レストランにて
ぼくの隣でおばあさんが<ハンバーグ>を食べていた。
ぼくも美味しそうだったので、同じものを頼もうと思った。が、高齢者と同じ食べ物を食べるのは何となく癪だと思い、オススメメニューの<ステーキ>を頼んだ。<ハンバーグ>よりも四百四十円高かった。注文を取りに来た店員は、かしこまりましたと言うと、無駄な動きを一つとせずに厨房へと向かっていった。一連の動作は、まるで次世代型ロボットのように美しく出来上がったものだった。
注文してしばらく、<ステーキ>が届いた。と同時に、隣のおばあさんが、何やら店員に文句を言っていることに気付いた。わたしが注文していたのは実は<ステーキ>だったと店員に不平をこぼしていた。
店員はぼくの注文をとった人で、年齢はぼくより一個か二個上のように見えた。
「申し訳ございません。」
へこへこと二回、腰から上をおばあさんに向かって下げた。
「これがステーキじゃなかったら食べなかったわよ。もう。」
老眼鏡をクイと上げながら、おばあさんは言った。
それを真横に、ぼくは目の前の肉に容赦なく齧り付いた。
食事を終えると、先ほどのおばあさんのいたところに、大人の女子と子供の男性が対面して座っていた。
早速、食後の水を飲み、席を立とうとした。が、その女と男が何を注文するかということに不思議と興味がわいた。
おかわりの水をコップに注ぐ。水がこぷこぷと溜り、水面張力になる前には止めた。こぼれないよう気を付けて口元へコップを運ぶ。ごくりと喉を唸らすと、ちょうどあの店員が二人の注文を取りに来た。
聞き耳を立てながら、だが自然を装い、それとなく二人の注文を聞いた。
「ハンバーグ一つとステーキ一つ。」
男がそう言うと、店員は再び規則正しく速やかに厨房へと姿を消した。
ぼくは、<ハンバーグ>を食べるのが女で、<ステーキ>を食べるのが男なのか、それとも逆のことなのか一層気になってしまっていた。
右手を梃子に、テーブルと口をコップが往復していた。
水を殆ど飲み干してしまったころには、右手が冷たくなってしまっていた。しょうがないので、冷たくなった右手を猫のように丸めて、ハアと暖かい息を吹きかけた。途端、爪が唇に触れた。ステーキを食べる前の冷たいナイフがそこに触れたような感触だった。
横を見ると、大人の女子が、<ハンバーグ>と<ステーキ>を食べていた。
ぼくはすかさず店員を呼びつけ、水が凄く美味しくなかったと不平を言った。