54 本当の願い
ロキを撃ち抜いた黒ローブの人物は、しばらく瓦礫の山の上からフレイたちを見下ろしていた。
が、ややあって黒い影はそこから下りてくる。音もなく、滑るように近づいてくる異様な気配に、神々は身じろぎすることも叶わなかった。
「…………」
神バルドルが魔法で作った太陽に照らされながら、その影は無言でまっすぐ歩いてくる。その向かう先にいるのは、シル・ヴァルキュリアだ。
地面に手を付き、膝を屈す彼女は今、無二のパートナーを亡くしたことで失意に沈んでいる。
「……っ、彼女に触れるな!」
フレイは鋭く声を上げる。黒い影が放つ圧倒的な魔力――それに対する恐れよりも、彼女を案ずる心が勝った。
彼の制止を受け、影は足を止めた。そして金髪の美丈夫へ首を回し、澄んだ緑の瞳で彼を見つめる。
「君は確か、フレイだったね。君がシル・ヴァルキュリアを親身になって育てていたことは知っている。だけど……今ばかりは見逃してくれるかな。彼女は僕にとって必要な人なんだ」
男とも女とも取れない中性的な声が、少年のような響きを帯びた口調でフレイに言った。
予想よりも相手が幼かったことに神々は若干驚きつつも、それで警戒を解きはしなかった。
杖を抜いて小柄な影を三人で囲み、彼らはその者に問いかける。
「逆賊ロキを討ったことについては、今は何も言うまい。――我々が問いたいのは、君がなぜシルを必要としているかだ。素性の知れぬ者に、精神的に揺らいでいる彼女の身柄を預けるわけにはいかない。シル・ヴァルキュリアには休息が必要なのだ。長い、長い休みが……」
三名を代表して、彼女と最も交流があったフレイがそう口にする。
彼はシルを心から想っている――影にもそれはよく分かった。
「手荒な真似はしたくないんだ。君たちは貴重な人材だからね。――シル・ヴァルキュリアの身柄は、こちらで丁重に守る。彼女を、引き渡してくれるかな」
問われてなお、影は目的を明かそうとしない。彼はただ、その瞳に炎のごとく強い意思を宿し、フレイらと向き合っていた。
「――出来ない。我々が拒まない確信があるのなら、迷わず目的を明かすはず。それが出来ないということは、そういうことなのだろう。君は彼女を危地に誘おうとしている。もしくは、彼女を何らかの悪事に利用しようとしている」
しかし、影の願いをフレイは断固として拒んだ。
この人物はあのリューズの側近なのだ。あの女と同様、巨大な悪意を持って行動している可能性が高い。彼は危険人物だ――それが三人の共通認識であった。
フレイの返答に、フードの下で影は小さく吐息する。
「……やはり、そう簡単にはいかないよね。あぁ……本当はこんな手段、使いたくなかったんだけど」
舌打ちと同時に影はフードを押し上げ、その顔を露にした。
光の下に晒された、少年の顔――そこにあった微笑みに彼らのよく知る人物の面影を見て取り、フレイたちは驚愕に声を失う。
透き通るほどの白い肌。優美な線の輪郭に、薄い唇、筋の通った鼻。女性的な柔らかい印象を与えるそれらのパーツに反して、切れ長の瞳だけが野性味を持ってこちらを睥睨している。
彼の緑色の瞳は、これまで神々が幾度も幾度も目にしてきたものと同じだった。【神】としての命を授かり、共に国を運営する中でたくさんの愛を貰ってきた、女王と瓜二つの目。
「やぁ……はじめまして。僕はセト、イヴ女王の息子だ」
艶やかな黒い髪をした少年は、自身の正体を隠さずに告げた。
これまで歴史の表舞台から姿を消していた、かつての皇帝。その登場に、流石の神々も唖然とするほかなかったが――間を置かず彼らはその場で跪いた。
