30 リューズ邸襲撃作戦
隊列を組んだ馬車が曇天の下、街道をゆっくりと走っている。
隊商に偽装したその馬車に乗っているのは、トーヤや『影の傭兵団』といった『リューズ邸襲撃作戦』のメンバーだ。
ヴァルグが少年と契約を結んだ日から三日。全ての準備が整い、彼らはスウェルダ首都ストルムを目指して出立していた。
「あたしも仲間に加えてくれて、ありがとうねトーヤ君。ふふっ……面白くなりそうねぇ」
ちゃっかりトーヤの隣の席をせしめているアナスタシアが、煙管を吹かしながら愉快そうに言う。
三日前、彼女は自らの研究所に少年を招き、発明品の数々を披露した。そこでトーヤらが目にしたのは、火炎放射器やスタンガン、催涙ガスなどの科学兵器や、魔力耐性を持つ植物の繊維から作り出した『耐魔法スーツ』など、ティーナの魔道具にも劣らぬ品々であった。
魔力を用いずとも魔法と同等の効果を発揮するそれらを見せられては、トーヤも流石にアナスタシアを手放すわけにはいかなくなった。
少年は力を手に入れ、女は気に入った彼の下に就ける。まさしくウィンウィンの関係だ。
「試作品のアレも、試してくれるんでしょ? ホント、助かるわぁ」
「もう少しデータが集まれば、完成まで移せるんでしょう? 協力の対価としてそれくらいはやりますよ」
「うふふっ……何ならこの戦いが終わった後でも、専属の科学者としてあんたに従っても構わないわぁ。あんたには絶対的な価値がある。その価値は魔導士だけが見出すものじゃない」
長い脚を組むアマゾネスの女性に、トーヤは曖昧な笑みを送った。
全てはこの戦いの結果しだい――少年は暗にそう告げる。
「科学の力を魔導士たちに知らしめる、いい機会だわ。必ず成功させてみせる……科学者の矜持にかけて」
アナスタシアを駆り立てているのは、魔導士への反発心。故郷から己の居場所を奪った傲慢な彼らを、彼女は憎んでいる。
「……それでも、あんたらを嫌ったりはしないわぁ。あんたらが良い奴らだってことは、分かってるからね」
だが、彼女はその憎悪に行動を縛られてはいなかった。そこが彼女と旧知の友人――『蛇』の異名を持つ青年――との分かれ目だった。
アナスタシアがトーヤらに手を貸した目的の二つ目こそが、かつての友を『組織』から救い出すこと。お前の技術を活かす場所はそこではないのだと、彼と会って伝えねばならない。
「アズダハーク……あんたがどこにいるかは知らないけど、会ったらガツンと言ってやるわ」
「……えと、誰のことですか?」
「気にしないで。昔のしがらみよ」
きょとんと首を傾げる少年に適当にはぐらかし、アナスタシアは一通りの少ない街道の先を見据える。
ルノウェルスの首都で怪物が暴れ、悪魔が出現した事件が起きてから、民衆の緊張感は否応なく高まっていた。王の帰還したフィルンは以前とさほど変わった様子はなかったが、そこから一歩出れば外を出歩いている人の数は一気に減っている。
「悪魔を倒して、皆を安心させなきゃ。そのためには――どれだけこの手を汚そうと構わない」
トーヤは覚悟している。己の正義を貫くために、罪のない人に犠牲を強いることを。
リューズ邸を襲撃するということは、そこに勤める悪魔とは無関係の使用人もろとも傷つけるということだ。奇襲作戦が上手くいけばいくほど、リューズ側の死傷者は増える。モアやシェスティン、ベアトリスはノルンでの別れ際にリューズと縁を切ると話してはいたが……あそこにはマーデル国で出会った男勝りな少女アンや、顔見知りのメイドが多く残っているはずだ。
その人達と二度と会えなくなるかもしれない。こちらは顔を隠したまま、邪魔な彼女らを血で染め上げるかもしれない。到底、正義の味方には程遠い行為だ。世間的に見たら、大富豪を襲う逆賊でしかない。
だが、それでもトーヤは――。
「僕がやるんだ。僕が、皆を先導しなくてはならないんだ。そうでないと、シアンたちは揺らいでしまうかもしれないから。そんな様子を見れば、傭兵団の人たちだって危うくなる。彼らはいい人たちだから……僕が、旗印にならなきゃ……」
