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黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
第6章  神殿ロキ攻略編

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26  神速の漆黒

 雄叫びを上げる僕と、それよりもっと大きな声で吼える巨人。

『神器使い』と『異端者(ハイレシス)』、戦闘を極めた二人の対決が今、改めて幕を上げた。


「うあああああッッ!!」


 残された魔力は少ない。僕は「魔剣グラム」を抜くと大上段に振りかぶり、巨人の巨木のような脚を狙って攻撃する。

 

「フン、効かねぇよ」


 巨人が脚を振り抜く。

 巻き起こる風圧に、奴に接近しようとした僕は回避を余儀なくされた。


 ……やはり、ものすごい力だ。あの攻撃を食らってしまえば即死することは間違いない。

 あの巨体にあのパワー。それに加えて、『異端者(ハイレシス)』の知性。

 僕が今相手しているのは、人間の知性を持った巨人なのだ。身体能力の差は絶望的である。


「くそっ、厳しいな……」


 僕が奴に勝っている点はただ一つ、脚の速さしかない。

 これまでどんな相手にも渡り合ってきた僕の脚だけど……こいつに、勝てるのか?

 心の隅で不安感が少し首をもたげるが、それを無理やり封じ込めて戦闘に集中する。


「ぜあッ!」


 僕は再び接敵を試みた。

 さっきより更に加速し、疾風のごとく巨人へ牙を剥く。


「チッ! ちょこまかと……」


 巨人の足元を駆け回り、隙を見つけては刃を叩きつける。

 あまりの速さに奴は僕の動きを見切ることが出来ない。脚を踏みしめ獲物を潰そうとするが、ことごとく失敗してしまう。


「チビの癖に、案外強い脚をしてるじゃねぇか。俺の攻撃が起こす振動に耐え、この場をちょろちょろと駆けずり回るとは……」


 僕は奴の言葉に無言の返答をした。

 正直、少しでも気を抜くと足元から崩れ落ちてしまうくらいだ。

 でも僕はここで死ぬ訳にはいかない。何としてでも勝って、更なる強さを手に入れる!


「巨人くん……君には、負けないよ」


「けっ、気持ち悪りぃ……その呼び方は止めろ」


「……じゃあ、巨人さん?」


「ハッ、それも嫌だな」


 相手には僕の言葉に応じつつ、脚での攻撃を続行出来るだけの余裕がある。

 対する僕は、息も切れ切れに奴の足元をなんとか這い回ることしか出来ない。

 僕の脚が限界を迎えるか、巨人の体力が全て尽きるか。どちらが先か、答えは明白だった。

 



