22 戦う理由
「エ、エル……悪魔、は……?」
エルの膝枕の中で目を覚ましたトーヤの第一声は、それだった。
強欲の悪魔との戦闘で自爆戦術を取った彼を労わるように、エルはトーヤの髪を優しく撫でる。
そうしながら、彼女は事態の経過を淡々と伝えていった。
「悪魔マモンの宿主である人間は、オリビエさんだった。君が戦ったのは悪魔が作り出した分身体で、倒れてすぐに文字通り蒸発してしまったよ。それからティーナやルプスさんは、怪物たちを討伐するために地上へと向かった」
少女から告げられる事実に、トーヤは目を大きく開いて鋭く息を吸い込んだ。
がばっと上体を起こして立ち上がろうとする彼だが、自爆のダメージが響いてすぐにエルの膝に収まってしまう。
「参ったな……。これじゃ、しばらく満足に戦えそうにないね」
「大丈夫、シアンやカイ君たち【神器使い】が君の穴をカバーしてくれるさ。君はマモンの分身体を倒し、多くの情報を引き出した――充分、誇っていい活躍だ。あとは他の【神器使い】たちに任せよう」
エルの言葉にトーヤはゆっくりと頷く。
【神器使い】だけではなく、今この都市にはティーナやルプス、イルヴァや各亜人族の長などの実力者が集結しているのだ。数少ない神器使いに結末が委ねられていた『ルノウェルス革命』の際とは状況が異なる。
地上から伝わる振動に揺れる天井を睨みつつ、トーヤは呟く。
「エル……それでも、僕は行かなきゃいけない。地上に出るまで、肩を貸してくれるかい?」
「構わないけど、その後は? まさか、その体で悪魔と戦いに行こうなんて言わないでよね」
「言わないよ。無茶はしない。だけど、何も見ずに終わるのは嫌なんだ。他の皆が戦い、悪魔が倒れるその瞬間を、目に焼き付けたい」
問うてくるエルに首を横に振り、トーヤは率直な思いを口にした。
アスモデウス、ベルフェゴール、ベルゼブブ……これまで戦ってきた悪魔の最後は、少年が常に見てきたのだ。
シルから話を聞き、悪魔がどういう経緯で誕生したのか知った今となっては、なおさら彼らの最期を見届けなくてはならない。悪魔は絶対に滅ぼさねばならない悪だが、彼らが何を思って生きていたのかも理解する必要があるのだ。
「マモン……僕は君を知りたい。君と最後に、話をしたいんだ」
*
人の身体に怪物の力を纏った【魔獣化】を発動したオルトロスは、踵落としでティーナの防壁を破砕した。
ルプスとリオは咄嗟の判断でティーナ、シアンを抱えて横っ飛びに回避する。その直後、先程まで彼女らがいた地面には亀裂が走り、小さなクレーターまで生まれていた。
「へえ、避けられるんだ。やるな、お前ら」
銀の瞳を輝かせ、獣人の少年はにやりと笑う。
強者と出会えた喜びに尻尾を揺らす彼は、その場で屈伸しながら話し始めた。
「どこからでもかかって来ていいよ。オレ、負ける気なんてないから」
余裕で挑発してくる『怪物の子』に、ルプスは素直に乗っていいものかと逡巡する。
ティーナに目配せする彼は、魔導士の少女から返ってきた視線で判断を決した。
――とにかく戦うしかない。こいつを野放しには出来ない。
そう腹をくくってルプスは拳を握り込んだ。剣が弾き飛ばされていたとしても、風の付与魔法を受けた拳なら戦えるはずだ。ましてや相手は防具を纏わない素っ裸な姿なのだ。防御魔法でも使われない限り、触れれば傷を負わせられる。
「おおおおおおおおおおおッッ!!」
雄叫びを轟かせながら駆け出すルプス。
例え自分が倒れようとも、これ以上の被害を出させる事態は防がなくてはならない。彼は命をも擲つ覚悟でオルトロスへ突貫攻撃を仕掛けた。
溜めた拳に暴れ狂う風を宿した男は、悠然と立つ『怪物の子』にそれを突き出し――。
「そんなの、効かないッ!」
しかし、銀髪の少年に正面から手のひらで受け止めてられてしまう。
拳の暴風がオルトロスの肌を撫でるごとに、その白を赤へと染めていくが、彼は動じなかった。
肉を切らせて骨を断つ――死を恐れない怪物の子は、その戦略を躊躇なく採ってきた。
「まだまだ……! 押し込めぇ――ッ!!」
風は止んでいない。まだ、行ける!