アナスタシアが興味深げに眺めてきても、少年は意に介さない。
自分を責任で縛り付けようとしている彼の肩にそっと手を置いたのは、これまで口を閉ざしていたエルだった。
「まぁ待ってよ、トーヤくん。私も『共犯者』だ。悪魔を倒すための使命という名の、契約――それを結んだ日から、私はずっと君の『共犯者』。君ひとりが背負い込まなくてもいいさ」
エメラルドの瞳が少年の黒い瞳を射抜く。彼女の表情は不自然なほどに自然体だった。あるがままの様子の彼女にトーヤはやや面食らうが、次には口元に微笑を浮かべる。
エルのその言葉に救われたように、トーヤは肩の力を少し抜くと深呼吸をした。
「……そうだね。ありがとう」
少年は少女の手を握る。互いの意思と体温を共有する、今はそれで充分だった。
*
街が寝静まった深夜にその襲撃は始まった。
割れるガラス窓、蹴散らされる壺などの骨董品、反響する悲鳴、男たちの荒々しい叫び声――。
事態の広がりは止まることを知らない。
黒い覆面の小柄な剣士が警護の兵士も使用人も無差別に斬り払い、暗い廊下を猛進していく。
「きゃあああああッ!? た、助けて、誰か助けて! お願いしま――」
「静かにしてください。でないと殺しますよ」
逃げる最中に転んだ女の脚を、すれ違いざまにトーヤは切った。
少年は、何も虐殺に来たわけではない。致命傷にならない範囲の傷を与え、動きを封じる。それでも抵抗を続ける場合は、最後の手段に出る――彼はそう決めていた。
「あ、あぁ……っ……」
耳元に落とされた呟きに、女は恐怖のあまり言葉を失った。
流血する脚を押さえる彼女の脇を覆面の戦士たちが通過していき、目的のノエル・リューズの部屋まで迷わず突き進んで行く。
「案外ちょろいもんだな、リューズの警備は!」
「ああ、大したことねぇ! このまま行けばノエルの野郎の首も取れるぜ!」
傭兵団のメンバー二人が得意になって声を交わした。
それを耳に挟みながら、ヴァルグは内心で首を横に振る。
――いや、何か妙だ。上手くいきすぎている。
「おい、首領! 先行しすぎるな、何か臭う!」
前方へ疾駆していくトーヤにヴァルグが警告する。この作戦中、彼らが本名で呼び合うことは決してなかった。与えられた番号や肩書きに基づき行動する――そういった統制をエルは全員に敷いた。
少年のブレーンとして抜かりなく力を発揮する彼女が一番危うく思っていたのも、トーヤの一人で突き進みがちな部分であった。
「ああ、少しペースを落として! 私たちは一つの生き物なんだ、『個』で戦うわけじゃない!」
エルの制止にトーヤは速度を緩め、廊下の突き当たりに差し掛かる前に足を止めた。
ヴァルグやシアンらを率いて少年の側へ駆け寄ったエルは、その刹那に現在の状況をざっと脳内で整理する。
時刻は午前0時を過ぎた頃。トーヤたち急襲部隊はリューズ邸の正門の警備兵たちを強引に斬り伏せ、邸内部に侵入した。
彼らが真っ先に向かったのは、リューズ家が日中の職務に使用する屋敷の本館だ。侵入者を探知する結界魔法もエルが解除し、拍子抜けするほど簡単に入り込むことが出来た。
「私たちの目的はリューズの秘密――彼らが悪魔に関わった証拠を引きずり出すことだ。時間的な猶予はない。ここからは手探りの作業になるわけだけど……事前に言った通り、君たちには思いっきり暴れてもらいたい。万が一の際の責任は、全て私が負う。安心して破壊の限りを尽くしておくれ」
冷徹な魔女の仮面を被り、エルはヴァルグらに指令を下す。
覆面越しに苦渋に歪む戦士たちの顔が見えるようだったが、エルは彼らの情を無視して話を進めた。
「リーダー、私たちはノエルの居室へ向かうよ。場所は分かってるね?」
トーヤはパートナーからの確認に無言で頷いた。
それから彼はシアンやジェードらに手短に指示を出し、各自の任務が始まった。
