬉しい。ついニヤついてしまう僕のほっぺたをぐにぐに弄くってくるエルも、同じように笑っていた。


「えへへー、凄いでしょ。もっと褒めて遣わす!」


「流石! 凄い! かっこいい! よっ、世界一っ!」


「もっと褒めて!」「イケメンかわいい天才私のトーヤくん最高だー!」「もっと!」

 なんて、語彙力の低い馬鹿騒ぎを二人で繰り広げていると……そこに、盛大な咳払いが割り込んでくる。


「ゴ、ゴホンっ! 魔力の調子がいいのは良いことですが、朝から大声を出すのは頂けませんね。ティーナじゃあるまいし」


「なっ、何をーっ!? 私はそんなに普段からうるさいかー!?」


 やって来たのはエミリアさんとティーナさんだ。

 エミリアさんは黄金の鎧、ティーナさんは魔導士の黒ローブと戦闘服を着込んでいて、準備は万端のようである。


「ええ、うるさいですね。前世が目覚まし時計なのではと疑えるくらいには」


「エミリアたん今日は一段と冴え渡ってるねー! そんな毒舌どこで覚えたのー?」


「父上です」


「おわー、爆弾発言! 陛下が聞いたら激怒げきおこプンプン丸だよ!」


 ティーナさんを引き合いに僕らを注意するエミリアさん。しかしそんな王女様の棘のある発言にも、ハイテンション少女は屈しない。

 この激しさが平常運転であるティーナさんに、エミリアさんは冗談も交えて会話している。その表情は生き生きと輝いていて、見ている僕も思わず笑顔になった。


「な、何笑ってるんですか。いいですか、これから私たちは戦場に発つのですからね。気を引き締めてもらわないと困ります」


「はーい。もちろん、それは弁えてますよ。でも、もしかしたら今が最後になるかもしれないと思うと、少しは馬鹿になりたくなって」


「……気持ちは分からなくもありませんが」


 エミリアさんはそこで言葉を切る。

 それはありがたいことだった。騒ぐのは弱気を誤魔化し、緊張をかき消すためだったから。

 

「昨夜の台詞がお酒の勢いだったとは言わせませんよ。ノエルを討ち、生きて戻る――それだけは絶対に果たすのです」


 エミリアさんの語気は強い。僕の両肩を掴み、青い瞳に想いの全てを宿して見つめてくる。

 

「はい。僕を信じてください、エミリアさん」


 頷く僕だったけど、その直後、脇腹を誰かにつねられて視線をそちらに向ける。


「昨夜の台詞? お酒の勢い? どーいうことかなトーヤくん?」


「あー、えーっとぉ、その……」


「私の誘いで、飲みに付き合って貰ったのです。話しておきたいことが、いくつかあったものですから」


 無断で女の子の部屋に行ったことがバレてしどろもどろになる僕に、エミリアさんは助け舟を出した。エミリアさんから声をかけてきたのは事実で、王女様からのお誘いとなれば誰だって断れない。

 恐ろしい顔で凄んでいたエルも、そう聞いて矛を収めた。渋々、といった体だったけど。

 

「さて……そろそろ『傭兵団』の方々も着く頃合いでしょう。トーヤ君、エルさん、【転送魔法陣】頼みますよ」


「任せといてください! 今回はトーヤくんもいますから、いつも以上の速度を実現できるかと!」


 エルが元気よく手を挙げ、僕も隣で頷く。

 この戦いに参戦するのは、僕たちいつものメンバーに加え、エミリアさん、『影の傭兵団』の皆さんに、ティーナさんとヘルガさんも来てくれる。リル君やヨルちゃん、ケルベロス、オルトロス、それに技術部としてアズダハークさんとアナスタシアさんも、快く手を貸してくれた。

【神器使い】に、【怪物の子】、そして科学者の【超兵装機構】まで揃えば、戦力としては申し分ない。


「また呼び出しを食らうとは思ってなかったが……これも縁だ。存分に暴れさせてもらうぜ」


 日差しがじりじりと照りつけてきた中庭に、荒くれ者たちが到着する。

 声をかけてきたのは、紫紺の短髪にバンダナを巻き、黒の鎧を纏った傭兵団の頭目・ヴァルグさんだ。

 