ルプスは諦めずに吠える。吠え続ける。
かつて彼は『組織』の一員としてカイ・ルノウェルスの前に立ちふさがった。彼が招いた凶狼のせいで、多くのスオロ市民が命を落とした。カイの説得によりルプスは己の行為が間違いであったこと、人を殺す復讐が本質的な解決にはならないことを知り、その贖罪のためにカイと平和のために闘おうと決めたのだ。
『怪物の子』らがどういった思いで『組織』のもとにいるのかは分からない。だが、まだ14、5の少年を戦闘に駆り出すのが正しいとはルプスには思えなかった。
「少年よ……君は、なぜ組織のために戦うんだ!?」
「なぜ、だって……!? それは、決まってる――オレが、そう生まれついたからだ!」
ルプスの問いに叫びで答えた少年の手のひらの力が、急激に増した。
彼の感情に呼応するかのように、オルトロスの体は銀の光を纏い始め――同時にルプスの拳の風が、徐々に弱まっていく。
「何だ、魔力が……!?」
「フン、後ろから来ても意味ないぞ、女! 今のオレには前も後ろも、ない!」
ルプスがオルトロスと激突している間、ティーナは挟撃するために少年の背後に回り込みながら詠唱を行っていたのだ。
しかしそれも、後ろに「もう一つの顔」を持っているオルトロスには通用しない。見えている攻撃なら回避も迎撃も余裕でこなせる。【神器使い】でもないただの魔導士の魔法など、捌くのは容易。
氷の砲撃をぶっぱなしてきたティーナをオルトロスはつまらなさそうに一瞥し、裏側の顔の口を開いた。
「【魔炎の防壁】!」
杖も使わず、手を突き出すこともなく。
魔力を溜めるための媒体を用いずに、少年は魔法を展開してみせた。
赤い炎の壁がティーナの攻撃を阻み――吹き荒れる吹雪が、灼熱の前に溶けて消えた。
「雑魚はいらない! オレが戦いたいのは、強者だけ!」
『怪物の子』は欲望のままに叫ぶ。
生まれた直後から、彼はそう植え付けられていた。『蛇』という科学者の男の野望――世界に彼の発明の偉大さを知らしめるために、強さのみをひたすらに求めさせられた。
それが正しいのか間違っているのか、オルトロスには分からなかった。それを考えても仕方がない――そんな諦念はいつしか執念に変わり、彼は力を欲するだけの獣となった。
「どけッ!」
彼はルプスの手首を掴み、右腕一本で引っ張り投げ飛ばした。
それから先ほどの炎の壁を球形に変化させ、攻撃魔法として射出する。
ティーナは回避できずに彼の火球を腹に食らい、吹き飛ばされて地面に崩れ落ちた。
かわせる訳がないのだ。杖を振ることも手を突き出すこともなく『イメージ力』だけで魔法を完成させてしまう彼には、攻撃の予備動作がそもそも存在しない。一瞬で放たれる彼の魔法を防ぐ手段は、予め防衛魔法を展開するか距離を取るしかない。
「オレがこの場で戦いたい相手はお前だ、獣人の女!【神器使い】のお前を倒せば、オレはもっと強くなれる! だから来い――それとも、お前も雑魚だったのか!?」
エルフの戦士の肩を借り、辛うじて立っているシアンだったが、リオの治癒魔法でも完全に毒が抜けたわけではないようで顔は青ざめていた。
興醒めだ、と吐き捨てる獣人の少年は、シアンから視線を外して中央通りの方へ目を向ける。
彼の求める強者はそこにいる。【異端者】を倒した本物の英傑が、その先で待っているのだ。
「待、て……! 俺たちは、まだ……終わってなど、いない……!」
踵を返して走り出した少年をルプスは追い、背後から追撃を浴びせようとする。
が、
「お前じゃオレに届かない。学習しろ、獣人」
