11 談話
「やあ、トーヤくん。はじめまして。俺はルーカス・リューズだ。よろしくな!」
ルーカスさんは明るく言って僕に握手を求めてきた。
「こちらこそ、はじめまして。ツッキ村のトーヤです。……彼女がエルで、彼らはノエルさんに解放して頂いた元奴隷たちです」
僕は握手に応じる。ルーカスさんの手はゴツゴツしていてマメが幾つもあった。きっと、武芸をしているのだろう。
そして僕は、自分たちの身分を明かした。
この人……ルーカスさんは、明るくていい人そう。それが僕の第一印象だった。
「こんなだだっ広い部屋で話すのもあれだし、応接間があるんだ。そこで少し話さないか?」
「いいですね。そうしましょう」
僕たちはルーカスさん、アマンダさんに案内され、応接間に通された。
応接間は玄関ホールを通った先の廊下のすぐ手前にあり、中には絢爛豪華な美術品の数々が飾られていた。
ルーカスさんとアマンダさんがテーブルを挟んで向かいのソファーに座ると、僕もソファーに腰を下ろした。
エルとシアンたちは後ろで立って待機している。
「お茶でも出しましょうか。バトラー、用意して」
アマンダさんが言うと、執事がどこからともなく出てきて「畏まりました」とお辞儀をする。
……あの執事さんどこから出てきたんだろう。速すぎてわからなかった。
「ごめんな、小さいソファーしかなくて。本当は皆が座れるようにしたかったんだけど」
ルーカスさんが申し訳無さそうに頭を掻いた。
「いえいえ、大丈夫ですよ!」
プレーナが少々上がり気味の声で言う。商人の家とはいえ、貴族と同等かそれ以上の立場がある相手だ。彼女らも緊張しているのだろう。
「では、始めましょうか」
アマンダさんの言葉で僕らの談話が始まる。
「僕たち、ノエルさんに、ここで働かせてもらうことになりました。これからよろしくお願いします」
僕は二人に頭を下げた。エルたちも同じようにする。
するとルーカスさんは、笑って「顔を上げてくれ」と言った。
「俺たちは表向きは主従の関係にあるが……俺は、人と人として、君たちとは対等な関係でいたいと思っている。だから言いたいことがあったら何でも言ってくれ」
大金持ちの家の息子なのに、僕たちと対等でいたいと言う。ノエルさんもそうだったけど、この人も大分変わってる人だ。
「はい、わかりました。では一つ聞きたいことがあります」
「何だ? 言ってみろよ」
ノエルさんは僕のことを気に入ったと言って、僕らに手を差し伸べてくれた。
だけど、それは僕の【神器】の力が欲しかったからじゃないのか。
僕はノエルさんにここで働いてもいいと言われてから、その疑念をずっと抱いていた。
僕がそのことを口に出すと、ルーカスさんは曖昧な笑みを浮かべた。
「それは……どうだろう。そうじゃないとは言い切れないかな」
「そうですか……」
「親父は貪欲な人だから、手に入るものは何でも手に入れようとするんだ。だから……君のその、【神器】の力を利用することも、もしかしたら考えているかもしれない」
後ろのエルたちの雰囲気が若干変わったように感じた。僕はちらっと彼女らを見て制する。
丁度その時、さっきの執事さんがお茶を人数分運んできた。丁寧にお菓子まで一緒にあった。
「あらあら。頂きましょうか」
アマンダさんが僕らにお茶を勧める。お茶はちゃんとシアンたちの分も用意されていた。
「では、頂きます」
僕は差し出されたお茶を口にした。
芳醇な香りと味が口の中を満たし、緊張状態にあった僕の心を落ち着かせてくれた。
「うちが所有している畑から採れた紅茶よ。絶品でしょう?」
「ええ、本当に美味しいです」
アマンダさんは嬉しそうに微笑む。つられて僕も少し表情を崩した。
「それじゃあ、仕事について話をしましょう」
二人の表情が真剣なものに変わる。僕も気持ちを引き締め、二人の話を待つ。
「……ここで貴方達がどのように働くかだけど、それは私達が自由に決めて良いと父は話していたから……。ルーカス、どうしましょうか?」
アマンダさんが意見を仰ぐ。ルーカスさんは少し考えてから、言った。
「うーん、そうだなぁ……まずは使用人として働いて貰おうかな。それでもいいかい? トーヤくん」
僕は二人の目をしっかり見て、頷いた。
「はい、それで、構いません!」
「心配するなよ。働きが良ければ昇格もさせてやる。他にも、君たちがやりたいことを頼めば、その事次第じゃこちらでも動くことが出来る」
僕が思っていた以上の好待遇だ。
そこで、僕は一つ頼み事をした。
「僕、この大剣を上手く扱うことが出来なくて……どなたか剣術に長けた方がいれば、仕事の傍ら教えて頂きたいのですが、それは出来ますか?」
ルーカスさんはすぐにそれを了承した。
「よし、やってやろう」
「と、言いますと……ルーカスさんが教えてくれるんですか!?」
僕は驚く。彼が武芸をしていることはわかっていたが、まさか彼が直接僕に教えてくれるなんて思ってもみなかった。
「ああ。この俺が大剣の使い方を一からみっちり教え込んでやるよ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
僕は思わず笑みを浮かべた。
アマンダさんが立ち上がり、部屋のドアを開ける。
「さあ、まずは貴方たちがこれから寝起きすることとなる、使用人室へ向かいましょう。使用人たちは新しい仲間が来るのを心待ちにしていたわよ」
この邸の使用人たち……どんな人達だろう?
仲良くやれたらいいな。特にエル……何かやらかさないか心配だ。
でも今は、気持ちを切り替えていこう。




