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黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
第2章  解放編

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1  【グラム】の使い手

 僕たちは神オーディンの愛馬である八つ足の黒馬、スレイプニルに載って、『(いにしえ)の森』から村へと駆けた。

 驚くことにスレイプニルは風のように速く、その駿足はたった一日で僕たちが一週間かけて歩いてきた道のりを走り切ってしまう程だった。


「はぁ~~! もう着いちゃったよ! 凄いねスレイプニルは!」


 僕はスレイプニルの背から降りると、スレイプニルの頭を撫ででやる。

 スレイプニルはブルルッと喜ぶように鳴いた。


「きっと久し振りに全力で駆けたから、スレイプニルも嬉しいんだろうね」


 エルがするりとスレイプニルから飛び降り、彼の手綱を持って言う。


「トーヤくん、どうする? 森の方を通っていくかい?」


「うーん、どうしよう」


 スレイプニルは人目に付きすぎる。出来れば隠しておきたい。

 でも、今の僕には一つするべきか迷っていることがあった。


「マティアスが死んだこと、村の人たちに伝えた方がいいかな?」


【神殿】でマティアスと戦い、僕が彼を殺したこと。それを村の人たちが聞いたら僕はどんな目に遭うだろうか。

 村長は、怒り狂って僕のことを殺してしまうかもしれない。

 僕が頭の中でぐるぐると考えを巡らせていると、エルはあからさまにため息をついた。

 そして僕の【神器】を指差し、こう言った。


「君には力があるじゃないか。その剣があれば、この村には君の敵はいないよ」


「そうかもしれないけど……」


 神様は、この剣を無意味に人を殺すために僕に渡したわけじゃない筈だ。

 この力は、助けを求める人を守るためにあるんだ。


「森を通って行こう。ユグドのおじいちゃんにも会っておきたい」


* * *


 僕らはスレイプニルを引いて、『精霊樹の森』に入っていった。

 なんだか不思議とこの森に来るのは久し振りに感じられた。


「みんな、ただいま!」


 僕は森の精霊たちに話し掛ける。


『あら……おかえりなさい、トーヤ、エル。【神殿】攻略には随分時間がかかったようね』


 女性の精霊であるリーネが僕の耳元をくすぐるようにすり抜け、驚いた声音で言う。

 光の粒のような精霊たちは、集まったり、離れたり、動きを繰り返しながら森を漂っている。

 僕らはリーネの言葉に顔を見合わせ、目をぱちくりさせた。


「時間がかかったって……」

「リーネ、こっちではどのくらい時間が経ってるの?」


 僕が訊くと、リーネはちょっと考えてから答えた。


『うーん、確か……人間の言い方でいうところの、三ヶ月くらい経っていたかしら? あくまでも私の感覚では、だけど』


 精霊は時間という概念を持たない。ただ朝が来て、夜になる。その繰り返しだ。

 リーネは僕らがこの村に来て精霊たちと交流を始めてから、人間の時間の概念を知ったという。


「ありがとう。おじいちゃんは今起きてる?」


『ええ、起きているわ。ユグド様はあなた達が帰って来るのを今か今かと待っているのよ』


* * *


 ユグドのおじいちゃんは、神殿から無事に帰還した僕らを見ると安堵の息をついた。


『よく帰ってきた。【神器】は、手に入れたのじゃな?』


「うん。見てよ、ほら」 


 僕は魔剣(まけん)【グラム】をおじいちゃんに見せた。

 刃渡り140センチ程の大剣は僕には少し大きい。おじいちゃんも同じことを思ったのか、心配そうに僕に訊いてくる。


『トーヤ、お前にその剣は扱いきれるのかね?』


 僕はちょっと自信がなかったが、ドンと胸を張って明るく返した。


「大丈夫だよ。ちゃんと練習すれば僕にも使えるようになるから!」


『ふむ……そうか』


 おじいちゃんは納得してくれたけど、エルはまだ僕を信用してくれない。