蔑む目、そして贈られる炎。
獣人の男の眼前で開花した火焔の花が、彼の全身を包み込んでいく。
「ぐうっッ!?」
苦痛に呻きを漏らし、地面に倒れたルプスは目線を上向けた。
走り去っていく裸足がどんどん遠ざかっていく様に、彼は唇を噛んだ。
魔法耐性のある特殊素材の衣服を着ていたお陰で致命傷にはならなかったものの、その防具を貫通して全身の皮膚に軽度の火傷を負ってしまっている。これ以上の戦闘は不可能だった。
「負けた……罪を償うために、勝たなくてはならなかったのに……」
悔恨の痛みに苛まれるルプスは、弱い自分が嫌いで仕方なかった。
駆け寄ってきたリオに治癒魔法を施してもらう最中も、彼は自分を責めるのを止めはしなかった。
「ルプっち……」
ティーナは自身で治癒魔法を発動し、傷を半ばほど治してからルプスのもとに追い付いた。
慰めの言葉もかけられず、彼女は俯く。今の自分達ではあの怪物に勝てないのかもしれない――そう考えてしまった、その時。
ティーナは、悪魔マモンの分身体と懸命に戦った少年の姿を思い出した。
「いや……まだだよ、ルプっち! あの怪物には何か弱点があるはずだ。それを見つけられれば、勝機はある!」
諦めるのはまだ早いのだと、ティーナはルプスやリオ、シアンに訴える。
同時に、諦めたらそこで敗けが決まってしまうのだと気迫で語った。
彼女の台詞にルプスたちは顔を上げた。
心の内に残る闘志が、再び燃え始める。
「中央通り、中央広場が最後の戦場じゃな。急いで追い掛けてくれ、ティーナ、ルプス殿」
「よし、分かった。リオ君……シアン君を頼むぞ」
「はい。ご武運を!」
オルトロスの後を追って地面を蹴ったルプスとティーナ。
二人の背中を見送りながら、リオは継続して治癒魔法をシアンへかけていった。
「大丈夫。彼らなら、やり遂げます」
シアンは確固とした口調で言った。
彼女はルプスともティーナとも深い交流があったわけではないが、二人が正義を貫く強い心を持った人間だと知っている。
必ずオルトロスに反撃を食らわせてくれる――そう信じて、シアンは胸の前で手を合わせて彼らの無事を祈った。
*
リザードマンは追い詰められていた。
中央広場にて【神器使い】含む実力者たちに囲まれ、まさしく四面楚歌。
レヴィアタンの悪器である長剣を構えながら、彼はぎりりと歯軋りする。
『こりゃあ、大分やべぇぞ……!』
【異端者】有数の強者としてここまで戦い抜いてきた彼だったが、10名近い戦士たちに包囲されれば流石に弱音を漏らしてしまった。
ミラ、エミリア、ジェード、ユーミといった【神器使い】たち、それにドワーフのリトヴァ、獣人のサク、ダークエルフのリカールなど亜人の族長たちも集結している。
この面子に巨人族のウトガルザ王を加えた戦士たちによって、【異端者】の大半は既に討伐されていた。
残ったのはリザードマンの他にはガーゴイル、そして竜人の女のみ。そしてその二人はどこにも姿が見えなかった。粗方、劣勢を見て撤退したのか――頭への強い忠誠心を持つリザードマンは、不信心な二名に舌打ちする。
『まぁ、いい……ここで神器使いの一人でも討てば、おれたち怪物の名は永遠に語り継がれる! 人々はおれたちにひれ伏し、畏怖するのさ!』
追い込まれたリザードマンは既に、理想しか見えていない。
長く求めたそれを前に、天を仰いだ彼は笑みを深めた。
彼を闘争の絶えなかった蠱毒の壺から救ってくれたのが、『エキドナ』だった。
――もう同胞を葬る必要はありません。貴方がこれから求めるのは、理想。怪物の理想です。