この作戦の部隊は大まかに四つに分けられる。
まず第一にヴァルグの率いる十五名ほどの攪乱部隊。彼らは本隊とはやや離れた位置で、敵の注意を引きつけるべく暴れる。
そして第二に、シアンとリオ、ヒューゴに『傭兵団』のタンクとヒーラー二名を加えた小隊。彼女らはかつてアマンダ・リューズの執務室であった部屋と、彼女の寝室を捜査する。
第三の部隊はユーミが率い、ジェードにアリス、加えてフェンリルとヨルムンガンド、さらに上記と同じくタンクとヒーラーを一名ずつ編成していた。この部隊にはルーカス・リューズへの対処を任せる。彼を発見しだい捕縛し、リューズに関しての情報を吐かせるのだ。
そして最後にトーヤの部隊。彼とエル、エイン、ケルベロス、それに三名の傭兵団員を加えた七名が、ノエル・リューズの居室へと突入する。
「……ここであたしたちがまた、共に戦えるなんてね」
覆面の下で響く女性の声は、トーヤやエルたちがよく知ったものだ。
かつてリューズ邸で働き、アマンダの神殿ノルン攻略戦にも同行したメイドの三人――ベアトリス、モア、シェスティンはアマンダの死後、リューズを離れて傭兵団に加入する道を選んでいたのだ。
敬愛していた上司、アマンダは悪魔の意思に身を委ね亡くなった。同じ悲劇が起こって欲しくない――彼女を止められなかったことへの贖罪として、ベアトリスたちは悪魔に抗おうと決めた。
「リューズ邸に関しては、私たちが一番よく知っています。支援は任せてください」
「こんな状況だけど、また会えて嬉しいよトー……じゃなくてリーダー」
「うふふ、あたしも張り切っちゃいます♥ 組織のお偉いおじ様をギャフンと言わせてあげる」
また、ケルベロスも組織からの支配を拒絶し、己の生き方を掴み取っていた。傲慢にも『怪物の子』などという人ならざるモノを生み出した組織への、復讐。それもあるが……彼女が最も大切にしている感情は、少年への好意であった。
彼女らの気持ちに偽りはない。それを有り難く受け取り、トーヤは腰に下げた剣の鞘にそっと触れた。
「……行くよ」
それぞれの役目を果たすために、各部隊は散開する。
月明かりに青白く浮かび上がる廊下のその先、ノエルの寝室へ通じる階段へとトーヤたちは急行した。
しかし突き当たりに到達し、そこを右に折れて階段を駆け上がろうとした、その時――。
「通さない。誰ひとり……」
少年の声が、彼らの頭上から降ってきた。
トーヤが視線を上向けると、バイザー越しに見えたのは何故か裸の少年の姿。
怪物の子、オルトロス――トーヤたちにとっては初めて対峙する敵であった。
「君は……?」
胸に湧き上がる違和感と、つかえる異物感。格好も纏う雰囲気も、『リューズ』のそれらとは合致しない。
だがトーヤらが立ち止まる中、眼前の彼の正体を知っているケルベロスは先陣を切って飛び出した。
階段を二段飛ばしに駆け上がり、溜めていた拳を躊躇わず丸腰の相手へ突き込む。
「例え弟だろうと、あたしは容赦しない!」
「っ、その声――姉さん、なのか!?」
赤い魔力を宿した拳を素手で受け止めてみせ、銀髪の少年は頭で考えるより先に押し返した。
階段状でバランスを崩した黒い鎧の女を見下ろし、彼女の素性に気づいたオルトロスは動揺を露にする。
そして、その狼狽えを少年は見逃さなかった。
「全員進めッ!! あいつは僕が斬る!」
刃の白銀が、窓より差す月光を反射して煌く。
その瞬間、彼はまさしく風の戦士となっていた。剣が纏うそれは、素早く確実に獲物の懐へと迫る、無形の太刀――。
エルたちの足音が響く。だが、聴覚でそれを拾いはしない。トーヤが捉えるべきはオルトロスの動き、ただそれだけだ。
怪物の子の呼吸、視線、姿勢、足の踏み込みから握り込もうとした手の動きまで、全てを五感で読み取る。
――目の前に立ち塞がる敵は、何であろうと倒す! 戦う機械になることも厭わない! それが僕の、使命だから!