「はい。よろしくお願いします」


 同じ鬼蛇きだ人の血を引く戦士に僕が挨拶していると、アマゾネスの女性が彼の後ろから顔を出してくる。

 こちらは傭兵団の副団長、リリアンさんだ。


「ねぇトーヤ君、ここで手柄を挙げれば王家直属の部隊として雇ってもらえたりしないかなー? 後でエミリア殿下に君から一言いってもらえたら嬉しいんだけど」


「えっ? あ、はい、いいですけど……。それって本当にヴァルグさんの意思なんですかね……?」


「当然じゃない! ですよね、団長?」


「あぁ? そんなの初耳だぞ」


「あーん、もぅ、合わせてくださいよ団長ーっ!」


「あははは……」


 義に厚い団長らしからぬ出世目当ての考えに、やっぱりか、と空笑いする。

 顔見知りの傭兵団員たち――エルフの魔導士ルークさん、ダークエルフのナイトさんなど――からの挨拶に応じつつ、僕は続々と集まってきている面々を眺めた。


「ごきげんようトーヤ君。また一緒に戦えますね♡」


 と、ケルベロスが上品に微笑んでくる。

 傭兵団の黒の鎧がすっかり板についた彼女は、隣に弟分を伴っていた。

 慣れない鎧や人の集団に居心地悪そうにしているオルトロスだったけど、ある人の登場に顔を輝かせる。

 

「おお、よく来てくれたのぅ! 初めての共闘じゃな、よろしく頼もう」


「う、うん。よろしく」


 リオやユーミ、シアン、ジェード、アリス、そしてヒューゴさん。

 旅の中で得た、僕の大切な仲間たちも支度を終えて中庭まで足を運んできていた。

 駆け寄って何やら話しかけているオルトロスと、それに快活に応じるリオ。残念ながら僕らにはなかなか心を開いてくれない彼だけど、リオだけは安心できるのか笑顔をみせる。

 信じられる人が一人でもいれば、人は強くなれる。前を向いて生きていける。本当に良かった、と僕はオルトロスを眺めて呟いた。


「子供のくせに保護者面か? 生意気な少年だ」


 背後からの声に振り向くと、真っ白い長髪に白衣の科学者のアズダハークさんがいた。


「そちらこそ随分と穏やかな顔をしてますよ、蛇さん。そういう顔、意外と似合うんですね」


「魔導士どもを見返すためだけの作品だと思っていたのだがね……。愛着というものは、こうも人を変えてしまうものかと、我ながら驚いている」


「人の心について研究するのも面白いかもしれないわねぇ。ところでトーヤ君、あの白髪のデバイサー君はどこかしらぁ?」


 感慨深げなアズダハークさんに、彼とは旧知の仲であるアマゾネスの科学者、アナスタシアさんがくすりと笑う。

 エインの所在を訊ねてくる彼女に、僕は中庭を見回してエインの姿を見つけたんだけど――

 リル君たちと話している彼は、リリアンさんに後ろからこっそり接近され、いきなり抱きつかれるという心臓に悪い悪戯を仕掛けられていた。


「わあっ!? な、何ですか!?」


「ちっちゃくて可愛いー! ねぇ君、あたしたちの団に入らない? リル君はあたしからのお触りNGらしいから、代わりに♡」


「おい、オレの兄貴をおもちゃにしようとすんな! あんたのことだ、何をやらかすか分かんねえ」


 興奮に頬を染めるリリアンさんの脚をゲシゲシと蹴りつけ、リル君は必死の形相で彼女をエインから引き剥がそうとしていた。

 傍観するヨルちゃんと眉を顰めるヴァニタスさんの視線にも、リリアンさんはどこ吹く風であった。

 ヘルガさんは騒がしくしている傭兵団一同を離れた位置から眺め、呆れたように呟く。


「……賑やかな連中が来たものだな、全く」


 さてと、そろそろ出発の時間だ。

 再会を喜び合ったり、これからの戦いに気合を入れる一同を見渡して、僕は声を上げる。


「皆さん、よく聞いてください! これから臨むのは傲慢の悪魔との決着、そしてスウェルダ王国の存亡をかけた一世一代の戦いです! 全力を尽くして敵を討つ――さあ、行きましょう!!」


