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2番目の魔法少女[3]汚した手の価値  作者: 秋乃 透歌
第一章 汚した手の価値
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04

 ジャッ爺の説明した今回の〈試練〉(トライアル)は、簡単に言えばスタンプラリーでした。

 飯尾山のハイキングコースを利用して、各所に置かれた――あるいは隠された四個のターゲットジュエルを集めながら、ゴールである頂上の展望台を目指すのです。

 ターゲットジュエルの隠し場所は、『絵筆岩(えふでいわ)』、『爺泣(じいな)き洞窟』、『叡智稲荷(えいちいなり)神社』、そして『飯尾山展望台』です。どれも、私たちが散策予定だったハイキングコースの途中にある場所です。

 今回、何より特徴的なのは、この〈試練〉(トライアル)が『協力型』だということです。

 〈魔法少女〉(プリンセス)〈騎士〉(ナイト)の一組で困難に立ち向かう『単独型』でも、他の〈魔法少女〉(プリンセス)〈騎士〉(ナイト)と成果を競う『競争型』でもありません。

 『協力型』――つまり、皆で力を合わせて、その中でどのような役割を果たしたか、どう協力したかが評価されるのです。

「と言いながら、やっていることはハイキングの続き、か」

「もう、珊瑚ったら。そういう言い方しないの。ジャッ爺が、ハイキングも続けられるようにって気を使ってくれたんだから」

 茜と珊瑚くんのそんな会話が、後ろから聞こえてきました。茜は注意する口調でしたが、珊瑚くんの言葉にも頷けるところがあります。

 〈試練〉(トライアル)こそ開始されているものの、状況はとても平和で、のどかなものです。

 これが『競争型』の〈試練〉(トライアル)であれば、それぞれが魔法を使った最大速度で山を登るのでしょうが、今回は急ぐ必要がないのです。

 ジャッ爺自ら『普通に歩いて行けばよかろう』と言ったため、若干の緊張感を含みながらも、実質的にはハイキングの続きになってしまっているのです。

 茜の言うとおり、ジャッ爺がせめてゆっくり散策できる課題にしてくれたのでしょう。夏の出井浜海岸に続いて、秋のハイキングも邪魔する形になってしまいましたから。

「そろそろ、最初のチェックポイントだね」

 先頭を歩く常盤さんの声に、私は周囲を観察しました。

 先ほどの展望スペースからさほど歩いていませんが、見える景色が少し変わっています。谷底に流れる川に向かう、山肌の見える高低差が風景画のような眺めを作り出しています。

 山道はゆるやかに蛇行していて、曲がるたびに新しい景色が目を楽しませてくれます。

「ああ、これだね」

 そう言って、常盤さんが足を止めました。

 その視線は、山側の道の端に向けられています。その先を追うと――面白い形の岩がありました。

「絵筆岩だな」

「絵筆岩。……これがそうか」

 翔さんと珊瑚くんが、それぞれ声を上げました。

 二人が呼んだように、大きな筆のような形をした岩がそこにはありました。

「面白い形! 本当に筆みたい!」

 向日葵ちゃんが、無邪気にそう言いました。

「でも、なんで絵筆? 書道の筆じゃないの? 瑠璃ちゃん分かる?」

 え? あれ、そう言われれば、どうしてでしょう?

「確かにそうですね。岩の形は筆と言えば筆ですが、書道なのか絵画なのかは分からないですね。翔さん、絵を描くための筆は、文字を書く筆とどう違うんですか?」

 絵といえば翔さんです。美術大学の学生さんですし、絵を描くのもとっても上手なのです。

 以前、絵を見せてもらったことがありますが、色使いや線は柔らかいのに、どこか吸い込まれるような、不思議な魅力がありました。

「ん? んー、違いは色々あるけど、この岩を絵筆だと断言するような違いは、あるかなー」

「理由は――」

 と、玖郎くんが口を開きました。

「この岩を『絵筆岩』と名付けた人物が、これは絵筆だと思ったからだ」

 そうですね、名付け親がいるとすれば、その人が絵筆だと判断すれば絵筆なのです。

 でも、それだと『どうして』の答えには弱い気がします。

 わたしの言いたいことが分かったのか、玖郎くんはさらに続けました。

「その人物は、この先にある叡知稲荷神社の、江戸時代頃の神主だと言われている。三度の飯より絵を描くことが好きだったらしい。神社に奉納されている絵も多いし、B市の博物館にも数点所蔵されている」

