非日常性過敏症候群
旧校舎の取り壊しが決まって以来最終的に解消されない疑問が残った。
例えば我が母校の天井には茶色い運動靴の足跡がほとんどのクラスの教室についている。
会議室を改装するとき野次馬達が見守る中で得体の知れない何かが出てきた。
ちょうど匍匐前進する少年を天井の梁で潰して伸ばされた左手を長年挟んでミイラになるまで放置しましたというモノが。
ずっとカラスか何かが鳴いてるんだと思っていた掠れた声が「悔しい」だったり。
とにかく怪談に繋がるような物的証拠がゴロゴロしているが瞬く間に誰も口にしなくなる、どうしてもおかしいと感じてしまう。
そう言えば築百年以上の母校には七不思議の話が一切なかった。
階段から突き落とされても、カッターで掌を切られても翌日には普段通りの落ち着きで当たり前の日常が過ぎていく。
不審者が入ってきてバレーボール部の生徒が追い回され何かをぶちまけられたそうだがそれまでだった。
自分の母にそっくりな人間が入ってきて、所詮ドッペルゲンガーと呼ばれるようなものと遭遇したがそれまでだった。
同時刻クラスメイトにも自分のドッペルゲンガーを見たと騒がれたがそれまでだった。
周囲に田畑の多い立地条件もあるんだろうが授業中に鳩や野犬が入り込むのが日常茶飯事なので皆が場慣れしていたんだろうか。
そうこうするうちに全国区で包丁を隠し持った女子高生が殺傷事件を起こしたニュースが取り沙汰されたが、暫くしたらスポーツ大会進出選手の話題にかきけされていった。
水疱瘡を患い休んだ日に走馬灯のようなものを見た、死の直後から死後にまるきり地獄でコキュートスのような所に行った。
こちらは現在進行形で内容がそのまま現実に起こり回避出来たことがないので何でもなくはないか。
これだけの体験をして流石に『あまりにも周囲が不可解な事をスルーし過ぎているんじゃないか?』と思い至り。
ポロッと友人に溢してみた事がある。
結果だけ言えば夢の内容そのままを実際現実にやってしまった。
これが釈然としない心持ちのまま類似の話を求めてオカルト方面に突っ走る原因になる。
百科事典くらいの呪符の本を借り手書きしたまま寝落ちした夜、チベット系の山姥みたいな奴に腹を裂かれる夢を見たり。
真夏の夜にモアイくらいのドライアイス以上に凍える何かに押し潰されたり、やっぱり鵺を思わせる何かに同じく寝込みを襲われたり。
いくら経文だの九字だの聞き齧ってもこれは圧倒的に運が悪いんじゃないかと本気で考えた、まあ個人の考え方次第だが。
義務教育を終えた途端、紐の千切れた風船のように曰くありげな噂の在るところへフラフラ飛んでいくようになった。
富士山のとある場所へ二日間かけて移動、次は都内の某所を廻り朝方4時から夕方まで一人で移動、夜行列車等使い長野へ至ってとある場所へ計画性もなく進み、終電を迎える。
一晩何とか睡眠を取り始発で京都方面の某所に向かい、限界だと思うまで大阪でも神戸でも帰って来ないという端から見れば奇行のような旅行を強行する。
件の「どうしても実行する正夢」を最終的に解消するための願掛けとして何となく始めたものだ。
ヒッチハイクで富士山に向かい、またとある寺院で願掛け直後階段落ちをしたり、某縁切りで有名な所に本当に誘われるようにたどり着いては願掛けし、そう言う時期が五年はあった。
出先でのデジャブは起きない、日常的に気を抜いた時にそれを感じる、それにやや気がついてから更に悶々とした日々を過ごしている。
この先、恐らく夢の終わりまでどうにか出来るかもしれないと望む限りこういう悪あがきをやめられないんだろう。
一部事実が含まれます。