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黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
第1章  神殿オーディン攻略編

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15  託宣

2021/01/13現在、序盤の改稿作業(描写不足な点の修正)を行っています。


そのため、修正された部分とそうでない部分との間に齟齬が生じる場合がありますが、可能な限り早く編集を行って以前より良いものに仕上げますので、どうか大目に見ていただけると幸いです。

 夜道を歩く二人が十分に離れると、僕は足音を殺し、彼らの後を追って歩き出した。

 心臓が肋骨を打ち付けるほどに荒ぶっている。脂汗が額ににじみ、行き場を失った指先はしきりに襟元をいじる。


 ここが、過去の世界ならば。

 もし、僕の行動で未来が変えられるのならば。

 僕は――動くべきなのか。


「……っ」


 今の僕には父さんから授かった技と【ジャックナイフ】がある。

 あの時の弱かった自分とは、既に決別した。

 だから、今なら――。


「……ッ!」


 恐れなんて要らない。僕はまなじりを吊り上げ、意を決して駆け出した。

 たとえ今の僕がどうなろうと構わない。父さんに危険を知らせ、過去の僕自身も守らないと――!


「父さん!」


 叫び、後ろから父さんの肩をがしっと掴む。


「父さん! 僕だよ、わかる!?」


 しかし父さんは僕のことを見てくれない。

 体を揺さぶっても、気付く素振りすら見せなかった。


「おい、僕! 聞こえてるのか!?」


 嫌な汗をかきながら『半年前の僕』の耳元で叫ぶ。

 『半年前の僕』からの反応は無い。

 二人は僕の存在なんて気にせずに、黙って先を急いでいた。

 

 僕は気付いた。僕は、彼らに干渉することは出来ない。

 じゃあ【神殿】は、一体僕の過去を見せて何をするつもりなんだ……?

 二人の横に付いて歩きながら考える。

 僕の記憶が正しければ、もう少しであの時の『あいつ』が現れるはずだ。

 神様は僕にその時の事をもう一度見せて、後悔しろというのだろうか。

 

 夜の住宅街をそろそろ抜ける。

 現れるなら、今だろう。


「……!」


 父さんが気付いた。『半年前の僕』はまだ気付かない。

 そいつは住宅街の屋根の上を風のように駆け、上から父さんに飛び掛かってきた。

 父さんは懐から杖を抜き、『防衛魔法(ディフューズ)』で二人を守る。


「な、何……!?」


『半年前の僕』が悲鳴にも似た声を上げた。


「【組織】の人間か? 何の用だ」


 あの時は暗いのと怖さでわからなかったが、この時の父さんは薄く笑いを浮かべていた。

 今の僕には、こんなに暗くても父さんや『半年前の僕』の表情が鮮明に見えている。

 だが【組織】の人間と父さんが呼んだ男の姿は、黒い影のようになってはっきり見えなかった。


「やぁ、始めまして。トーマ殿。貴殿の『布教』活動が王の気に障ったようでね。残念だが、貴殿にはここで死んでもらおう」


 男は氷のように冷たいねっとりとした声で言った。


「それは無理な話だな。俺はまだ死ぬつもりなんてこれっぽっちも無い」


 素性の知れない相手に対しても、父さんは余裕の笑みを見せている。

 男は小さく舌打ちをすると短い杖をさっと振り、刺すように雷魔法を放った。


「無駄だ」


 父さんは小さく呟く。

 魔法で空気を歪め、男の使う魔法をねじ曲げた。


 この時、恐らく男は自分と相手との力の差を認めたのだろう。男は杖をしまい、「フフッ」と笑った。


「私ごときでは倒せる相手ではないか」


 男は笑い続ける。あの時の僕は何が何だかわからずにただただ怯えて縮こまっているだけだった。

 



 突然、僕の背に鋭い痛みが走った。それも、大剣でばっさりと斬られた時のような尋常ではない痛みだ。

 『半年前の僕』はあの時男の魔法を受け、背中がパックリと割れた。その時の痛みを、今僕は再び味わっている。


「トーヤ! ……貴様、まさか」


 父さんが傷付き倒れた僕を抱き起こし、回復魔法をかけた。

 そして男を睨み、怒りの声を上げる。


「俺に感付かれないようにあらかじめ隠れて魔法をかけていたのだな? 卑怯者が」


 男は愉快そうに笑う。


「フハハハッ、そうだよトーマ殿。これが私の十八番(おはこ)さ」


 意識を保っていることすら難しい痛みだったが、痛みだけで体は傷ついていないと思えば、何とか目を男と父さんへ向けることができた。


「……君は、俺の逆鱗に触れてしまったようだ」

 

 それからの事は一瞬だった。

 父さんは杖を振るい、呪文を唱える。


消滅(ディ・カートラム)


 冷たい響きを持つ詠唱の後、灰色の光が男を捉えた。

 父さんの魔法を浴びて男は一瞬にして消え、僕の痛みもスッと引いてきた。




「父さん……あいつは、一体……?」


『半年前の僕』は痛みの引いてきた体で立ち上がり、父さんに訊ねる。


「トーヤ、今あったことを他の誰にも、決して話してはいけないよ」


 父さんは僕の目をしっかりと見て、早口で言った。


「父さんは、【組織】と呼ばれる奴らに今まで何度も殺されそうになっていた。その度奴らを『消して』生き延びて来たが……今日、お前にまで【組織】の手が及んでしまった。父さんは、お前や母さん、ルリアには危険な目に遭って欲しくない」


 父さんは一気にまくしたてた。

 ……父さんも、本当は辛かったのかもしれない。


「だから、父さんはもうお前たちとは一緒には居られない。トーヤ、これから俺からの最後の頼みを伝える。聞いてくれるか?」


『半年前の僕』は首を横に振った。

 父さんがいなくなるなんて、信じられなかった。


「いやだ、嫌だよ。どうして父さんがいなくならなきゃいけないの? そんな必要ない」


「お前たちを守るためなんだ、トーヤ。俺がいれば、いつ【組織】にお前たちが殺されるかわからん。なら俺が姿を消し、お前たちの前から去ることが一番お前たちのためになるんだ」


 僕は涙を流していた。

 ……男なら泣くんじゃないと、母さんいつも言ってただろ。


「で、でもまた会えるよね? 今はいなくなっても、いつか、また」


「いや、会えない。ーー最後の頼みだ、よく聞け。これからは、父さんは死んだことにしておいてくれ。母さんにも、ルリアにも、父さんは死んだと言え。決して、誰にも父さんが生きていると言ってはいけない」


 僕の涙が止まらない。

 誰か、こんな情けない僕を止めてやってくれよ……。

 父さんは僕を暖かい大きな腕で抱き締め、耳元でこう言った。


「世界は広い。この世界にはまだわからないこと、謎に包まれていることが沢山ある。トーヤ、世界を見るんだ。この世界の真実の歴史を……そして未来を。お前はいずれ何か大きなことを成し遂げるだろう。父さんは、どこにいてもそれを見ている。俺は神では無いが、お前が偉大な功績を残すこと、それだけは予言しよう」




 父さんは最後に僕を見て、笑顔になった。


「トーヤ、マヤと……ルリアを頼む」


「待って! イヤだ、行かないで……」


「──強くなれ、トーヤ」



 

 最後に穏やかな声が耳を撫で、父さんはもういなくなっていた。

 僕はその場に取り残されたまま、立ち尽くしていた。


 もう、涙は止んでいた。

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新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
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