「これは失礼致しました、セト様。あなた様の正体を知らず、敵意を向けてしまったこと、どうかご容赦を」
「謝らなくていい。素顔の見えない者を疑うのは当然のことだからね。……改めて確認するけど、シル・ヴァルキュリアの身柄をこちらへ引き渡してくれるね?」
今度は拒むことさえ許されなかった。セトは彼ら神々にとっての始祖たる存在で、彼がいなかったら自分たちはそもそも生まれることさえなかったのだ。そんな偉大なる人物を目前にして、【神】の誰が反抗できるというのだろう。
フレイたちが頷いたのは、殆ど反射に等しかった。セトの眼光にはそうさせる力があり、そして彼は自身のその才を余すことなく使いこなせる。
もはや、神々はセトの意のまま。傀儡同然の彼らに満足げに頷きを返しながら、セトはシルの側にしゃがみ込んだ。
そして、彼女以外の誰にも聞こえない微小な声で耳打ちする。
「……もし、大切な人に再び会う手段があったとして、君はそれを求めるかい?」
「……………………」
――考えることも放棄したい。彼がいなくなった現実から目を背け、どこか誰もいない場所に逃げ出したい。
そのような暗い思考の海に沈もうとしているシルへ、セトは人の好い笑みで手を差し伸べた。
揺れる瞳を少し上向け、シルは自分の正面にしゃがむ少年を見つめる。
「大丈夫さ。僕を信じていい。僕が君の苦しみや悲しみ、怒り、憎しみ……辛い気持ちを全部受け止めてあげるから」
甘い囁きが、暗い場所へと落ちていくシルをそっと抱き留めた。
その言葉から、微笑みから、彼女は逃れることが出来ない。がんじがらめの鎖のように、セトの腕はシルを掴んで離さない。
――この人に全てを委ねれば、私は楽になれるの……?
淀んだ目で、彼女は少年に問いかける。
「ああ、そうだよ。君は今まで本当によく頑張った。だからもう、眠っていいんだよ。戦わなくていい、君にはただ、安息があればいい」
イヴに抗うと決めたあの日から、シルはずっと戦い続けてきた。誰に対価を求めることもなく、己が信じた正義のために。
しかし、共に歩んできたパートナーはこの世から永遠に去ってしまった。彼女を動かす原動力だった彼が戻ることは、決して有り得ない。あのイヴにすら、人を蘇生させる魔法はついに編み出せなかったのだから。命を無限に延ばせたとしても、失われればそれきりなのだ。
――これ以上は、進めない。もう、休んでいたい。
「…………っ」
つぅ、と涙がまた一筋、彼女の頬を伝って滴る。
セトはシルの背中にそっと腕を回し、かつて青年が彼女にしたのと同じように抱擁した。
遥か昔に、少年の母親が彼にそうしたように。同じだけの愛を注いで。
「さぁ、行こう」
立ち上がったセトは腰から杖を抜くと、軽くひと振りして『転送魔法陣』を発動した。
地面に崩折れるシルの真下に出現した魔法陣が白い光を閃かせ、彼女をここではないどこかへと連れ出していく。
跪いたままそれを見送った神々は、顔を上げると最後にセトに願った。
「セト様。シルをどうか、頼みます。我々には成せなかった彼女の救済を……どうか」
フレイ、テュール、ヘイムダルの三名は、無条件の信頼をもって真摯に頼み込む。
忠義に満ちた神たちの態度に満足げに目を細めながら、セトはこくりと頷いた。
「ああ、任せてくれ。彼女の心は必ず、楽になるだろう」
その台詞を最後に、セト自身も魔法陣に足を踏み入れ、そこから姿を消した。
瓦礫が散り、怪物を覆う氷の冷気がしんと降りるその場所で――残された神々は、瞳を閉じて祈った。
――彼女に安らぎがあらんことを。
その祈りはこの後、半ばは叶えられることとなる。だが、彼らはまだ思い出していなかった。
