1 パートナー
「着きましたねー、フィンドラ王国!」
馬車から降りたシアンの第一声が元気に響き渡った。
目の前にそびえる荘厳な城を見上げ、僕は思わず吐息を漏らす。
「これがフィンドラ王のお城……大きいなぁ」
フィンドラ王都、城郭都市フィルン。市壁は長方形で縦13キロ、横は15キロもの大きさがある。人口もこの地方では最大の10万人で、王が築いた都市の安寧が見て取れた。黒みがかった石の壁、それと同じ色の道路を歩く人々の表情は明るく、活気に溢れている。
城壁の門を潜り、東西南北に敷かれた通りの中心に王城は位置していた。僕たちはフィンドラ王の馬車団と一緒に城の内部へ入り、広大な芝の庭園に馬車を停めた。
「綺麗な庭だな。手入れがよく行き届いている」
「うん……きっとここの使用人さん達は勤勉なんだろう」
感心した風に言うジェードに頷く。
窓から眺めた都市も清潔だったが、ここも汚れ一つない。言い方はあれだけど、ルノウェルスの王都スオロとは正反対の様相を呈していた。
僕達の言葉を耳に挟んだのだろう、馬車団を出迎えた衛士の一人がこちらに歩み寄り、得意げに語る。
「アレクシル王は偉大だよ。あのお方が『雷神』の力を手に入れてから、先王の時代から治安の悪かったこの街は平和になったんだ。俺達にとっちゃ、まさしく救世主のような存在さ」
救世主、か……。
黒を基調とした制服のお兄さんを見つめながら、僕は内心で呟いた。
『神器』を得た戦士が人々を救い、彼らを引っ張っている。それは僕が理想とする『神器使い』の姿だ。
本当に、アレクシル王はすごい人だなあ。
「……トーヤ?」
「あ、いや、ちょっと考え事してただけ。気にしないで」
あの時、空に降臨した『雷神』の威容は記憶に鮮明に焼き付いている。あんな風に強くなりたい――父さんとも違う、新しい憧憬の戦士に僕はつい思いを馳せてしまっていた。
ジェードに意識を呼び戻され、言葉を続ける衛士さんへ視線を戻す。
「王様、それにエンシオ殿下、エミリア殿下は先にお戻りになりました。トーヤさん達は、これから我々がご案内いたします」
丁寧にお辞儀する衛士さん達に僕らはお礼を言った。
「ついてきてください」と手招きする彼らの後を追いながら、城の中がどうなっているのか想像を巡らせる。
「人間の王族が居城をどう飾っておるのか、興味がある。さぞかし豪奢な装飾品を並べておるのじゃろうな」
「いやー、でもあの王様だし、案外質素だったりするかもよ? あたしが見た感じ、あの人は謙虚なイメージだし」
「私から言わせれば、『分かりにくい』というのがあの王の印象じゃな。……トーヤはどう思う?」
庭園から城の建物へと繋がる廊下を歩いていると、後ろからリオが訊いてくる。
統一された黒の石で出来た道を目で辿る僕は、何故だか答えをはぐらかしてしまった。
「……うーん、僕はどうかなぁ……。あの人と知り合ってまだ短いし、何とも」
「もっともな答えじゃな。これ、ユーミも見習って早計な人物評をやめることじゃ」
「な、なによー!? きっとあの王様は謙虚な紳士に違いないんだから。それは譲れない!」
真顔で告げるリオにユーミは腕組みして張り合う。
何を意地になってるんだか……と呆れた目を向けると、ユーミは赤面してごほんと咳払いした。
「そ、それでもあたしはトーヤが一番よ。トーヤはあたしに夢を思い出させてくれた、大切な恩人だもの」
ユーミの夢──それは僕と同じ、広い世界をその目で見ることだ。
片目を瞑って笑いかけてくる彼女に笑顔を返す。
「うん、ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいな」
「これからも、あたし達に夢を見せてね。頼むわよ?」