差しのべられた手を取った時から、リザードマンの生き方は決まっていた。世界の日陰者である自分達が、『古代』を生きた祖先のように再び地上の覇者となるために戦う――。
『願いを、悲願を叶えるためなら、おれは命だって捨てられる! さぁ、かかってこいよ【神器使い】!』
全身全霊で吼え、彼は悪器の剣に魔力を溜め始めた。
彼が魔力の充填にかけた時間は一秒にも満たない。だが、それで充分だった。
剣が振り抜かれた軌道に沿って、水の刃が実体化する。弧を描いて放たれた液状の刃はその圧力で鉄をも切断可能だ。それだけでなく毒も含んでおり、触れた敵をじわじわと弱らせることが出来る。
彼が都市の中央まで攻め込めたのも、ひとえにこの武器があったからだ。
「ええ、覚悟を胸に戦うのは私たちだって同じこと! さぁ、宝玉よ!」
猛然と攻勢に移るリザードマンに対し、ミウは高らかに告げながら宝玉に手を置く。
他の神器使いたちもそれぞれの得物を抜き放ち、一斉に魔法を発動した。
光の細剣が、鷹の羽衣と黄金の剣が、時を司る神の杖が、それぞれ閃き、全方位からリザードマンに攻撃を撃ち出す。
怪物が放った水の刃は、確かに強力ではあった。が――神器使いの数の暴力に叶うはずもない。
その水の刃は神器使いらの魔法に穿たれ、彼らのもとへ肉薄する前に勢いを殺されて飛散する。
『くそぉっ! おれは、ここで終わるのか……!?』
リザードマンは死を予感した。
もう逃げられない。この敵は自分では倒せない。終わりなのだ。
だが、彼は命への執着を捨てられなかった。この世に生を受け、怪物でありながら理知を授かり、『エキドナ』の理想を目指した彼は――まだ、何も成し遂げてはいない。
「抵抗は無駄なことです。散りなさい、リザードマン!」
抑揚の少ない声音で、茶髪の王女が彼へ引導を渡そうとする。
それでもリザードマンは剣を下げなかった。例えここで散ろうとも、抗うことだけは止めまいと決心していた。地獄から救ってくれた頭のためにも、惨めな最期だけは迎えたくなかった。
『ああああああああああッッッ!!』
リザードマンは魂の全てを吐き出すような叫びを上げ、刺し違える覚悟で猛進した。
水を纏った剣を中段に構え、目の前の王女へと視線を固定する。他へ注意を向ける必要は最早ない。【神器使い】の一人を何としてでも討つ――それ以外の思考は何もいらない。
「――この者は……!?」
その怪物の瞳に、エミリアは動揺を隠せなかった。
見覚えがあったのだ。理想へと一途に突き進む求道者の目――それはまさしく、兄のものと同じ。
心に欠落を抱えたエミリアとは対称的に、王の理想を真っ直ぐに辿っていく強い念。
怪物に兄の顔を重ねてしまったエミリアは、彼への対応が僅かに遅れた。ミウやミラがそれに気づき、怪物の前に割って入ろうとした、次の瞬間――。
『掴まれ、サロメ!』
上空から突如、烈風のごとく出現したガーゴイルがリザードマンのもとに舞い降り、彼の腕を掴んで飛び上がる。
『おわっ!? ゴ、ゴイルか……!』
驚愕、そして安堵。
サロメという名のリザードマンは、眼下の【神器使い】たちを見下ろしながら剣を持つ手に魔力を込めた。
追撃を加えようと構える戦士たちを迎撃しなくては、ガーゴイルもろとも撃ち落とされかねない。
が、しかし。
「待ってください! おそらくあれはもう、こちらに攻撃はしてこない」
遠距離型の魔法を持つミラや弓使いのダークエルフ族長リカールを、エミリア・フィンドラは制止した。
