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黄昏英雄譚 ~アナザーワールド・クロニクル~  作者: 憂木 ヒロ
第6章  神殿ロキ攻略編

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プロローグ  王子と魔導士

「……いつ見ても、淋しい街だな」


 ルノウェルス王国の首都、スオロ郊外の高台に一人の少年がいる。

 彼の名はカイ・ルノウェルス。この国の王子であった。

 背丈の低い草花がそよ風に揺れるその場所で、カイは静かに呟きを落とした。


「そうかい? 私にはそうは見えないが」


 と、カイの呟きに男が声を返した。

 不意にかけられた声にカイは驚き後ろを振り向くも、その男の姿を見て安堵する。


「なんだ、オリビエか……。驚かすな」

「あまり気を張りすぎては、疲れてしまうよ。少しは楽になりなさい」


 黒い長髪に、美麗な顔立ち。その美しい顔に浮かんでいるのは微笑だ。

 黒いローブを翻して歩み寄る彼は、そっとカイの肩に手を置いて言う。


「いつ見ても険しい顔だね……。君の笑顔も一度は見てみたいが、当分は無理なのだろうな」


 むっつりと、カイは魔導士の男を睨んだ。無愛想なその表情に、オリビエは苦笑を返すしかない。


「当たり前だ。民は今も苦しんでいる。そんな状況で、俺だけが笑っている場合ではないだろう」


 カイはオリビエから目を離し、街のとある一点を捉えた。彼の夜空の色の瞳は、そこに留まったまま動こうとしない。

 彼が見据えるのは、都市の中央に鎮座する王宮だ。

 そこを見て彼は歯をぐっと食い縛る。


「モーガン・ルノウェルス……。この国を腐らせた元凶のあいつを、この手で潰さなければ……」


 常に脳裏にちらついてくる母親の幻。

 それを振り払おうと、カイは関節が白くなるほどに拳を強く握り締めた。


「俺は逃げた訳ではない。これからだ。反撃の時は……」


 必要なのは力だ。今のカイにはそれが無い。

 悪魔に憑かれ、その力を日々増しているあの女を殺すには、あいつ以上の力を身に付けるしかない。


「ふふ、張り切ってるね。何を始めるつもりなんだい?」

「言わなきゃ分からないか」


 背から長杖を抜き、オリビエは吐息した。

 カイは変わらない無表情で背後に立つ魔導士を見上げる。


「力を貸せ、オリビエ。俺にはお前の力が必要だ」

「……仰せのままに。王子様」


 わざと仰々しく礼をするオリビエ。だがその振る舞いとは逆に、彼の瞳は鋭く冷たかった。


「私の友人にレアという女がいて、彼女は【神殿】の知識に精通している。まずは彼女を頼りましょう」

「そうか、わかった」


 カイは口をきつく結び、確かな足取りで歩き出す。

 力を手にし、悪魔を殺す。その手段こそが【神器】だ。なんとしてでもそれを手に入れ、あいつを倒さなくては。

 確固たる歩みを見せる彼に、オリビエは問うた。


「ところでカイ、レアの居場所は知っているのかい?」

「? ……知らなかった。教えてくれ」


 相変わらず無愛想なカイだったが、オリビエは「私についてきなさい」と彼に手招きする。

 この魔導士もカイと同様に悪魔討伐を目的に動いていた。その目的のために、今はカイの下についている。


「カイ、君がダメになったら私は別の者に乗り換えるかもしれない。それでもいいね?」

「勝手にしろ」


 首都スオロに二人は下りていく。

 悪魔を憎み、互いに契約を結んだ彼らは力を求めて今、進み出した。

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新作ロボットSF書きました。こちらの作品もよろしくお願いいたします
『悪魔喰らいの機動天使《プシュコマキア》』
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