「トーヤくん、ほんとに大丈夫なのかい? 大剣は君が今まで使ってたナイフとは勝手が違うんだよ。それに君の力じゃそんな大きな剣、振り回すので精一杯だろう?」


 エルは僕のことを少々、いやかなり下に見ている。僕はちょっと凹んだ。

 だがそこで黙っている僕ではない。【神器】グラムを肩に担ぎ、堂々と宣言した。


「やってみないとわからないじゃないか。見ててよ、僕が【神器】の力を使って見せるから」


 ユグドが目を細めた。エルは腕を組んで試すような目で見てくる。


「――いくぞぉっ!!」


 僕は【グラム】を丁度地面にあった切り株に叩きつける。

 切り株は、バキッと音を立てて真っ二つに割れた。


「ど、どうだっ……!」


「全然ダメだね」


 えーっ……そんなぁ。

 僕はがくっと肩を落とした。僕ってそんなにダメだったかなぁ……?

 そんな僕の様子を見て、流石に可哀想になったのかエルが慰めるように言った。


「そんなに落ち込むことないって。君は力を手に入れたばかりで、そもそもやり方をわかっていないんだ」


 エルは【グラム】を持つ僕の手に自分の手を添えた。

 エルが近付くと、甘い良い香りがした。僕は思わず顔を赤らめる。


「【神器】は、魔剣のようなものなんだ。君の【ジャックナイフ】が、戦いの中で力を発揮したのと、同じことが【神器】でも起こる。戦いの中で、【神器】が君の力を完全に認めた時、その時ようやく初めて、【神器】が君の一部となるだろう」


 僕は【グラム】の刀身を見つめた。僕はこれからこの剣と一つになればいい。慣れるまで時間が掛かるかもしれないけど、頑張ってやっていこう。

 僕がそう口にすると、エルは微笑んだ。


「その心意気が大事なんだよ。とにかく、諦めずに何度もやることだ。そうすれば、道は開けるさ」


 エルはちょっと胸を張り、なんだかかっこよく言った。

 僕は頷いた。この言葉は僕の胸の中に刻み込んでおこう。


「さあ、そうと決まれば特訓だ!」


 エルは張り切って拳を高く挙げる。僕も一緒に拳を突き上げた。

 それから僕らは、慣れない大剣相手に苦戦することとなった。


 

 

「はぁ……疲れたー」


 日が沈みかけた頃、僕は放心状態で地面に寝転んでいた。目を上げると、エルが苦い顔で額に浮いた汗を手で拭っている。


「大剣、予想以上に手ごわかったね。やっぱり一旦剣からは離れて、基礎的な体力を高めるトレーニングをした方がいいのかもしれない」


 僕はその意見に同意だ。今まで使っていた武器より大きくて重い大剣は、細身の僕には非常に扱いづらい。特訓では、僕が剣に振り回されているような感じだった。

 だから、まずは僕自身が剣に振り回されない体作りをしなくてはいけないのかもしれない。

 

 汗だくになっていた僕らは、森の中に流れる小川の水で喉を潤した。スレイプニルにもたっぷりと水を飲ませてやる。

 二人で話し合った結果、スレイプニルは僕の家の裏につないでおくことにした。人目につかないよう、家から少し離れたところにする案も出たが、他の村人に勝手に連れて行かれると困るので結局却下となった。

 僕はスレイプニルの手綱を裏の木に繋ぎ、しっかり繋がっていることを確認した。


「エル、僕はまだやりたいことがあるんだ。ご飯を作って待っててくれない?」


 エルは何故かとても嬉しそうな顔で、「わかったよ!」と頷いてくれた。

 

 エルが家に入るのを見届けてから、僕は森へと引き返していった。

 後でエルがどんな顔をするか楽しみだ。

 僕はどんなものならエルが喜んでくれるか想像を巡らせ、一人微笑んだ。

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新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
― 新着の感想 ―
[気になる点] 【一言】とは異なりますが、逆に言うと典型的?な感じでした。 [一言] 少年の心のなかの夢の成長の軌跡をなぞるようなファンタジー作品に(今のところ)感じました。
2020/02/28 20:33 退会済み
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