自分が何故、彼女らを止めて怪物を見逃す真似をしたのか、エミリアには正当な理由を思い付けない。だが、確かに言えるのは――あの怪物から己を変える手がかりが見つかるかもしれないのだということ。
怪物に学ぶなど、絵空事だと笑われて当然の話だが、それでもエミリアは彼らが気になって仕方なかった。
「エ、エミリア殿下……! もう、射程外まで逃げられてしまいましたわ。確かに、あれは攻撃を諦めて撤退に移ったように見えたけれど、危険な存在に変わりはない。やはり討っておくのが得策だったのではなくて?」
ミラ・スウェルダはエミリアの行為に異を唱えた。
神化により白髪の天女のごとき姿と化している彼女は、咎めるような目でエミリアを見る。
ごくりと唾を呑むエミリアに代わって彼女の前に出たのは、ジェードであった。
「あのリザードマンがどうかは分からないですけど、ガーゴイルについては俺たちに敵意を持っていません。俺、あいつと話したんです。あいつは自分たちの間違いに気づいて、仲間を止めようと奮戦していた。あいつが暴れていたハーピィを倒したのは、俺だけじゃなくてエミリア殿下も目撃しています」
ミラはジェードの説明に目を見張った。それから、視線を僅かに下向ける。
彼女がそんな顔を見せたのは、会談が始まってから初めてのことだった。常に泰然たる態度を貫いていた彼女らしからぬ、動揺。
「そんなことが……?! あれは、怪物なのよ……!」
「ですが、事実です。住民の多くがその光景を目にしています。調べればすぐに証明でき――」
「それは分かってるわ。事実を事実と受け止められないほど、私は愚かじゃない。困るのは、気持ちに整理が付けられないことよ……!」
確固とした声音で言ってくるジェードの胸を押し、ミラは顔を上げて首を横に振った。
怪物とは絶対悪。悪魔と並んで滅ぼすべき、人類の敵。
その大前提に真っ向から反している現実が、王女を足元から揺るがしている。
衝撃を受けているのはミラだけではなかった。リトヴァやサク、リカールといった亜人の長やミウ、ユーミなども驚きを露に獣人の少年を見つめている。
と、その時だった。
『揃いも揃って、何を呆けた顔をしている? ――この世には未知が満ちている、お前たちはそれを知らぬほど愚かではあるまい』
彼女らの頭上から、中性的な何者かの声が聞こえてきたのは。
一様に空を振り仰いだミラたちの視線の先にいたのは、甲冑の人物。その背中から漆黒の竜の翼を生やし、腰からは太い尻尾が露呈していた。人ではない、亜人型のモンスターだ。
『見つけたぞ。我らの宝玉、返してもらおうか』
エミリアは心臓が鷲掴みにされたかのような衝撃と、息苦しさを感じながらその甲冑の者を見上げる。
先ほど交戦した時とは、敵の雰囲気が違う。怪物としての本性を現した、竜人の姿――いや、姿だけではない。発している闘気、その目の殺気、自分たち人間を蔑む冷たい笑み。兜の下の氷の感情に、エミリアは否応もなく怯んでしまっていた。
「…………っ」
エミリアを一瞥した鎧の竜人は、何を言うこともなく視線を切ると、その照準をミウに定める。
王女が持つ『宝玉』を竜人は狙っている。その理由は一切不明。明らかなのは、彼女がこちらに強烈な敵意を宿していることだけだ。
『我が道を阻む者は、例外なく散ると知れ!』
甲冑の竜人は血塗られた大剣を大上段に構え、高らかに叫ぶ。
剣の魔力の高まりと共に降下、急接近してくる彼女に対し――ミウをはじめとする魔導士たちは一斉に防衛魔法を展開した。