体勢を崩したケルベロスへの助けは他の者に任せ、トーヤはひと呼吸のうちにオルトロスとの距離を詰めようとした。
もちろんオルトロスにはトーヤの動きが見えている。どれだけ強かろうが、所詮は人。その肉体が可能とする動作速度には限界がある。
が、
「――チェック」
ヒュッ、と風切り音が鋭く鳴り、少年の肩や脚、腹部が裂けて血飛沫を散らした。
「がっ……!?」
突如走った激痛に、オルトロスは目を見開く。そして同時に、己の失態がどこにあったかを悟った。
彼は自身の動体視力に絶対の自信を抱いており、またトーヤが速さに長けた相手であることも予習していた。だから、その動きを見切ることばかりを知らずうちに意識してしまっていたのだ。
鞘から抜かれた瞬間に視界に映った刃の色は、銀。そこからテュールの剣でもグラムでもないと判断したオルトロスは、『神器』級の技が迫ろうとは思いもしなかった。
剣が放った風の音を捉えた時には既に遅く、彼は本領を発揮する以前に倒される結果となってしまった。
「ま、まさか……三つ目の……ッ!?」
忌々しげに吐き出すオルトロスを、トーヤは一切顧みなかった。
お前は構う価値もない弱者だ、暗にそう言われている気がしてオルトロスは唇を噛む。もっともトーヤ当人にそんな意図はなかったのだが、先の戦いで【神器使い】に敗れている少年は二度目の敗北に打ちひしがれていた。
「そんな……一瞬で、終わるなんて……!」
オルトロスは治癒魔法を発動させ、自身の肉体の再生を最優先に行う。
だがそうしている間にも、侵入者たちの足音はどんどん遠ざかっていった。
『所詮は姉の劣化か』――いつか聞いた科学者の言葉が、今になって甦る。
悔しさ、不甲斐なさ、無力感、虚無感、劣等感。敗北者に刻まれる負の感情は、一切の加減なしに彼を苛んだ。
しかし皮肉なことに、少年にとっては苦痛でも悪魔からしたら幸福でしかないのだ。抱いたコンプレックスは嫉妬に変わる。強い嫉妬を燃やせば燃やすほど、レヴィアタンの眷属としての素質は高まるのだから。
最初からレヴィアタンは勝ちを望んでいない。彼女はオルトロスが負ける前提で、今回の配置を組んだ。
「申し訳ありません、ドリス様……」
どこにいるとも知れない主君へと、オルトロスは頭を垂れて謝罪した。
彼の忠義は偽らざるものだ。そんなものなど彼の主は全く尊重しないというのに、愚直にドリスを信奉し続けている。
「さっきの彼……弟って言ってたけど、彼も怪物の子だったのかい?」
オルトロスを突破したトーヤは階段を足早に上りながら、並走するケルベロスへ訊ねた。
少年からの問いにケルベロスは首肯する。
「ええ。あれはオルトロス、あたしの弟として作られた子です。魔力に特化したあたしに対し、彼は速さに優れた個体だった」
銀色の髪をなびかせる彼女は、白い仮面の下で唇を歪めた。
出来ることなら弟に他の生き方もあるのだと教えてやりたかった。向き合い、対話して、選ばせてやりたかった。が、今は何より時間がない。他に優先事項がある以上、彼女らはオルトロスに構ってはいられなかった。
黙考する少年の脇で、エルは抑揚の少ない低めた声で言う。