「なるほどね。絵を描くのが大好きな人が見れば、どんな筆でも絵筆に見えるってことね」

 常盤さんが、ふむふむと頷いて、納得の声をあげました。

「椎名の乱の時、村人達を弾圧するために挙兵した当時の大名が、このあたりに本陣を置いんだ。自分の知識にある場所を実際に歩けるってのは、なかなか面白いな」

「あ、そうか。飯尾山って、珊瑚が自由研究で調べた椎名の乱の舞台なんだ。それで、色々と詳しいんだね」

 茜が、見直したとばかりに珊瑚くんを見ています。

「ちなみに、化け狐の昔話があるのも、この辺りなんだぞ? 絵筆岩は、狐が妖術で本物の絵筆を大きな岩に変えてしまったという説もあるんだ」

「そうなの? 翔ちゃん詳しい!」

 なんだか、わいわいと盛り上がってしまっています。

 ふふ。

 いつも〈試練〉(トライアル)の時や、王位継承試験ではライバルですが、こうして仲良く話をしながら歩けるというのは――なんだか良いものですね。

「あら? みなさん、筆の先を良く見て下さい。黄色く光る石が埋まっていませんか?」

 え?

 綾乃さんの言葉に、みんなの視線が一ヶ所に集中します。

 筆の先――あ、本当です。

 見る角度を変えると、きらりと光を反射する宝石のようなものが、不自然にはまりこんでいます。

 その形から自然に考えると、筆の先から飛び出している部分は球体のほんの一部で、残りは埋まってしまっているようです。

 あれが、ターゲットジュエルですね。

「はい、私がやる!」

 元気よく手をあげたのは、茜でした。

「見ててね。私が全力で〈生成〉(クリエイト)すれば、ターゲットジュエルなんか簡単に取り出せるんだから――」

「はいストップ」

「落ち着け」

「ちょっと待って下さい」

「止めろ」

 私が制止するまでもなく、複数の声が茜の行動を妨げました。

「お前が全力で〈生成〉(クリエイト)なんかしたら、せっかくの名所が溶け落ちるだけでなく、景色が変わるだろ!」

 珊瑚くんが、思わず声を荒くしています。

「なによー。そんな風に言わなくても良いでしょー」

 ぶーぶーと言っている茜は、まあ放っておきましょうか。

 この場合、適任なのは――。

「ここは、ウチのお姫様の出番かな」

 そうです。ここは翔さんの言う通り、向日葵ちゃんが適任でしょう。

「うん。一番得意なのは〈開門〉(オープンゲート)だけど、〈操作〉(オペレート)もちゃんとできるよ」

 土の魔法を使う向日葵ちゃんなら、できるだけ形を崩さないようにターゲットジュエルを取り出して、絵筆岩を元の形に戻せます。

「多分そんなに難しくないし、変身はなし――〈操作〉(オペレート)!」

 向日葵ちゃんの声が響き、魔法が現実世界を書き換えます。

 操られた絵筆岩自身が、ゆっくりとターゲットジュエルを吐き出しました。

 あっさりと、一つ目の目標達成です。

「翔ちゃん、この絵筆の先って本当はどうなってたの? とがってたの? それとも丸くなってたの?」

 あっ、ここで問題発生です。