もちろん、と頷く。すると僕よりずっと大きな赤髪の彼女は、僕の頭を撫でてきた。
優しい手の感触に、何だか照れ臭くなる。
「こ、子供じゃあるまいし、恥ずかしいよ……」
「あはは、照れるな照れるな」
一応年上のお姉さんであるユーミからすれば、僕なんか小さな子供に見えるのかもしれないけど……うう。
何を言い返しても笑ってスルーされる。そう判断した僕は、頬を紅潮させて俯くしかなかった。
「おっ、中もだいぶ豪華だな」
ヒューゴさんの声に顔を上げる。きょろきょろと辺りを見ると、そこは赤い絨毯の敷かれた幅の広い廊下だった。金の刺繍が施されたタペストリー、いかにも高価そうな壺が目を引く。
どうやら喋ってる間に渡り廊下を抜け、建物内に足を踏み入れていたらしい。
等間隔で備え付けられている松明の火を眺めながら、僕は先を歩く衛士さんの説明を聞いた。
「では今のうちに、この王城について説明しておきましょう。フィルンの中核を担うこの王城は、大きく四つのエリアに分かれています──」
説明を要約すると、こうなる。
一つ、東の『青玉塔』。ここは王族が住まう場所で、高官や使用人を除くとごく一部の者しか立ち入れないとされている。
二つ、西の『赤玉塔』。政治に関する会議は主にここで行われる。
三つ、南の『緑玉塔』。王の臣下や使用人が住まう塔であり、僕達のような客人もここに泊めてくれる。
四つ、北の『紫玉塔』。科学者が集まる研究室、王城の者なら誰でも利用できる図書館や食堂、修練場など、様々な施設が詰め込まれた場所だ。
「──この四つのエリアによって、王城は構成されています。お分かりになられたでしょうか?」
「は、はい! ばっちりです、たぶん」
結構長い説明だったけど、何とか頭に詰め込めた……と思う。
自信なさげな声音になってしまう僕に、苦笑する衛士のお兄さんは付け加えた。
「今、渡り廊下を通って入ったのが『緑玉塔』になります。もう少しで柔らかいベッドにありつけますよ」
その言葉を聞いて安堵に頬を緩ませたのは僕だけではないはずだ。
よく考えてみると、ここ1ヶ月くらいまともなベッドで寝た記憶がない。ようやく広いベッドでぐっすり眠れる──飛び上がりたいくらい嬉しい衝動をこらえながら、僕は衛士さんに訊ねようとして、それをエルに阻まれる。
「私達が泊まるのは個室ですか!? それと、三食しっかりついて、お風呂もありますよね!?」
「はい、もちろんです。この城は王の城、ミトガルド最高のもてなしをご用意いたします。がっかりはさせません」
「よ、よかった……! やっと、これまでの疲れを癒せる……っ!」
すごい勢いのエルにも怖じ気づかず、衛士さんは当然だとばかりに答えた。
流石に落ち着いていられなくなったのかシアン達もざわざわし出す中、そう時間もかからずに一行は目的地へ辿り着く。
廊下を何度か曲がり、階段を上った二階に僕達へあてがわれた部屋はあった。
「ここがトーヤ様ご一行がお泊まりになる部屋になります。手前から一部屋ずつ、どうぞ自由にお使いください」
何かお困りになられたら呼んでください、そう言い残して衛士さん達は案内を終えた。
彼らにお礼を言い、さっそく僕らは長い廊下の一番階段に近い部屋を覗いてみる。
「わあ、すごい……!」
思わず歓声を上げてしまうくらいには、そこは広くて豪華な部屋だった。
高級ホテルのスイートルームにも劣らない華々しさの部屋には大きなベッドが置かれ、他にもソファやテーブル、小さな書棚まで用意されている。隅にあるドアの向こうはおそらくバスルームだろう。
黄金の壁紙や装飾品に若干気圧されながらも、僕達は夢のようなこの部屋に心踊らせた。
「こんな素晴らしい部屋で過ごせるなんて、感激です! トーヤ殿、私この部屋使っていいですか?」