セトという人間が、人の命を残酷に弄べる人物であることを。目的のためならば人の心を踏み躙り、自らに都合の良いように変えてしまえる怪物であったことを。
*
愛した夫と『魔女計画』を進めた研究所の跡地――王都から北に出た郊外の森林、その奥深くにイヴはいた。
現在は何人たりとも立ち入りが許されていない聖域にて、彼女はひたすらに待ち望んでいた。
自分の肉体は既に限界に近く、精神、魂の寿命も風前の灯火。だが、彼女は決して生への執着を手放そうとはしなかった。
――私は私の世界を管理しなければならない。愛する『ユグドラシル』に、安寧をもたらさなければならない。それが可能なのは、もはや私以外にいないのだ。神々はまだ、その器足り得なかった。共に歩んできたノアも、人の情を知りすぎて駄目になった。この偉業を成し遂げられるのは、私しか……。
かつて子供たちを育てたビーカーは、彼女の魔法により風化することなく残されていた。
その滑らかなガラスに頬を摺り寄せながら、彼女は瞼の裏に当時を思い描く。
あの頃は幸せだった。これから生まれようという子供たちを慈しみ、彼らの未来を思うのが何より幸福だった。だが、そこに影がなかったわけではない。アダムを独占するために排除した親友、リリィ――彼女が夢に出なかったことは、あの日から一度だってなかった。
親友の立場も、得るはずだった名声も、そこにあった絆も全て、イヴは己のエゴのために捨て去った。それは彼女の生涯の中で、最大の罪。何度懺悔しようが許されることのない、愚かな過ちだった。
「あなたの分も、世界を守るから……魔導士の栄光ある世界を、ずっと……」
あの白髪がこちらへ翻ることも、その真紅の瞳が笑みを形作ることは二度とないだろう。
だが、それでも――世界をこの手で管理し続けることが、罪滅ぼしにはならないだろうか。
「――母さん。連れてきたよ」
と、そこで、研究室だった部屋に少年の声が響く。
役目を果たした息子が帰還したのだ。イヴは巨大なビーカーから身を離し、佇まいを正して声の方へ向き直る。
照明が破損して薄暗い部屋の中央、魔法陣を描けるように広くスペースの取られた所に、セトは立っていた。彼の胸の前には、魔法で浮遊させられた横たわる女の姿がある。
彼女は瞳を閉じ、どうやら眠っているようだった。直接まみえるのは久々ね――そう呟き、イヴはシル・ヴァルキュリアの元まで静かに歩み寄った。
「ありがとう、セト。これで、私は生きながらえることが出来る。ふふ……必要な儀式が済んだら、ご褒美をあげるわ」
彼女のか細い声に、セトは幼い頃から変わらない微笑みで応じた。その穏やかな表情には、カインやアベルの面影もはっきりと残っている。
これからイヴが使うのは、人の魂を操作する禁術だ。未だ誰も使用したことのない、未知の術式――だが、イヴにはこれを成功させる自信があった。自らの衰えに備え、長きに渡って実験を重ねてきたのだ。ここ一番という時にやり遂げなくては意味がない。
「うふふ……シル、これからあなたの身体は私のものになるの。あなたの元々の人格――魂に、私のそれを上書きする。そうすれば、私の課題だった肉体の衰えは克服できるわ。魂の寿命については、記憶の書き換えの際に要らないものを全て削除しておけばいいでしょう。私には、世界を管理するのだという使命感と、膨大な魔法の術式だけあればいい」
イヴはこれから行うことを声に出して確認した。これまで大切に保存していたセトたちとの思い出や、ノアを捨てた際の冷たい記憶まで、何もかもをこれから捨て去る。
目覚めた後は、記憶喪失者と同等――いや、記憶を引き出せなくなる記憶喪失よりもさらに酷いか――の状態になる。千年を超す人生で体験した出来事の記憶は、今日この日をもって永遠に彼女には戻らなくなるのだ。