 私もそうですが、向日葵ちゃんは、ジャッ爺がターゲットジュエルを用意する前の絵筆岩の本来の形を知りません。

 直せるのに、直すべき正解が分からないのです。

「ええと、もう少ししゅっとなってて、手前側に膨らんでいたような?」

「こんな感じ?」

「いや、えーと」

 なんだか苦戦しています。

 あ、そうです。

 玖郎くんは、このハイキングコースに来たことがあるはずですから、絵筆岩も見たことがありますよね。

「ふむ。たしかに、僕の記憶には絵筆岩がある。しかし、それを正確に向日葵に伝えるのは難しいな。無理だ」

 玖郎くんでも無理だなんて。何を落ち着いた口調で断言しているのですか。

 でも、確かに、映像や状態を言葉で伝えるには限界があります。

 こういう場合、どうすれば良いのでしょうか。

「さすがの天才少年もお困りですわね。ふふふふ」

「別に困ってはいませんよ。綾乃さん、山奥でもインターネットにつながるスマートフォンかタブレット端末を持っていますね?」

「あら、考え付いていましたか。それは失礼いたしましたわ」

 玖郎くんをからかうことができて幸せですわーというような、いたずらっぽい笑顔を見せて、綾乃さんはスマートフォンを取り出しました。

 それを、すいっすいっと操作します。

「ありましたわ。この写真が良さそうですわね」

 そう言って、向日葵ちゃんに画面を見せます。

「ふむふむ、こうなっているのね。それでは、改めて。〈操作〉(オペレート)

 まさに百聞は一見に如かずです。

 向日葵ちゃんの魔法で、絵筆岩の先は、すいっと形を整えられました。

 その作業を終えると、向日葵ちゃんは、足元に転がっていた黄色い輝きを拾い上げました。

「一つ目のターゲットジュエル、ゲットしたよ!」

 向日葵ちゃんが、嬉しそうな声で、目標達成を宣言しました。



 二つ目のチェックポイントは、ハイキングコースの行程のちょうど中程です。立て看板の案内に従って、順路を逸れて入った細い脇道の先に、それはありました。

「ここが、二つ目のチェックポイントですわね」

「ええと、『爺泣き洞窟』――洞窟、ね。この中にターゲットジュエルがあるってことかな。それにしても、どうする? しっかり立ち入り禁止になってるけど」

 常盤さんの言う通りでした。

 洞窟の入り口には、立ち入り禁止の札と、黄色と黒のロープが張ってあります。

 この中に目標がある以上は、悪いことだとは思いますが、入っていくしかありませんね。

「ロープの下を潜れますね。ここから――」

「いや、やる気になっているところ悪いが、それは無理だ」

 玖郎くんがそう言いながら、足元の小石を拾い上げました。そして、それを爺泣き洞窟の中に投げ入れます。

 すると――。

 すぐそこで、ぽちゃん、と水の音がしました。

「立て看板にも書いてある内容だが、この洞窟は水没している。洞窟全体が入り口より低い構造になっていることに加えて、椎名の乱の年代に水が沸き出してしまったらしい。数年前にB市で大規模な調査も行われたが、大人でもしっかり潜水装備を整えていた」