「も、もちろん。アリスが好きな部屋を使えばいいよ。僕は余った所でいいから」
はしゃいだ様子のアリスに首を縦に振って見せる。
弾んだ足取りでベッドへ直行する彼女だが、そこにヒューゴさんの鋭い声が待ったをかけた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。そのベッド、お前一人で使うにはあまりに大きすぎるだろ? それにアリス一人で部屋に居させるのは心配だ。俺も一緒の部屋にする」
やけに切迫した口調のヒューゴさん。でもその気持ちはよくわかる。
人間基準でも十分すぎるほど広い部屋を小人族一人で使うのはもったいないし、いくら王城とはいえ女の子一人では何が起こってもおかしくない。
それに……妹を心配する兄の思いは痛いほど共感できる。
「アリス、ここはヒューゴさんの言う通りにしておくんだ。二人で積もる話でもあるだろし……ね、そうした方がいいよ」
「な、何ですかトーヤ殿、妙に押しが強いですね……。まぁ、確かに兄上の言うことも一理ありますし、そうするつもりですが」
「よかった。ヒューゴさんも、これで安心できますね」
「そうだな。ありがとうトーヤ君」
僕のフォローにヒューゴさんがお礼を言い、二人は先に部屋でゆっくりすることに。
残りのメンバーで適当に気に入った所を選び、シアン、ジェード、リオ……と順当に部屋割りが決まっていった。
余った僕とエル、ユーミは顔を見合わせ、互いに先に選ぶ権利を譲り合う。
「二人とも先に選んだら?」
「いやいや、あたしは最後でいいから」
「遠慮しないで、どこでも好きなとこ取っていいよ」
いやいや、いやいやいや……遠慮合戦が始まり、最初にらちが開かないと切り出したのはユーミだった。
彼女は顔を真っ赤にし、僕らをじっと見つめると真剣そのものな声音で言ってくる。
「あんた達、二人で同じ部屋にしなよ。ほら、二人お似合いだし……その方が嬉しいでしょ?」
ユーミの提案に僕は驚いた。エルに視線を向けると、何と彼女も僕とそっくり同じ顔をしている。目が合い、苦笑い。
「ユーミ……」
彼女の名をエルが呟いた。ユーミは一度ゆっくりと頭を振ると、エルへ言葉を続ける。
「あんたとトーヤがよく馬車で手を繋ぎ合っていたこと、あたし、知ってたの。互いに温もりを求めるみたいに、そうしてるあんた達を見てると──やっぱり、二人の間に割って入るなんて、無理だって……」
彼女は胸に手を当て深呼吸してから、一度長く瞳を閉じた。
少しの間を置いて開かれた赤い瞳は穏やかな光を宿し、揺れる。
「大好きな人が遠い──こんなにも近くにいるのに、泣きたくなるくらい遠いの。けれど、あたしには壊せない。あんた達の気持ちを邪魔するなんて出来ない。だから……あたし、トーヤを好きって気持ち、諦める」
彼女の言葉に、僕は咄嗟に何と声をかけるべきか思い付かなかった。
ユーミの瞳を見上げ、懸命に言葉を探ると──彼女は一つ、先回りする。
「そんな顔しないで。あたしが勝手に好きになって、勝手に諦めただけだから。あんたに思いを知ってもらえた、『好き』を伝えられたってだけで、十分よ。あんたも、エルも、何も気にしなくていい。これは、あたしの感情の問題だから」
「ユーミ……僕は」
初めて会ったあの谷で、夢を語った巨人族の王女。大剣を振り回し、果敢に敵へ立ち向かう女戦士。お酒好きでよく笑う、綺麗な赤髪のお姉さん。
僕の知っているユーミの顔はこんなに多く、見てきた表情も様々だった。今の彼女の、目に涙を溜め、くしゃくしゃになる寸前の顔も知っている。
どうにもならない、行き場のない思いを堪えた彼女へかけるべき言葉は──一呼吸おいて、心を落ち着かすと自然に浮かび上がってきた。