「組織に使われている少年少女は、初めからそれ以外の生き方を教わらずに育てられてきたんだろう。でもそれは誤ったやり方だ。人は誰しも、学ぶ権利がある。選ぶ自由は、誰にあってもいいはずだ」
と、そこで――。
「なるほど、良い考えだ。全ての者に幸せを望むのが最も尊ぶべき思想だとすれば、君の意見は理想にほど近いものだな」
よく通る男性の声が、上階から吹き抜けを通して階段にいるトーヤたちへと届いた。
ノエルの部屋は最上階の4階。そして今、トーヤたちがいるのは2階へ上がる階段。近いようで遠い距離を隔て、少年と少女は仇敵との再会を果たす。
「だが、私はそうは思わない。全ての者をカバーするだけの容量は、最初からこの世界には備わっていないのだからね。搾取する者と、搾取される者――強者が弱者から金を吸い上げる構図こそ、この世の真理!
我らリューズに歯向かうということは、その真理を否定するのと同義だ。果たして君たちにその覚悟を貫けるかな」
ノエル・リューズは突きつけた。誰もが進んで話題にしない現実を暴き、問いかける。
トーヤはそれに真摯に答えた。
「経済界の王者としての貴方の考えを否定はしないし、悪いものだとも思いません。貴方が築き上げた商会の力は本物です。もし、貴方が悪魔と関わっていなかったら、僕たちはこんな襲撃なんてしてませんよ」
「少し、論点をずらしてきたね。悪魔がどうだとか関係なしに、リューズに歯向かった時点で弱肉強食の真理に抗うということになるのだよ。その覚悟があるのか、と私は聞いたのだが」
やはり、完全に振り切れてはいないか――ノエルは眼下の覆面の少年を、そう分析した。
ほんの僅かな迷いがある。本人も明確に自覚できないほどの、微妙な迷いが。
「覚悟なら――出来ています。僕は貴方を殺す。でも、リューズ商会は終わらせない! 悪魔と商会が切り離されれば、この問題は解決されます」
毅然と少年は仮面を外し、顔を上げた。
暗い殺意に満ちた瞳。鋭くノエルを捉える、狩人の眼光。それを受けたノエルの胸に浮かんだ感情は、「面白い」の一言に尽きた。
「君は何も分かっていないようだね。私が死ねばリューズ商会は終わる。後継者として育ててきたアマンダは死に、他に相応しい者もいない。経済界を支配した伝説は崩壊し、数多ある商会の一つに成り下がるのだよ」
「……貴方は、部下を信頼していないのですか。大組織のトップでありながら、誰も?」
「はぁ……そういう気持ちの問題ではないんだよ。彼らは単純に能力が足りないんだ。私から見れば無能の集まりでしかない。まぁ、だからこそ駒としては大層扱いやすかったがね」
トーヤは拳を固く握り締め、ノエルを睨み据えた。
仲間を何より大切にする少年の信条と真っ向から反する、白髪の男の主張を許容できず、湧き上がる怒りに歯を食いしばる。
「ルーカスさん……ルーカスさんのことも、貴方は信じていないんですか。彼は貴方の実の息子でしょう。それでも、後を任せられないというんですか……?」
「あぁ、あれはねぇ……。私の後継には向いていないんだ」
ノエルは端的に言い、それで一旦話を終えた。懐から短杖を抜いた彼は、少年へ呼びかける。
「さあ! こちらへ上がってきなさい、トーヤ君! 決戦に相応しい舞台は、既に用意されているよ」