 そういうことですか。

「『爺泣き』って、おじいちゃんが泣いてるってことだよね? どうしてこんな名前なんだろうね?」

「おお、それな。洞窟が水没するより昔は、氷室として使われていたんだけどな。風が通り抜けると洞窟の中で音が反響して、中で老人が泣いているように聞こえたらしいぞ」

「ちょっと怖いね。それにしても翔ちゃん物知り! すごい!」

「全部そこの看板に書いてある内容だけどな」

 いつもの向日葵ちゃんと翔さんのやりとりに、珊瑚くんが鋭い一言を入れています。

 ふふ、本当です。確かに、翔さんの台詞のそのままが書いてあります。

「はい! 今度こそ私にまかせて!」

 またも元気に茜が手を上げました。

「私が本気で〈生成〉(クリエイト)すれば、洞窟内の水なんて一瞬で全部蒸発させられるんだから。行くよ――」

「はいストップね」

「落ち着け、火吹き竜」

「ちょっと待って下さいませ」

「止めておけ」

 私が制止するまでもなく、複数の声が茜の行動を妨げました。

 珊瑚くんに至っては、茜の後ろから口を塞いでいます。

「ん! んんん、んー?」

「洞窟内の湧き水が一瞬で全部蒸発するようなことになれば、水蒸気爆発で飯尾山の上半分が吹き飛ぶぞ。ターゲットジュエルどころか、僕たちまで粉々になる」

 玖郎くんの言葉に、茜は口を塞がれたまま目を丸くしました。こくこくと何度も頷いて、理解したことを表現しています。

「ここでの適任は――」

 そう言いながら、玖郎くんの視線がこちらを向きました。

 ええ、そうですね。

「私ですね。〈操作〉(オペレート)で水をどかしながら、洞窟内を探索しましょう」

「それも悪くないアイディアだ。しかし、入り口から予想できる以上に『爺泣き洞窟』の中は複雑な構造になっていると聞く。どこにあるか分からないターゲットジュエルを探しながら歩くのは厳しいな」

 その通りかもしれませんね。

 とすると――。

「瑠璃ちゃん、水の〈精霊〉にお願いしてみたら?」

 向日葵ちゃんナイスアイディアです。〈開門〉(オープンゲート)で〈精霊〉を召喚することを得意とする向日葵ちゃんらしいアドバイスです。

「それだな。瑠璃、〈開門〉(オープンゲート)だ」

 はい。

 私も、変身省略でいきます。

〈開門〉(オープンゲート)っ!」

 洞窟の中に響く水音に集中して、魔法を使います。

 水と魔力で、扉を作り出すイメージ――その向こうから、私に力を貸してくれる友人に、こちらへ来てくれるよう呼び掛けるのです。契約した〈精霊〉に届くように。

「来てください。ウンディーネ」

 とぷん、と水面が揺れたのを感じました。

 そして。

 にゅるん、と水が意思を持ったように立ち上がりました。

 洞窟の中からぬるりと伸びて、立ち入り禁止のロープの上から顔をのぞかせました。

 その水が、みるみるうちに可愛らしい女の子の姿になっていきます。

 といっても、お腹から先は水につながっていて、私たちより年下に見える顔立ちも透明な水でできています。

「ウンディーネ、来てくれてありがとうございます」

 私が声をかけると、ウンディーネがにっこり笑ってくれました。

「久しぶりだな」

 玖郎くんがそう声をかけると――。

「! ――!」

 見るからにテンションを上げたウンディーネが、水の体をぬるんと伸ばして玖郎くんに駆け寄りました。

 嬉しそうに、握手などしています。ウンディーネの声は、私たちに聞こえる音にはならないのですが、その仕種だけで大喜びしているのが判ります。ウンディーネに犬の尻尾があれば、ちぎれるほどに振っている様子が想像できる雰囲気です。

 ウンディーネは、最初に顔を合わせた時から、玖郎くんが大好きなのです。

 端から見ると、私もあんな感じ……なんてことになっていないと良いのですが。

 ともかく。

「コホン」

 咳払いを一つして、ウンディーネに用件を伝えます。

「この洞窟の中にある、ターゲットジュエルを探して持ってきて欲しいのです。手のひらに収まるくらいの球体で、地平世界の宝石です」

 ウンディーネが頷いてくれました。

「頼む」

 玖郎くんの声に、ぶんぶんとウンディーネが激しく頷きました。前髪の先端が、水滴となって飛び散ってしまう勢いです。

 そして、とぷんと水音を立てて、水の中に入って行きました。

「ウンディーネの体は、洞窟の中の水と一体化しています。この洞窟の中が完全に水没しているなら、あっと言う間に見つけてくれますよ」

 私がそう言っていると、綾乃さんがすすすと近づいて来て、私の耳元に口を寄せて来ました。

 なんでしょう――というか、綾乃さん相変わらず良い香りがします。ちょっとドキドキしてしまいます。

「あの水の〈精霊〉――ウンディーネさんも、小泉さんが大好きみたいですわね。なんだか、いつもの瑠璃さんを見てるみたいでした」

「ええっ! わ、私、あんな風になってます?」

 衝撃の事実――というより、恐れていた事実です。やっぱりあんな感じになっちゃってるんですか?