「僕は、君の気持ちが嬉しいよ。ユーミは、僕のことを……異性として好きになってくれたんだよね。ありがとう」
彼女の告白に驚きはしたけど、嫌だとは思わなかった。
純粋に、嬉しい。これまで一緒に旅してきたユーミから『好き』だと思ってもらえたこと、優しい気持ちで包み込んでくれたことが、心の底から嬉しい。
にこっと笑う僕にユーミは微笑んで見せ、白い指で目元を拭った。
「あんた、優しいね……」
「君もね、ユーミ」
こちらに伸ばされた手が、さっきと同じように僕の髪を撫でていく。慈しむように、何度も、何度も。
その優しさに包まれながら、言葉を返す僕はユーミを見上げた。
「僕はユーミも、エルも、シアンやアリス、リオ達も、みんなが好きなんだ。ジェードやヒューゴさんもね。僕は家族を失くしたから……一緒にいてくれる人の存在が、一層愛しく思えるんだ。みんなが友達で、家族で、大事な仲間なんだよ」
僕にとってエル達は何にも代え難い、大切な人だ。彼女達と出会ったことで胸に空いていた穴はいつしか塞がり、前を向いて歩けるようになっていた。
みんなにはいつも感謝している。この気持ちを忘れたことは、決してない。
「僕は、女性として君を愛することは出来ないかもしれない。けれど、君を家族として愛することは変わらないよ。だから……これからも、僕のことを好きでいて欲しい。僕から、離れないで欲しい……」
ユーミの大きな両腕が僕の体を包み込み、抱き締める。
彼女の胸は温かくて、広くて、おおらかで──そして、優しかった。
「離れるわけないじゃない……何、言ってんのよ」
当然でしょ、とユーミは答える。彼女の胸に顔を埋め、僕は嬉しさに思わず目尻を濡らしてしまった。
「そういえばあんた、背、伸びたね。前はあたしの腰より少し上くらいだったのに、胸にまで届くくらいになって……。って、ちょっと!」
「え? うわっ!?」
ユーミの悲鳴じみた声が響いた直後、後ろからぐいっと何者かに引っ張られる。
いきなり何……!? と振り向くと何故か赤くした顔で僕を睨むエル、前を見ると胸を手で隠すように抱くユーミ。
「えっと……これは、どういう……?」
「トーヤくん──今、ユーミの胸に顔、押し付けてた」
何だかふて腐れた風にエルが口にして、ようやく彼女らの表情の意味を理解した。
「こ、これは誤解だよ! ユーミが抱き締めてくるから、不可抗力で」
「そ、そうよね、不可抗力よね。あたしの方があんたより力強いし、そう、しょうがなかったのよね」
顔の熱が収まりきらないまま、ユーミは早口で捲し立てる。
彼女にこくこくと頷きながら、僕はどうやらご立腹らしいエルに弁明しようとした。
「だから、決して下心があったわけじゃないんだ。第一、僕はユーミをそんな目で見たりしない」
「じゃあ、ユーミの胸、どんな感触だった?」
「えーと……おっきくて、温かくて、柔らかかったかな。……あ」
背筋が凍りつく。エルがこんなに冷たい目を僕に向けたのは、これが初めてのことだった。
「し、しっかり堪能してるじゃないか! ……はぁ、これだから男の子ってやつは」
「ご、ごめんなさい……」
ため息をつくエルに謝罪する。正直に謝った僕に対し、彼女もそこまで追及してくることもなく、もう一度ため息をつくのみに留めた。
「まあ、君からすれば家族にハグされたってだけだし、そこまで咎めることじゃないか……。ユーミ、トーヤくんがすまないね」
「い、いや、別に謝るほどのことじゃないよ! あたしが自意識過剰だった」
「そ、そうかい。なら、いいんだけど」
よかった、二人の関係は特に変わらずに済みそうだ。
僕は突然の一騒動が終わって安堵に胸を撫で下ろす。
ここでずっと話してる訳にもいかないので、とりあえず部屋へ入ることにした。