「……セト、様……?」
シルの霞んだ視界に映ったのは、笑みを浮かべたイヴの顔だ。だが不運なことに、それが息子と瓜二つな母親の顔である事実に彼女は気付けなかった。
精神的に深い傷を負った者の思考は、当人が元々どれほど聡明だろうが関係なしに鈍ってしまう。半ば精神喪失状態に陥っていたシルは、目の前の相手がセト以外の誰かであると疑うことさえ忘却していた。
「さぁ、その魂を差し出しなさい――【開魂術】!」
シルの額に杖先を突き付け、イヴはその呪文を唱える。
瞬間、杖が触れたそこには漆黒の刻印が浮き上がった。六芒星の刻印はぎらぎらと輝きを放ち、イヴの瞳にも恍惚とした光が宿る。
――貴方が背負ってきた苦しみや悲しみ、そういった負の感情は全て、私が取り払ってあげる。委ねなさい……私の愛に抱かれ、お眠りなさい。
優しい聖母の顔で、イヴは囁いた。彼女の愛に偽りはなかった。大切な人と永久に引き離される辛さは彼女が一番理解している。
双子を亡くし、夫を亡くし、共に世界を築いた同胞たちを幾人も亡くした。その度に狂おしいほどの悲痛に襲われ、彼女は心をすり減らしていった。
彼女が歪み、異常なまでに世界の管理に執着するようになった要因も、恐らくはそれもあったのだろう。
悲しみに暮れるくらいなら、一生癒えない傷を抱え続けるのなら、安らかに眠っていたほうが幸福だ――イヴは自身の行為をそう正当化し、躊躇なくシルの心を暴いて侵入していこうとした。
が、その時、イヴにとって予期せぬ異変が起こった。
シルと額と額を突き合わせ、瞳を閉じて意識のシンクロを図ろうとしていたイヴ。
本来ならば、彼女の言葉に誘導されてシルは完全に心を明け渡し、円滑に儀式は進むはずだった。
――いや、だ……私は、まだ、戦わなきゃ、いけないの……!
しかし、シルは抵抗した。差し伸べられた手や、温かく向けられた微笑みを否定して、彼女は現実へ戻ろうとしていた。
それは、彼女の精神の軸にあった使命感によってなされた業だった。
――セト様……いえ、イヴ! 私は、あなたなんかのものには、ならない!
声を振り絞ってシルは懸命に叫ぶ。己の深い部分が侵略される寸前になって、彼女は最後の力を発揮した。
失意に何もかもを委ねてしまおうとしていた人間とは思えないほどの心の力が、イヴを拒絶する。
エルやハルマ、グリームニル、ノア――彼女にとって大切な、守るべき人たちはまだ生きている。自身の片割れにも等しい存在が失われたからといって、彼らを置いて消えるわけにはいかない。パールがいなくなったのなら、彼に最も近かった自分がその遺志を継ぐのが道理だ。
それにシル・ヴァルキュリアという人間は、まだ必要とされている。フレイやロキ、トール、バルドル、オーディン、ノート、ヴィーザル、ヘズ――これまで出会ってきた沢山の神々に、エストラスやカトレア、フェイといった中層で交流した者たちも、彼女を英雄として信頼している。
「……私は、【永久の魔導士】! この世界を護るために、あなたを倒します!!」
バチバチッ、と魔力が激しく火花を散らし、激痛がイヴの額を襲った。
堪らず首を仰け反らせるイヴは、眉間に皺を寄せてシルを睨む。
――なぜ、再起できた? 彼女の心にはぽっかりと大きな穴が開いていた。それはどんなものでも埋め合わせることの出来ない、深淵のように空虚なものだったはずだ。
「っ、シル・ヴァルキュリア……! 貴女はどうして折れないの!? 私たちが楽にしてあげるって言ってるのに、なぜ自ら苦境へ飛び込もうとするの!? なぜ、そうも愚かなの……!?」
溢れ出したイヴの叫びには、激情と困惑が同居していた。
