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黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
第2章  解放編

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7  新たな居場所

 僕のもとに、エルやサーナさん、宿のおじさんとおばさんが駆け寄ってきた。

 彼らは驚き、そして感嘆の表情で僕を見る。


「もう。無茶をするんだから……」


 サーナさんが怒ったように言う。


「トーヤくん、君があんな事を言い出した時は、どうなることかヒヤヒヤしたよ……」


 エルは安堵の胸を撫で下ろす。

 僕は、解放した奴隷たちをぼんやりと見つめた。


 本当に、こうなってしまうなんて思ってもいなかったけど、結果的にはこれで良かったのかな。


「あの……ノエルさん。改めて、ありがとうございます」


 ノエルさんは微笑んだ。眼鏡の奥で赤い目が光る。


「はは、どうも」


 僕は、元奴隷たちに今後どうするか訊いてみた。


「私たちは、故郷へ戻ろうと思います」


 巨人の家族はそう答えた。


「私も……一人ですが、もといた地に帰ろうかと」


 小人の女性は凛とした顔を上げる。


「私たちは……どこにも、行く宛がないのです。どうしたら良いのでしょうか」


 そして、そう悲しげに言うのは獣人の少女たちだ。頭からぴょこんと出ている耳がへなっと下を向いている。


「私たちは、幼い頃に奴隷狩りに遭い、親からも引き離され……故郷を、見たことがないのです」


 僕に目で救いを求めた、犬耳の少女は悲痛な声で言う。


「俺たち、何も持ってない。どうやって生きていけばいいか、わからない」


 獣人の少年は、困ったように呟いた。


 これからどうやって、何のために生きるのか? 

 これは、かつて僕が持っていた悩みと同じだ。

 僕は目標ができたから、前を向くことが出来た。

 この人たちにも、同じようにすれば、前へ進めるかもしれない。

 僕は、彼らに手を差し延べる。


「ねぇ、君たち……僕と一緒に、来ないか?」


 僕と同い年くらいの獣人の少年少女たちは、驚きと期待に満ちた表情をしていた。


「ありがとうございます……。こんな私たちを救ってくださった上に、私たちに手を差し延べてくれるなんて、とても、嬉しいです……」


 犬耳の少女は僕の前に跪こうとする。僕は、それを止めた。


「そんなかしこまらなくていいよ。僕たちは主でも(しもべ)でもない。対等なんだから」


 少女は脱力し、地面に座り込んだ。

 他の獣人たちはどうしたのかと彼女の顔を覗き込む。

 少女は、涙を流していた。

 大きなくりっとした黒い目から、大粒の滴が次々と溢れだし、止まらない。

 気付けば、他の獣人たちも皆泣いていた。

 僕は、それを静かに見守っていた。

 



「ノエルさん、僕たちに、働く場を提供して頂けませんか?」


 僕は訊いた。居場所のない彼らをどうにかして導いてあげたい。そんな思いからだった。


「ちょっと、トーヤくん……それ、私も?」

 エルが訊いた。


「うん、そうだけど? いいよね?」

「え、うん。私はトーヤくんといられるならどこでも、なんでもやるさ!」

「そう、なら良かった」


 ノエルさんは温かい目で僕らを見、微笑むと言った。


「まぁ、人手が足りていない所もあるし、雇う分には問題はないな。それに、私は君を気に入った。私の屋敷に君たちを迎えよう」


 良かった……! 

 ノエルさんの所なら、悪い扱いを受けることも無いだろう。これで、僕らの居場所ができる。


「あなたたちも、私の所で働いてみませんか?」


 ノエルさんは、巨人の家族と小人たちに訊く。

 彼らは帰る場所があるからと、その誘いを丁寧に断った。


「そうですか。自分の生き方は、自分で選びとるもの。私はあなたたちの言うことを尊重します」


 ノエルさんはニコリと微笑み、言う。そして、僕らを振り返った。


「君たち、私の屋敷はここから北のストルムにあるのだが、歩いて行くには遠い。後日、馬車をこちらに向かわせるから、それまで待っていてくれないか?」

「はい、わかりました」


 僕は頷く。いいよね? と目で少女たちに問うと、彼女たちも了承してくれた。


「じゃあ、それまで私達の宿に泊めてあげる」


 サーナさんが眠そうな声を出した。


「本当ですか!? ありがとうサーナさん!」


 サーナさんは目を弓形に細めた。


「いいよ……。一……二……四人ね。おじさんたちも人手が足りないと嘆いてたから、助かるし」


 道の端で事を見守っていたおじさんたちが、ぐっと親指を立てる。


「二人とも、ありがとう!」


 僕はおじさんたちに礼を言った。




「おっと、大変だ! 仕事に遅れてしまう……じゃあ君たち、また会おう!」


 ノエルさんは懐中時計を確認すると、慌てた様子で去っていった。


「ノエル・リューズ……か。何か、凄い人だったな」


 僕は、あたふたと走る彼の後ろ姿を見据え呟いた。


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新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
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