「「「おう!!!」」」


 僕の鼓舞に戦士たちは拳を突き上げ、気合の叫びを響かせる。

 エルと共に中庭の中央に展開した【転送魔法陣】を指し、僕は皆にそこへ入るように促した。

 人員と物資を載せた魔法陣は、カイたちの待つルノウェルス首都・スオロへとそれらを転送していく。



 昨日にエミリア王女から通達を受けたカイは、すぐさま高級将校たちを集めてその日のうちに軍議を開いた。

 緊急事態に会議の混迷も予測していたカイだったが、防衛大臣として復帰したオリビエの取り仕切りもあって無事に計画をまとめることが出来た。

 そして、当日。

 都市南部に設置されている軍の中央基地、その訓練場にて、カイはフィンドラから【転送魔法陣】で移動してくるという少年たちを待っていた。


「本当にあなた自身も発つの、カイ?」


 心配の面持ちでカイを見つめるのは、ミウだ。

 旧知の王が弑逆されたとの知らせに傷悴している様子の彼女は、弟を止められないと分かっていながらも訊かずにはいられなかった。


「ケヴィン陛下の仇は俺が討つ。討たなきゃ、いけないんだ。この手に【神器】という力を持ちながら、何もせずにここにいるなんて出来ない」


 ノエルを倒さねば、この胸に燃える瞋恚の炎は鎮まらない。だから行くのだ。それ以上の理由など要らない。

 揺らがない思いを口にするカイを、ミウはぎゅっと抱擁した。純白のマントを纏い、黄金の髪を煌めかせる麗しき王女は、最愛の弟の耳元で囁く。


「必ず、生きて戻ってくるのよ。例え腕を、足を失う結果になったとしても……あなたという人間は、生き残るのよ。そうでないと、私の……私たちの道しるべがなくなってしまう」


 カイも姉の背中に腕を回し、力強く抱き締めた。決して離しはしない――別れることなどないのだと、言葉なくして語るように。


「大丈夫だ。俺は死なない。死んでたまるもんか。ルノウェルスを建て直し、より良い平和な国を作るのだと俺は誓ったんだ。その誓いを果たすまでは、断じて――」


 何に道を阻まれようと、カイの理想のために走り続ける覚悟が消えることはないのだ。

 その理想にたどり着くまでは、彼は生命への執着を捨てない。何があっても生きて、使命を遂げる――それはある意味では呪縛のようなものだった。決して解けることのない、王道という名の鎖。


「あ、あれは……!?」


 と、そこで周囲がざわめきだし、二人は抱き合っていた身体を離して辺りを見回した。

 訓練場の芝に突如浮かび上がったのは、魔法陣。トーヤたちの到着である。


「そこに近づくな! 転移魔法に巻き込まれるぞ!」


 初めて目にする魔法陣に兵士たちが浮き足立つ中、カイはよく通る大声で皆を制した。

 直後、魔法陣が白い光の柱を立ち上らせ、その中から人影がいくつも姿を現す。

 黄金の鎧に赤茶色の髪、青い瞳をした美しい少女の登場に、カイはすぐさま進み出て握手を求めた。


「エミリア殿下。先日は【異端者】の怪物への対処に尽力いただき、誠にありがとうございました」


「おはようございます、カイ陛下。対『組織』において国境など関係ありませんから……当然やるべきことをしたまでです」


 カイは謙虚に応じるエミリアの纏う雰囲気がどこか柔らかくなっていることに気づき、何かあったのか訊ねようとしたが――親友の声に注意を逸した。


「やあ、カイ。久しぶり……でもないか。おはよ」


 激しく輝いていた魔法陣の光が消え、慣れない転移にざわめく傭兵たちの後ろから少年が顔を出す。

 再会の嬉しさを滲ませる穏やかな声音のトーヤに、カイは思わず相好を崩していた。それはケヴィン王が死んだ報せを受けた後、初めて見せる表情であった。


「おはよう、トーヤ。これからの予定についてはそちら側の意見をもとに、我が軍で組んでおいた。事は一刻を争うが、まずスオロ西郊外の基地から出港し、西から周り込む形でスウェルダに――」


「カイ、ちょっと待って! 実はね、僕に考えがあって」


 積もる話は後だと言わんばかりにカイは作戦の確認に入るが、トーヤに遮られる。

 王陛下の話を止めた少年はルノウェルス側の兵士の顰蹙ひんしゅくを買ってしまうが――そんなことはお構いなしに提案してくる。


「船での移動して、それから陸路を行くんじゃあ時間がかかり過ぎる。だからね、【転送魔法陣】を使うんだ。ストルム郊外まで軍隊を運んで、ノエルの牙城を落とす! それが最適解だと思うんだけど、どうかな?」


 最後の問いはカイというよりエルに向けられたものだった。

 トーヤがさらっと言ってのけた難題に、エルは顔を引き攣らせる。


「あのー、トーヤくん? 今、軍隊を運ぶとか何とかって聞こえたんだけど……」


「うん。そう言ったよ。ルノウェルス軍の一個師団、10000人とその装備、物資をね」


(――は?)