彼女には理解が追いつかない。どうして、どうしてと問いかけるも、答えが導き出されることはない。彼女がそれを持ち合わせていなかったから――もう長い間、彼女は本当の愛を享受していなかったから。唯一、それを与えてくれたノアのことも、彼女には既に遠い記憶となってしまっていた。
「私の帰還を望む人たちがいる、守りたい人が一人でもいる――それだけです! 好きに愚弄してください、これがシル・ヴァルキュリアの生き方なんです!」
抜き放った杖を大上段に掲げ、シルは自分が持つ最高の魔法をもってイヴに反攻する。
七色の光が迸り、それは彼女の背後で翼のように広がっていく。
――なんて眩しいの。なんという、美しさなの。
イヴは歯を食いしばり、その心情に反して悪態を吐いた。認められない。こんな未熟な魔導士に、千年の時を生きた自分が気圧されているなど、断じて。
「クソッ……あなたなど、私に敵うわけが……!」
「いいえ、敵います! あなたを乗り越え、私はもっと強くなる――私がそれを望み、信じていれば、この魔法は際限なく力を増す!」
彼女が言葉を一つ紡ぐたびに、発される魔力の輝きは高まっていく。
圧倒的な魔力さえあれば、他に何も要らない。必要なのは極めた技術と己の魔力――それだけだと、イヴは信じてきた。彼女は自身のそれらを絶対的に信じてきたから、世界の頂点でいられたのだ。
だがシルが持ち出してきたのは、彼女が切り捨てた「心」の力にほかならなかった。
「――【時幻展開】!!」
光の奔流がイヴへと迫る。視界を塗り替える虹色の輝きに、【緑の魔女】は防衛魔法を展開するも――その黒い盾が軋みを上げて崩壊するのは、時間の問題だった。
ひび割れていく半透明の防壁越しに、イヴはシルを睨み据えながら言った。
「……よく、私と真正面から戦おうと思えたわね。その心意気は賞賛するわ」
「それはどうも。世界最強と言われたあなたが、新らしい肉体を私に求めようとしていた――あの魔法の意図が分かった時点で、負けないと思いました。今のあなたには、私と一対一で戦えるだけの力がない。それは間違いありませんね」
「……認めたくないけど、それは事実ね。この戦いを制するのはあなたよ、シル」
極彩色の激流に呑まれるイヴは、高出力の魔力を受けてもなお痛みを全く感じていなかった。
肉体を透過していく光の波を目に焼き付け、彼女は普段と変わらない原初的な微笑みを湛える。
――こんな幕引きも悪くはない、か。自分を常に駆り立てていた、あの呪いから解放されるのなら……ようやく、長い眠りに就くことが出来る。
そこまで考えて、ようやくイヴは己の願いに気がついた。
自分はずっと、死に場所を探していたのだ。死を恐れ、醜く生を引き伸ばしていた反面、自分を殺してくれる誰かを待っていた。王位を狙った欲望に塗れた者でも、憎しみに駆られて暗殺を企む者でもなく、純粋な正義から自分を討つ英雄を欲していたのだ。
「母さん……!」
セトの悲鳴を耳にしても、イヴが動揺することはなかった。
自分の遺志は彼が引き継ぐ。イヴという女の理念、そして彼女が過去に葬った優しさを、彼はシルたちへ伝えてくれるはずだ。
視界は真っ白に染まり、光に焼かれた眼は既に機能しない。全身の感覚が徐々に失われていくことを実感することもなく、彼女は立つこともままならず床に仰向けに倒れた。
そして、瞳を閉じ、長い旅路の終わりを彼女は待った。
「ふ、ふ……ありがとう、シル……さよう、なら……」
自分を打ち倒した英雄へ、彼女は感謝の意を告げる。
思っても見なかった女王の発言に、シルが目を瞠る中――そこに突如、第三の女性の声が割って入った。