 は、恥ずかしいです。

「ふふふ。冗談ですわ。瑠璃さん、ライバルが多くて大変ですわね」

 ふふふふ、といいながら綾乃さんが行ってしまいました。

 なんだ、冗談でしたか。

 とは言え、思い当たる節が全くないとは言えません。ちょっと気を付けましょう。そうしましょう。

「戻って来たな」

 玖郎くんの言葉に見ると、ウンディーネが再び水面から顔を出して伸び上がって来たところでした。

 その両手で青色に輝く宝石を抱えています。

 ターゲットジュエルです。

「ありがとうございます。間違いなくそれですよ。よく頑張りましたね」

 私がそれを受け取りながら言うと、ウンディーネは嬉しそうに笑顔を見せました。

「助かった。感謝する」

 玖郎くんの労いの言葉に、ウンディーネは一層笑顔を深くしました。

「……。――!」

 それから、表情を寂しそうなものに変え、それでもばいばいと小さな手を振ってくれました。

 するりと水面に溶け込むように――地平世界へ帰って行きました。

「よし。想像できる限り最も手数をかけずにクリアできたな」

「はい。私たち向きの課題でした。二つ目のターゲットジュエル、獲得です」

 玖郎くんに応えた私の言葉に、見守ってくれていたみんなから歓声と拍手が沸き上がりました。

 さあ、次です。



 三つ目のチェックポイントは、ハイキングコースも終わりに近い位置にある、叡知稲荷神社です。

「叡知稲荷かぁ。なんだか本当に感慨深いな」

 神社の鳥居をくぐりながら、珊瑚くんがそう言いました。

「ふぅん? ここも、椎名の乱の縁の場所なの?」

「わたくしの記憶違いでなければ、宣教師と村人達が立て込もって最後まで抵抗した場所が、この神社ではありませんでしたか?」

 常盤さんと綾乃さんの言葉が続きます。

 なるほど、ここも椎名の乱と関係する場所でしたか。

 飯尾山が丸ごと自由研究の内容と関連するとすれば、珊瑚くんにとっての今日のハイキングは、私たちが見ているものとは違うものになっているでしょうね。

「そう。イギリスからの宣教師と、彼の宗教を信じた四つの村の住人が、最期を遂げた場所なんだ」

 珊瑚くんは説明を続けます。

「叡知稲荷神社は椎名の乱の時に焼け落ちちゃって、明治時代になってから再建されたんだ。だから、正確には当時の人達が見ていたものとは違うんだけど――」

 珊瑚くんの言葉は、どう続いたのでしょうか。

 それは分かりませんが、私たちは、遠い昔に亡くなった方達のことを思い、少し厳粛な気持ちになりました。

「ね、ここには〈試練〉(トライアル)で寄っただけだけど、ちゃんとお参りして行こうよ」

 茜の言葉に異論はありませんでした。

 私たちは、神社の本堂の前に並んでお賽銭を投げ、二礼二拍手一礼で深々と頭を下げました。

 ……少しの間、騒がしてしまいますが、どうか許してください。

 自然とそんな言葉が頭をよぎりました。

 不思議と、私自身の願いが叶いますようにという内容にはなりませんでした。

 おそらく――私が頭で思っているよりずっと強く、私の心が、その願いは自分自身の力で叶えるのだ――叶えたい、と思っているのでしょう。

 やがて、茜が口を開きました。

「さ、〈試練〉(トライアル)の続きだね」


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