 にっこり笑顔でのたまうトーヤに、エルは絶望の痛哭を上げる。


「ばっ、ばっ、馬鹿か君はーッ!? そんな大人数、小分けに転送するとしてもとんでもない魔力消費になる! 私の魔力が持つかどうか……」


「持たない、とは断言しないんだ?」

 

 追い打ちをかけるように、ともすれば焚きつけるかのごとき口調で言ってくるトーヤ。そんな彼に対し、エルは苦渋に顔をしかめた。

 正直、きつい。許されるならやりたくはない。だが、エルはそうとは言えなかった。『精霊の魔導士』としてのプライドが、そこで邪魔をした。

 魔法陣を使えば時間的なロスはほぼなくなる。効率を考えればそれがベストな選択なのだ。


「――分かったよ、やってやる! やればいいんだろう、やれば!」


 半ば自暴自棄になりながらもエルは答えを出した。皆が期待しているならば、応えよう。悪魔を滅ぼすのが自分の使命ならば、そのための近道は惜しまず行こう。

 そんなエルに傭兵団員たちは「よく言った!」「助かるぜ!」などと口々に言った。

 彼女の肩をポンと叩くトーヤは、空いた左手で懐から水晶玉を取り出して呟く。

 

 ――と、それからほどなくして、最後の参戦者が到着した。


「全く……人遣いが荒いんだよ、少年!」


 芝の訓練場に巻き起こる旋風。突如発生したそれに皆の視線が集まる中、途切れた風の中から参上したのは緑髪に黒スーツの女だった。

【不死者】、【冷血】、【アカシックレコード】……数多くの異名を持つ【ユグドラシル】時代の英雄、ノアである。


「今見て分かった通り、彼女も【転送魔法陣】を使える者の一人です。さらに彼女は【不死者】……どれだけ魔力を振り絞ろうが、『マインドブレイク』で死ぬこともない。エルと僕、そしてノアさんの三人がかりなら、一個師団を運び入れることも不可能ではありません」


 トーヤのその発言に、流石の【冷血】も口をポカンと開けるしかない。


「ま、待ちなトーヤ! いや確かに『マインドブレイク』で死んだりしないけど、無茶振りにも程があるだろう!?」


「――お願いです。あなたが加わって初めて、可能になる計画なんです。あなたしか……いないんです」


 この場で初めて聞かされたその役割に、ノアは本気で抗議しようと思ったが――自分の手を取って上目遣いに懇願してくる少年に、言葉を失う。


(ちくしょう、そんな目で見るなっ……! あたしがハルマに惚れてたこと、知ってて言ってるだろこいつ……!)


 ずっと昔に密かに意識していた男の子と全く同じ顔がすぐ側にあり、ノアに縋ってきている。

 どうにも理性的になれない――調子が狂うのを自覚しながらも、彼女は断り切れなかった。


「いいよ、協力してやる。もとより、悪魔を討つためなら何でもやる覚悟だったからね」


 ぶっきらぼうに言うノアにトーヤは笑みを向ける。

 柄にもなく頬を染めてしまうノアは、彼から顔を背けると唸るような声音で促した。


「さぁ、始めるよ! トーヤ、エル、あんたたちの負担はなるべく抑えたい。あたしがメインでやるから、あんたたちは補助に回りな」


「はい!」「分かったよ!」


 それからすぐにノアは詠唱に移った。普通の【転送魔法陣】では一個師団を運ぶのには不十分。より多くの魔力を注ぎ込んで規模を拡大させた、巨大な魔法陣を生み出さねばならない。

 緑髪の女傑と少年少女が【転送魔法陣】の準備に取り掛かる中、ティーナはルノウェルス陣営からルプスを見つけて話しかけた。


「やっほー、ルプっち! また会えて嬉しいよ」


「何だお前か。再会は喜ばしいが、今回俺は軍として行動せねばならん。お前とはおそらく別行動になるな」


「そっかー、残念。一緒にイルっちたちを助けようと思ったのに」


「ああ……。だが、離れていても志は一つだ。気張っていけよ」


 イルっちことスウェルダ軍のイルヴァ大尉――現在は少佐――は、悪魔マモンを巡る戦いでティーナらと共闘した間柄だ。戦友の無事を祈るティーナは、ルプスの激励に「もちろん!」と応える。


 広大な訓練場の中央で黄金の光輝を放つ、八芒星の魔法陣。

 三人の魔導士が全魔力を振り絞って編み出した、この時のためだけの特大の陣だ。

 

「完成したようだな。ではまず、フィンドラ陣営から」


「転移した先に敵が待ち構えていないとも限りませんからね。全兵力の転移が済むまで、我々【神器使い】及び魔導士が敵の妨害を阻みます」


 そう見て取ったカイに頷き、エミリアは先頭に立って自陣営を率いていく。


「この陣の上に立った瞬間、私たちは戦場に舞い降ります。共に悪魔に抗い、勝利の先の希望を掴みましょう!」


 煌めく黄金の鎧に鷹の羽衣をなびかせる王女は、高らかに剣を掲げる。

 連鎖していく鬨の声。膨れ上がる士気にこの上ない頼もしさを抱きながら、エミリアは魔法陣に足を踏み入れていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