「お前、俺を調教(テイム)するとかさっき言ってたよな? 今も同じことを考えているのか?」


「うーん、どうだろう。……今はちょっと、難しいかな」


 これ以上は無理だ。奴の脚に剣を浴びせても、致命打となる前に回復されてしまう。

 先程与えた傷だって、やっとのことでそこまで至ることが出来たのに……本気を出した奴にこの刃が通るとは思えなかった。

 体力、魔力共に消耗した今、戦える時間は残り少ない。あと、二分といったところか。

 僕は一旦巨人の足元から離脱し、奴から大きく距離を取る。


「……君に、聞きたいことがあるんだ」


 ハァハァと息を吐きながら僕は言った。

 それを聞いた巨人は、動き出そうとしていた足を止めて僕を見る。


「そりゃあ何だ? 一つだけ、聞いてやろう」


「……ありがとう。じゃあ聞くけど、君はあの『異端者(ハイレシス)』のリザードマンとは関係があるのかい?」


「? リザードマン……?」


 巨人があのリザードマンと無関係であることは、その反応から明らかだった。

 たぶん、この巨人は神ロキが話していた通り『神殿』の試練のためだけに用意されたモンスターの一体なんだろう。


「……良かった、君には『組織』の息はかかっていないようだね。なら、思うことなく戦いに集中できる」


 何が何だか分かっていない巨人の顔を見上げつつ、僕は抜いた剣を軽く振り、それを上段に構えた。

 持てる魔力を全て注ぐ気持ちで力を込め、魔剣グラムに紫紺の光を灯していく。


「そろそろ、決着をつけようか。異端者(ハイレシス)の君には色々と訊ねたい事がまだあったんだけど……残念だね、もう終わりだ」


 巨人の瞳が大きく見開かれる。

 僕の変化した姿を目にして、奴は驚愕を露にしていた。


「そ、その姿は、一体……!?」




「『神化』だよ。神器使いにのみ使用を許された、最高の能力」


 僕は微笑むと、漆黒の長槍『グングニル』を右肩に担ぎながら歩き出した。

 黒い鎧に包まれた全身に、同色のマント。

 紅色の裏地を持つマントは魔導士のものというよりは、勇猛な騎士のものであると言えるだろう。

 唯一白い長髪を流しながら、僕は徐々に加速していく。


「はあああッ……!」


 呼気と共に気合いを込めて、肩に担いだ槍を構え直す。

 両手で柄を掴み、低く腰を落とした僕は次の瞬間――、一筋の白い光となって巨人へ突撃した。


「なッ!?」


 巨人には恐らく、僕の姿は視認出来なかっただろう。

 それほどまで僕の速さは度を越していた。決して人間には至れない、モンスターの領域でさえ打ち破ってみせた。

 あの時のリザードマンと全く同じ表情を浮かべ、巨人は闇雲に鉄骨のような腕を振る。

 が、それも『神化』を発動した僕には通用しない。今の僕には、奴の動き一つひとつが止まって見えていた。


「馬鹿なッ……!? ありえねぇ」


 巨人の声すら遅れて聞こえる中、僕は奴の大木のような脚に長槍を叩き込む。

 めりめりっと嫌な音がしたあと巨人の右脚は砕け、勢いに任せて左脚も粉砕した。


「――――――――ッ!」


 両足を失った巨人は激しい音を立てて床に倒れ込む。

 僕は石の床を蹴り跳躍すると、露になった奴の背中に着地した。

 漆黒の長槍を、厚い筋肉を下に有する皮膚にゆっくりと突き立てる。


「……待て」


『グングニル』が皮下50センチまで貫いたその時、巨人が呟いた。

 僕は槍を突き刺す腕をそこで止める。


「なんだい?」


「俺はお前には勝てそうにない……だから、お前に従おうと思う。ほら、お前は俺を調教(テイム)しようとしてただろ? お前にも、充分利益があると思うがな」


「ふうん……」


 僕は巨人の言葉を聞き、しばし黙り込む。

 顎に手を当て黙考する僕の下で、奴は痛いほどの緊張感を纏いながら返答を待っていた。

 相手は、人間と変わらぬ知性を持つモンスターだ。でも、例えモンスターだとしても……命乞いをしている相手をそのまま刺し殺すなど、この時の僕には出来そうにもなかった。

 槍を引き、奴の背に乗ったまま告げる。


「……分かったよ。念のため訊くけど、君の意志は本物なんだよね?」


「あ、あぁ……誓って本物だ」


 巨人は傷ついた身体を治癒することもなく、そう口にした。

 僕は彼の背から飛び降り、『神化』を解くとその巨大な頭部を見上げる。


「もし裏切るような事があれば、その時は容赦することなく君をこの槍で貫き殺す。余計な気は起こさないでくれよ」


 僕はグラムを鞘に戻しながら彼に忠告し、次いで彼に訊ねる。


「……そうだ、君、名前はあるの? 呼び名がなくては呼びにくいだろう」


「俺には名前などねぇが……そうだな、じゃあ『ギガ』とでも呼んでくれ」


 安直だなー、と思いつつ僕は笑って頷いた。

 まだ決して油断は出来ないが、こちらには魔力切れした時に備えた「隠し玉」が残っている。それを使えば、非常時に逃走する時間程度なら稼げるはずだ。

 僕は巨人のギガを改めて見上げ、彼の大きすぎる腕をポンポンと叩く。


「もう傷を回復しても構わないよ。脚を治したら、折角だから僕を乗せて歩いて欲しいな」


 回復の許可を出し、ちょっぴりわがままも付け加える僕に対して、ギガはニヤリと笑みを浮かべた。

 彼は瞬時に脚と背に空いた穴を回復して立ち上がると、大きな手のひらを僕の足元に差し出してくる。

 そこにひょいと乗ると、ギガは一気に頭の上まで僕を運んでくれた。


「うわぁ……!」


 その高さから見える景色は、人間である僕には普通は味わえるはずもないものだった。

 見渡す限り代わり映えのない白い空間だったが、視点が変わるとどうしてだか別の世界のように感じられる。

 あり得ない高さによる感動ももちろんあるが、こんなに大きなモンスターを自分が従えたのだという感慨も大きかった。


「別に大したものには思えないがなぁ……やっぱり人間には珍しいものなのか」


「そりゃあ、当然だろう! こんな高さ、今くらいしか体感出来るものじゃないよ」


 僕は高鳴った胸に手を当てながら高い声で言う。




『まさか、本当に「異端者(ハイレシス)」を従えてしまうなんて……君もなかなか面白い事をするじゃないか』




 神ロキが戦いを終えた僕達を確認したのか、驚きと笑いを織り交ぜた声音で言った。

 突然声をかけてきた神様にびっくりしたながらも僕は微笑んで応える。


「ははは……僕だって、こうした結果になるとは思っていませんでしたよ」


『そんなこと言っときながら、本当は全部計算ずくでやってたんじゃないの? オーディンの「神化」をドーンと発動して、本当に凄かったよ』


「いや、自分でも上手く言い表せないんですけど……無我夢中でやってたら、成功してたっていうか」


 ニヤニヤ笑って言う神ロキに、僕は首の後ろに手をやって苦笑した。

 過程はどうあれ、こうして良い結果を導けたのだ。『神化』も完全なものを発動する事が出来たし、神殿攻略に挑んだ甲斐があったというものだ。


「ロキ様……どうしますか」


『うーん、とりあえず彼も「神の間」に転送かな』


 ギガが訊き、神ロキが答えると僕達の足元に巨大な魔法陣が出現した。

 僕は、ようやく「神の間」到達を遂げられた事に深い感慨を覚える。

 心なしか緊張しているように見えるギガを見下ろし、僕も心臓が静かに鳴動しているのを感じていた。


『さあ、いくよ――』


 視界が白から虹色に染まっていく。

 肉体から魂が抜けるような奇妙な浮遊感を覚えながら、僕達はこことは別の空間に飛ばされていった。

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新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
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