「じゃあ、ユーミ。今夜、アレクシル王のダンスパーティーが開かれるみたいだから、そこでまた」
「ええ。こんなぼろ服のあたし達を快く招待してくれた王様に感謝しないとね」
「そのことだけど、正装は『緑玉塔』で貸し出しもしてるみたいだよ。ユーミのドレス姿、楽しみにしてる」
「へえ。じゃ、あたしもかっこよくなったトーヤを想像して待ってるわ」
別れ際、二人で笑みを交わす。エルと一緒にユーミへ手を振った僕は、彼女と隣り合った部屋に入った。
◆
……ふぅ、これでようやく休めるな……。
広いベッドの隅に腰かけた僕は、クローゼットに上着を仕舞っているエルに呟く。
「ねえ、エル……もしかして君も、僕と同じだったりするの?」
こちらに首を向け、エルは固まった。
さっきの僕とユーミの会話を思い出しているのだろう、彼女は長い睫毛を伏せ、囁くように答える。
「この世界で私と血の繋がった家族は、シルがいる。けれど……私とシルは望むものも、信じるものも、進む道も違えてしまった。だから……君と同じ孤独は、私も抱えていたよ」
隣に座り、エルは僕の肩に頭をぽすんと預けた。
柔らかい髪の感触。僕は彼女の手を探り、指と指を絡め合う。
とくん、と鼓動が高鳴り、体の熱が上がった。顔が赤くなっている──恥ずかしさを誤魔化そうと、僕は背中からベッドへ倒れ込んだ。
「でもね……君と出会って、シアンやジェード、みんなと出会えたことで、私も楽になれた気がする。自分を、少しは許せるようになった気がするんだ……」
強く、離れないように手を握る。シルさんのことでエルはこれまで自分を責めてきたのだ。そのことに僕は、気づいてあげることが出来てなかった。
いつも彼女に助けられてばかりで、彼女の「弱さ」を見ることさえしていなかった。
かつての世界から千年間もエルは後悔し続けていた。それは一人の少女が背負うにはあまりに大きな、重すぎる悔恨の念だったろう。
「エル……シルさんのこと、僕も一緒に背負っていくよ。僕だって、無関係じゃないんだから」
「トーヤくん──ありがとう。君は私にとって、本当に大切な共に歩んでいくパートナーだよ」
僕も一緒に、辛い過去に寄り添っていくよ。
そう伝えると、エルは僕に微笑みかけ、言ってくれた。
小さな村の外れの森で一人暮らしていた僕のもとに、転がり込んできた少女。彼女に導かれて『神殿』を攻略したその時から、僕達の冒険は始まった。楽しいこと、悲しいこと、辛いこと……色々なことがあった旅は、これからも僕達の絆がある限り続いていくだろう。
その中で、僕は僕の過去、そしてエルの過去と向き合っていかなくてはならない。
これまで目を背けてきた二人の過去──かつての世界で起こった『神』と『悪魔』を巡る悲しい物語を辿るのだ。
そうしなければ、世界に再び悲劇がもたらされてしまうから。
僕達は過去と──失われた歴史と、戦っていかなくてはならない。
「神殿ロキで、シルさんは『古の森』で一月後に会おうと言っていた。その期限まで、あと一週間……僕達は七日後に、シルさんと会うことになる。それは避けられないことだと思う」
金髪の美しい女魔導士の妖艶な笑みが頭に甦る。
深い深い海の色をした瞳を思い出しながら、僕は毅然とした口調で告げた。
「分かってる。姉さんと会って、ちゃんと話さなくちゃ。私、逃げないよ」
「──うん」
僕の背中をエルが押してくれたように、今度は僕が彼女の背中を押してあげるんだ。
前を向いてまっすぐぶつかれば、きっとあの人も僕らの言葉に耳を傾けてくれるはず。今はそう、信じよう。
エルは覚悟を決めたように、表情を引き締めて宣言した。
約束の日まであと七日。決着の時は残酷なほどに早い足取りで、僕達に近づいてきている。




